いざというとき、未経験の行動はとれない

オピニオン

2018/09/09 17:30

【日高彰の業界を斬る・28】 NTTドコモは9月6日から7日にかけて、釧路市内で「大ゾーン基地局」の運用を行った。大ゾーン基地局とは、通常の基地局よりも広い範囲(最大で半径約7km)をカバーする基地局で、広域災害・停電の発生時にも通信サービスを継続するため、同社が全国の人口密集地100か所あまりで整備を行っていたものだ。

初めて運用された「大ゾーン基地局」(NTTドコモの資料より)

 5日未明の大地震で発生した停電が長期化し、一部基地局がダウンする恐れがあったため、釧路エリアを大ゾーン基地局での運用に切り替えた。ドコモでは東日本大震災の教訓をふまえ、2011年度から新たな災害対策に取り組んでいた。大ゾーン基地局を用いて実際の通信サービスを提供することはこれまでなかったが、今回の北海道での地震で初めて実運用が行われた。

 大ゾーン基地局のアンテナはそれなりに大きく、高層ビルの屋上や、電話局の鉄塔の上など、見る人が見ればわかる場所に取り付けられている。にもかかわらず、これまでは「未使用のアンテナ」として数年にわたって静かに街を見下ろしていた。本稿を執筆している9月7日時点で、被災地ではまだまだ停電や電話のつながりにくい状態が続いているが、少なくとも大ゾーン基地局を遅滞なく動かすことができたのは、普段から非常時体制の整備や、運用訓練がしっかり行われていたことの証と言えるだろう。

ITツールも平時に訓練を

 携帯電話は、今や災害時のライフラインとしても非常に重要な役割を担っている。ほとんどの人にとって、家族や職場に安否を知らせる最優先ツールとなっていることだろう。ただし、非常時には通信が混雑し、普段と同じようにネットワークが使えるとは限らない。今回は大規模停電が発生し、スマートフォンのバッテリー切れも問題としてクローズアップされた。

 通信環境が悪化した状態でも連絡がつきやすい手段として、各通信事業者は「災害用伝言板」を開設している。自然災害を伝えるテレビのニュース等でも、この伝言板の利用が呼びかけられていることが多いが、この災害用伝言板がどのようなシステムかは、ぜひ一度ご自身で確かめていただきたい。

 というのは、例えばMVNOのユーザーは、大手キャリアの災害用伝言板に情報を登録できないなど、伝言板を利用するにあたって気をつけなければいけないポイントがあるからだ(この場合も、NTT東日本・西日本が提供する災害用伝言板「web171」は利用可能)。また、伝言板の情報を検索する際には、書き込んだ人の電話番号を入力する必要があるが、電話番号をスマートフォン内のアドレス帳だけで管理していた場合、バッテリー切れで電話番号がわからなくなってしまうことも考えられる。絶対に連絡をとらなければならない家族の電話番号は、紙のメモのような別の方法で控えておくのが望ましい。

 また、筆者の周辺で実際に発生した事例としては、実家の家族が使っている古い携帯電話で、NTT東西の「web171」にアクセスできないという問題があった(契約キャリアの伝言板はアクセス可能)。web171を開くには端末がSSL通信に対応していることが必要だが、古い端末ではサーバー証明書の切り替えに対応していないため、SSLが必要なサイトが見られなくなっていたというのだ。それだけ古い端末を使っているほうが悪いという意見もあるだろうが、通話しか行わない高齢者は機種変更の必要性を感じず、何年も同じ端末を使い続けているケースがある。
 
古い“ガラケー”では「web171」が開けないことも

 災害用伝言板の存在を知っている人は多いが、実家の両親なども含めて、いざというときスムーズに使えると胸を張って言える人は少ないと思う。今回被災を免れた地域でも、非常時の連絡手段をどうするか、家族や職場で改めて話し合っておきたい。

 また、残念ながら今回の災害でも、SNS上では「○時間後に携帯電話や水道が使えなくなると聞いた」といったデマが多く発生している。これらのデマはまったくのウソというわけではなく、実際に停電のためポンプが止まったり、電話がつながりにくくなったりしている地域もあるため、うっかり信じやすい形になっている。転載やリツイート等で情報を伝えている人もほとんどは、デマを拡散しているつもりはまったくなく、あくまで善意による行動なのだろう。あるいは、「注意喚起の内容なのだから、少々間違っていても問題ない」と主張する人もいる。

 しかし、デマを信じたために必要以上の不安を感じる人、あわてて物資を求めに走り回る人、デマを否定するための労力を割く人が発生してしまっては、結果的に混乱を拡大し、事態の回復に本来注がれるべき力がムダに費やされることになる。これは非常時に限ったことではなく、SNSの利用時、「出所があいまいな情報はまず疑ってみる」「リツイートにも一定の責任が生じる」といった意識を平時からもっていれば、そう易々とデマの拡散に荷担することはないはずだ。

 知識として知っているかどうかと、いざというとき行動に移せるかは別のことだ。筆者も今回、災害用伝言板を利用した人に聞いて初めて気付いた制限事項などがあった。非常時を想定したうえで、身近なITツールの使い方をあらためて振り返っておきたい。(BCN・日高 彰)