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「端末値引き」から「サービス抱き合わせ」でも下がらない携帯料金

 10月1日の消費増税と同じタイミングで電気通信事業法の改正が施行、いわゆる携帯電話の通信と端末料金の完全分離がスタートした。これまでのような「実質0円販売」という派手なスマートフォン(スマホ)販売ができず、値引きの上限が2万円に抑えられたり、他社のプランに乗り換える際の解約金が従来の約1万円から1000円に下がるなどの規制がかかった。こうした規制に対処するために大手キャリアが繰り出した策が、動画配信やネット販売などのサービスとの抱き合わせだ。

NTTドコモの吉澤和弘社長(左)とアマゾンジャパンの
ジャスパー・チャン社長

5Gの料金プランもサービス融合を示唆

 キャリア間の競争は、「端末値引き」から「サービスの融合」に突入した。だが気になるのは、そもそもの争点であったはずの諸外国より高額とされる「通信料金の高止まり」の問題が解消されないままになりそうな雲行きにあることだろう。

 11月26日、NTTドコモは主力料金プランの「ギガホ」と「ギガライト」を契約するユーザーに、年会費4900円のAmazonの会員制サービス「Amazon プライム」が1年間無料で使える「ドコモのプランについてくるAmazon プライム」を発表。NTTドコモとAmazonのサイトにエントリーするだけで簡単に受けられるサービスを12月1日にスタートする。プランの詳細は、既報の記事を参照してほしい。

【関連記事】
NTTドコモとアマゾンが携帯料金で連携

https://www.bcnretail.com/market/detail/20191126_146575.html
 
12月1日にスタートする「ドコモのプランについてくるAmazon プライム」

 通信とサービスを融合した料金プランの動きは既にKDDIと沖縄セルラーが9月から、動画配信サービスのNetflixベーシックプランとセットにした新料金プラン「auデータ MAXプラン Netflixプラン」を提供している。

 こちらの新料金プランは2年契約Nの適用時で、auスマートバリューによる1000円割引、家族割プラスによる1000円割引、スマホ応援プラス(翌月から6カ月間)による1000円割引で、月額4880円から利用できる。データ容量の上限はなしだが、テザリング・データシェア・世界データ定額は2GB/月の制限がある。
 
9月13日にスタートした「auデータ MAXプラン Netflixプラン」
(8月28日のKDDIの記者会見)

 11月26日の会見でNTTドコモの吉澤和弘社長は、「以前のような端末値引きの競争ではなく、魅力的なサービスを付加して料金プランを磨き上げていく」と、10月1日の改正法の施行を機に料金プランの戦略が大きく転換することを示した。
 

 また、吉澤社長は「今後は来年の5Gの料金を考えなければいけない。たくさん(通話やデータを)使ったときに高くなるのではなく、リーズナブルな料金体系にしていかなければならないので、例えばアンリミテッド(使い放題)のようなものも出てくるだろう。サービスと通信料金を融合させたプライスを検討していく」とも語り、今回の施策が5Gの料金プランを見据えたものでもあることを示唆した。

 今回の施策で、1年間のAmazn プライムの料金負担をNTTドコモが肩代わりする点だけを見れば、ユーザーにとって値引きと映るかもしれない。しかし、当然ながら1年後以降のプライム会員は自動更新され、ユーザーが料金を負担する。Amazon プライムを解約したい場合は、ユーザー自らがAmazonのサイトから解約手続きをする必要がある。

 確かに1年間だけでもNTTドコモが負担するコストは大きいが、ポイントはNTTドコモのギガホの料金は1年目も2年目も変わらないまま継続課金されることだ。

1GB以上使うマジョリティーにメリットなし

 紆余曲折を経てギガホが誕生したそもそものきっかけは、2018年8月の菅義偉官房長官による「携帯料金は4割下げる余地がある」という発言からだ。今年9月19日の会見でも再び、「今のままで良いとは全く考えていない」と述べ、引き続き値下げを要請していく姿勢を明らかにした。

 ギガホは、編集部でもシミュレーションをしてみたところ「3回線以上」「月間データ容量1GB以下」という特定の条件を満たした場合に限り、最大「4割値下げ」になるなど、ファミリー層や多くの端末を使うユーザー、データ容量をほとんど使わないユーザーに恩恵があるプランに感じた。

 一方で、増えている一人暮らし世帯や多くのケースで当てはまる月1GB以上を使うユーザーにとっては、変更するメリットがあまり感じられなかった。ユーザーごとの詳細な料金シミュレーションは、ドコモのウェブで行えるので確認してほしいが、菅官房長官の不満もこうした偏りにあるのではないか。

 NTTドコモが公開している3人家族の月当たり通信費の新旧プラン比較を見ると、従来は1万7140円かかっていた通信費が、ギガホ割にすると最初の6カ月は1万940円になり、従来より約4割(36%)下がる。ちなみに、ギガホ割が終了した7カ月目からは1万1940円と1000円値上がりし、従来より約3割(30%)の削減となる。
 
NTTドコモの新旧料金プラン比較。「3回線以上」「月間データ容量1GB以下」の
ユーザーが「4割値下げ」となる

 今回のアマゾンとの連携では、1年間はアマゾンのさまざまなサービスが無料で使えるが、ギガホの料金そのものは変わらない。むしろ、6カ月目以降は3人家族で月1000円(年間1万2000円)値上がりし、それ以降、その料金がサブスクリプションで継続される。

 政府や総務省が規制に動いた大きな狙いは、好景気にも関わらず家計の収入が上がらない中、携帯料金の支出の構成比が年々高まり、他の消費支出を圧迫している問題を解消するためだった。携帯キャリアだけが儲けすぎとの批判も上がった。

 こうした批判を背景に、端末値引きの原資を高止まりした通信料金で賄うのではなく、完全分離にすることで料金体系をユーザーに分かりやすくし、通信料金にメスを入れることを狙った。しかし、実態は通信料金そのものが4割近く下がるわけでなく(一部条件のユーザーに限り4割の値下げ)、割安感を演出するツールが携帯端末からサービスに移っただけの話ではないのか。

 もちろん、民間事業会社が自ら身銭を切るようなことを率先して行うとは思えず、だからこそ政府が規制に動いたのだろうが、発表される料金プランがあまりにキャリア発想で、ユーザー視点ではない様子を見ると、これから進むとみられる通信とサービスの融合は争点ずらしのように思えてならない。やはりユーザーは、新規参入の楽天モバイルに期待を寄せるしかないのだろうか。(BCN・細田 立圭志)

【お詫びと訂正】電気通信事業法の改正による端末値引きの上限は3万円ではなく2万円でした。お詫びして訂正します。