家電量販店のAI活用が進まない理由 システム導入以前の問題も
実店舗を運営する小売業は人手不足やEC化に伴う売上減を解消すべく、テクノロジーによる打開を模索しているが、いまひとつ進捗していない印象を受ける。課題に対する意識は高いはずなのに、なぜこのような状況が生まれているのか。東京ビッグサイトで4月4日~6日に開催されている「AI・人工知能 EXPO」(リード エグジビション ジャパン主催)で、そのヒントを探った。
ABEJAが提供しているのは「ABEJA Insight for Retail」というデータ収集からの課題発見、改善策の効果検証までを一気通貫してい行う顧客行動分析のパッケージだ。サービスは15年10月から稼働し、すでに規模の大小を問わず420店舗以上の店舗が導入している。
POS連携も可能で、取得できるデータは来客人数・買上率・購入点数・商品単価・来客属性・リピーター率・回遊動線・競合情報など多岐に及ぶ。ただデータを収集するだけでなく、施策効果の可視化や週次レポートの配信など、データ活用がしやすいプラットフォームを提供することが強みだという。
古い体質とはセミナーのテーマにもなっていた「経験と勘」を指す。これ自体は悪いわけではないが、例えば、エリアマネージャーがデータをもとに売り場を構築しても、すぐにフロアマネージャーが経験と勘で売り場をつくり変えてしまうという本末転倒な事例もあるという。
「AIはデータ収集ではなく仮説検証の仕組み。どちらのやり方が正しいにせよ、両方の仮説を検証して効果測定しないことには意味をなさない」と長谷氏。AIは運用当初から人の勘や経験を上回るわけではない。一定のデータの蓄積とディープラーニングを経て、高い精度に至る。こうした理解の不足も「勘と経験」のほうが信頼できると誤解する一因になっている。
しかし、最大の問題点はマーケティングストーリーがないことだという。現在の家電量販店のAI活用は仮説をもたず、システムがはじき出す数値の上げ下げだけに一喜一憂しており、本来の効果を発揮できていない。「AIは意思決定を簡単かつスピーディにできるようにする装置。最終的には人の業務をいかに変えるかが重要」と長谷氏は本質を説明する。
3月末に報道された動線分析のAI活用に関して、経済産業省が取りまとめているガイドラインについても聞いてみた。ABEJAはIoT利活用ガイドラインワークグループの一員でもあり、この件との関わりは深い。顧客の個人情報をいかに保護するかにフォーカスがあてられているが、長谷氏は「リテールのソリューションにとっては追い風になる」と捉えている。
「リピート分析であれば、個人を氏名で判別して再来店時に特定するのはNGだが、ある記号でラベル付けして特定する分には問題ない。そうした細かい規定が整えられれば、つくる側も使う側も安心してシステムを運用できる」。
ABEJAには顧客のマーケティングストーリーの構築をサポートするカスタマーサクセス部門があるそうだが、AIをうまく活用できるかは結局は人次第だ。行き詰まりを感じている小売業者は、システムではなく、運用体制や検証すべき項目こそ見直すべきかもしれない。(BCN・大蔵 大輔)
実店舗に求められる「勘と経験からの脱却」
「AI・人工知能 EXPO」は今回が2回目の開催だが、10時の開場直後から各ブースは大盛況。同分野の関心の高さがうかがえた。先月、流通業界向けの展示会「リテールテックJAPAN」が開催されたこともあり、リテールに的を絞ったソリューションは少なかったが、2012年に創業し、急成長を遂げているABEJAのセミナーで小売業のAI活用について、示唆に富んだ話を聞くことができた。テーマはずばり「勘と経験からの脱却」だ。ABEJAが提供しているのは「ABEJA Insight for Retail」というデータ収集からの課題発見、改善策の効果検証までを一気通貫してい行う顧客行動分析のパッケージだ。サービスは15年10月から稼働し、すでに規模の大小を問わず420店舗以上の店舗が導入している。
POS連携も可能で、取得できるデータは来客人数・買上率・購入点数・商品単価・来客属性・リピーター率・回遊動線・競合情報など多岐に及ぶ。ただデータを収集するだけでなく、施策効果の可視化や週次レポートの配信など、データ活用がしやすいプラットフォームを提供することが強みだという。
AI活用の理解が不十分 迷走する家電量販店の現場
いくつかの事例紹介があったが、家電量販店に関するものはなかったので、セミナー後に登壇していた長谷直達 Committerに疑問をぶつけてみた。長谷氏は「家電はEC化率がとくに高く、家電量販店側もAI活用は急務であるとの認識はある」と回答。一方で「古い体質や仮説の組み立てがうまくいっておらず、導入に苦戦している」と実情を語ってくれた。古い体質とはセミナーのテーマにもなっていた「経験と勘」を指す。これ自体は悪いわけではないが、例えば、エリアマネージャーがデータをもとに売り場を構築しても、すぐにフロアマネージャーが経験と勘で売り場をつくり変えてしまうという本末転倒な事例もあるという。
「AIはデータ収集ではなく仮説検証の仕組み。どちらのやり方が正しいにせよ、両方の仮説を検証して効果測定しないことには意味をなさない」と長谷氏。AIは運用当初から人の勘や経験を上回るわけではない。一定のデータの蓄積とディープラーニングを経て、高い精度に至る。こうした理解の不足も「勘と経験」のほうが信頼できると誤解する一因になっている。
しかし、最大の問題点はマーケティングストーリーがないことだという。現在の家電量販店のAI活用は仮説をもたず、システムがはじき出す数値の上げ下げだけに一喜一憂しており、本来の効果を発揮できていない。「AIは意思決定を簡単かつスピーディにできるようにする装置。最終的には人の業務をいかに変えるかが重要」と長谷氏は本質を説明する。
3月末に報道された動線分析のAI活用に関して、経済産業省が取りまとめているガイドラインについても聞いてみた。ABEJAはIoT利活用ガイドラインワークグループの一員でもあり、この件との関わりは深い。顧客の個人情報をいかに保護するかにフォーカスがあてられているが、長谷氏は「リテールのソリューションにとっては追い風になる」と捉えている。
「リピート分析であれば、個人を氏名で判別して再来店時に特定するのはNGだが、ある記号でラベル付けして特定する分には問題ない。そうした細かい規定が整えられれば、つくる側も使う側も安心してシステムを運用できる」。
ABEJAには顧客のマーケティングストーリーの構築をサポートするカスタマーサクセス部門があるそうだが、AIをうまく活用できるかは結局は人次第だ。行き詰まりを感じている小売業者は、システムではなく、運用体制や検証すべき項目こそ見直すべきかもしれない。(BCN・大蔵 大輔)