“部品屋”のままでは生き残れない、ジャパンディスプレイがB2Cに出る理由
【日高彰の業界を斬る・24】 「日本の電機メーカーは家電では凋落したが、電子部品では今でも世界有数。名だたる海外勢も、日本製の部品がなければ最終製品をつくれない」――このようなロジックで、日本のエレクトロニクス産業の将来を楽観視する意見は少なくない。しかし、いかに高性能・高品質の電子部品をつくる技術をもっていたとしても、それだけで事業が安泰ということはあり得ない。
利益面で厳しいだけでなく、売上高自体も15年度の9891億円をピークに減少を続けており、前期の17年度は7175億円まで縮小している。同社の筆頭株主は官民ファンドの産業革新機構であり、公的な資金でかろうじて持ちこたえている状態だ。
同社のビジネスにおける、構造的な問題点として数年来指摘されているのが、スマートフォンへの依存率の高さ。さらに具体的に言えば、アップルの意向に業績があまりにも大きく左右される点だ。17年度、JDIからアップルへの販売金額は3938億円に上った。会社全体の売上高の実に約55%が、アップル1社に依存している。アップルの業績は好調だが、iPhoneの販売台数推移はほぼ横ばいとなっており、もはやiPhone頼みではいられない。
この状況を打破するため、JDIが新たに発表した新戦略が、「B2C(一般消費者向け)事業への参入」だ。8月1日に開催した戦略説明会で、同社のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務める伊藤嘉明常務は「JDIは最終製品ビジネスに参入する。いままで“部品屋”を生業としていたが、これをあえて変える」と述べ、パネルメーカーからの脱却を宣言した。
具体的な製品としては、オートバイで走行中のライダーが各種情報を確認できる「HUD(ヘッドアップディスプレイ)搭載スマートヘルメット」や、鏡の形をしながら、カメラで撮影した数秒前の映像を再生する機能をもち、自分の後ろ姿を確認できる「遅れ鏡」、3Dコンテンツを裸眼で楽しめる卓上端末「ライトフィールドディスプレイ」などを発表した。
B2C市場は流行り廃りが激しく、収益の安定化という意味ではこれまで以上に厳しい事業領域だ。しかし、伊藤CMOは「技術力に関しては、世界に誇れるものをたくさんもっている。トップシェアのものも多々ある。しかし本来の力を出し切れていない。納得のいく利益を出せる企業体質になっていない」「イノベーションを推進する責任者として、部品だけではない事業が必要と考えている。消費者観点でみると、(日本のメーカーは)やれること、やるべきことをやっていないのではないか」と話し、これまでのように得意先の“御用聞き”だけに終始していては、JDIのもつ技術を利益に転換していくことはできないとの見方を示した。
JDIの新戦略は、世の中の革新につながる技術について、他社による製品化を座して待つのではなく、自ら最終製品の形を提示していくというものだ。「世界初」が冠されるような高度な新技術を連発しながらも、製品化の見込みがないまま技術が死蔵されていたり、製品は出したもののエコシステムの構築で悪戦苦闘したりしているうちに、海外勢が市場をかっさらっていくという、日本メーカーの「負けパターン」には陥らないという決意が感じられる。
では、日本の電子部品メーカーはすべて、最終製品メーカーを目指すべきなのだろうか。実際には、最終製品の企画・開発や販売ノウハウをもたないJDIが、B2C市場でいきなり大きな成功を収めることは難しいだろう。
しかし、例えば今回同社が発表した最終製品のうち、「遅れ鏡」については、インテリアメーカーの神谷コーポレーション湘南が、室内ドアに組みこんで19年度内に発売する意向を示している。アイデアレベルではなく、事業化を前提とした本気度の高い製品を開発することで、新たな販路やビジネスパートナーも見つかりやすくなる。JDIのB2C参入は、このような過去になかったパートナーシップや事業モデルの開拓という意味合いが強いようだ。
液晶パネル以外の電子部品では、まだまだ世界で圧倒的なシェアをもつ日本メーカーは多い。ただ、JDIのような危機的な状況ではないにしろ、特定の顧客や市場への依存で業績の見通しが不透明な企業が少なくない。
また、多くのメーカーが主戦場としている米国、中国とも、政治や通商の問題で市場環境が一変するリスクが従来より高まっている。最終製品メーカーに取って代わることはできないが、“部品屋”気質のままでいられない事情は、どの部品メーカーにとっても同じだろう。(BCN・日高 彰)
アップル依存率は55%に
ソニー、東芝、日立など、国内メーカー6社のディスプレイ事業を統合して、2012年に事業を開始したジャパンディスプレイ(JDI)。スマートフォン向けディスプレイの市場シェアでは世界1位とされているが、14年度以降、4期連続で最終赤字を計上している。利益面で厳しいだけでなく、売上高自体も15年度の9891億円をピークに減少を続けており、前期の17年度は7175億円まで縮小している。同社の筆頭株主は官民ファンドの産業革新機構であり、公的な資金でかろうじて持ちこたえている状態だ。
同社のビジネスにおける、構造的な問題点として数年来指摘されているのが、スマートフォンへの依存率の高さ。さらに具体的に言えば、アップルの意向に業績があまりにも大きく左右される点だ。17年度、JDIからアップルへの販売金額は3938億円に上った。会社全体の売上高の実に約55%が、アップル1社に依存している。アップルの業績は好調だが、iPhoneの販売台数推移はほぼ横ばいとなっており、もはやiPhone頼みではいられない。
この状況を打破するため、JDIが新たに発表した新戦略が、「B2C(一般消費者向け)事業への参入」だ。8月1日に開催した戦略説明会で、同社のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務める伊藤嘉明常務は「JDIは最終製品ビジネスに参入する。いままで“部品屋”を生業としていたが、これをあえて変える」と述べ、パネルメーカーからの脱却を宣言した。
具体的な製品としては、オートバイで走行中のライダーが各種情報を確認できる「HUD(ヘッドアップディスプレイ)搭載スマートヘルメット」や、鏡の形をしながら、カメラで撮影した数秒前の映像を再生する機能をもち、自分の後ろ姿を確認できる「遅れ鏡」、3Dコンテンツを裸眼で楽しめる卓上端末「ライトフィールドディスプレイ」などを発表した。
B2C市場は流行り廃りが激しく、収益の安定化という意味ではこれまで以上に厳しい事業領域だ。しかし、伊藤CMOは「技術力に関しては、世界に誇れるものをたくさんもっている。トップシェアのものも多々ある。しかし本来の力を出し切れていない。納得のいく利益を出せる企業体質になっていない」「イノベーションを推進する責任者として、部品だけではない事業が必要と考えている。消費者観点でみると、(日本のメーカーは)やれること、やるべきことをやっていないのではないか」と話し、これまでのように得意先の“御用聞き”だけに終始していては、JDIのもつ技術を利益に転換していくことはできないとの見方を示した。
JDIの新戦略は、世の中の革新につながる技術について、他社による製品化を座して待つのではなく、自ら最終製品の形を提示していくというものだ。「世界初」が冠されるような高度な新技術を連発しながらも、製品化の見込みがないまま技術が死蔵されていたり、製品は出したもののエコシステムの構築で悪戦苦闘したりしているうちに、海外勢が市場をかっさらっていくという、日本メーカーの「負けパターン」には陥らないという決意が感じられる。
最終製品前提で、事業やパートナーの幅を広げる
伊藤CMOは「赤字を垂れ流すということはない。どのテクノロジーを使って黒字事業をつくれるかと考えている。(収益事業化までの)期間は3~5年というイメージ」と述べ、B2C事業は広告宣伝的な位置付けで赤字を許容するのではなく、あくまで利益を生む事業に育てていくと強調した。では、日本の電子部品メーカーはすべて、最終製品メーカーを目指すべきなのだろうか。実際には、最終製品の企画・開発や販売ノウハウをもたないJDIが、B2C市場でいきなり大きな成功を収めることは難しいだろう。
しかし、例えば今回同社が発表した最終製品のうち、「遅れ鏡」については、インテリアメーカーの神谷コーポレーション湘南が、室内ドアに組みこんで19年度内に発売する意向を示している。アイデアレベルではなく、事業化を前提とした本気度の高い製品を開発することで、新たな販路やビジネスパートナーも見つかりやすくなる。JDIのB2C参入は、このような過去になかったパートナーシップや事業モデルの開拓という意味合いが強いようだ。
液晶パネル以外の電子部品では、まだまだ世界で圧倒的なシェアをもつ日本メーカーは多い。ただ、JDIのような危機的な状況ではないにしろ、特定の顧客や市場への依存で業績の見通しが不透明な企業が少なくない。
また、多くのメーカーが主戦場としている米国、中国とも、政治や通商の問題で市場環境が一変するリスクが従来より高まっている。最終製品メーカーに取って代わることはできないが、“部品屋”気質のままでいられない事情は、どの部品メーカーにとっても同じだろう。(BCN・日高 彰)