映画業界初の音体験! ソニー×『THE GUILTY/ギルティ』試写会レポート
3D映画や4D映画はいまや映画館でしかできない体験として定着してきた。しかし、ここ数年で登場した“映画新体験”はそれだけではない。例えば、3面スクリーンで270°の視界に映像が広がる「ScreenX」。まだ国内の導入は4劇場と少ないが、今後全国で拡大が見込まれている。また、映像はVRヘッドセットで、音は映画館の大音響で楽しむ「VR映画」などもある。これらはいずれも映像に最新技術を活用した体験だが、今回、映画配給会社のファントム・フィルムとソニーのコラボレーションで実現したのは“音”の新体験だ。
新体験をもたらすのは、ソニーが昨年6月に発売したオープンイヤーステレオヘッドセットだ。これはイヤホンから流れてくる音と外部の環境音を同時に聴くことができる新しいコンセプトのガジェット。具体的には、電車に乗ってイヤホンで音楽を聴きながらでも車両で流れるアナウンスが明瞭に聴き取ることができたり、人と会話できたりできる。
では、これがどのように映画の体験に結びつくのか。“ながら聴き”によってストーリーへの没入感が上がるコンテンツというのはかなり特異な気がする。ところが、ちょうどこのガジェットにベストマッチする作品が日本に上陸した。昨年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞したのをはじめ、各国の映画祭を総なめにした『THE GUILTY/ギルティ』だ。
これが長編デビュー作というグスタフ・モーラー監督がつくり上げた本作の設定は「電話からの声と音だけで、誘拐事件を解決する」というシンプルなもの。古今東西で数々の名作がある“電話もの”の系譜に連なるが、斬新なのは、電話の先にある景色や人に関する視覚的情報を一切遮断していることだ。
主人公は緊急司令室のオペレーターである中年男・アスガー。ガタイがよく、いかつい顔をしたいかにも警察官という風貌だ。そんな彼のもとに、車で連れ去られているというイーベンという女性からの緊迫した電話がかかってくる。女性は誘拐犯にバレないように電話をしているため、単純な質問に答えるのも簡単ではない。アスガーは周囲の音や無線を通して現場の警察官から情報を得ながら、事件の解決を図る……というのが大まかなプロットだ。
さまざまなところに散らばっている情報が集まり、徐々に核心に近づいていくのだが、カメラが捉えているのは、緊急司令室にいるアスガーのみ。イーベンがどのような女性なのか、どんな状況に置かれているのか。無線越しの警察官の捜査状況はどうなっているのか。観客はアスガーがオペレーター用のヘッドセットと私物の携帯電話で聞いている音から想像するしかない。
ここまでストーリーとコンセプトを聞いて、ピンときた人もいるかもしれない。オープンイヤーステレオヘッドセットは、アスガーが常時装着しているヘッドセットとリンクする小道具として機能する。面識のない相手、電話がいつ切れるともわからない状況、誘拐犯が近くにいる……そんなアスガーが味わっているであろう緊張感がリアリティをもって伝わってくるのだ。
試写会で使用したオープンイヤーステレオヘッドセットは「STH40D」という有線タイプのもの。接続したラジオから劇中の電話音声が耳に直接流れこんでくるシステムだ。映像とリンクするアスガーの声や緊急司令室の音は映画館のスピーカーから流れてくるので、観客はオペレーターに限りなく近い状況でストーリーを追っていくことになる。
記者は大学時代にコールセンターでアルバイトをしていたことがあるので、上映中はちょっとそのときのことを思い出した。電話の相手はどんな人物なのか、どんな状況から電話しているのか。その答え合わせはできないが、想像力は膨らんでいき、勝手にイメージした相手に話すうちに緊張感はほどけていく。本作はそんな心の動きを巧みに捉え、ミスリードすることで予想外の結末に観客を導いていく。鑑賞後は多くの名作を生み出している北欧ミステリーらしい心にずっしりくる余韻が残るはずだ。
『THE GUILTY/ギルティ』は2月22日から全国の劇場で公開をスタートした。オープンイヤーステレオヘッドセットを使用した上映は現時点では決まっておらず、担当者によると「検討中」とのこと。映画体験の新たな可能性として、広がることを期待して、朗報を待ちたいところだ。(BCN・大蔵 大輔)
新体験をもたらすのは、ソニーが昨年6月に発売したオープンイヤーステレオヘッドセットだ。これはイヤホンから流れてくる音と外部の環境音を同時に聴くことができる新しいコンセプトのガジェット。具体的には、電車に乗ってイヤホンで音楽を聴きながらでも車両で流れるアナウンスが明瞭に聴き取ることができたり、人と会話できたりできる。
では、これがどのように映画の体験に結びつくのか。“ながら聴き”によってストーリーへの没入感が上がるコンテンツというのはかなり特異な気がする。ところが、ちょうどこのガジェットにベストマッチする作品が日本に上陸した。昨年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞したのをはじめ、各国の映画祭を総なめにした『THE GUILTY/ギルティ』だ。
これが長編デビュー作というグスタフ・モーラー監督がつくり上げた本作の設定は「電話からの声と音だけで、誘拐事件を解決する」というシンプルなもの。古今東西で数々の名作がある“電話もの”の系譜に連なるが、斬新なのは、電話の先にある景色や人に関する視覚的情報を一切遮断していることだ。
主人公は緊急司令室のオペレーターである中年男・アスガー。ガタイがよく、いかつい顔をしたいかにも警察官という風貌だ。そんな彼のもとに、車で連れ去られているというイーベンという女性からの緊迫した電話がかかってくる。女性は誘拐犯にバレないように電話をしているため、単純な質問に答えるのも簡単ではない。アスガーは周囲の音や無線を通して現場の警察官から情報を得ながら、事件の解決を図る……というのが大まかなプロットだ。
さまざまなところに散らばっている情報が集まり、徐々に核心に近づいていくのだが、カメラが捉えているのは、緊急司令室にいるアスガーのみ。イーベンがどのような女性なのか、どんな状況に置かれているのか。無線越しの警察官の捜査状況はどうなっているのか。観客はアスガーがオペレーター用のヘッドセットと私物の携帯電話で聞いている音から想像するしかない。
ここまでストーリーとコンセプトを聞いて、ピンときた人もいるかもしれない。オープンイヤーステレオヘッドセットは、アスガーが常時装着しているヘッドセットとリンクする小道具として機能する。面識のない相手、電話がいつ切れるともわからない状況、誘拐犯が近くにいる……そんなアスガーが味わっているであろう緊張感がリアリティをもって伝わってくるのだ。
試写会で使用したオープンイヤーステレオヘッドセットは「STH40D」という有線タイプのもの。接続したラジオから劇中の電話音声が耳に直接流れこんでくるシステムだ。映像とリンクするアスガーの声や緊急司令室の音は映画館のスピーカーから流れてくるので、観客はオペレーターに限りなく近い状況でストーリーを追っていくことになる。
記者は大学時代にコールセンターでアルバイトをしていたことがあるので、上映中はちょっとそのときのことを思い出した。電話の相手はどんな人物なのか、どんな状況から電話しているのか。その答え合わせはできないが、想像力は膨らんでいき、勝手にイメージした相手に話すうちに緊張感はほどけていく。本作はそんな心の動きを巧みに捉え、ミスリードすることで予想外の結末に観客を導いていく。鑑賞後は多くの名作を生み出している北欧ミステリーらしい心にずっしりくる余韻が残るはずだ。
『THE GUILTY/ギルティ』は2月22日から全国の劇場で公開をスタートした。オープンイヤーステレオヘッドセットを使用した上映は現時点では決まっておらず、担当者によると「検討中」とのこと。映画体験の新たな可能性として、広がることを期待して、朗報を待ちたいところだ。(BCN・大蔵 大輔)