炎上した「小学生用パソコン」が、売れる商品になるためには
【日高彰の業界を斬る・18】 メーカー側の思惑とは裏腹に、消費者から厳しい評価が下される新製品は決して少なくない。今月、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が発表した、小学生をターゲットにしたPC「LIFEBOOK LHシリーズ」もそのひとつだ。
2020年度より小学校でのプログラミング教育が必修化されるのを前に、IT機器の市場では教育用PCがひとつの注目カテゴリとなっている。家電量販店の一部では、ロボットや電子工作のキットなど、実際に手を動かして体験しながらプログラミングを学べる製品の売り場が設けられており、PCメーカーもこれを商機として、子どもや学生に向けたPC販売を拡大すべく取り組みを始めている。
この市場に対するFCCLの回答が、冒頭で述べた新製品だ。本体の周囲にラバー素材を配置し、ラフな使い方をされても容易には壊れないようにしたほか、インターネットにのめり込んで勉強がおろそかになったり、犯罪に巻き込まれたりしないよう、保護者による管理機能を強化した。
FCCLが6月12日に開催した発表会は、同社が富士通からレノボ傘下へ移って初の製品発表ということもあり、力が入っていた様子だったが、発表当日、Twitterをはじめとするソーシャルメディアに書き込まれた消費者の反応は芳しいものではなかった。
多くの消費者は、スペックと価格の釣り合いが取れていないことを指摘した。LHシリーズの市場想定価格は、基本モデルが7万円強(税別、以下同)、タブレットとしても使えるタッチ操作対応モデルが9万円強だが、CPUはCeleron 3865U、メモリは4GB、ストレージはSSD 128GB、液晶ディスプレイの解像度は1366×768ドットと、PCとしては最低限の内容だ。
これが例えばレノボであれば、同じ14型の「Ideapad 330S」が4万円台半ばから販売されている。しかもディスプレイはフルHD(1920×1080)となり、1~2万円程度上乗せすればより高性能なCore i3やi5も選択できる。この価格差があることで、本来4~5万円程度の性能の製品を、「小学生向けに設計した」という触れ込みで高く売ろうとしているのではないか、という批判を招いた。
もうひとつは、エントリークラスのPCを子どもに与えることによって、PCという製品自体のイメージを悪くしてしまうのではないかという懸念だ。FCCLでは、小学生の学習や日常的なインターネット利用を想定し、支障のない性能を確保していることを検証したとしている。確かに、最新のCeleronは決して非力なCPUではなく、一般的なオフィスの事務用途にも問題ない性能を備えている。
ただ、一時的に高い負荷がかかったときの操作レスポンスでは上位のCoreシリーズには及ばない。CeleronとCoreで要する処理時間の差が、時間的にはコンマ何秒といったわずかな違いであったとしても、それが積み重なっていくと、「このPCでどれだけ快適に作業ができるか」という体感的な評価は変わってくる。また、4GBというメモリ容量も、ブラウザで多くのタブを開いていくにはやや不安だ。
「Celeron・4GBだからそういうものだ」と理解しているユーザーが使う分には問題ない。しかし、現代の小学生は生まれたときから優れた情報機器に囲まれている。iPadやNintendo Switchが何のストレスもなく無尽蔵の楽しさを与えてくれるのに、PCは何かと待たされるし面倒くさいものだと思われてしまったら、子どもにとってのPCは、学校の宿題をするために「使わされる」デバイスという位置付けになりかねない。大人でも、PCは会社で仕事をするために仕方なく使う道具であって、自宅ではスマートフォンかタブレットしか使わない、PCのフタは長らく閉めたままという人は多い。子どもならなおさらだ。
もちろんFCCLとしては、カタログスペック以外の部分に注目してほしいということなのだろう。同社は富士通時代から教育機関向けに多くの納入実績があり、文教市場でのPCおよびWindowsタブレットでは、3分の2の市場シェアを獲得している。今回のLHシリーズには、そこで得てきたノウハウが惜しみなくつぎ込まれているという。
例えば、学校でのPCの扱われ方は、ある意味で業務用PCよりも過酷だ。投げる、落とす、ぶつけるは当たり前、汚したり水をこぼしたりも日常茶飯事という。仮に2年ほどで壊してしまうことを考えると、その分丈夫につくってあるこの製品なら、それだけでも十分元が取れる可能性もある。
また、子どもにPCの使い方をきちんと教え、管理できる親であれば、よりコストパフォーマンスの高い製品を選べば良いが、そもそもFCCLが狙っているのは、そのような――LHシリーズの発表日に不満の声を上げた――ITリテラシーが高い層ではなく、漫然とした不安をもちながらも子どもにはPCのスキルを身につけさせたいという消費者のようにもみえる。であれば、上のような批判の内容によって購買意欲が削がれることはないのだろう。
とはいえ、小学生向けPCという新しい市場をスムーズに開拓できるかというと、前途は多難なように思える。このような悪条件下でFCCLがLHシリーズを成功させるには、どのような要素が求められるのだろうか。(つづく)(BCN・日高 彰)
2020年度より小学校でのプログラミング教育が必修化されるのを前に、IT機器の市場では教育用PCがひとつの注目カテゴリとなっている。家電量販店の一部では、ロボットや電子工作のキットなど、実際に手を動かして体験しながらプログラミングを学べる製品の売り場が設けられており、PCメーカーもこれを商機として、子どもや学生に向けたPC販売を拡大すべく取り組みを始めている。
この市場に対するFCCLの回答が、冒頭で述べた新製品だ。本体の周囲にラバー素材を配置し、ラフな使い方をされても容易には壊れないようにしたほか、インターネットにのめり込んで勉強がおろそかになったり、犯罪に巻き込まれたりしないよう、保護者による管理機能を強化した。
FCCLが6月12日に開催した発表会は、同社が富士通からレノボ傘下へ移って初の製品発表ということもあり、力が入っていた様子だったが、発表当日、Twitterをはじめとするソーシャルメディアに書き込まれた消費者の反応は芳しいものではなかった。
多くの消費者は、スペックと価格の釣り合いが取れていないことを指摘した。LHシリーズの市場想定価格は、基本モデルが7万円強(税別、以下同)、タブレットとしても使えるタッチ操作対応モデルが9万円強だが、CPUはCeleron 3865U、メモリは4GB、ストレージはSSD 128GB、液晶ディスプレイの解像度は1366×768ドットと、PCとしては最低限の内容だ。
これが例えばレノボであれば、同じ14型の「Ideapad 330S」が4万円台半ばから販売されている。しかもディスプレイはフルHD(1920×1080)となり、1~2万円程度上乗せすればより高性能なCore i3やi5も選択できる。この価格差があることで、本来4~5万円程度の性能の製品を、「小学生向けに設計した」という触れ込みで高く売ろうとしているのではないか、という批判を招いた。
もうひとつは、エントリークラスのPCを子どもに与えることによって、PCという製品自体のイメージを悪くしてしまうのではないかという懸念だ。FCCLでは、小学生の学習や日常的なインターネット利用を想定し、支障のない性能を確保していることを検証したとしている。確かに、最新のCeleronは決して非力なCPUではなく、一般的なオフィスの事務用途にも問題ない性能を備えている。
ただ、一時的に高い負荷がかかったときの操作レスポンスでは上位のCoreシリーズには及ばない。CeleronとCoreで要する処理時間の差が、時間的にはコンマ何秒といったわずかな違いであったとしても、それが積み重なっていくと、「このPCでどれだけ快適に作業ができるか」という体感的な評価は変わってくる。また、4GBというメモリ容量も、ブラウザで多くのタブを開いていくにはやや不安だ。
「Celeron・4GBだからそういうものだ」と理解しているユーザーが使う分には問題ない。しかし、現代の小学生は生まれたときから優れた情報機器に囲まれている。iPadやNintendo Switchが何のストレスもなく無尽蔵の楽しさを与えてくれるのに、PCは何かと待たされるし面倒くさいものだと思われてしまったら、子どもにとってのPCは、学校の宿題をするために「使わされる」デバイスという位置付けになりかねない。大人でも、PCは会社で仕事をするために仕方なく使う道具であって、自宅ではスマートフォンかタブレットしか使わない、PCのフタは長らく閉めたままという人は多い。子どもならなおさらだ。
もちろんFCCLとしては、カタログスペック以外の部分に注目してほしいということなのだろう。同社は富士通時代から教育機関向けに多くの納入実績があり、文教市場でのPCおよびWindowsタブレットでは、3分の2の市場シェアを獲得している。今回のLHシリーズには、そこで得てきたノウハウが惜しみなくつぎ込まれているという。
例えば、学校でのPCの扱われ方は、ある意味で業務用PCよりも過酷だ。投げる、落とす、ぶつけるは当たり前、汚したり水をこぼしたりも日常茶飯事という。仮に2年ほどで壊してしまうことを考えると、その分丈夫につくってあるこの製品なら、それだけでも十分元が取れる可能性もある。
また、子どもにPCの使い方をきちんと教え、管理できる親であれば、よりコストパフォーマンスの高い製品を選べば良いが、そもそもFCCLが狙っているのは、そのような――LHシリーズの発表日に不満の声を上げた――ITリテラシーが高い層ではなく、漫然とした不安をもちながらも子どもにはPCのスキルを身につけさせたいという消費者のようにもみえる。であれば、上のような批判の内容によって購買意欲が削がれることはないのだろう。
とはいえ、小学生向けPCという新しい市場をスムーズに開拓できるかというと、前途は多難なように思える。このような悪条件下でFCCLがLHシリーズを成功させるには、どのような要素が求められるのだろうか。(つづく)(BCN・日高 彰)