デジタルシフトのベテランに聞く、成功のコツ 「日本人の長所を海外流で活かす」
既存のアナログ作業を、より効率的に処理するための“デジタルシフト”がささやかれるようになって幾年か経つ。従来の手法を変えるにはさまざまな課題が立ちふさがるが、成功するにはどのような要素が必要なのか。
デジタルシフトを苦難の末に成功させた数々の事例を持つことから、日経BP発行の書籍『ストーリーで学ぶデジタルシフトの真髄 現場と取り組むデジタル 先進企業の挑戦秘話』に登場した、三井住友ファイナンス&リースでシステム企画部 部付部長兼デジタル開発室長を務める藤原雄氏に聞いた。
取材・文・写真/南雲 亮平
藤原 新しい方法に興味を示す人に、徹底的に“良い思い”をさせることでしょうか。接待というわけではなく、新しい方法で実現する世界をいち早く味わってもらい、“アンバサダー”にするのです。口コミで評判が広がれば、興味を持つ人が増えていく、という戦略です。
また、残業するほど忙しいのに、新しいことをするのは難しいですよね。将来的に楽になると聞かされても、それまでの時間が惜しいのです。部内の事情を知らない人から言われたら、なおさら納得できません。「何も知らないくせに、そんな暇ある訳ないだろ」となります。だからこそ、まずは相手と目線を合わせ、話し合いの土俵に上がることが重要です。
── 目線を合わせるとは?
藤原 私の場合は、徹底的に相手の立場や状況を理解することから始めました。例えば、システム部門に協力を仰ぐ際は、「人手が足りない」「予算がない」など、何かと理由を返されて、前に進むことができません。そこで、どうすれば実現することができるのか、自分で考えるのです。具体的には、既存の仕組みを担当者レベル、もしくはそれ以上に理解して「こいつの言うことは無視できないぞ」と思わせる。
簡単ではありません。1週間ほどこもって、2,3晩と徹夜しながら、ソースコードを読み込みました。何が書いてあるのか、分からないこともありましたが、経験と想像力で補いました。もちろん、話すときは上からではありません。あくまで、一緒に仕事をする前提で仲間からの提案です。
── ソースコードを読み込む……。途方もない作業のように思うのですが、確かに、そこまでしたら認めざるを得ないでしょう。その方法は、自身で考えたのでしょうか。
藤原 前職の経験から思いつきました。以前は、外資系で基幹システムと連携するフロントシステムの責任者でした。本部と日本の橋渡しのような役割だったのですが、既存のシステムが形骸化していたので、使ってもらえるよう改善したのです。それがどうやら本部の琴線に触れたらしく、「勝手なことをしやがって」と怒っている雰囲気が伝わってきました。ついには本部に呼び出されたのです。
ここが正念場だと思い、なぜ改善したのか、どこをどのように改善したのか、改善したことで本部にどのようなメリット、最終的にどうなるのか、などをすべて英語で書き上げ、電話帳ほどでもありませんが、分厚い資料を作りました。「本当に本部のことも考えている」という言外のメッセージですね。そうして本部に行くと、歓迎ムードでした。「勝手にやった」から「考えてくれている」に変わっていたんですね。
さらに、前職も外国人チームで一人だけの日本人リーダーを務めたので、孤立無援から仲間を作っていく経験はありました。
── かなりの場数を踏んでいらっしゃるんですね。現在は日本国内の事業を手掛けていらっしゃいますが、海外との違いはありますか。
藤原 日本人は、なんでもしっかりやる点が優れていると思います。行列があれば、文句も言わず整列して並びますよね。ただ、何も考えないで並んでいるのが実情です。海外では違います。どうやって効率的に先に進むかを考えています。だからこそ、列が乱れるのですが……。
この日本人の長所と海外の合理的な考えを上手くマッチさせるには、私たちが意味のある列、並びたくなるような列を作ることが大切です。そして、効率的に進めるようサポートする。これは、日本人がしっかり並んでくれるからこそ、できることです。“列”をシステムに置き換えれば、「デジタルシフトの真髄」になるでしょうか。
業務のデジタル化は、相手との連携が欠かせません。不特定多数にアプリを開発するのとは異なり、デジタルシフトは相手が何をしたいのかが明確です。それを、どのような方法で解決するのか、どのような解決方法なら馴染めるのか、相手の目線に立って考えることが必要です。そして、相手の懐に飛び込むには、どんな場合でも地道な歩み寄りが欠かせません。“列”に並んだ先に、みんなが幸せになるものが無いと、成功も無いのです。
デジタルシフトを苦難の末に成功させた数々の事例を持つことから、日経BP発行の書籍『ストーリーで学ぶデジタルシフトの真髄 現場と取り組むデジタル 先進企業の挑戦秘話』に登場した、三井住友ファイナンス&リースでシステム企画部 部付部長兼デジタル開発室長を務める藤原雄氏に聞いた。
取材・文・写真/南雲 亮平
意味のある“列”を作り、効率的に並んでもらう
── それまでのやり方を変える「新しい方法」の確立には、あらゆる苦労があると思います。潜り抜けるコツはあるのでしょうか。藤原 新しい方法に興味を示す人に、徹底的に“良い思い”をさせることでしょうか。接待というわけではなく、新しい方法で実現する世界をいち早く味わってもらい、“アンバサダー”にするのです。口コミで評判が広がれば、興味を持つ人が増えていく、という戦略です。
また、残業するほど忙しいのに、新しいことをするのは難しいですよね。将来的に楽になると聞かされても、それまでの時間が惜しいのです。部内の事情を知らない人から言われたら、なおさら納得できません。「何も知らないくせに、そんな暇ある訳ないだろ」となります。だからこそ、まずは相手と目線を合わせ、話し合いの土俵に上がることが重要です。
── 目線を合わせるとは?
藤原 私の場合は、徹底的に相手の立場や状況を理解することから始めました。例えば、システム部門に協力を仰ぐ際は、「人手が足りない」「予算がない」など、何かと理由を返されて、前に進むことができません。そこで、どうすれば実現することができるのか、自分で考えるのです。具体的には、既存の仕組みを担当者レベル、もしくはそれ以上に理解して「こいつの言うことは無視できないぞ」と思わせる。
簡単ではありません。1週間ほどこもって、2,3晩と徹夜しながら、ソースコードを読み込みました。何が書いてあるのか、分からないこともありましたが、経験と想像力で補いました。もちろん、話すときは上からではありません。あくまで、一緒に仕事をする前提で仲間からの提案です。
── ソースコードを読み込む……。途方もない作業のように思うのですが、確かに、そこまでしたら認めざるを得ないでしょう。その方法は、自身で考えたのでしょうか。
藤原 前職の経験から思いつきました。以前は、外資系で基幹システムと連携するフロントシステムの責任者でした。本部と日本の橋渡しのような役割だったのですが、既存のシステムが形骸化していたので、使ってもらえるよう改善したのです。それがどうやら本部の琴線に触れたらしく、「勝手なことをしやがって」と怒っている雰囲気が伝わってきました。ついには本部に呼び出されたのです。
ここが正念場だと思い、なぜ改善したのか、どこをどのように改善したのか、改善したことで本部にどのようなメリット、最終的にどうなるのか、などをすべて英語で書き上げ、電話帳ほどでもありませんが、分厚い資料を作りました。「本当に本部のことも考えている」という言外のメッセージですね。そうして本部に行くと、歓迎ムードでした。「勝手にやった」から「考えてくれている」に変わっていたんですね。
さらに、前職も外国人チームで一人だけの日本人リーダーを務めたので、孤立無援から仲間を作っていく経験はありました。
藤原 日本人は、なんでもしっかりやる点が優れていると思います。行列があれば、文句も言わず整列して並びますよね。ただ、何も考えないで並んでいるのが実情です。海外では違います。どうやって効率的に先に進むかを考えています。だからこそ、列が乱れるのですが……。
この日本人の長所と海外の合理的な考えを上手くマッチさせるには、私たちが意味のある列、並びたくなるような列を作ることが大切です。そして、効率的に進めるようサポートする。これは、日本人がしっかり並んでくれるからこそ、できることです。“列”をシステムに置き換えれば、「デジタルシフトの真髄」になるでしょうか。
業務のデジタル化は、相手との連携が欠かせません。不特定多数にアプリを開発するのとは異なり、デジタルシフトは相手が何をしたいのかが明確です。それを、どのような方法で解決するのか、どのような解決方法なら馴染めるのか、相手の目線に立って考えることが必要です。そして、相手の懐に飛び込むには、どんな場合でも地道な歩み寄りが欠かせません。“列”に並んだ先に、みんなが幸せになるものが無いと、成功も無いのです。