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iPhone XSで脚光浴びるスマホAI、しかし「カメラがすごい」は聞き飽きた

【日高彰の業界を斬る・31】 iPhoneの最新機種、「iPhone XS」「iPhone XS Max」が発売されて1週間あまりが経過し、ネット上には多くのユーザーレビューが上がっている。スマートフォン(スマホ)としての基本的な機能は、これまでのハイエンドモデル「iPhone X」と比べて特段の差はないものの、多くのユーザーがカメラ機能の進化を大きなポイントとして挙げている。

アップルのサイト上で紹介されているチップ「A12 Bionic」

 iPhone XとXS/XS Maxのカメラは、カタログスペック上は「1200万画素、F1.8(広角)およびF2.4(望遠)のデュアルカメラ」で共通だ。しかし、iPhone XS/XS Maxでは撮像素子が大型化されたほか、新搭載のチップ「A12 Bionic」で画像処理能力が強化されたことで、背景をぼかして被写体を際立たせたり、人の顔をより美しくみせることが可能になった。

 A12 Bionicは、iPhone X/8/8 Plusに使われていた「A11 Bionic」に比べ、ニューラルエンジンの処理性能が最大9倍にアップしたという。同じチップ内に含まれるCPUやGPUも強化はされているが、ニューラルエンジンの性能向上幅はそれらよりはるかに大きなものとなっている。今回の新製品においてアップルは、スマホの進化の方向は機械学習、すなわちAIにあると宣言した格好となっている。

 Androidスマホでも、ファーウェイが同様のアプローチをとっている。同社は昨年、AI処理専用ユニット「NPU」を搭載した初のスマホ「Huawei Mate 10」シリーズを発売。続いて今年春に市場投入した「Huawei P20」シリーズでは、AIの力でより美しい写真撮影が可能という点を訴求することで、世界的なヒット機種になった。

 また、スマホ向けシステムチップ最大手のクアルコムが提供する「Snapdragon」シリーズも、AI専用ユニットこそ搭載しないものの、チップ上のさまざまな処理装置を組み合わせてAI処理を最適化する機能を備えている。最上位チップの「Snapdragon 845」は、前世代のチップに比べてAI処理が3倍に高速化されたという。スマートフォンの高級機では、何らかの形でAIを売りにするのが当たり前になってきた。

カメラ以外の実用アプリはこれから

 ただ、各社が「AIチップ搭載」を声高にアピールする一方で、消費者にとってのわかりやすいメリットが、現在でもカメラ機能だけにとどまっているのは、興ざめな部分でもある。

 機械学習の推論処理が高速化されると、従来はクラウド上のサーバーの力を借りなければできなかったことも、手元の端末だけでスピーディに行える。AIチップ搭載スマートフォンでは、カメラの画角の中に何が写っているか、それがどんな場面かを瞬時に判断し、シーンに応じた最適なパラメータを呼び出すことで、人が見たときに「より美しい」と感じられる写真を作り出すことを可能にしている。

 しかし同様の機能は、コンパクトデジタルカメラもずっと前から搭載していた。もちろん、数年前のコンデジよりも最新のスマホカメラのほうが美しい写真を撮れる可能性は高いが、AIチップによってこれまでになかった新機能が実現したというのは言い過ぎだろう。

 背景をぼかしたポートレート撮影も、確かに初めて目にすると感動的だが、すべてのスマホユーザーが毎日朝から晩まで人物を撮りまくるわけではない。情報発信力の高い若者には嬉しい機能かもしれないが、「背景のぼけが素晴らしい」だけで、10万円もするスマホに食指が動く人がどれだけいるだろうか。

 望むべくは、AIチップの力を活用する例として、カメラだけでなく生活や仕事に役立つアプリがどんどん出てきてほしい。

 例えば、「Googleドキュメント」などで文書を編集するとき、現在でも音声入力が可能だが、音声からテキストデータへの変換はクラウド側で行っているため、マイクに話しかけてから文字が表示されるまでタイムラグがある。音声や自然言語の処理はまさに機械学習が得意とするところであり、話したそばからスラスラとテキスト化されるようになれば、講義の書き起こしなども今よりずっと楽になるだろう。クラウドベースの音声認識サービスだと、企業秘密などを含む会議の音声データを預けるのは不安な場合もあるが、ローカル処理ならその心配もない。

 また、画像の処理に関しても、単にきれいに写真が撮れるというだけでなく、今後はより実用的な使い方が出てくることだろう。例えば、最新の自動車にはカメラやセンサーを駆使した安全運転支援機能が搭載されているが、ダッシュボードに設置したスマホのカメラだけでも、ある程度の危険を予知しアラームを鳴らすといったことは可能だ。すでに一部のドライブレコーダーアプリはこのような機能をもっているが、AIチップの力を借りれば、より高度で正確な危険予知が可能になると考えられる。

 このような取り組みを進めるにあたっては、現状、AndroidよりもiOSのほうが有利な立ち位置にある。例えば、ファーウェイはAI処理をサポートする「Kirin 970」などのチップを他社に供給しておらず、自社製品の価値を高める“門外不出”の武器としている。しかしサードパーティーの開発者から見れば、より多くのユーザーに自社のアプリを使ってほしいわけで、特定メーカーの端末専用のアプリを開発する動機は高まりにくい。ニューラルエンジン搭載iPhoneのほうが、ビジネスのフィールドとしては大きくみえるだろう。
 
「マイクロソフト翻訳」はファーウェイ端末で使うとより高速に動作するが、
このようなアプリはまだごくわずかだ

 ファーウェイは次世代チップ「Kirin 980」を搭載するスマホを10月に発表すると予告しているほか、今度は日本市場でも発売するというグーグルの「Pixel」シリーズ最新作も、AIを売りにしてくる可能性が高い。スマホ市場においてAI機能が今後さらに注目を集めることは間違いないが、次は「カメラがすごい」以外の売り文句が聞けることを期待したい。(BCN・日高 彰)