ドイツ・ベルリンで9月6日から11日まで世界最大級のエレクトロニクスショー「IFA」が開催された。世界各国から先進的なスタートアップ企業が集まる特別展示「IFA NEXT」が今年も大いに注目を浴びた。
IFA NEXTは2017年からIFA本体の開催期間に合わせて、同じメッセ・ベルリン内のホール26を舞台に開催されている。特に欧州を中心とした勢いのあるスタートアップ企業や、大手ITテクノロジー系企業のブースが多く集まることから、今年でまだ3回目の開催だったが来場者が寄せる関心はとても高く、6日間に渡る期間中は常に賑わっていた。
初開催から3年目を迎えたIFA NEXTに、今年は「IFA NEXTグローバル・イノベーション・パートナー」という新しいプログラムが立ち上がった。特定の国・地域のイノベーションをIFA全体でハイライトしながら盛り上げようという企画であり、その初代パートナー国に日本が選ばれた。
IFA NEXTのホール内に設けられたステージに9月7日、経済産業省 商務情報政策局長の西山圭太氏が上がり、「ものづくりに対して丁寧に情熱を注ぐ日本とドイツのクラフツマンシップには多くの共通点があると思う。日本の最先端のイノベーションがこのIFA NEXTで多くの来場者の目に触れ、手にとっていただけることをとても嬉しく思う」とスピーチした。
日本のスタートアップと大手IT企業が集まる展示はジャパン・パビリオンとしてIFA NEXTのホール正面に華やかに設けられた。展示のテーマは「Move/Communicate/Sense/Care」という4つのセグメントに分けられ、20社の小間が軒を連ねた。
京都に本社を構えるNISSHAの社内ベンチャーからスピンアウトしたmui Lab(ムイラボ)は、木の温もりを活かした、タッチ操作にも対応するディスプレイ付きコミュニケーションツール「mui」を出展した。LEDがメッセージや時刻を表示。使わない時には消灯して、インテリアのように住まいの風景の中にさりげなく溶け込む。
同じ発想を下にして作られたプロトタイプ「柱の記憶」は、ワコムが開発したアクティブES方式に対応するデジタルペンとのコラボレーション。壁面に取り付けた木をあしらうコミュニケーションデバイスにペンで文字や図形を書き込んで、データをクラウドに保存できる。子どもの身長を“柱の傷”の代わりにマークしておき、時系列で呼び出して表示しながら、子どもの成長を振り返るといった使い方を提案していた。
Inupathy(イヌパシー)は愛犬に着させて心拍を図り、LEDディスプレイの点灯パターンにより「犬の気持ち」を可視化するというユニークなアイデアを活かしたペット用のウェアラブルベルトだ。愛犬の心拍という生体情報を正確に読み取ることがこのデバイスの心臓部にあたる。そこは同社独自にセンサーの精度を高め、組み込みに工夫を凝らすことによって、体毛を剃ったり、ジェルを塗ったりという犬にとって負担になる下準備を一切不要としたところが大きな特徴だ。
心拍情報を取り、犬の発汗リズムをパターン化したデータをペアリングしたスマホに送って比較することによって、いくつかに分類化された“犬の気持ち”をベルトのLEDディスプレイの色の変化で表現する。IFA NEXTに初めて出展したところ、愛犬家の多いドイツでも沢山の引き合いを得たそうだ。
Shiftall(シフトオール)の「DrinkShift」は年初にラスベガスで開催されたエレクトロニクスショー「CES」でも話題を呼んだ、スマートな冷蔵庫兼ボトルドリンクのディスペンサーだ。主に「ビール」を冷やして、足りなくなったら自動的に補充してくれるスマートデバイスとしてIFA NEXTでもその魅力を訴求。現在12本のビールを同時に冷やせるキャパシティを実現しているが、元もとビールの好きなドイツの来場者からは「もっと大きなサイズの製品を作って欲しい」という熱烈なラブコールが寄せられたという。
IFA NEXTの醍醐味は、ふだん日本では目に触れる機会が少ない欧州スタートアップの最新動向を一望できるところにもある。“エコな暮らし”はドイツやフランスをはじめ欧州の先進国に生活する人々にとっていつでも大きな関心事のひとつだ。今年のIFAを見ると「自給自足を実現するスマートライフ」をテーマに掲げる出展者がとても多かった。フランスのVeritable Potagerは、少量の野菜やハーブを自宅で種から育てて自給自足できるエコな屋内用スマートガーデニングキット「Veritable(ヴェリタブル)」を出展した。
ココナツファイバーで作られているカートリッジには植物の種と肥料がセットされている。本体のタンクに水をためて、生育を促すLEDライトを照射し続けると、冬の間も定期的に野菜やハーブが楽しめる。モバイルアプリから植物の成長を写真と比較しながら確認したり、育て方のアドバイスを参照することなどができる。
来場者がその効果を体験できる製品を、完成品ではなくても試作機やモックアップ(模型)として用意して、使用イメージを熱心に伝えようとしているスタートアップに多く出会えることもIFA NEXTの魅力だ。IFAがBtoBのトレードビジターだけでなく、一般来場者も多く訪れるコンシューマーエレクトロニクスショーだからではないだろうか。
ベルリンのFeelbeltは、Bluetoothや有線接続でペアリングしたスマホで再生する音楽に合わせて振動するベルト型のウェアラブルデバイスだ。Feelbeltは2018年に起業した若いスタートアップ。会社の名前を付けたこの最初の商品も、開発のきっかけは単純に映画や音楽などのエンターテインメントコンテンツをよりいっそう楽しむためだったが、IFA NEXTに出展したことで、例えばマッサージや耳が聞こえにくい方々のための聴覚支援用のデバイスとして発展させることができないかといった声が寄せられたため、さらにプロダクト開発を練り上げられそうな手応えを感じていると、同社のスタッフが話していた。
フランスのRedisonはドラムスティックや足に装着すると、アプリと連携して電子ドラムセットのバーチャルシミュレーターになるセンサー機器「Senstroke(センストローク)」をフランスで発売している。専用アプリにはスネアにシンバル、ハイハットやタム、バスドラなど様々なドラムセットの音源が収録されている。たたいて音を鳴らす場所を設定すると、例えばテーブルに置いたゴムパッドをスティックでたたくと、ビシッとした切れ味するどいスネアの音が、アプリを入れたタブレットのスピーカーから気持ち良く響く。IFA NEXTに出展したところ、日本のトレードビジターからも取り扱いたいという引き合いが数多く寄せられたそうだ。
初開催から3年で、IFA NEXTは早くもIFAの看板を背負う特別な展示になった。日本も含む世界各国から大勢の来場者がその展示エリアであるホール26に足を運ぶ熱気から、IFA NEXTの成功が伝わってくる。ヨーロッパでも急速にスマート・IoT化が進むエレクトロニクス製品が多く集まるIFAメイン会場の展示と上手に連携することで、それぞれの領域に関心を持ってIFAに足を運ぶ来場者の循環が生まれる。大きなうねりをつくることができれば、IFAは他に類を見ない「スマート家電とスタートアップのイノベーション」を俯瞰できるイベントとして、世界の注目をほしいままにするだろう。(フリーライター・山本敦)
IFA NEXTは2017年からIFA本体の開催期間に合わせて、同じメッセ・ベルリン内のホール26を舞台に開催されている。特に欧州を中心とした勢いのあるスタートアップ企業や、大手ITテクノロジー系企業のブースが多く集まることから、今年でまだ3回目の開催だったが来場者が寄せる関心はとても高く、6日間に渡る期間中は常に賑わっていた。
初開催から3年目を迎えたIFA NEXTに、今年は「IFA NEXTグローバル・イノベーション・パートナー」という新しいプログラムが立ち上がった。特定の国・地域のイノベーションをIFA全体でハイライトしながら盛り上げようという企画であり、その初代パートナー国に日本が選ばれた。
IFA NEXTのホール内に設けられたステージに9月7日、経済産業省 商務情報政策局長の西山圭太氏が上がり、「ものづくりに対して丁寧に情熱を注ぐ日本とドイツのクラフツマンシップには多くの共通点があると思う。日本の最先端のイノベーションがこのIFA NEXTで多くの来場者の目に触れ、手にとっていただけることをとても嬉しく思う」とスピーチした。
日本のスタートアップと大手IT企業が集まる展示はジャパン・パビリオンとしてIFA NEXTのホール正面に華やかに設けられた。展示のテーマは「Move/Communicate/Sense/Care」という4つのセグメントに分けられ、20社の小間が軒を連ねた。
京都に本社を構えるNISSHAの社内ベンチャーからスピンアウトしたmui Lab(ムイラボ)は、木の温もりを活かした、タッチ操作にも対応するディスプレイ付きコミュニケーションツール「mui」を出展した。LEDがメッセージや時刻を表示。使わない時には消灯して、インテリアのように住まいの風景の中にさりげなく溶け込む。
同じ発想を下にして作られたプロトタイプ「柱の記憶」は、ワコムが開発したアクティブES方式に対応するデジタルペンとのコラボレーション。壁面に取り付けた木をあしらうコミュニケーションデバイスにペンで文字や図形を書き込んで、データをクラウドに保存できる。子どもの身長を“柱の傷”の代わりにマークしておき、時系列で呼び出して表示しながら、子どもの成長を振り返るといった使い方を提案していた。
Inupathy(イヌパシー)は愛犬に着させて心拍を図り、LEDディスプレイの点灯パターンにより「犬の気持ち」を可視化するというユニークなアイデアを活かしたペット用のウェアラブルベルトだ。愛犬の心拍という生体情報を正確に読み取ることがこのデバイスの心臓部にあたる。そこは同社独自にセンサーの精度を高め、組み込みに工夫を凝らすことによって、体毛を剃ったり、ジェルを塗ったりという犬にとって負担になる下準備を一切不要としたところが大きな特徴だ。
心拍情報を取り、犬の発汗リズムをパターン化したデータをペアリングしたスマホに送って比較することによって、いくつかに分類化された“犬の気持ち”をベルトのLEDディスプレイの色の変化で表現する。IFA NEXTに初めて出展したところ、愛犬家の多いドイツでも沢山の引き合いを得たそうだ。
Shiftall(シフトオール)の「DrinkShift」は年初にラスベガスで開催されたエレクトロニクスショー「CES」でも話題を呼んだ、スマートな冷蔵庫兼ボトルドリンクのディスペンサーだ。主に「ビール」を冷やして、足りなくなったら自動的に補充してくれるスマートデバイスとしてIFA NEXTでもその魅力を訴求。現在12本のビールを同時に冷やせるキャパシティを実現しているが、元もとビールの好きなドイツの来場者からは「もっと大きなサイズの製品を作って欲しい」という熱烈なラブコールが寄せられたという。
IFA NEXTの醍醐味は、ふだん日本では目に触れる機会が少ない欧州スタートアップの最新動向を一望できるところにもある。“エコな暮らし”はドイツやフランスをはじめ欧州の先進国に生活する人々にとっていつでも大きな関心事のひとつだ。今年のIFAを見ると「自給自足を実現するスマートライフ」をテーマに掲げる出展者がとても多かった。フランスのVeritable Potagerは、少量の野菜やハーブを自宅で種から育てて自給自足できるエコな屋内用スマートガーデニングキット「Veritable(ヴェリタブル)」を出展した。
ココナツファイバーで作られているカートリッジには植物の種と肥料がセットされている。本体のタンクに水をためて、生育を促すLEDライトを照射し続けると、冬の間も定期的に野菜やハーブが楽しめる。モバイルアプリから植物の成長を写真と比較しながら確認したり、育て方のアドバイスを参照することなどができる。
来場者がその効果を体験できる製品を、完成品ではなくても試作機やモックアップ(模型)として用意して、使用イメージを熱心に伝えようとしているスタートアップに多く出会えることもIFA NEXTの魅力だ。IFAがBtoBのトレードビジターだけでなく、一般来場者も多く訪れるコンシューマーエレクトロニクスショーだからではないだろうか。
ベルリンのFeelbeltは、Bluetoothや有線接続でペアリングしたスマホで再生する音楽に合わせて振動するベルト型のウェアラブルデバイスだ。Feelbeltは2018年に起業した若いスタートアップ。会社の名前を付けたこの最初の商品も、開発のきっかけは単純に映画や音楽などのエンターテインメントコンテンツをよりいっそう楽しむためだったが、IFA NEXTに出展したことで、例えばマッサージや耳が聞こえにくい方々のための聴覚支援用のデバイスとして発展させることができないかといった声が寄せられたため、さらにプロダクト開発を練り上げられそうな手応えを感じていると、同社のスタッフが話していた。
フランスのRedisonはドラムスティックや足に装着すると、アプリと連携して電子ドラムセットのバーチャルシミュレーターになるセンサー機器「Senstroke(センストローク)」をフランスで発売している。専用アプリにはスネアにシンバル、ハイハットやタム、バスドラなど様々なドラムセットの音源が収録されている。たたいて音を鳴らす場所を設定すると、例えばテーブルに置いたゴムパッドをスティックでたたくと、ビシッとした切れ味するどいスネアの音が、アプリを入れたタブレットのスピーカーから気持ち良く響く。IFA NEXTに出展したところ、日本のトレードビジターからも取り扱いたいという引き合いが数多く寄せられたそうだ。
初開催から3年で、IFA NEXTは早くもIFAの看板を背負う特別な展示になった。日本も含む世界各国から大勢の来場者がその展示エリアであるホール26に足を運ぶ熱気から、IFA NEXTの成功が伝わってくる。ヨーロッパでも急速にスマート・IoT化が進むエレクトロニクス製品が多く集まるIFAメイン会場の展示と上手に連携することで、それぞれの領域に関心を持ってIFAに足を運ぶ来場者の循環が生まれる。大きなうねりをつくることができれば、IFAは他に類を見ない「スマート家電とスタートアップのイノベーション」を俯瞰できるイベントとして、世界の注目をほしいままにするだろう。(フリーライター・山本敦)