超高齢化社会に突入した日本では、これからヘルスケアの重要性がますます高まってくる。身体の衰えを気にかけるべきなのは、当事者だけではない。家族や隣人の支えと理解があってこそ、医療によるサポートは意味あるものになる。聴こえを補助する補聴器もその一例で、先入観ではなく正しい現状認識は誰にとっても必要だ。実は今、補聴器はテクノロジーの力で飛躍的にイメージを塗り替えつつある。
年齢分布を考えれば当然の結果なのだが、補聴器の使用率では各国と大きな差がある。欧米諸国が難聴者の30~40%が補聴器を使用しているのに対して、日本の使用率はわずか13.5%。また、補聴器の満足度でも他国が70~80%と高い水準であるのに対して、39%と半分程度の評価に留まっている。なぜこうした状況が発生しているのだろうか。
補聴器に対してネガティブなイメージが先行していることも要因だ。海外では聴こえの低下を補い、より活動的に生活するために着用する人が多いが、日本では生活に支障が出るのでやむなく装着するという人が多いという。「聴覚の衰えは実は40代後半からすでに始まっているが、日本では『補聴器は年齢を感じさせるものだとして、装着するのは恥ずかしい』という意識がまだまだ強い」(渋谷部長)。
また、人間の脳がすぐれているために、難聴の発覚が遅れてしまうという問題もある。「聞こえの低下によって耳から入ってきた音響情報がきちんと聞き取れていなくても、これまでの記憶や経験を頼りに文脈から脳が抜けている情報を補ってしまうため、なんとなく意味の推測や理解ができてしまう」。しかし、この状況が長く続くとそれだけ脳に負担がかかる。精神的エネルギーを使うことで疲れやすくなったり、ひいては別の病気の原因につながる可能性があったりとリスクは大きい。
見た目だけでも斬新だが、さらに進化しているのは中身だ。これまでの補聴器は技術の限界から騒がしい環境での聞き取りを向上する際に、主に正面の一方向の人にフォーカスして声や音を届けていた。しかし、これでは他の人の会話や横を通り過ぎる車の音など、別方向の音は入らない。
一方、「Opn」は11コアの高性能チップを内蔵しており、360°の音を分析し、バランスを整え、ノイズを除去する国際特許を得た「オープンサウンドナビゲーター」という機能で、うるさい環境でも健聴者の聞こえに近いリアルな360°からの音の世界を再現する。
ここで「Opn」の技術がいかに高度であるかということを示す例をあげてみたい。補聴器のノイズキャンセラー機能を考えたとき、使用者にとって必要な音とその聞き取りの妨げになる騒音といった不要な音を分離して聞きやすくする仕組みはノイズキャンセリングヘッドホンに近い。
しかし、決定的に異なるのは、ヘッドホンでは聞きたい音がケーブルを通して1方向から入ってくるのに対して、補聴器では聞きたい音や声が予想もしない方向から、しかも多くはノイズと完全に混じって、届くということだ。
補聴器で信号を届けるためには、まずこの混在した音のなかからノイズを取り除かなければならない。「Opn」は周囲の全方向から信号とノイズを選別するが、これは11コアの高性能チップを搭載するからこそできる繊細な作業だ。
「Opn」の根幹にあるのは“ブレインヒアリング”という考え方だ。「音や言葉は耳ではなく「脳」によって認識している。そもそも補聴器の命題とは会話の聞き取りのサポートにあるが、『Opn』は聞き取りのために割かれる脳のリソースを少なくするので、使用者は『会話を楽しむ』余裕が生まれる。全方位からの聞こえの実現で、周りにさらに楽しい会話があれば、すぐにそちらへ自在に注意を向けなおすことも可能になった。実生活では大切な会話は必ずしも自分の目前で語られるとは限らない」(渋谷氏)。
オーティコンの実験によると、同社の以前のモデルと比較して「Opn」は、聞くことで生じる脳の疲れやすさを20%軽減、会話の覚えやすさ(話を返すには相手の会話の内容を覚えておく必要がある)が20%向上、会話の理解力が30%向上したという結果が出ているそうだ。ただ音が聞こえるだけでなく、より楽に本来の自分らしさが発揮できれば生活やコミュニケーション全体の質が向上する。これこそ「Opn」が、補聴器として革新的といわれている本質だ。
このほか、「Opn」はインターネット接続に対応しており、IoT機器としてさまざまなデバイスやサービスと連携することができる。昨今、ヒアラブルというワードとともに音を媒介したソリューションが登場しているが、「Opn」はその最先端を走っている。「IoT機器として一度体験すると健聴者の方でも手放したくなくなるほど便利」と渋谷氏は語る。こうした飛躍的な進化がより広く認知されれば、聴こえに悩む人にとって補聴器は今よりポジティブな選択肢になるだろう。
日本の補聴器使用率は世界ワーストクラス
まず、前段として日本の補聴器をめぐる環境を紹介しておきたい。日本補聴器工業会とテクノエイド協会が発表している難聴者と補聴器ユーザーについての調査によると、2015年時点で日本の難聴者率は11.3%で、同じく高齢化が進む欧州諸国と比較してもトップクラスの数値だ。年齢分布を考えれば当然の結果なのだが、補聴器の使用率では各国と大きな差がある。欧米諸国が難聴者の30~40%が補聴器を使用しているのに対して、日本の使用率はわずか13.5%。また、補聴器の満足度でも他国が70~80%と高い水準であるのに対して、39%と半分程度の評価に留まっている。なぜこうした状況が発生しているのだろうか。
自分では認識しにくい難聴 昔ながらのイメージも根強い
今回、こうした疑問に、デンマークに本社をおく補聴器メーカーとして100年以上の歴史を誇るオーティコン補聴器のプロダクト・マーケティング部 渋谷桂子部長は「難聴は痛みを伴わない機能の低下ということもあり、自分自身ではなかなか気がつきにくいとされます」と話す。テレビを見るときの音量が大きい、話し声が大きくなる、といった無意識の変化を周囲から指摘されて発覚するケースは非常に多いそうだ。補聴器に対してネガティブなイメージが先行していることも要因だ。海外では聴こえの低下を補い、より活動的に生活するために着用する人が多いが、日本では生活に支障が出るのでやむなく装着するという人が多いという。「聴覚の衰えは実は40代後半からすでに始まっているが、日本では『補聴器は年齢を感じさせるものだとして、装着するのは恥ずかしい』という意識がまだまだ強い」(渋谷部長)。
また、人間の脳がすぐれているために、難聴の発覚が遅れてしまうという問題もある。「聞こえの低下によって耳から入ってきた音響情報がきちんと聞き取れていなくても、これまでの記憶や経験を頼りに文脈から脳が抜けている情報を補ってしまうため、なんとなく意味の推測や理解ができてしまう」。しかし、この状況が長く続くとそれだけ脳に負担がかかる。精神的エネルギーを使うことで疲れやすくなったり、ひいては別の病気の原因につながる可能性があったりとリスクは大きい。
脳の聞く働きをサポートするために開発されたオーティコンの「Opn」
ここまで補聴器が浸透しない理由を列挙してきたが、状況を打開するトピックもある。それは補聴器の飛躍的な進化だ。渋谷部長が紹介してくれたのはオーティコンの最新補聴器「Opn」。従来の補聴器のイメージからすると、デザインが洗練されていて、驚くほど小さくて軽い。本体はコードレスの左右分離型で、装着しても目立ちにくい。見た目だけでも斬新だが、さらに進化しているのは中身だ。これまでの補聴器は技術の限界から騒がしい環境での聞き取りを向上する際に、主に正面の一方向の人にフォーカスして声や音を届けていた。しかし、これでは他の人の会話や横を通り過ぎる車の音など、別方向の音は入らない。
一方、「Opn」は11コアの高性能チップを内蔵しており、360°の音を分析し、バランスを整え、ノイズを除去する国際特許を得た「オープンサウンドナビゲーター」という機能で、うるさい環境でも健聴者の聞こえに近いリアルな360°からの音の世界を再現する。
ここで「Opn」の技術がいかに高度であるかということを示す例をあげてみたい。補聴器のノイズキャンセラー機能を考えたとき、使用者にとって必要な音とその聞き取りの妨げになる騒音といった不要な音を分離して聞きやすくする仕組みはノイズキャンセリングヘッドホンに近い。
しかし、決定的に異なるのは、ヘッドホンでは聞きたい音がケーブルを通して1方向から入ってくるのに対して、補聴器では聞きたい音や声が予想もしない方向から、しかも多くはノイズと完全に混じって、届くということだ。
補聴器で信号を届けるためには、まずこの混在した音のなかからノイズを取り除かなければならない。「Opn」は周囲の全方向から信号とノイズを選別するが、これは11コアの高性能チップを搭載するからこそできる繊細な作業だ。
「Opn」の根幹にあるのは“ブレインヒアリング”という考え方だ。「音や言葉は耳ではなく「脳」によって認識している。そもそも補聴器の命題とは会話の聞き取りのサポートにあるが、『Opn』は聞き取りのために割かれる脳のリソースを少なくするので、使用者は『会話を楽しむ』余裕が生まれる。全方位からの聞こえの実現で、周りにさらに楽しい会話があれば、すぐにそちらへ自在に注意を向けなおすことも可能になった。実生活では大切な会話は必ずしも自分の目前で語られるとは限らない」(渋谷氏)。
オーティコンの実験によると、同社の以前のモデルと比較して「Opn」は、聞くことで生じる脳の疲れやすさを20%軽減、会話の覚えやすさ(話を返すには相手の会話の内容を覚えておく必要がある)が20%向上、会話の理解力が30%向上したという結果が出ているそうだ。ただ音が聞こえるだけでなく、より楽に本来の自分らしさが発揮できれば生活やコミュニケーション全体の質が向上する。これこそ「Opn」が、補聴器として革新的といわれている本質だ。
このほか、「Opn」はインターネット接続に対応しており、IoT機器としてさまざまなデバイスやサービスと連携することができる。昨今、ヒアラブルというワードとともに音を媒介したソリューションが登場しているが、「Opn」はその最先端を走っている。「IoT機器として一度体験すると健聴者の方でも手放したくなくなるほど便利」と渋谷氏は語る。こうした飛躍的な進化がより広く認知されれば、聴こえに悩む人にとって補聴器は今よりポジティブな選択肢になるだろう。