【日高彰の業界を斬る・1】 2月9日、昨年のスマートフォン販売台数でアジア首位とされるスマートフォンメーカー・OPPO(オッポ)が、日本進出第1弾製品となる「R11s」の販売を開始した。発売日時点で取り扱うのはビックカメラとヨドバシカメラで、税別価格は5万7980円。新興国市場で急速な成長を遂げた同社が、成熟市場でも今後存在感を示していくことができるのか、日本への進出はその試金石となる。
2月9日、日本国内でも販売が開始されたOPPOの「R11s」
その中でOPPOは2ケタ成長を続けており、17年の世界シェアはサムスン、アップル、ファーウェイに続く第4位。OPPOによると、17年7-9月にはアジア市場でナンバーワンのシェアを獲得したという。世界のスマホ市場で今最も勢いのあるメーカーのひとつと言って差し支えない。
各社の2016~17年のスマートフォン世界出荷台数(調査会社Strategy Analyticsによる)
OPPOは中国・広東歩歩高電子工業(BBK)が手がけるデジタルAV製品のブランドとしてスタートした。その後分社化し、BBKグループ内でオーディオプレーヤーや動画プレーヤーを開発・販売していたが、08年から携帯電話の分野にも進出し、現在はアジアを中心に世界約30カ国でスマートフォンを販売している。
なお、BBK傘下には、同じくアジアを中心に急成長したスマホメーカー「Vivo」があり、OPPOとはグループ内ライバルの兄弟会社となっている。Vivoも世界シェアで5位から6位につけており、両社を足したBBKグループ全体では、世界3位のファーウェイを抜く規模とみられる。日本の消費者には耳慣れないブランドばかりだが、中国のみならずアジア市場では圧倒的な存在感を誇っている。
日本では、OPPOブランドの高級オーディオプレーヤーを輸入販売する「OPPO Digital Japan」が13年に設立されていた。今回日本市場でスマホ事業を手がける「OPPO JAPAN」とはあくまで別会社だが、OPPO JAPANの取締役にはOPPO Digital Japanの河野謙三代表取締役が加わっている。OPPO JAPANの従業員は日本人が9割を占めているという。
R11sの特徴を説明するOPPO JAPANの河野謙三取締役
好評を得ているのが、内側カメラを利用した「自分撮り」機能で、顔の形や凹凸を細かく検出することで、自分の顔を美しく撮れるというもの。同様の美顔補正機能をもつアプリも数多く存在するが、同社では世界の膨大な美女・美男の写真を学習したデータベースを有しており、この情報を活用しつつ性別、年齢、表情や肌の状態などに応じた補正をかけることで、できるだけ自然な印象を残したまま顔を美しく見せられるのだという。
顔の特徴を検出し、自然な補正で美しく見せる
そのほか、顔をセンシングする機能を応用して本体のロックを解除する顔認証機能や、5分間の充電で2時間の通話が可能という独自の高速充電技術「VOOCフラッシュチャージ」などを備えるが、ウェブサイトやカタログ等では大部分がカメラ機能に関する紹介となっており、「人を最も美しく撮れるスマホ」というアピールに集中する戦略のようだ。
これは、現在の日本市場とも親和性の高い戦略と言えるだろう。携帯電話事業者、家電量販店ともオンライン販売の拡大に力を入れているが、まだまだ日本の消費者の多くは店頭で携帯電話を購入している。MVNOでは、自社のECサイトを通じたSIMカードと端末の販売比率が高いが、アーリーアダプター層の“格安SIM”需要は一巡しており、各MVNOとも今後の成長領域となるマジョリティ層の獲得には店頭がカギになると考えている。
OPPOにとって、日本市場の店頭における課題は、大きくわけて二つある。第一が、店頭における差別化だ。発売日に都内の店頭を見た限りでは、R11sの売り場からは「他機種とは一線を画すカメラ機能を備えている」といった強いメッセージを感じることはできず、多数あるSIMフリースマホのひとつという見え方だった。国内初進出のメーカーが量販店で独自の見せ方を展開するのは難しいかもしれないが、海外でのOPPO製品の陳列で見られる専用什器などがないのは寂しい印象だ。
海外では小規模な店にも専用什器が用意されていることが多い
第二は価格だ。約6万円という価格は、R11sのスペックから逆算すれば妥当なものだが、この機種のメインターゲットは、スペック表を読み解くスキルをもつ上級者ではなく、もっとカジュアルに撮影を楽しみたい女性や若者だと考えられる。日本市場では大手キャリアが最新のiPhoneを「実質3万円」程度で販売していることを考えると(その代償として実際には高額な通信料金を支払うことになるのだが)、ユーザーにとってR11sは割高な機種に見えるだろう。
この点、国内のSIMフリー市場で大きな成功を収めているファーウェイが、PシリーズやMateシリーズのハイエンドモデルで上級者の評価を集め、ブランド価値を高めつつ、2~3万円台の普及機種で販売ボリュームを稼ぐというサイクルを確立しているのとは対照的だ。
発売初日、2月9日の「ヨドバシカメラマルチメディアAkiba」のOPPOコーナー
日本市場でのビジネスはまだ立ち上げの時期とはいえ、アジアNo.1のブランドを不動のものにしたいOPPOとしては、値下げによる台数稼ぎは避けたいところ。カメラ機能にフォーカスしたメッセージ発信を一層強化し、「自撮り最強スマホ」という評価を得ることが急務となる。また、販売店やMVNOと連携し、ユーザーに割高感を感じさせない販売モデルを構築できるかも成功のカギになりそうだ。(BCN・日高 彰)
2月9日、日本国内でも販売が開始されたOPPOの「R11s」
世界で最も勢いのあるスマホメーカー
グローバルで拡大を続けてきたスマホ市場だが、世界全体の販売台数推移はこれまでの右肩上がりから、ほぼ横ばいのトレンドに変わりつつある。ハイエンドからエントリークラスまで幅広い機種のラインアップを揃え、新興国市場でも販売力のあるサムスンでさえ、2017年の台数は前年比2~3%増にとどまったとみられる。その中でOPPOは2ケタ成長を続けており、17年の世界シェアはサムスン、アップル、ファーウェイに続く第4位。OPPOによると、17年7-9月にはアジア市場でナンバーワンのシェアを獲得したという。世界のスマホ市場で今最も勢いのあるメーカーのひとつと言って差し支えない。
各社の2016~17年のスマートフォン世界出荷台数(調査会社Strategy Analyticsによる)
OPPOは中国・広東歩歩高電子工業(BBK)が手がけるデジタルAV製品のブランドとしてスタートした。その後分社化し、BBKグループ内でオーディオプレーヤーや動画プレーヤーを開発・販売していたが、08年から携帯電話の分野にも進出し、現在はアジアを中心に世界約30カ国でスマートフォンを販売している。
なお、BBK傘下には、同じくアジアを中心に急成長したスマホメーカー「Vivo」があり、OPPOとはグループ内ライバルの兄弟会社となっている。Vivoも世界シェアで5位から6位につけており、両社を足したBBKグループ全体では、世界3位のファーウェイを抜く規模とみられる。日本の消費者には耳慣れないブランドばかりだが、中国のみならずアジア市場では圧倒的な存在感を誇っている。
日本では、OPPOブランドの高級オーディオプレーヤーを輸入販売する「OPPO Digital Japan」が13年に設立されていた。今回日本市場でスマホ事業を手がける「OPPO JAPAN」とはあくまで別会社だが、OPPO JAPANの取締役にはOPPO Digital Japanの河野謙三代表取締役が加わっている。OPPO JAPANの従業員は日本人が9割を占めているという。
R11sの特徴を説明するOPPO JAPANの河野謙三取締役
ユーザーの顔に最適な補正をかける「カメラフォン」
OPPOが日本市場進出の機種として選んだ「R11s」は、6.01型・フルHD(1080×1920ドット)の有機ELディスプレイや2000万画素のカメラなどを搭載するフラグシップモデル。同社は近年、自社の製品を「カメラフォン」と呼んでカメラ性能を強調しているが、その中でも特に写真の美しさに注力した機種となっている。好評を得ているのが、内側カメラを利用した「自分撮り」機能で、顔の形や凹凸を細かく検出することで、自分の顔を美しく撮れるというもの。同様の美顔補正機能をもつアプリも数多く存在するが、同社では世界の膨大な美女・美男の写真を学習したデータベースを有しており、この情報を活用しつつ性別、年齢、表情や肌の状態などに応じた補正をかけることで、できるだけ自然な印象を残したまま顔を美しく見せられるのだという。
顔の特徴を検出し、自然な補正で美しく見せる
そのほか、顔をセンシングする機能を応用して本体のロックを解除する顔認証機能や、5分間の充電で2時間の通話が可能という独自の高速充電技術「VOOCフラッシュチャージ」などを備えるが、ウェブサイトやカタログ等では大部分がカメラ機能に関する紹介となっており、「人を最も美しく撮れるスマホ」というアピールに集中する戦略のようだ。
差別化と価格の課題を解決できるか
OPPO同様に中国で急成長を遂げたスマホメーカーとしては、日本には未進出だが「小米(シャオミ)」が有名だ。しかし、オンラインを主軸としたマーケティングで成功(現在はリアル店舗でも展開)した小米に対して、OPPOは逆に店頭を通じた価値の訴求でファンを獲得したと言われている。これは、現在の日本市場とも親和性の高い戦略と言えるだろう。携帯電話事業者、家電量販店ともオンライン販売の拡大に力を入れているが、まだまだ日本の消費者の多くは店頭で携帯電話を購入している。MVNOでは、自社のECサイトを通じたSIMカードと端末の販売比率が高いが、アーリーアダプター層の“格安SIM”需要は一巡しており、各MVNOとも今後の成長領域となるマジョリティ層の獲得には店頭がカギになると考えている。
OPPOにとって、日本市場の店頭における課題は、大きくわけて二つある。第一が、店頭における差別化だ。発売日に都内の店頭を見た限りでは、R11sの売り場からは「他機種とは一線を画すカメラ機能を備えている」といった強いメッセージを感じることはできず、多数あるSIMフリースマホのひとつという見え方だった。国内初進出のメーカーが量販店で独自の見せ方を展開するのは難しいかもしれないが、海外でのOPPO製品の陳列で見られる専用什器などがないのは寂しい印象だ。
海外では小規模な店にも専用什器が用意されていることが多い
第二は価格だ。約6万円という価格は、R11sのスペックから逆算すれば妥当なものだが、この機種のメインターゲットは、スペック表を読み解くスキルをもつ上級者ではなく、もっとカジュアルに撮影を楽しみたい女性や若者だと考えられる。日本市場では大手キャリアが最新のiPhoneを「実質3万円」程度で販売していることを考えると(その代償として実際には高額な通信料金を支払うことになるのだが)、ユーザーにとってR11sは割高な機種に見えるだろう。
この点、国内のSIMフリー市場で大きな成功を収めているファーウェイが、PシリーズやMateシリーズのハイエンドモデルで上級者の評価を集め、ブランド価値を高めつつ、2~3万円台の普及機種で販売ボリュームを稼ぐというサイクルを確立しているのとは対照的だ。
発売初日、2月9日の「ヨドバシカメラマルチメディアAkiba」のOPPOコーナー
日本市場でのビジネスはまだ立ち上げの時期とはいえ、アジアNo.1のブランドを不動のものにしたいOPPOとしては、値下げによる台数稼ぎは避けたいところ。カメラ機能にフォーカスしたメッセージ発信を一層強化し、「自撮り最強スマホ」という評価を得ることが急務となる。また、販売店やMVNOと連携し、ユーザーに割高感を感じさせない販売モデルを構築できるかも成功のカギになりそうだ。(BCN・日高 彰)