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KDDIが通信×スポーツのVR事業を開始、リアルとネットの利点を融合

販売戦略

2018/07/26 18:00

 バーチャルな世界で、アバターでコミュニケーションをとりながらスポーツの試合を観戦する――。SF小説や映画が描いてきた未来が、いよいよ現実のものになりそうだ。KDDIがSupershipと共同で開発・運営する「XRstadium」は、スタジアムで行われるスポーツをリアルタイムで配信し、VR空間で楽しむことができるVR観戦プラットフォーム。7月25日の発表では、日本プロ野球パシフィック・リーグの試合をコンテンツの第一弾として提供することを発表した。

KDDI×SupershipがVR観戦プラットフォーム「XRstadium」の提供を開始。
コンテンツの第一弾は、プロ野球の試合を500円で配信する

 KDDIの「通信×スポーツ」の取り組みは今回が初めてではない。さかのぼれば、3G時代の10年以上前に「au Smart Sports」を発表し、通信会社としてスポーツにいかに貢献できるかを模索し始めた。当時、サービスに携わっていたKDDI ビジネス統轄部長の繁田光平氏は「リアルとネットを融合し、個人のスポーツ体験を複数人で共有・可視化することが目的だった」と振り返る。
 
10年以上前に始まったKDDIの「通信×スポーツ」の取り組み。
ビジネス統轄部長の繁田光平氏が当時を振り返った

 今回発表した「XRstadium」もその思いは変わらない。ただ時代は移り、通信はまもなく5Gの世界に突入する。通信が大容量化・高速化するメリットを生かせる技術。それがXR(AR/MR/VRの総称)というわけだ。
 
5G時代に提供できる体験として“XR”に注力

 「XRstadium」は、自宅やVR環境のある施設でVRデバイスを使用する。第一弾のプロ野球パ・リーグの試合はリアルタイムで配信を予定。独自のマルチアングルを自分自身で切り替えられるほか、友人や家族とVR空間で隣り合い音声通話を楽しみながら観戦したり、他の利用者とチャットで会話をしながら観戦したりすることができる。
 
「XRstadium」の魅力はVR空間にリアルとネットのよいところを融合させているところだ

 実際に体験すると、リアルの臨場感とネットの情報量が同一の空間にうまく溶け合っていることが分かる。現時点では映像の解像度やヘッドセットの重さなど気になる点はあったが、インターフェースとしては非常にすぐれているという印象を受けた。
 
実際にコンテンツを体験。画面内のインターフェースは整理されていて、
野球を観戦しながらも、スムーズにさまざまな情報にアクセスできた

 Supershipの森岡康一社長によると、他者とコミュニケーションをとりながらスポーツを観戦するVRコンテンツは日本初の試みだという。森岡社長は「遠隔からだけでなく、現地でARを活用する可能性も模索したい。例えば、プロ野球は応援の方法が難しい。応援歌の歌詞がARで表示されるなどすれば、楽しめる人はもっと増えるはずだ」と今後の展開にも言及した。
 
Supershipの森岡康一社長

 KDDIはスポーツだけでなく「旅行」でもVR技術を用いたソリューションを販売している。収益性についての情報公開はなかったが、繁田部長は「お金をいただいて、やっている以上は収益についても追っていく」とコメント。「XRstadium」を個人で利用する場合、プロ野球1試合で500円という値付けをしているが「リアルとネットが融合したサービスであることを考えると安すぎるかもしれない。適正価値について、これから模索していきたい」と語った。

 国内のVRはテーマパークやアミューズメント施設を中心に市場が形成されており、コンシューマー向けはややトーンダウンしている印象を受ける。今回も対応デバイスになっている一体型の「Oculus Go」などコスパにすぐれるモデルも登場しているが、市場を活性化させるにはまだ材料が不足している。XRサービスを成功させるには、コンテンツのブラッシュアップと同時に、デバイスを含め日常にVRを根づかせる必要があるだろう。(BCN・大蔵 大輔)