キヤノンがミラーレスで「Kiss」シリーズを発売する。これは一眼レフとコンパクトカメラで長年にわたりNo.1シェアを獲得している同社が、ミラーレスでも本気でNo.1を獲りにきていることを意味する。2月26日に発表した新製品「EOS Kiss M」の戦略と全国の家電量販店やECサイトのPOSデータを日次で集計している「BCNランキング」から、No.1の実現性を占ってみた。
キヤノンがミラーレスでNo.1を目指すと宣言
CMJは18年にミラーレスが一眼レフの販売台数を逆転すると試算
全国の家電量販店やECサイトのPOSデータを日次で集計している「BCNランキング」によると、キヤノンは17年1月1日~12月31日のメーカー別シェアで、レンズ一体型のコンパクトカメラのシェアが27.9%、レンズ交換型の一眼レフが61.1%。ともに年間No.1を獲得している。一方、ミラーレスでは21.3%で、27.7%のオリンパスに次ぐ2位となっている。
12年の市場参入からミラーレスでは一度も年間No.1に届いていないキヤノンだが、直近3年のデータを検証すると、着実にトップシェアに近づいていることが分かる。15年通年のシェアは13.5%で3位、16年は18.2%で2位。17年は10月と11月に連続して月間トップシェアを獲得し、通年では首位まで6.4ポイント差にまで迫る数字を残した。最後の一押しがあれば、年間トップを狙えるポジションにはつけている。
ミラーレスの販売台数シェア直近3年の推移
そして、その“最後の一押し”として発売する新製品が「EOS Kiss M」だ。一眼レフのエントリー機として圧倒的支持を得ている「Kiss」シリーズのブランド力を生かし、ミラーレス初心者の定番というポジションを狙う。
ミラーレス初の「Kiss」シリーズとして登場した「EOS Kiss M」
驚いたのは、エントリー機ながら最新の映像エンジン「DIGIC8」を搭載していること。一部では上位モデルに匹敵するパフォーマンスを発揮するスペックを備える。スマホを意識したであろうインターフェースやスマホ連携機能の充実も、現在のユーザーが求める声に徹底的に寄せてきたという印象で、十分に市場で“勝負できる”モデルに仕上がっている。
3月上旬に発売するオリンパスの「OLYMPUS PEN E-PL9」
次に「EOS Kiss M」の価格設定だ。ボディ単体で税別7万3500円前後、レンズキットで8万8500円~12万2500円前後という価格は、ミラーレスとしては決して安いわけではない。「DIGIC8」をはじめ、最先端テクノロジーを惜しみなく投入しており、価格以上の価値はあるのだが、エントリー向けということを考えると、いささか強気に思える。そもそも「EOS M」シリーズのエントリー向けは、17年10月に「EOS M100」を発売したばかり。「EOS Kiss M」は、本来はその一段上にカテゴライズしてしかるべきモデルだ。
これにはキヤノンが「EOS Kiss M」に表向きの「エントリー向け」というターゲット以外に裏ターゲットを設定しているのではないかという予測が立てられる。その論拠は、ボディに刻まれたロゴだ。一眼レフの「Kiss」シリーズはボディに目立つようにブランドロゴが刻まれているのに対して、「EOS Kiss M」には「EOS」のロゴしか見当たらない。
一眼レフの「EOS Kiss X9」には“Kiss”のロゴは刻まれているが、「EOS Kiss M」は「EOS」のロゴしかない
エントリー向けの代名詞である「Kiss」を購入するには抵抗はあるが、「EOS Kiss M」のスペックは魅力的、そう感じる中級者は多いはず。「Kiss」ブランドを冠しつつ、ロゴを入れていないのは、そうしたユーザーにも間口を広げるためなのかもしれない。実機を触った印象はとても好感触で、大ヒットを予感させる一方、ターゲットを広げた分、訴求メッセージがぼやけてしまうのではないかという懸念も抱いた。
キヤノンが目指すミラーレスの販売台数シェアの目標値は30%。ここ数年の実績からすると、現実的かつトップがとれる数値だ。CMJの坂田正弘社長が「ミラーレスにより注力していく。とくにエントリー層の支持獲得は最優先事項」と明言しており、「EOS Kiss M」の成功は現在のキヤノンにとって最重要ミッションとなる。18年のミラーレス市場のシェア争いは例年以上に激化しそうだが、まずは3月1日から開催されるカメラと写真映像の総合展示会「CP+2018」で、ユーザーが新製品をどのように受け止めるか、反応を見届けたい。(BCN・大蔵 大輔)
キヤノンがミラーレスでNo.1を目指すと宣言
シェアNo.1に着実に前進 「Kiss」のブランド力で最後の一押し
キヤノンマーケティングジャパン(CMJ)の調査によると、レンズ交換式カメラの市場規模は233万台を記録した2013年をピークに下降しているが、ことミラーレスに関しては16年を境に再び盛り返している。18年にはミラーレスが構成比で一眼レフを上回るのではないかと試算している。CMJは18年にミラーレスが一眼レフの販売台数を逆転すると試算
全国の家電量販店やECサイトのPOSデータを日次で集計している「BCNランキング」によると、キヤノンは17年1月1日~12月31日のメーカー別シェアで、レンズ一体型のコンパクトカメラのシェアが27.9%、レンズ交換型の一眼レフが61.1%。ともに年間No.1を獲得している。一方、ミラーレスでは21.3%で、27.7%のオリンパスに次ぐ2位となっている。
12年の市場参入からミラーレスでは一度も年間No.1に届いていないキヤノンだが、直近3年のデータを検証すると、着実にトップシェアに近づいていることが分かる。15年通年のシェアは13.5%で3位、16年は18.2%で2位。17年は10月と11月に連続して月間トップシェアを獲得し、通年では首位まで6.4ポイント差にまで迫る数字を残した。最後の一押しがあれば、年間トップを狙えるポジションにはつけている。
ミラーレスの販売台数シェア直近3年の推移
そして、その“最後の一押し”として発売する新製品が「EOS Kiss M」だ。一眼レフのエントリー機として圧倒的支持を得ている「Kiss」シリーズのブランド力を生かし、ミラーレス初心者の定番というポジションを狙う。
ミラーレス初の「Kiss」シリーズとして登場した「EOS Kiss M」
驚いたのは、エントリー機ながら最新の映像エンジン「DIGIC8」を搭載していること。一部では上位モデルに匹敵するパフォーマンスを発揮するスペックを備える。スマホを意識したであろうインターフェースやスマホ連携機能の充実も、現在のユーザーが求める声に徹底的に寄せてきたという印象で、十分に市場で“勝負できる”モデルに仕上がっている。
「エントリー向け」は表向き? ロゴ外しに透ける裏ターゲット
では、キヤノンの18年のミラーレスNo.1は手堅いかというと、そうは断言できない要因がいくつかある。まず、ミラーレスはカメラメーカー各社が注力する分野だ。とくにエントリー向けは激戦区で、「PEN」シリーズと「OM-D」シリーズを展開する王者オリンパスの得意領域でもある。「EOS Kiss M」は3月下旬の発売で、上旬には先行して「PEN」の最新モデル「OLYMPUS PEN E-PL9」が登場する予定。年間シェアNo.1のためには、まず春商戦で「PEN E-PL9」を制する必要がある。3月上旬に発売するオリンパスの「OLYMPUS PEN E-PL9」
次に「EOS Kiss M」の価格設定だ。ボディ単体で税別7万3500円前後、レンズキットで8万8500円~12万2500円前後という価格は、ミラーレスとしては決して安いわけではない。「DIGIC8」をはじめ、最先端テクノロジーを惜しみなく投入しており、価格以上の価値はあるのだが、エントリー向けということを考えると、いささか強気に思える。そもそも「EOS M」シリーズのエントリー向けは、17年10月に「EOS M100」を発売したばかり。「EOS Kiss M」は、本来はその一段上にカテゴライズしてしかるべきモデルだ。
これにはキヤノンが「EOS Kiss M」に表向きの「エントリー向け」というターゲット以外に裏ターゲットを設定しているのではないかという予測が立てられる。その論拠は、ボディに刻まれたロゴだ。一眼レフの「Kiss」シリーズはボディに目立つようにブランドロゴが刻まれているのに対して、「EOS Kiss M」には「EOS」のロゴしか見当たらない。
一眼レフの「EOS Kiss X9」には“Kiss”のロゴは刻まれているが、「EOS Kiss M」は「EOS」のロゴしかない
エントリー向けの代名詞である「Kiss」を購入するには抵抗はあるが、「EOS Kiss M」のスペックは魅力的、そう感じる中級者は多いはず。「Kiss」ブランドを冠しつつ、ロゴを入れていないのは、そうしたユーザーにも間口を広げるためなのかもしれない。実機を触った印象はとても好感触で、大ヒットを予感させる一方、ターゲットを広げた分、訴求メッセージがぼやけてしまうのではないかという懸念も抱いた。
キヤノンが目指すミラーレスの販売台数シェアの目標値は30%。ここ数年の実績からすると、現実的かつトップがとれる数値だ。CMJの坂田正弘社長が「ミラーレスにより注力していく。とくにエントリー層の支持獲得は最優先事項」と明言しており、「EOS Kiss M」の成功は現在のキヤノンにとって最重要ミッションとなる。18年のミラーレス市場のシェア争いは例年以上に激化しそうだが、まずは3月1日から開催されるカメラと写真映像の総合展示会「CP+2018」で、ユーザーが新製品をどのように受け止めるか、反応を見届けたい。(BCN・大蔵 大輔)