シャープのスマートフォンが好調だ。家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」のデータでは、2017年のAndroidスマートフォン市場で20.6%のシェアを獲得し1位に躍り出た。大手キャリア3社から発売されたフラグシップモデル「AQUOS R」がヒットしたほか、MVNOや家電量販店向けのSIMフリー機も好調。現在の市場環境をどのようにとらえ、成功につなげることができたのか、国内スマートフォン事業責任者の小林繁事業部長に聞いた。
取材/道越 一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト
文/日高 彰、写真/松嶋 優子
国内Androidスマホで年間首位、躍進導いた「AQUOS」ブランド戦略
シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 小林繁事業部長
小林 流れを変えたのは、17年夏モデルとして発売したAQUOS Rでした。まず手をつけたのはAQUOSとしてのリブランディングです。従来は各キャリア様ごとに製品が異なっていたので、お客様が口コミや広告などで「『AQUOS ○○』がほしい」と思っても、契約しているキャリアの違いのためにその製品が買えないといった問題がありました。AQUOS Rではブランドを統一し、「シャープのフラッグシップモデルはこれです」というメッセージに変えたんです。
道越 シャープの一押しスマートフォンという“顔”が見えるようになったと。
小林 もちろん、ただ名前を変えるだけでなく、その裏側では、AQUOSとして本当に大切なものは何かを考えました。かつてのメーカーには、プリインストールで何から何まで揃えるべきという考え方もありましたが、今は時代も変わり、「スマートフォンをどう使うか」という問いに対する答えは、すでにお客様がもっています。「LINEを使いたい」「あのゲームをやりたい」というように。そうなると、細かいアプリをメーカー側が揃えることはあまり重要ではなく、私たちが本当に担保しなければいけないのは、「お客様が使いたいアプリがいかに快適に動くか」の一点に尽きる、という考えに至りました。
シリーズ100万台のヒット機種になった「AQUOS R」
道越 かつての携帯電話に比べスマートフォンは差異化が難しいようにみえますが、リブランディング以降にあらためて力を入れたのはどの部分ですか。
小林 結果的に、ディスプレイが美しく、カメラ画質がよくて、パフォーマンスが優れているという、原点に回帰することになりました。例えば、AQUOS Rは倍速駆動のディスプレイを搭載していますので、同じアプリでも他社製品より気持ちよくお使いいただけます。逆に、細かいツールとかユーティリティアプリは、むしろやめていく方向にあります。その副産物として、検証期間が短くなりましたので、発売から2年間・最大2回のOSバージョンアップをお約束できるようになりました。
小林 鴻海の生産能力を活用できるようになったことは、コスト削減だけでなくシェア拡大にも効いています。内部では「スーパーマルチSKU戦略」と呼んでいますが、スタンダードモデルの「AQUOSsense」には、「AQUOS sense lite」や「AQUOS sense basic」といったバリエーションがあり、仕向け先によってソフトウェアやカラーなど非常にたくさんの細かい違いがあります。パッと見ただけでは同じように見える部品だけど、モデルによって違う部分がたくさんあるんですね。AQUOS senseは少量多品種ならぬ、多量多品種生産なんです。これだけ大量の部品や工程をちゃんと管理してつくるのは、従来の体制では難しく、工場に高い能力があるからこそ実現できたことです。
道越 今後の展開や目標について、お話しいただけることがあれば。
小林 日本の携帯電話市場で一番好調だったときは25%くらいのシェアを獲得していたわけですから、まだまだ満足はしていません。18年は、さらにお客様に喜んでいただける、関心をもっていただける製品を提供しながら、AQUOSブランドの認知を図り、AQUOSがどんなスマートフォンなのか、いわずともご理解いただけるような状態をつくることが目標ですね。
常に新たな競争軸を提供し、スマホへの関心を継続させることが重要と語る小林事業部長(左)
道越 日本では依然としてアップルが圧倒的な強さをもっており、他の海外メーカーも勢いを増しています。
小林 本音を申し上げれば、厳しい競争環境であることは間違いありません。ただ、私が本当に懸念しているのは、競合他社のことよりも、お客様がスマートフォンへの興味を失っていくことです。コモディティ商品の市場では、新しいものが出ても消費者の注目を集めることはありません。液晶倍速駆動でかつてみたこともないなめらかな表示を実現したり、パートナーAI「エモパー」のようなちょっと変わったことをやっていたりするのも、お客様に「今のスマートフォンはこんなにも進化しているんだ」と興味関心をもち続けていただくためです。他社のことを考えるよりも、新しい提案の軸を提供することのほうがずっと重要だと考えています。
取材/道越 一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト
文/日高 彰、写真/松嶋 優子
国内Androidスマホで年間首位、躍進導いた「AQUOS」ブランド戦略
シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 小林繁事業部長
ブランドを統一し本質を追求
道越 ここまでシェアが上がったのは久しぶりですね。躍進の理由をどう分析されていますか。小林 流れを変えたのは、17年夏モデルとして発売したAQUOS Rでした。まず手をつけたのはAQUOSとしてのリブランディングです。従来は各キャリア様ごとに製品が異なっていたので、お客様が口コミや広告などで「『AQUOS ○○』がほしい」と思っても、契約しているキャリアの違いのためにその製品が買えないといった問題がありました。AQUOS Rではブランドを統一し、「シャープのフラッグシップモデルはこれです」というメッセージに変えたんです。
道越 シャープの一押しスマートフォンという“顔”が見えるようになったと。
小林 もちろん、ただ名前を変えるだけでなく、その裏側では、AQUOSとして本当に大切なものは何かを考えました。かつてのメーカーには、プリインストールで何から何まで揃えるべきという考え方もありましたが、今は時代も変わり、「スマートフォンをどう使うか」という問いに対する答えは、すでにお客様がもっています。「LINEを使いたい」「あのゲームをやりたい」というように。そうなると、細かいアプリをメーカー側が揃えることはあまり重要ではなく、私たちが本当に担保しなければいけないのは、「お客様が使いたいアプリがいかに快適に動くか」の一点に尽きる、という考えに至りました。
シリーズ100万台のヒット機種になった「AQUOS R」
道越 かつての携帯電話に比べスマートフォンは差異化が難しいようにみえますが、リブランディング以降にあらためて力を入れたのはどの部分ですか。
小林 結果的に、ディスプレイが美しく、カメラ画質がよくて、パフォーマンスが優れているという、原点に回帰することになりました。例えば、AQUOS Rは倍速駆動のディスプレイを搭載していますので、同じアプリでも他社製品より気持ちよくお使いいただけます。逆に、細かいツールとかユーティリティアプリは、むしろやめていく方向にあります。その副産物として、検証期間が短くなりましたので、発売から2年間・最大2回のOSバージョンアップをお約束できるようになりました。
「多量多品種」生産でシェアを拡大 さらなるブランド認知を図る
道越 16年にシャープは鴻海(ホンハイ)の傘下となりましたが、そのことが影響している部分はありますか。小林 鴻海の生産能力を活用できるようになったことは、コスト削減だけでなくシェア拡大にも効いています。内部では「スーパーマルチSKU戦略」と呼んでいますが、スタンダードモデルの「AQUOSsense」には、「AQUOS sense lite」や「AQUOS sense basic」といったバリエーションがあり、仕向け先によってソフトウェアやカラーなど非常にたくさんの細かい違いがあります。パッと見ただけでは同じように見える部品だけど、モデルによって違う部分がたくさんあるんですね。AQUOS senseは少量多品種ならぬ、多量多品種生産なんです。これだけ大量の部品や工程をちゃんと管理してつくるのは、従来の体制では難しく、工場に高い能力があるからこそ実現できたことです。
道越 今後の展開や目標について、お話しいただけることがあれば。
小林 日本の携帯電話市場で一番好調だったときは25%くらいのシェアを獲得していたわけですから、まだまだ満足はしていません。18年は、さらにお客様に喜んでいただける、関心をもっていただける製品を提供しながら、AQUOSブランドの認知を図り、AQUOSがどんなスマートフォンなのか、いわずともご理解いただけるような状態をつくることが目標ですね。
常に新たな競争軸を提供し、スマホへの関心を継続させることが重要と語る小林事業部長(左)
道越 日本では依然としてアップルが圧倒的な強さをもっており、他の海外メーカーも勢いを増しています。
小林 本音を申し上げれば、厳しい競争環境であることは間違いありません。ただ、私が本当に懸念しているのは、競合他社のことよりも、お客様がスマートフォンへの興味を失っていくことです。コモディティ商品の市場では、新しいものが出ても消費者の注目を集めることはありません。液晶倍速駆動でかつてみたこともないなめらかな表示を実現したり、パートナーAI「エモパー」のようなちょっと変わったことをやっていたりするのも、お客様に「今のスマートフォンはこんなにも進化しているんだ」と興味関心をもち続けていただくためです。他社のことを考えるよりも、新しい提案の軸を提供することのほうがずっと重要だと考えています。
■プロフィール
小林繁
1973年生まれ。98年、シャープ入社。ホームネットワーク機器、国内外のモバイル機器の商品企画を担当し、2014年、AI・IoTの全社商品戦略を検討するイノベーション企画部長に就任。18年1月より現職で、国内スマートフォン事業を統括する。
小林繁
1973年生まれ。98年、シャープ入社。ホームネットワーク機器、国内外のモバイル機器の商品企画を担当し、2014年、AI・IoTの全社商品戦略を検討するイノベーション企画部長に就任。18年1月より現職で、国内スマートフォン事業を統括する。
◇取材を終えて
日本メーカーの存在感がどんどん薄くなってきたスマホ市場。そこで頭一つ抜けてきたのがシャープだ。アップルと比べれば物足りないが、いよいよ反撃開始といったところか。小林事業部長は、実はAIパートナー「エモパー」の仕掛け人でもある。ユーザーに必要な情報をタイミングよく話しかける、といったユニークなサービスは今後、差異化の強力な武器になっていくに違いない。(柳)
日本メーカーの存在感がどんどん薄くなってきたスマホ市場。そこで頭一つ抜けてきたのがシャープだ。アップルと比べれば物足りないが、いよいよ反撃開始といったところか。小林事業部長は、実はAIパートナー「エモパー」の仕掛け人でもある。ユーザーに必要な情報をタイミングよく話しかける、といったユニークなサービスは今後、差異化の強力な武器になっていくに違いない。(柳)
※『BCN RETAIL REVIEW』2018年4月号から転載