増税&キャッシュレス対応、中小店舗の解決策は“クラウドに乗っかる”
10月1日に予定されている消費増税まで、いよいよあと4カ月に迫った。内閣府が毎月発表している景気動向指数が「悪化」に転じたことから、増税の延期を求める声も強くなっているが、今のところ政府は“リーマン・ショック級”の危機がなければスケジュール通り増税するという姿勢を崩していない。
いずれにしても、消費税が10%に引き上げられれば、消費の一層の冷え込みは避けられないことから、増税の影響を緩和するためのさまざまな景気対策が投入される予定だ。中でも代表的なものが、食料品などに限って税率を8%に据え置く「軽減税率」と、決済の利便性向上を兼ねて計画された、キャッシュレスでの支払いに対してポイントを還元する「キャッシュレス・消費者還元事業」(以下、本稿では「ポイント還元事業」)である。
特に、後者のポイント還元事業は、個人経営などの中小・小規模事業者での買い物に限り、今年10月から来年6月までの9カ月間、5%という比較的高率のポイントを付与する制度であるため、大手企業に比べて経営体力の弱い個別店舗にとって魅力的な取り組みに見える。事業主体の経済産業省は6月に全国8カ所で軽減税率・キャッシュレス対応のセミナーを開催するなど、一連の制度対応に関するPRに本腰を入れ始めた。
単に分類が複雑というだけでなく、卸売り(仕入れ)と小売り(販売)の両取引について、税率を区分した形で記帳しなければならないのがさらにやっかいだ。顧客に対して発行する請求書やレシートも、取引内容と税区分が明確に分かる形式にする必要がある。事務作業の大幅な増加は確実で、電卓や旧式のキャッシュレジスターで会計を行っている店で制度に対応しきれない可能性もある。
ポイント還元事業では、消費者に対するポイントの付与を決済業者に任せることができるものの、クレジットカードや電子マネー、モバイル決済(QRコード)といったキャッシュレス決済手段の導入や、還元事業への参加登録は店舗自身が行う必要がある。システム導入のコストや手間に加えて、決済端末の操作方法などの店員教育にも意外に時間がかかるものだ。
専門の会計担当者がいる企業ならともかく、店長自らが毎日売り場で働かなければならない小規模な店舗が、あと4カ月でこれだけの制度対応を済ませるのは容易なことではない。しかも冒頭に述べた通り、今のところ可能性は低いとはいえ、消費増税に関して再延期論も出てきている。状況がひっくり返る確率がゼロとは言えない以上、増税に向けた店舗の対応が進まないのも無理はない。
旧来の表計算ソフトや会計ソフトのような、PCにインストールして使用するシステムだと、法制度が変更される度にソフトのアップデートが必要となるほか、データのバックアップやセキュリティ対策をユーザー自身が行わなければならず、日々現場の仕事に忙しい店長にとっては面倒なものだった。
これに対し、インターネットを通じてデータにアクセスする「クラウド型」のシステムであれば、税率対応などの新機能はサーバー側で自動的に追加されるし、モバイル端末などからも売上や利益を確認できるので、利便性が高い。最近の個人店舗では新規開業の際、キャッシュレジスターの代わりに、タブレット端末をPOSレジとして選ぶケースが珍しくなくなっている。
タブレット端末用POSレジアプリ最大手のリクルートライフスタイルでは、ポイント還元事業に対応したキャッシュレス決済サービス「Airペイ」を提供しており、消費増税とポイント還元事業の盛り上がりを機に、中小規模の小売店向けの提案に力を入れている。店舗はAirペイを導入するだけで、主要なクレジットカードと電子マネーに加え、QRコード決済の「LINE Pay」「d払い」「PayPay」に対応できるという。また、ポイント還元の対象外だが、中国からのインバウンド客に需要の大きい「アリペイ」「WeChat Pay」も利用可能となる。
同社ならではの強みとなるのが、タブレット端末用POSレジアプリ「Airレジ」だ。従来は、キャッシュレス決済サービスを小規模店舗に導入した場合、まずキャッシュレジスターで現金と同じ金額計算を行い、次にその金額をクレジットカードなどの決済端末に再度入力し、カード等を読み取っていた。AirレジとAirペイを合わせて導入すると、Airレジの会計画面で顧客が指定した決済手段をタップするだけで、キャッシュレス決済の機能が立ち上がるので、入ったばかりのアルバイト店員でもミスなく会計を行えるという。
加えて、Airレジは「クラウド型」のシステムのため、軽減税率にも簡単に対応できる。すでに、軽減税率の対象となる商品を事前登録するための画面が用意されており、商品ごとの税率を設定しておけば、10月1日以降は自動的に金額計算やレシートが税率10%と8%に区別された形で処理される。Airペイはレジと連携せず単独の決済サービスとして使うこともできるが、塩原氏は「税率とキャッシュレスという二つの課題を同時に解決することで、従業員の負荷を増やさずに、利便性や収益を高めることができます」と話し、Airレジと合わせて導入することを推奨する。
塩原氏は「ここ1~2年、モバイル決済の盛り上がりでキャッシュレスの認知は急速に広がりましたが、コストを理由に導入へ踏み切れなかったお店は多かったと思います。しかし、一番の課題だった初期費用の問題がクリアされ、手数料も約2%まで下がれば、粗利率が低い業態も含め、導入に拍車がかかるのでは」と期待を示す。同社では、Airペイの申し込み画面の中でポイント還元事業への登録やiPadの手配も行えるようにし、1回の手続きでキャッシュレス決済とポイント還元を始められるようにした。
還元事業が終わる来年7月以降、決済手数料は通常の3.24~3.74%に戻る。補助はあくまで時限措置だ。しかし、「事業期間が終わっても、決済額の極端な落ち込みはないのではないかと、楽観視しています」(塩原氏)という。一度キャッシュレスを使ってみれば、客単価の向上やインバウンド対応、現金取り扱いでのミスの削減など、店舗にとってもメリットのあるツールであることを実感してもらえる、という見立てだ。
軽減税率導入の賛否に始まった、増税影響の緩和策を巡るここまでの議論は非常に複雑なうえ、10月までの間に状況が一変する可能性もある。個別店舗の経営者がその全容を理解し、自分の店の業務に反映させるのは困難だ。何より、消費の落ち込みを防ぐための施策のはずなのに、店長や従業員が事務作業に追われて、店の生産性を下げてしまっては本末転倒だ。中小規模の店がこの動きに対応するには、最新の状況を追いかけてくれるクラウド型のサービスに“乗っかる”のが現実的な解と言えそうだ。
いずれにしても、消費税が10%に引き上げられれば、消費の一層の冷え込みは避けられないことから、増税の影響を緩和するためのさまざまな景気対策が投入される予定だ。中でも代表的なものが、食料品などに限って税率を8%に据え置く「軽減税率」と、決済の利便性向上を兼ねて計画された、キャッシュレスでの支払いに対してポイントを還元する「キャッシュレス・消費者還元事業」(以下、本稿では「ポイント還元事業」)である。
特に、後者のポイント還元事業は、個人経営などの中小・小規模事業者での買い物に限り、今年10月から来年6月までの9カ月間、5%という比較的高率のポイントを付与する制度であるため、大手企業に比べて経営体力の弱い個別店舗にとって魅力的な取り組みに見える。事業主体の経済産業省は6月に全国8カ所で軽減税率・キャッシュレス対応のセミナーを開催するなど、一連の制度対応に関するPRに本腰を入れ始めた。
中小店舗にとってあまりに複雑な制度
しかし、店舗オーナーや現場の店長にとって、これらの消費刺激策は嬉しいことばかりとは言えない。例えば、食料品代の実質値上がりを防ぐための軽減税率。「総菜の持ち帰りは8%だが、イートインにすると外食扱いで10%」「本みりんは酒扱いなので10%だが、『みりん風調味料』や塩分入りの料理酒、ノンアルコールビールは8%」など、軽減税率の対象となるのかならないのか、直感では判断が難しい商品が少なくない。単に分類が複雑というだけでなく、卸売り(仕入れ)と小売り(販売)の両取引について、税率を区分した形で記帳しなければならないのがさらにやっかいだ。顧客に対して発行する請求書やレシートも、取引内容と税区分が明確に分かる形式にする必要がある。事務作業の大幅な増加は確実で、電卓や旧式のキャッシュレジスターで会計を行っている店で制度に対応しきれない可能性もある。
ポイント還元事業では、消費者に対するポイントの付与を決済業者に任せることができるものの、クレジットカードや電子マネー、モバイル決済(QRコード)といったキャッシュレス決済手段の導入や、還元事業への参加登録は店舗自身が行う必要がある。システム導入のコストや手間に加えて、決済端末の操作方法などの店員教育にも意外に時間がかかるものだ。
専門の会計担当者がいる企業ならともかく、店長自らが毎日売り場で働かなければならない小規模な店舗が、あと4カ月でこれだけの制度対応を済ませるのは容易なことではない。しかも冒頭に述べた通り、今のところ可能性は低いとはいえ、消費増税に関して再延期論も出てきている。状況がひっくり返る確率がゼロとは言えない以上、増税に向けた店舗の対応が進まないのも無理はない。
クラウド型なら制度対応のアップデート作業は不要
昨今、「働き方改革」がブームとなり、仕事の効率を改善するためのさまざまなツールが登場しているが、増税をめぐるさまざまな課題に対応するため、IT企業各社は、小規模店舗をターゲットにしたシステムの提案に動いている。キーワードとなっているのは「クラウド」だ。旧来の表計算ソフトや会計ソフトのような、PCにインストールして使用するシステムだと、法制度が変更される度にソフトのアップデートが必要となるほか、データのバックアップやセキュリティ対策をユーザー自身が行わなければならず、日々現場の仕事に忙しい店長にとっては面倒なものだった。
これに対し、インターネットを通じてデータにアクセスする「クラウド型」のシステムであれば、税率対応などの新機能はサーバー側で自動的に追加されるし、モバイル端末などからも売上や利益を確認できるので、利便性が高い。最近の個人店舗では新規開業の際、キャッシュレジスターの代わりに、タブレット端末をPOSレジとして選ぶケースが珍しくなくなっている。
タブレット端末用POSレジアプリ最大手のリクルートライフスタイルでは、ポイント還元事業に対応したキャッシュレス決済サービス「Airペイ」を提供しており、消費増税とポイント還元事業の盛り上がりを機に、中小規模の小売店向けの提案に力を入れている。店舗はAirペイを導入するだけで、主要なクレジットカードと電子マネーに加え、QRコード決済の「LINE Pay」「d払い」「PayPay」に対応できるという。また、ポイント還元の対象外だが、中国からのインバウンド客に需要の大きい「アリペイ」「WeChat Pay」も利用可能となる。
税率とキャッシュレスは同時に解決すべき
ただ、同社でAirペイサービス責任者を務める塩原一慶氏は、今回のポイント還元事業に関して「店舗に対して、電子マネーやQRコードといった決済の仕組みだけを提供するのでは、キャッシュレスの盛り上がりは一時的なもので終わってしまう可能性があります」とクギを刺す。軽減税率への対応など、店舗にとって煩雑な業務が山積しているこの時期に、強引に決済サービスのみを売り込んでも、現場の仕事を増やすだけで、生産性や利便性の向上という目的は達成できないというのだ。同社ならではの強みとなるのが、タブレット端末用POSレジアプリ「Airレジ」だ。従来は、キャッシュレス決済サービスを小規模店舗に導入した場合、まずキャッシュレジスターで現金と同じ金額計算を行い、次にその金額をクレジットカードなどの決済端末に再度入力し、カード等を読み取っていた。AirレジとAirペイを合わせて導入すると、Airレジの会計画面で顧客が指定した決済手段をタップするだけで、キャッシュレス決済の機能が立ち上がるので、入ったばかりのアルバイト店員でもミスなく会計を行えるという。
加えて、Airレジは「クラウド型」のシステムのため、軽減税率にも簡単に対応できる。すでに、軽減税率の対象となる商品を事前登録するための画面が用意されており、商品ごとの税率を設定しておけば、10月1日以降は自動的に金額計算やレシートが税率10%と8%に区別された形で処理される。Airペイはレジと連携せず単独の決済サービスとして使うこともできるが、塩原氏は「税率とキャッシュレスという二つの課題を同時に解決することで、従業員の負荷を増やさずに、利便性や収益を高めることができます」と話し、Airレジと合わせて導入することを推奨する。
ポイント還元参加店には端末代の助成も
このようなシステムを導入する際にネックとなっていたのが、タブレット端末などの機器費用だが、今回のポイント還元事業では、店舗の端末導入費用を助成する制度が用意されており、Airペイの場合、還元事業に参加する中小・小規模事業者に限り、約4万円相当のiPadを0円で提供する(キャンペーン内容は5月22日時点)。また、事業実施期間の9カ月に限られるが、決済ごとに発生する手数料にも補助が行われ、参加店舗の手数料負担は2.16%に低減される。塩原氏は「ここ1~2年、モバイル決済の盛り上がりでキャッシュレスの認知は急速に広がりましたが、コストを理由に導入へ踏み切れなかったお店は多かったと思います。しかし、一番の課題だった初期費用の問題がクリアされ、手数料も約2%まで下がれば、粗利率が低い業態も含め、導入に拍車がかかるのでは」と期待を示す。同社では、Airペイの申し込み画面の中でポイント還元事業への登録やiPadの手配も行えるようにし、1回の手続きでキャッシュレス決済とポイント還元を始められるようにした。
還元事業が終わる来年7月以降、決済手数料は通常の3.24~3.74%に戻る。補助はあくまで時限措置だ。しかし、「事業期間が終わっても、決済額の極端な落ち込みはないのではないかと、楽観視しています」(塩原氏)という。一度キャッシュレスを使ってみれば、客単価の向上やインバウンド対応、現金取り扱いでのミスの削減など、店舗にとってもメリットのあるツールであることを実感してもらえる、という見立てだ。
軽減税率導入の賛否に始まった、増税影響の緩和策を巡るここまでの議論は非常に複雑なうえ、10月までの間に状況が一変する可能性もある。個別店舗の経営者がその全容を理解し、自分の店の業務に反映させるのは困難だ。何より、消費の落ち込みを防ぐための施策のはずなのに、店長や従業員が事務作業に追われて、店の生産性を下げてしまっては本末転倒だ。中小規模の店がこの動きに対応するには、最新の状況を追いかけてくれるクラウド型のサービスに“乗っかる”のが現実的な解と言えそうだ。