「素人集団」だからこそ挑戦、Ankerトップに聞く成長率720%の秘訣
モバイルバッテリや急速充電器を軸にオーディオ関連製品なども提供し、日本市場でビジネスが堅調に推移しているアンカー・ジャパン。2013年1月の設立から5年間で、約720%の成長率を達成した。直近では、「Anker」ブランドに加えてオーディオ関連製品で新ブランド「Soundcore」を立ち上げた。さらにビジネスを拡大していくわけだが、どのような策を講じるのか。「当社は偉大なる素人集団。だからこそ挑戦する」とアピールするアンカー・ジャパンの井戸義経代表取締役に、今後の戦略を聞いた。(BCN・佐相彰彦)
井戸 お客様の声にできるだけ応えてきた、というのが設立から徹底的に取り組んできたことです。当社は、オンラインを中心にビジネスを手がけてきたのですが、そのなかで直接お客様から評価をいただいた。当初は、「安いけど、どうせ中国メーカーだろ」という厳しい声も頂戴しました。このような声に対して、さらに品質を高めることを追求してきたからこそ、伸びたのではないかと自負しています。とくに、日本のオーディオ関連製品業界は、グローバルで比較すると大手メーカーが支配している、というかブランド力が高く、新興メーカーがつけ入る隙がないというのが正直なところです。ただ、「安かろう、悪かろう」という考えから、徐々にですが「いいものはいい」と理解してくれるようになった。「この値段で、この品質はいい」と、当社の製品を評価してくださるお客様が増えたということです。
――グローバルのなかで、とくに日本は大手メーカーの知名度が高いといえます。そのようななか、本社は日本市場をどう評価しているのですか。
井戸 品質に関して米国と日本の違いをみると、日本のほうが評価は厳しいということです。例えば、オンラインショップのAmazonに掲載されている評価レビューをみても、米国なら星が四つなのに日本は星が三つ。ですので、設立当初は本社から「日本での評価が低い」と指摘されていました。ですので、日本が高品質を求めていることを本社に訴え続けました。また、日本のお客様は一度気に入ってくれれば、ファンになってくれるということも伝えました。このような取り組みで、本社が認めて段々と日本に適した製品を開発してくれるようにもなったのです。もちろん、製品開発では日本の要望だけを聞くということは難しいのですが、日本の声を反映してくれる傾向は強くなりました。
――日本の声を反映した製品開発の具体的な例はありますか。
井戸 いろいろとあるのですが、例えば、急速充電器でヒューズが切れるという不具合が生じた時です。マルチUSBポートで、それぞれにヒューズが搭載されていたので、すぐにヒューズが切れてしまったのですが、一定期間を過ぎるとヒューズが復旧するように構造に変えました。これによって、お客様から高い評価を受けました。
――お客様の声を反映したからこそ評価が高まった、と。
井戸 その通りです。つくる側の一人よがりではなかったからこそ、お客様から認められるようになったと自負しています。
井戸 発表した際、家電量販店様は「非常に楽しみ」だと言ってくださいました。好意的なのは、これまでの当社とのパートナーシップを評価してくださっているからだと捉えています。新ブランドによって、これまで以上に家電量販店様とのパートナーシップを深めていけると確信しています。
――新ブランドに期待することは何ですか。
井戸 ここ1~2年で、家電量販店様が当社専用のコーナーを設けてくれるようになりました。現在、17か所でコーナーを展開しています。「実物を見ないと購入しない」「体験してみたい」というお客様も多いのが事実で、とくにオーディオ関連製品は、やはり実物を見たほうがイメージしやすいというお客様が多いように感じます。そのような声に応えるためにも、Ankerブランドとは独立したブランドとして、オーディオエリアにSoundcoreの専用コーナーを持てるようブランドを育てていきたいと考えています。そういう意味では、Soundcoreは家電量販店様での販売を強化したい製品ラインという位置づけになるのではないでしょうか。これによって、現在では売上比率が高く柱になっているバッテリと同程度に、オーディオ関連製品も柱に据えていきます。
――今夏に大阪、今冬をめどに東京で、それぞれ直営店もオープンするそうですが、これはどのような意味がありますか。
井戸 当社製品の“世界をみせる”というんですかね、もちろん販売はしますが、当社の製品で実現できることを伝えたり、イベントを開催したり、お客様からフィードバックをもらったりと、そのような拠点と位置づけています。最初は、期間限定の実験店舗として運営します。
井戸 日本法人は約30人です。本社のスタッフで日本市場に携わっている人員が10人程度、合わせて40人体制でビジネスを手がけています。ただ、新しいブランドを立ち上げたことに加えて、家電量販店様とのパートナーシップの深耕を踏まえれば、人員の増強が必要になってくると考えています。
――どのような人材を採用していくのですか。
井戸 当社のスタッフは他業界出身が多いんです。実は、私も金融出身です。「偉大なる素人集団」といえばいいのでしょうか(笑)。今後も、デジタル家電業界に固執しない人材を積極的に採用していきます。
――今後の市場拡大については、どのような見解をもっていますか。
井戸 バッテリとオーディオ関連製品は、今後も確実に伸びます。しかも、これまでは個人向け市場が中心でしたが、法人にもニーズが高まるとみています。ですので、法人のお客様に対しても販売のアプローチをかけていきたいと考えています。当社と家電量販店様との間にディストリビュータ様がパートナーになっているのですが、そのディストリビュータ様を通じて参入することを検討しています。
――将来的にあるべき姿は。
井戸 引き続き、お客様の声を反映し、もっと情報をベースに、しかも開発期間を短くして製品を市場投入していきます。ブランド力の確立に向けて、まだまだチャレンジしなければならないことが多いと考えています。これまで世の中になかった製品を創造するなど、“いい意味”でお客様の期待を裏切っていきたいですね。「外したね」「これはいいね」など、お客様の声をたくさん収集しながら、新しいテクノロジーと技術力で、今後もユニークな製品を提供していきます。
profile
アンカー・ジャパン
代表取締役
井戸義経(いど よしつね)
2002年に東京大学経済学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。顧客企業のM&Aや資本市場での調達を支援する業務に従事した後、米投資会社・TPGキャピタルにてプライベート・エクイティ投資に携わる。12年、モバイルバッテリや急速充電器、スマートフォンやタブレット端末の関連製品をグローバル展開しようとしていた、モバイルライフ・パートナーブランド「Anker」の創業者スティーブン・ヤンと出会い、日本事業の立ち上げを提案。13年、日本法人を設立、代表取締役に就任する。
日本は大手メーカーが支配している
――設立から5年で約720%の成長を遂げたわけですが、これまでを振り返ってください。井戸 お客様の声にできるだけ応えてきた、というのが設立から徹底的に取り組んできたことです。当社は、オンラインを中心にビジネスを手がけてきたのですが、そのなかで直接お客様から評価をいただいた。当初は、「安いけど、どうせ中国メーカーだろ」という厳しい声も頂戴しました。このような声に対して、さらに品質を高めることを追求してきたからこそ、伸びたのではないかと自負しています。とくに、日本のオーディオ関連製品業界は、グローバルで比較すると大手メーカーが支配している、というかブランド力が高く、新興メーカーがつけ入る隙がないというのが正直なところです。ただ、「安かろう、悪かろう」という考えから、徐々にですが「いいものはいい」と理解してくれるようになった。「この値段で、この品質はいい」と、当社の製品を評価してくださるお客様が増えたということです。
――グローバルのなかで、とくに日本は大手メーカーの知名度が高いといえます。そのようななか、本社は日本市場をどう評価しているのですか。
井戸 品質に関して米国と日本の違いをみると、日本のほうが評価は厳しいということです。例えば、オンラインショップのAmazonに掲載されている評価レビューをみても、米国なら星が四つなのに日本は星が三つ。ですので、設立当初は本社から「日本での評価が低い」と指摘されていました。ですので、日本が高品質を求めていることを本社に訴え続けました。また、日本のお客様は一度気に入ってくれれば、ファンになってくれるということも伝えました。このような取り組みで、本社が認めて段々と日本に適した製品を開発してくれるようにもなったのです。もちろん、製品開発では日本の要望だけを聞くということは難しいのですが、日本の声を反映してくれる傾向は強くなりました。
――日本の声を反映した製品開発の具体的な例はありますか。
井戸 いろいろとあるのですが、例えば、急速充電器でヒューズが切れるという不具合が生じた時です。マルチUSBポートで、それぞれにヒューズが搭載されていたので、すぐにヒューズが切れてしまったのですが、一定期間を過ぎるとヒューズが復旧するように構造に変えました。これによって、お客様から高い評価を受けました。
――お客様の声を反映したからこそ評価が高まった、と。
井戸 その通りです。つくる側の一人よがりではなかったからこそ、お客様から認められるようになったと自負しています。
新ブランドは好感触
――今年4月にオーディオ関連で新ブランドのSoundcoreを立ち上げましたが、反響はどうですか。井戸 発表した際、家電量販店様は「非常に楽しみ」だと言ってくださいました。好意的なのは、これまでの当社とのパートナーシップを評価してくださっているからだと捉えています。新ブランドによって、これまで以上に家電量販店様とのパートナーシップを深めていけると確信しています。
――新ブランドに期待することは何ですか。
井戸 ここ1~2年で、家電量販店様が当社専用のコーナーを設けてくれるようになりました。現在、17か所でコーナーを展開しています。「実物を見ないと購入しない」「体験してみたい」というお客様も多いのが事実で、とくにオーディオ関連製品は、やはり実物を見たほうがイメージしやすいというお客様が多いように感じます。そのような声に応えるためにも、Ankerブランドとは独立したブランドとして、オーディオエリアにSoundcoreの専用コーナーを持てるようブランドを育てていきたいと考えています。そういう意味では、Soundcoreは家電量販店様での販売を強化したい製品ラインという位置づけになるのではないでしょうか。これによって、現在では売上比率が高く柱になっているバッテリと同程度に、オーディオ関連製品も柱に据えていきます。
――今夏に大阪、今冬をめどに東京で、それぞれ直営店もオープンするそうですが、これはどのような意味がありますか。
井戸 当社製品の“世界をみせる”というんですかね、もちろん販売はしますが、当社の製品で実現できることを伝えたり、イベントを開催したり、お客様からフィードバックをもらったりと、そのような拠点と位置づけています。最初は、期間限定の実験店舗として運営します。
法人市場への参入も検討、今後もユニークな製品を提供する
――ところで現在、スタッフの人数はどのくらいですか。井戸 日本法人は約30人です。本社のスタッフで日本市場に携わっている人員が10人程度、合わせて40人体制でビジネスを手がけています。ただ、新しいブランドを立ち上げたことに加えて、家電量販店様とのパートナーシップの深耕を踏まえれば、人員の増強が必要になってくると考えています。
――どのような人材を採用していくのですか。
井戸 当社のスタッフは他業界出身が多いんです。実は、私も金融出身です。「偉大なる素人集団」といえばいいのでしょうか(笑)。今後も、デジタル家電業界に固執しない人材を積極的に採用していきます。
――今後の市場拡大については、どのような見解をもっていますか。
井戸 バッテリとオーディオ関連製品は、今後も確実に伸びます。しかも、これまでは個人向け市場が中心でしたが、法人にもニーズが高まるとみています。ですので、法人のお客様に対しても販売のアプローチをかけていきたいと考えています。当社と家電量販店様との間にディストリビュータ様がパートナーになっているのですが、そのディストリビュータ様を通じて参入することを検討しています。
――将来的にあるべき姿は。
井戸 引き続き、お客様の声を反映し、もっと情報をベースに、しかも開発期間を短くして製品を市場投入していきます。ブランド力の確立に向けて、まだまだチャレンジしなければならないことが多いと考えています。これまで世の中になかった製品を創造するなど、“いい意味”でお客様の期待を裏切っていきたいですね。「外したね」「これはいいね」など、お客様の声をたくさん収集しながら、新しいテクノロジーと技術力で、今後もユニークな製品を提供していきます。
profile
アンカー・ジャパン
代表取締役
井戸義経(いど よしつね)
2002年に東京大学経済学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。顧客企業のM&Aや資本市場での調達を支援する業務に従事した後、米投資会社・TPGキャピタルにてプライベート・エクイティ投資に携わる。12年、モバイルバッテリや急速充電器、スマートフォンやタブレット端末の関連製品をグローバル展開しようとしていた、モバイルライフ・パートナーブランド「Anker」の創業者スティーブン・ヤンと出会い、日本事業の立ち上げを提案。13年、日本法人を設立、代表取締役に就任する。