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個人商店・飲食店を襲う軽減税率、「対応済」の明暗を分けたのは?

 消費税率10%化に伴う「軽減税率制度」がいよいよ導入される。主に飲食料品が対象となるが、同じ商品でも、「テイクアウト(持ち帰り)」と「イートイン(店内で消費する)」で税率が変わるというように、直感的には理解が難しい制度だ。

 一般消費者にとっても煩雑な軽減税率だが、日々の仕事に直接的な影響があるのが、飲食料品を販売する小売店や飲食店だ。ソフトドリンクとお酒、テイクアウトとイートインといった違いで、軽減税率の対象(8%)/非対象(10%)が変わるので、会計時には明確に区分する必要がある。もし税率を誤ると、クレーム対応や返金といった顧客サポートが必要となるほか、会計の修正など経理的な作業も発生する。

 大手のスーパーやコンビニ、飲食チェーン店は、POSレジのシステム改修で軽減税率に対応しているが、問題となるのは小規模の店舗。高機能なPOSレジを導入する投資余力のない店がほとんどで、個人経営の飲食店などでは、現在も紙の伝票と電卓で会計を行っていることが珍しくない。慌てて軽減税率対応のレジスターを購入する店が相次ぎ、事務用品店からレジの在庫がなくなる騒ぎも報道されている。軽減税率スタートに当たって、万全の体制といえない店が少なくないようだ。

 一方、店舗向けIT製品の取材をしていると、個人経営であっても「軽減税率の準備、もうできてますよ」という店に出会うこともある。そのような店は、会計業務にタブレット端末とPOSレジアプリを導入していることが多い。今回は、「4月中には、軽減税率に向けたレジ対応を済ませていた」という東京・雑司ヶ谷の喫茶店「西洋釣具珈琲店 リールズ」を訪ね、会計業務効率化の秘訣を聞いた。
 
「西洋釣具珈琲店 リールズ」(東京・雑司ヶ谷)

 地下鉄や都電荒川線の駅に近いリールズでは、マスターの宮宗俊太さんがサイフォンで一杯ずつ丁寧に抽出するコーヒーと、奥さんの央子(ちかこ)さんによる自家製のケーキや焼き菓子が自慢の喫茶店。マスターが無類の釣り好きのことから、「西洋釣具珈琲店」をうたう店内にはインテリアとして釣り具が飾られているほか、アンティーク釣り具の販売も行っている。

 同店で提供される商品のうち、店内で消費される飲み物や菓子類は外食扱いとなり、消費税率は10%。一方、同じ商品でもテイクアウトで注文したものは軽減税率対象となり、税率は8%に変わる。また、コーヒー豆や器具の販売も行っているが、豆は持ち帰り専用の食品なので常に8%。器具は軽減税率対象外なので常に10%となる。つまり、「注文によって8%または10%」「常に8%」「常に10%」という3種類の商品が混在している格好だ。

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軽減税率対応は「数時間の設定で完了」

 喫茶店という業態上、商品数が極端に多いわけではないが、会計時にはレジでこれらの商品を間違いなく打ち分ける必要がある。しかし、マスターの宮宗さんは「レジをタブレット化していたことで、軽減税率への準備は早々に済ませることができた」と話す。

 リールズでは、2017年にiPad用POSレジアプリ「Airレジ」を導入し、従来型のキャッシュレジスターをタブレット端末に置き換えていた。その後2年間、毎日の会計業務にAirレジを活用していたが、今年4月になって、軽減税率対応のための機能が追加されたことが画面上で通知されたことから、その日の営業終了後に新機能を試してみたところ、わずか数時間で設定が完了し、10月1日を迎える準備ができたという。
 
2017年から「Airレジ」を活用。「Airペイ」もあわせて導入し、
キャッシュレス決済にも対応している

 Airレジの新機能では、商品ごとに消費税率を「8%」「10%」「8/10%」へ設定できる。注文によって8/10%が変わる商品は、どちらをデフォルト表示にするかも設定可能。あらかじめ商品ごとに税率を決めておけば、会計時には商品名をタッチし、テイクアウト/イートインの別を選ぶだけで、正しい税率で金額が計算され、税率ごとに合計金額が記載されたレシートが印刷される。
 
4月から「軽減税率対応のための設定画面」(左)を提供。
会計時もイートインとテイクアウトを簡単に変更できる

 リールズがAirレジを使い始めた2017年時点で、軽減税率制度の導入は一部で話題となっていたが、同店がレジを更新したのは、軽減税率の準備のためではなく、毎年の確定申告で大量の伝票の処理に困っていたからだった。

 日々少しずつ会計ソフトに売り上げを入力しておけば、年度末になって慌てる必要はないのだが、専任の経理スタッフがいるわけでもなく、毎日お店を回すのに忙しい中では、つい溜め込んでしまうもの。何とかしてこの事務作業の負担を軽減したいと思っていたところに、ITに詳しいお客さんからAirレジを紹介された。調べてみると、PCで使っている会計ソフト(弥生会計)と連携が可能ということが分かり、早速導入した。
 
リールズを経営する宮宗俊太さん・央子さん夫妻

 当初の目的は年度末の入力作業の省力化だったが、使い始めてみると、それ以外にも多くのメリットがあった。宮宗さんが力説するのは、「以前は店で何が売れているか、感覚でしかつかめていなかったのが、正確に把握できるようになった」こと。以前のキャッシュレジスターでは、「コーヒー」「トースト」「菓子」「コーヒー豆」といった大分類でしか商品別の売り上げを集計できていなかったが、Airレジではどのメニューがどれだけ売れたかが1個単位で分かる。このため、どの種類のコーヒー豆が、いつ、どれだけ必要なのかが分かるようになり、余分に用意していた豆の廃棄率が劇的に減った。丹精込めてロースト・ブレンドした豆を捨てるのは本当に心苦しかったが、今ではほぼ使う分を正確に予測できるという。

 また、製菓担当の央子さんは店以外にも仕事を持っていて、店頭に立たない日もある。しかし、次の製菓の仕込み量を決めるため、売れ行きをチェックする必要があり、毎日オフィスからの帰りに店に立ち寄らなければいけなかった。それが今では、iPhoneのAirレジアプリを通じて当日の売り上げをリアルタイムで見られるようになったので、店に寄る必要がなくなり、仕事や生活のための時間に余裕が生まれた。

 宮宗さんは、老舗のコーヒー器具メーカーで修業を積んだ後に独立したことから「古いタイプのカウンターマン」を自称。「街になじんだ昔ながらの喫茶店を目指しています」と話し、ITによる業務改革とは縁遠いイメージだが、地域のお客さんとのゆったりとしたコミュニケーションを大事にしながらおいしいコーヒーを提供するには、複雑な税率計算といった間接業務はできるだけ減らしたいもの。今では、飲食店経営者仲間からもレジについての相談を受けることが増えているという。

キャッシュレス決済でのポイント還元制度にも対応

 Airレジ提供元のリクルートライフスタイルで、「Air」シリーズのサービスを統括する林裕大プロデューサーは、「少額商品中心の店舗では、8%と10%の税額自体はわずかな差だが、スタッフが新たな仕事を覚えたり、ミスをしないよう心配しながら会計を行ったりするのは、店舗の現場にとっては大きなストレスになる」と指摘。軽減税率制度のスタートでPOSレジアプリのニーズが一層高まっており、機能拡充にも力を入れるが「機能以上に、お店のオペレーションがラクになることが重要」と強調する。
 
リクルートライフスタイル
林裕大 Airシリーズ統括プロデューサー

 Airレジや、それと連携する決済サービスの「Airペイ」は、増税に合わせて導入された「キャッシュレス・消費者還元事業」(キャッシュレス決済利用時のポイント還元制度)にも対応しており、店舗ができるだけ面倒な手続きをすることなくポイント還元制度に参加できるようにもしているという。この秋以降、個人経営の身近な店舗でも、タブレット端末をはじめとする業務効率化の仕組みがさらに普及しそうだ。