ECプラットフォーム「Shopify」が昨年末に日本に上陸した。日本ではあまり馴染みがないが、世界175か国で60万以上のネットショップが利用する巨大サービスで、2015年にトロント証券取引所とニューヨーク証券取引所にし、18年8月10日現在で時価総額は約156億USドル(約1兆7300億円)にのぼる。ビックプレイヤーの参戦で日本のEC市場はどのように変わっていくのか、またどのように市場で拡大を図るのか。日本法人トップのマーク・ワング カントリーマネジャーに戦略を聞いた。
取材・文・写真/大蔵 大輔
Shopifyはすでに175か国で展開していますが、いずれも英語に強い地域に限定されており、管理画面も英語、カスタマーサポートも英語でした。日本で展開するためには、これらを全て日本語にローカライズする必要があります。その準備が整い、参入するに至りました。
―― 日本のEC市場をどのように捉えていらっしゃいますか。
日本の現在のEC比率は8%程度ですが、2020年までには20%になるという試算があります。非常に成長率の見込める魅力的な市場です。JETRO(日本貿易振興機構)の調べによると、国内のリテーラー(小売業者)の24%がオンラインにチャネルを持っていますが、そのうち半分がグローバルに展開しています。Shopifyはマルチ言語、グローバル決済に対応するのも強みの一つです。これからますます増加する越境ECの需要にShopifyなら応えることができます。
―― すでにサービスを展開している地域と日本のEC市場の違いはどのようなところにあるのでしょうか。
北米と日本で比較するとリテーラーに関してはそこまで違いはないと考えています。違いがあるのは、消費者の購入傾向です。例えば、米国では商品をリテーラー自社ドメインのサイトで購入するケースが多いですが、日本では聞いたことのない企業のサイトは警戒されます。楽天市場やヤフーショッピングのようなモールに出店しているのを確認してようやく安心して購入します。最近はインスタグラムのようなSNSから商品を購入されるケースも増えていますね。
―― たしかに日本ではモールが非常に大きな存在です。Shopifyを日本で拡大するうえでは脅威になってくるのではないですか。
モールが競合なのではないか、と言われることは多いですが、実際はそうではありません。バーサスではなく、協力できる関係です。米国ではAmazon.comとも連携をしており、Shopifyに登録しているリテーラーが、直接Amazonにも商品を登録できる仕組みを導入しています。
日本だとポイントを獲得するために特定のモールを利用したいというお客さまは多いですよね。ただ、それが全てではありません。モールの売上は全体の約半分なので、他の半分のお客さまは別の経路で商品を購入しているわけです。それらのお客さまに購入していただくためにも、リテーラーはモールだけでなく自社サイトをもっていることが重要です。
例えば、利用したことのある方ならわかると思いますが、モールでキーワードを入力するとチェックできないくらいの候補が表示されます。登録したばかりの商品だとディスカバリーレートが低いので埋もれてしまい、購入したい方も探せないという状況になります。Shopifyはモールだけでなく、FacebookやInstagramなどとの連携もできます。自社サイトでモールではできないユニークなブランディングをしつつ、導線も用意できるのです。
Shopifyは直接の営業活動は一切しません。グローバルでもこれまで大きな広告を展開したことはありません。その代わりに大事にしているのが「マーチャント」(出店者)と「パートナー」(導入支援企業)の二つのコミュニティです。
われわれは双方のコミュニティを招いた合同イベントを頻繁に開催しているのですが、そこではマーチャントの困りごとを解消できるパートナーが見つかったり、うまくShopifyの仕組みを利用するためのノウハウが共有されたりします。こうした縦と横のつながりから利用者を拡大しているのです。
Shopifyでは利用者に対して売上のノルマや手数料のようなものは設けていません(※)。プランに応じて月額3000円前後から利用できるのですが、発生するコストはそれだけです。(※「Shopifyペイメント」を使用する場合)
収益の成長幅をみていただければ、Shopifyがいかにパートナーを重視しているかがお分かりになると思います。16年から17年にかけてShopifyの収益は約1.7倍に伸びていますが、パートナーは約1.9倍とShopifyを上回っています。
―― ローカライズでは今後どのようなアップデートがありますか。
近いうちにローカルペイメントというシステムを導入予定です。これは要するに購入する国に合わせて最適な決済方法をユーザーに利用する仕組みです。日本ではECサイトでショッピングをするとき、クレジット決済が主流ですが、これは国によって異なります。
例えば、ドイツでは銀行振り込みが主流ですが、日本のECサイトにアクセスしたときに、銀行振り込みの項目がないと購入意欲は下がりますよね。Shopifyはドイツの銀行振り込み決済の会社と提携し、ドイツのお客さまには銀行振り込みの項目が前に表示されるようにします。これによってコンバージョン低下を防げます。
ビジネスの業界では「日本で勝てれば世界の市場で勝てる」と言われますが、われわれも短期的ではなく長期的に市場で成長していこうと考えています。日本はサービスのスタンダードレベルが高いので、プロダクトも磨かれていくはずです。市場規模の大きさだけでなく、グローバルで展開するサービス全体に与える影響にも期待しています。
取材・文・写真/大蔵 大輔
モールは競合ではない? 相互連携が求められる理由
―― 昨年11月に日本法人を設立されました。企業の規模を考えると、少し遅いようにも感じますが、なぜこのタイミングになったのでしょうか。Shopifyはすでに175か国で展開していますが、いずれも英語に強い地域に限定されており、管理画面も英語、カスタマーサポートも英語でした。日本で展開するためには、これらを全て日本語にローカライズする必要があります。その準備が整い、参入するに至りました。
―― 日本のEC市場をどのように捉えていらっしゃいますか。
日本の現在のEC比率は8%程度ですが、2020年までには20%になるという試算があります。非常に成長率の見込める魅力的な市場です。JETRO(日本貿易振興機構)の調べによると、国内のリテーラー(小売業者)の24%がオンラインにチャネルを持っていますが、そのうち半分がグローバルに展開しています。Shopifyはマルチ言語、グローバル決済に対応するのも強みの一つです。これからますます増加する越境ECの需要にShopifyなら応えることができます。
―― すでにサービスを展開している地域と日本のEC市場の違いはどのようなところにあるのでしょうか。
北米と日本で比較するとリテーラーに関してはそこまで違いはないと考えています。違いがあるのは、消費者の購入傾向です。例えば、米国では商品をリテーラー自社ドメインのサイトで購入するケースが多いですが、日本では聞いたことのない企業のサイトは警戒されます。楽天市場やヤフーショッピングのようなモールに出店しているのを確認してようやく安心して購入します。最近はインスタグラムのようなSNSから商品を購入されるケースも増えていますね。
―― たしかに日本ではモールが非常に大きな存在です。Shopifyを日本で拡大するうえでは脅威になってくるのではないですか。
モールが競合なのではないか、と言われることは多いですが、実際はそうではありません。バーサスではなく、協力できる関係です。米国ではAmazon.comとも連携をしており、Shopifyに登録しているリテーラーが、直接Amazonにも商品を登録できる仕組みを導入しています。
日本だとポイントを獲得するために特定のモールを利用したいというお客さまは多いですよね。ただ、それが全てではありません。モールの売上は全体の約半分なので、他の半分のお客さまは別の経路で商品を購入しているわけです。それらのお客さまに購入していただくためにも、リテーラーはモールだけでなく自社サイトをもっていることが重要です。
例えば、利用したことのある方ならわかると思いますが、モールでキーワードを入力するとチェックできないくらいの候補が表示されます。登録したばかりの商品だとディスカバリーレートが低いので埋もれてしまい、購入したい方も探せないという状況になります。Shopifyはモールだけでなく、FacebookやInstagramなどとの連携もできます。自社サイトでモールではできないユニークなブランディングをしつつ、導線も用意できるのです。
手数料はとらずパートナーの成長を重視
―― 日本で利用者を拡大するための戦略を教えてください。Shopifyは直接の営業活動は一切しません。グローバルでもこれまで大きな広告を展開したことはありません。その代わりに大事にしているのが「マーチャント」(出店者)と「パートナー」(導入支援企業)の二つのコミュニティです。
われわれは双方のコミュニティを招いた合同イベントを頻繁に開催しているのですが、そこではマーチャントの困りごとを解消できるパートナーが見つかったり、うまくShopifyの仕組みを利用するためのノウハウが共有されたりします。こうした縦と横のつながりから利用者を拡大しているのです。
Shopifyでは利用者に対して売上のノルマや手数料のようなものは設けていません(※)。プランに応じて月額3000円前後から利用できるのですが、発生するコストはそれだけです。(※「Shopifyペイメント」を使用する場合)
収益の成長幅をみていただければ、Shopifyがいかにパートナーを重視しているかがお分かりになると思います。16年から17年にかけてShopifyの収益は約1.7倍に伸びていますが、パートナーは約1.9倍とShopifyを上回っています。
―― ローカライズでは今後どのようなアップデートがありますか。
近いうちにローカルペイメントというシステムを導入予定です。これは要するに購入する国に合わせて最適な決済方法をユーザーに利用する仕組みです。日本ではECサイトでショッピングをするとき、クレジット決済が主流ですが、これは国によって異なります。
例えば、ドイツでは銀行振り込みが主流ですが、日本のECサイトにアクセスしたときに、銀行振り込みの項目がないと購入意欲は下がりますよね。Shopifyはドイツの銀行振り込み決済の会社と提携し、ドイツのお客さまには銀行振り込みの項目が前に表示されるようにします。これによってコンバージョン低下を防げます。
ビジネスの業界では「日本で勝てれば世界の市場で勝てる」と言われますが、われわれも短期的ではなく長期的に市場で成長していこうと考えています。日本はサービスのスタンダードレベルが高いので、プロダクトも磨かれていくはずです。市場規模の大きさだけでなく、グローバルで展開するサービス全体に与える影響にも期待しています。