15分で心臓病を発見、日本の卵を中国で孵化させる──【スゴイぞ深セン#05】
POCT(=Point Of Care Testing:迅速検体検査)機器は、診療中に検査ができ、その場で結果が出るため医療現場で広がりつつある。例えば、血液数滴で心臓病やがんなどの病気を10分程度でみつけることができるため、とても重宝されている。特に、中国では需要が大きく、期待されている市場だ。この分野では従来、ドイツのシーメンスやスイスのロシュの大型機器が中心だった。価格も数千万円に及び、街のクリニックでは導入のハードルがとても高かった。ここにチャンスを見いだしているのが中国の広東省・深センにあるShenzhen Watmind Medical Technology(Watmind)。1台およそ数100万円の格安POCT機器を開発し、中国の病院でも導入例が増え始めている。
1度に1検体だけをチェックできる小型のM2型は、1台およそ350万円。現在は、心筋梗塞などいくつかの心臓病の発見について、中国政府の認可を受けている。利用法は簡単。患者の指に専用のツールで傷をつけ、血液を数滴採取。それを機器にセットすれば、心臓に病気があるかどうかが、およそ15分で判明する。心臓病以外の病気でも、抗体セットを変えれば診断することができる。政府の認可に半年ほど時間はかかるものの、幅広い病気の発見に役立つ機器だ。
Watmindの司珂CEOは、ほかにも3社の医療機械会社を手がけ、医療分野へのこだわりがある。「父親を食道がんで亡くし、母を心臓病と脳出血で亡くした。この経験から、多くの人を医療機器で救いたいと思うようになった。世の中に価値あるものを提供したいという想いがエネルギーの源だ」と話す。
現在は、およそ200人の従業員を抱え、設立から6年目を迎える。研究開発が終わり、ようやく製品の販売を始めた。年間売上は2億5000万円程度で、あと1~2年での黒字化がみえてきた状態だ。2022年ごろの上場も視野に入れている。志とビジネスの両輪が、ようやくうまく回り始めている。
このPOCT機器は日本にルーツがある。もともとは、京都大学のベンチャーから生まれたプロジェクトだった。しかし、開発に必要な資金を集めることができず頓挫してしまった。それに目をつけたのが司CEO。必要な資金を投入して中国で開発すれば、成功する確信があったという。
「技術力が高くても、それを生かし切れていない例が多いと感じる。例えば、技術はあっても資金調達力が弱かったりマーケティングが苦手だったりする日本の中小企業に、中国で必要な資金とノウハウを投入すればチャンスは格段に広がる。中国には、日本のような大手の競合が少ない場合も多い。そもそもマーケットが大きい」と話す。
しかし、なぜ京都大学で生まれたベンチャーが頓挫してしまうのだろうか。香港でファンドを運営する専門家は、次のように嘆く。
「例えば、日本では100億を集めるだけでも至難の業。そもそも、そんなファンドはほとんどない。素晴らしい技術やアイデアがあっても、日本では開花させることが難しいのが現状だ。資金がないからだ。仮に起業できても投資額が小さく事業も小ぶりに収まってしまう。結果として起業家は金持ちになれない。誰も起業に夢を抱かなくなる。悪循環だ。本来なら、日本で大きくなったベンチャーが投資の側に回るべきなのに、それができていない。しかし今、中国には世界中から資金が集まっている。チャンスは大きい」。
深センには、資金に加えて、モノづくりの環境が全てそろっている。日本で生まれて深センで実を結ぶベンチャーも今後、どんどん増えていきそうだ。(BCN・道越一郎)
1度に1検体だけをチェックできる小型のM2型は、1台およそ350万円。現在は、心筋梗塞などいくつかの心臓病の発見について、中国政府の認可を受けている。利用法は簡単。患者の指に専用のツールで傷をつけ、血液を数滴採取。それを機器にセットすれば、心臓に病気があるかどうかが、およそ15分で判明する。心臓病以外の病気でも、抗体セットを変えれば診断することができる。政府の認可に半年ほど時間はかかるものの、幅広い病気の発見に役立つ機器だ。
Watmindの司珂CEOは、ほかにも3社の医療機械会社を手がけ、医療分野へのこだわりがある。「父親を食道がんで亡くし、母を心臓病と脳出血で亡くした。この経験から、多くの人を医療機器で救いたいと思うようになった。世の中に価値あるものを提供したいという想いがエネルギーの源だ」と話す。
現在は、およそ200人の従業員を抱え、設立から6年目を迎える。研究開発が終わり、ようやく製品の販売を始めた。年間売上は2億5000万円程度で、あと1~2年での黒字化がみえてきた状態だ。2022年ごろの上場も視野に入れている。志とビジネスの両輪が、ようやくうまく回り始めている。
このPOCT機器は日本にルーツがある。もともとは、京都大学のベンチャーから生まれたプロジェクトだった。しかし、開発に必要な資金を集めることができず頓挫してしまった。それに目をつけたのが司CEO。必要な資金を投入して中国で開発すれば、成功する確信があったという。
「技術力が高くても、それを生かし切れていない例が多いと感じる。例えば、技術はあっても資金調達力が弱かったりマーケティングが苦手だったりする日本の中小企業に、中国で必要な資金とノウハウを投入すればチャンスは格段に広がる。中国には、日本のような大手の競合が少ない場合も多い。そもそもマーケットが大きい」と話す。
しかし、なぜ京都大学で生まれたベンチャーが頓挫してしまうのだろうか。香港でファンドを運営する専門家は、次のように嘆く。
「例えば、日本では100億を集めるだけでも至難の業。そもそも、そんなファンドはほとんどない。素晴らしい技術やアイデアがあっても、日本では開花させることが難しいのが現状だ。資金がないからだ。仮に起業できても投資額が小さく事業も小ぶりに収まってしまう。結果として起業家は金持ちになれない。誰も起業に夢を抱かなくなる。悪循環だ。本来なら、日本で大きくなったベンチャーが投資の側に回るべきなのに、それができていない。しかし今、中国には世界中から資金が集まっている。チャンスは大きい」。
深センには、資金に加えて、モノづくりの環境が全てそろっている。日本で生まれて深センで実を結ぶベンチャーも今後、どんどん増えていきそうだ。(BCN・道越一郎)