Netflixの値上げは妥当、料金は競争軸にならない時代に

時事ネタ

2018/08/25 12:00

 動画配信サービスのユーザー獲得競争が次の段階にシフトしつつある。8月23日にNetflixが月額料金の改定を発表。2015年秋の日本市場参入以来、初となる値上げに踏み切った。ネガティブに受け止められているのかと思いきや、ネットでは「今までが安すぎた」と理解を示す声もあがっているようだ。

月額料金の値上げに踏み切ったNetflix。ネットでは理解を示す声も

 今回は競合のAmazonプライム・ビデオと比較しながら、Netflixの価格戦略に言及したい。GEM Partnersが今年2月に発表した調査によると、17年の市場シェアではdTVが20.3%でトップ、Huluが13.5%で続く。Netflixは7.1%で5位、プライム・ビデオは11.5%で4位だ。話題になりがちだが、現在の日本市場でNetflixとプライム・ビデオはツートップというわけではない。ではなぜ、この二つのサービスを取り上げるかというと、成長幅が大きいからだ。16年から17年でNetflixは2.8%、プライム・ビデオは5.6%上昇。他のサービスからシェアを奪っている。
 

 料金プランはNetflixがベーシック・スタンダード・プレミアムの3プラン、プライム・ビデオはAmazonプライム会員の特典という位置づけなので1プランとなる。月額料金はNetflixは8月23日2時以降の新規会員から、ベーシックが650円から800円、スタンダードが950円から1200円、プレミアムが1450円から1800円に変更。既存会員については支払いの1か月前にメールで告知があり適用されるとのことだ。プライム・ビデオは単一サービスではないので単純な比較は難しいが、年間で3900円の会員費は月額だと325円という計算になる。
 

 Netflixの3プランの違いは画質と同時視聴が可能デバイスだ。ベーシックはSD画質で1台まで、スタンダードはHD画質で2台まで、プレミアムは4K画質で4台まで対応する。それではプライム・ビデオはというと、画質は4K、再生可能デバイスは3台までと、実はNetflixのプレミアムプランに類する内容になっている。お得感でいうと圧倒的にプライム・ビデオに軍配が上がる。動画配信サービス専業のNetflixと違い、Amazonはプライム・ビデオで収益を上げずとも他の事業でカバーできる。Netflixからすれば、そもそも価格でAmazonに張り合うのは無理がある。

 変動が激しいので配信本数については論じないが、話題作の提供という点では両サービスとも甲乙つけがたい。記者はそれぞれの新着コンテンツを頻繁に確認しているが、Netflixに惹かれる月もあれば、プライム・ビデオばかりチェックしている月もある。好みもあるので、どちらがすぐれているというものではないだろう。

 しかし、それは他社が制作するコンテンツにおいての話だ。現在、最も大きな競争軸になっている自社制作のオリジナルコンテンツは、明確に今後の勝敗を分ける可能性がある。映画のように1本きりで完結するものならともかく、ドラマやバラエティは毎週更新されるものだからだ。動画配信サービスはやろうと思えば、気に入ったコンテンツのある月だけ入会、なければ退会して様子見するということも可能だ。しかし、毎週楽しみな番組があれば、そうした一時抜けも少なくなる。

 「ここでしか見れないコンテンツ」が価格より優先されるということは、オリジナルコンテンツ制作がNetflixの値上げの理由であることからも明らかだ。また、バラエティの充実は地上波放送との境界を曖昧にし、新規ユーザーの獲得も狙える施策といえる。プライム・ビデオは6月に追加料金で専門チャンネルが視聴できる「Prime Videoチャンネル」を開始。これも動画配信サービスの中での差別化と同時にケーブルテレビなどのユーザーを取り込む意図がある。

 Netflixは8月28日からKDDIと協業し、通信料金と動画配信サービスのセットプランを展開する。こちらのプランでは通常より値上げ額が少し低く設定されているが、重視しているのはモバイル視聴の提案だ。
 
KDDIはNetflixと協業したプランの提供を8月28日に開始

 Netflixはプランを開始するにあたって、スマホ上のインターフェースを見直し、より最適化している。最近ではテレビのリモコンに動画配信サービスのチャンネルが実装されているのは標準になっているが、この取り組みを始めたのもNetflixだった。料金という軸以外で勝負するという戦略は、そもそもサービス開始当初からブレていない。(BCN・大蔵 大輔)