IoT住宅の最先端が団地にある――そんな噂を聞いた記者が訪問したのは、ROSETTAのリノベーションブランド「bento(ベントー)」が5月末にオープンしたモデルルーム「bento bianco 立川」だ。前回のレポート記事では隠し要素満載のキッチンを紹介したが、今回はさらに衝撃的なリビング、パウダールームのこだわりに迫る。
モデルルームを案内してくれたのは、ROSETTA代表取締役の木村英寛氏。米バークリー音楽大学を卒業後に同社を起業。独学で学んだデザインや家電に関する知見を活かし、管理施工から家具・家電の選定まで一貫したリノベーションを行っている。ちなみに「bento bianco 立川」はモデルルームであると同時に木村氏の自宅でもある。奥様と愛猫のピアノちゃんも同居している。
しかし、キッチンに引き続き、この空間にも至るところに仕掛けが隠されている。例えば、壁掛けされたテレビの裏側。通常、テレビの壁掛けをすると、背面の端子が使いづらくなったり、録画用HDDの設置を諦めなければならなかったり、デメリットが多いが、テレビの裏の壁に空洞を設け、ケーブルや周辺機器を収納するスペースを確保。見た目と機能性を両立させた。
また、テレビから伸びた配線はリビングの床下を通り、ソファの裏側につながっている。おかげで、壁掛けだと置き場に困るBDレコーダーなどの機器をテレビから離れた目立たない位置に設置することもできるようになった。このエリアには、スマートフォンの充電ケーブルやスマートスピーカーなども隠れていた。キッチンでもデジタル機器を“見せない”工夫があったが、これはすべての部屋で徹底しているようだ。
「はじめに家電・家具を選定、その機能を最大化するために部屋を設計する」というbentoならではの逆転のプロセスは、IoT住宅ならほぼ100%の確率でお目にかかるルンバにも当てはまる。床面は掃除のしやすいフラットデザインのナノコーティングタイルで統一。部屋を仕切る引き戸はレールレスにして、ルンバの動作を妨げないようにしている。
足を踏み入れてすぐに目が向いたのが、団地の一室に似つかわしくない巨大なバスタブ。しかもジェットバスだ。木村氏によると、このバスタブは特にこだわったポイントだという。「団地の風呂場は構造上、拡張することができません。それでも、狭さを感じさせない工夫はないかと思い、洗い場やドアをなくし、思い切ってバスタブを大きくしました」。
風呂場の工夫はバスタブのサイズだけではない。浴槽に入り、天井を見上げると天窓から心地よい自然光が差し込む。「これは贅沢ですね~」なんて呑気なことを言っていたのだが、よくよく考えるとここは5階建ての4階。天窓があるわけがないのだ(そもそも、取材当日は雨だった)。
実はこの天窓は太陽光を再現した人工天窓。イタリア製で日本ではまだほとんど採用されていない代物とのことだった。「団地は窓の配置が偏り、暗い空間も生まれがち。ここの部屋でいえばパウダールームには小さい窓しかないので明かりを入れたかった」。設計や家電だけでなく、インテリアにも精通する木村氏ならではの工夫といえる。
広々したバスルームから一転、洗濯収納スペースは衣類棚・家電が隙間なく並んだ“密”な空間になっている。ドラム式洗濯乾燥機や衣類棚はわかる。問題はその隣。「ユニークだけど、こんな高価で巨大なものを家に置けるわけがない」と記者が発売当時から思っていた、クローゼット型のホームクリーニング機「LGスタイラー」が鎮座している。
「ドラム式洗濯乾燥機の日立の『ビッグドラム』を採用しています。シャツのシワを伸ばす風アイロンが魅力だからです。これにさらにLGスタイラーを加えれば、アイロンもクリーニングも必要ありません。それにクローゼットとして収納スペースとしても活用できます」
さらにLGスタイラーの隣に目をやると、こんなところに愛猫のピアノちゃんが! ペット用とおぼしきガジェットの数々に囲まれている。これは、自動給水器、自動給餌器、そして自動トイレだ。「ペットを飼育していると、長期間旅行に出かけるのは難しいものです。でも、ここにあるガジェットがあれば1週間程度の旅行なら問題ありません。実証済みです」(木村氏)。一見、狭い室内だが、通常のパウダールームがこなす以上の役割を担っている。
木村氏はこの答えを、都内の新築マンションとの比較で語ってくれた。「都内の新築タワーマンションの物件価格は平均5000~6000万円ほどです。それだけお金をかけても、間取りや広さなど、制限されることはままあります。一方、団地は外観はオシャレではないかもしれませんが、最新のテクノロジーやインテリアと組み合わせてきちんとリノベーションすれば、より安価によりよい住環境を手に入れることができる。団地という価値が低いと考えられている環境を価値の高いものに変えることができるんです」
別れ際に木村氏はモデルルームで撮影したお気に入りの写真を見せてくれた。それは、部屋のベランダから見える満開の桜の景色。
「柏町団地はコの字型になっていて、中央の広場に桜の木が並んでいます。4階だと触れられる距離に桜があるんです。この絶景を眺めながら、妻とお酒を飲むのは最高ですよ」。テクノロジーによって新たに価値を生むだけでなく、忘れられつつある価値にもスポットライトを当てる。bentoの提示するライフスタイルは、買い手のつかない土地や物件を蘇らせるかもしれない。(BCN・大蔵 大輔)
モデルルームを案内してくれたのは、ROSETTA代表取締役の木村英寛氏。米バークリー音楽大学を卒業後に同社を起業。独学で学んだデザインや家電に関する知見を活かし、管理施工から家具・家電の選定まで一貫したリノベーションを行っている。ちなみに「bento bianco 立川」はモデルルームであると同時に木村氏の自宅でもある。奥様と愛猫のピアノちゃんも同居している。
見せない工夫はリビングにも テレビの配線問題を設計で解決
前回の記事でレポートしたキッチンではさりげないデジタライゼーションに衝撃を受けたが、次はリビングに移動する。正直、初見の印象は「よく整理整頓されたおしゃれな空間、当然、ルンバはいるよね」といった程度。65インチの有機ELテレビも気になるが、すぐにわかる工夫は見当たらない。しかし、キッチンに引き続き、この空間にも至るところに仕掛けが隠されている。例えば、壁掛けされたテレビの裏側。通常、テレビの壁掛けをすると、背面の端子が使いづらくなったり、録画用HDDの設置を諦めなければならなかったり、デメリットが多いが、テレビの裏の壁に空洞を設け、ケーブルや周辺機器を収納するスペースを確保。見た目と機能性を両立させた。
また、テレビから伸びた配線はリビングの床下を通り、ソファの裏側につながっている。おかげで、壁掛けだと置き場に困るBDレコーダーなどの機器をテレビから離れた目立たない位置に設置することもできるようになった。このエリアには、スマートフォンの充電ケーブルやスマートスピーカーなども隠れていた。キッチンでもデジタル機器を“見せない”工夫があったが、これはすべての部屋で徹底しているようだ。
「はじめに家電・家具を選定、その機能を最大化するために部屋を設計する」というbentoならではの逆転のプロセスは、IoT住宅ならほぼ100%の確率でお目にかかるルンバにも当てはまる。床面は掃除のしやすいフラットデザインのナノコーティングタイルで統一。部屋を仕切る引き戸はレールレスにして、ルンバの動作を妨げないようにしている。
限られたスペースでラグジュアリー空間を演出
最後に向かったのは、バスルーム・洗面台・トイレ・洗濯収納スペースが一体になったパウダールーム。面積としてはそこまで広くなく、「工夫の余地はないだろう」と念のため、覗いたつもりだったが、ここも外せない見どころだった。足を踏み入れてすぐに目が向いたのが、団地の一室に似つかわしくない巨大なバスタブ。しかもジェットバスだ。木村氏によると、このバスタブは特にこだわったポイントだという。「団地の風呂場は構造上、拡張することができません。それでも、狭さを感じさせない工夫はないかと思い、洗い場やドアをなくし、思い切ってバスタブを大きくしました」。
風呂場の工夫はバスタブのサイズだけではない。浴槽に入り、天井を見上げると天窓から心地よい自然光が差し込む。「これは贅沢ですね~」なんて呑気なことを言っていたのだが、よくよく考えるとここは5階建ての4階。天窓があるわけがないのだ(そもそも、取材当日は雨だった)。
実はこの天窓は太陽光を再現した人工天窓。イタリア製で日本ではまだほとんど採用されていない代物とのことだった。「団地は窓の配置が偏り、暗い空間も生まれがち。ここの部屋でいえばパウダールームには小さい窓しかないので明かりを入れたかった」。設計や家電だけでなく、インテリアにも精通する木村氏ならではの工夫といえる。
「ドラム式洗濯乾燥機の日立の『ビッグドラム』を採用しています。シャツのシワを伸ばす風アイロンが魅力だからです。これにさらにLGスタイラーを加えれば、アイロンもクリーニングも必要ありません。それにクローゼットとして収納スペースとしても活用できます」
さらにLGスタイラーの隣に目をやると、こんなところに愛猫のピアノちゃんが! ペット用とおぼしきガジェットの数々に囲まれている。これは、自動給水器、自動給餌器、そして自動トイレだ。「ペットを飼育していると、長期間旅行に出かけるのは難しいものです。でも、ここにあるガジェットがあれば1週間程度の旅行なら問題ありません。実証済みです」(木村氏)。一見、狭い室内だが、通常のパウダールームがこなす以上の役割を担っている。
bentoが団地にこだわる理由
すべての部屋を回り終えて、bentoの目指すIoT住宅の完成度の高さを身をもって体感したが、最後に一つだけ疑問が残った。それは「なぜ団地?」ということだ。これだけのハイスペックの機能性なら高級マンションのほうが親和性がよさそうなもの。団地という最先端と縁が薄い場所にこだわるのはなぜなのか。木村氏はこの答えを、都内の新築マンションとの比較で語ってくれた。「都内の新築タワーマンションの物件価格は平均5000~6000万円ほどです。それだけお金をかけても、間取りや広さなど、制限されることはままあります。一方、団地は外観はオシャレではないかもしれませんが、最新のテクノロジーやインテリアと組み合わせてきちんとリノベーションすれば、より安価によりよい住環境を手に入れることができる。団地という価値が低いと考えられている環境を価値の高いものに変えることができるんです」
別れ際に木村氏はモデルルームで撮影したお気に入りの写真を見せてくれた。それは、部屋のベランダから見える満開の桜の景色。
「柏町団地はコの字型になっていて、中央の広場に桜の木が並んでいます。4階だと触れられる距離に桜があるんです。この絶景を眺めながら、妻とお酒を飲むのは最高ですよ」。テクノロジーによって新たに価値を生むだけでなく、忘れられつつある価値にもスポットライトを当てる。bentoの提示するライフスタイルは、買い手のつかない土地や物件を蘇らせるかもしれない。(BCN・大蔵 大輔)