中古携帯端末市場が変革期を迎えている。認知度が低く、事業者と下取り製品の質が安定しない時代に終止符を打ち、市場を健全に発展させるため、2017年3月にリユースモバイル・ジャパン(RMJ)が立ち上がった。行政との連絡窓口や市場の総意をまとめる受け皿といった役割を担い、代表団体として業界が抱える課題の解決に挑む。大手キャリアによる下取り施策で硬直化しがちになる市場の裏側で、どのような変革が起きているのか。
取材・文/南雲 亮平、写真/ 大星 直輝
リユースモバイル・ジャパンの代表理事企業を務める携帯市場の粟津浜一代表取締役
スマホ購入の第3の選択肢狙い
リユース市場の健全な発展目指す
粟津 きっかけは16年4月に、総務省が「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を打ち出した時のことです。キャリアによる端末の「実質0円」販売がMVNO(仮想移動体通信事業者)市場の成長を妨げるおそれがあるとして、総務省は策定前に関係各社にヒアリングを行いました。
ただ、中古市場関係者からは、十分な意見が求められませんでした。業界がまとまっていなかったために「どこに聞けばいいのかわからない」という状況が一因です。そこでゲオ、TSUTAYA、ブックオフコーポレーション、日本テレホン、ネオリア、パシフィックネット、エコケー、携帯市場の8社が約1年かけて業界を代表する団体としてRMJを設立しました。
―― 団体の主な役割は、中古携帯端末を扱う業界と行政との窓口になることでしょうか。
粟津 それは事業の一部といえます。RMJの目的は、中古携帯通信端末市場の健全な発展と、消費者保護を目的とした安心・安全な中古携帯端末の流通の促進です。
フィーチャーフォンやスマートフォン、タブレット端末の中古品を扱う業者は売り上げを伸ばすため、取引台数を増やしていきたいと考えています。しかし、「通信制限のかかった端末の販売」や「個人情報のデータ消去」などの課題が、絶えず成長の足かせになっています。これまでは各事業者で個別に対応していましたが、世間の信用を得るには、業界が一丸となって根本的な課題を解決する必要があります。
―― 事業者の質を向上させることで、サービス品質の向上も期待できるというわけですね。
粟津 具体的な手段として、17年11月24日に「リユースモバイル機器取り扱いガイドライン」を策定し、RMJの会員企業に公開しました。中古携帯端末を取り扱ううえでの留意事項や実務面での指針を、大きく7項目にまとめています。
―― 販売員が現場で使えるような、消費者の安心につながる項目はありますか。
粟津 古くなった端末の売却を考えている消費者に対して、事業者が買い取る際の注意事項が役立ちます。各種ロックの有無や、端末代金の支払い状況といった確認すべき内容が記載してあり、不適切な製品の流通防止にもつながります。また、個人情報の流出防止を目的としたデータ消去方法や推奨するソフトウェアの紹介といった、リファビッシュに関する解説も、安心につながるでしょう。
また、事業者が消費者に中古携帯端末を販売する際の必須事項です。端末の状態を記載する方法や、実店舗・インターネットでの販売方法をまとめています。事業者が行うサポート内容や期間も定めました。浸透すれば、市場の健全化はさらに進むはずです。
粟津 最も取引が多く、成長の要ともいえるスマホを例にしましょう。伸び悩みの要因のひとつはMNO(移動体通信事業者)による下取り施策です。スマホの下取り・売却経験者は10人に1人の割合と見積もっていますが、そのうち売却はほとんどないことが中古品の品揃えの少なさに直結しています。
―― キャリアによって下取りされたスマホは、中古市場には出回らないのでしょうか。
粟津 そのような様子は見受けられないので、海外に転売しているのではないかという疑惑がつきまといます。総務省のガイドラインで、端末購入時の実質負担金が下取り金額を下回らなくなった影響で、一時は下取り額より中古の売却額が高くなりました。ところがキャリアは代替策として、2年で端末を返却すれば代金が半分になるという抱え込み戦略を展開し始めました。非常に悩ましい問題です。
―― 行政に働きかけながら、中立的な落としどころを探す必要がありそうですね。
粟津 総務省とのやり取りでは「MVNO市場を伸ばすためには、中古端末市場を伸ばさなければならない」といった話が出ています。行政との連携はもちろんですが、独自調査も必要になるかもしれません。
―― そもそも、MVNO市場が拡大するうえで、なぜ中古携帯端末市場が注目されるのでしょうか。
粟津 一般的には、SIMカードと通信端末をセットで販売しているイメージが強いかもしれません。でも、MVNOによってはSIMカードのみを販売しているケースや、端末台数よりも多くの枚数を販売している場合があります。SIMカードを単体で購入した消費者は、以前使っていた端末をそのまま使うか、SIMフリー端末をメーカーから購入するか、中古品を購入するか、いずれかの方法を選択しなければなりません。MVNOの利用者は、より低コストで通信サービスを利用したいと考え、端末の買い替えコストを抑える目的で中古携帯端末に注目するのです。
だからこそ、中古携帯端末市場の認知を広げて、信頼・安心される品質を確保できるようにすれば、コストパフォーマンスを重視するユーザーが中古端末とMVNOのSIMカードを組み合わせて使う機会が増えて、相乗効果で市場は拡大するでしょう。将来的には消費者が携帯通信端末を購入する際、キャリア、メーカーに続く第3の選択肢に中古端末が挙がる環境にしたいですね。
―― 活動を続けてきて、市場が変わってきた実感はありますか。
粟津 市場の健全化は確実に進んでいます。これからも団体の会員を増やし、日々の活動を通して、多様で低廉な通信サービスが安心・安全に消費者に提供できる社会の形成を目指していきます。
※『BCN RETAIL REVIEW』2018年2月号から先行掲載
※1月25日掲載・インタビュー第2弾に続く
取材・文/南雲 亮平、写真/ 大星 直輝
リユースモバイル・ジャパンの代表理事企業を務める携帯市場の粟津浜一代表取締役
スマホ購入の第3の選択肢狙い
リユース市場の健全な発展目指す
RMJ設立のきっかけ
―― 17年3月にRMJを設立した背景についてお聞かせください。粟津 きっかけは16年4月に、総務省が「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を打ち出した時のことです。キャリアによる端末の「実質0円」販売がMVNO(仮想移動体通信事業者)市場の成長を妨げるおそれがあるとして、総務省は策定前に関係各社にヒアリングを行いました。
ただ、中古市場関係者からは、十分な意見が求められませんでした。業界がまとまっていなかったために「どこに聞けばいいのかわからない」という状況が一因です。そこでゲオ、TSUTAYA、ブックオフコーポレーション、日本テレホン、ネオリア、パシフィックネット、エコケー、携帯市場の8社が約1年かけて業界を代表する団体としてRMJを設立しました。
―― 団体の主な役割は、中古携帯端末を扱う業界と行政との窓口になることでしょうか。
粟津 それは事業の一部といえます。RMJの目的は、中古携帯通信端末市場の健全な発展と、消費者保護を目的とした安心・安全な中古携帯端末の流通の促進です。
フィーチャーフォンやスマートフォン、タブレット端末の中古品を扱う業者は売り上げを伸ばすため、取引台数を増やしていきたいと考えています。しかし、「通信制限のかかった端末の販売」や「個人情報のデータ消去」などの課題が、絶えず成長の足かせになっています。これまでは各事業者で個別に対応していましたが、世間の信用を得るには、業界が一丸となって根本的な課題を解決する必要があります。
―― 事業者の質を向上させることで、サービス品質の向上も期待できるというわけですね。
粟津 具体的な手段として、17年11月24日に「リユースモバイル機器取り扱いガイドライン」を策定し、RMJの会員企業に公開しました。中古携帯端末を取り扱ううえでの留意事項や実務面での指針を、大きく7項目にまとめています。
―― 販売員が現場で使えるような、消費者の安心につながる項目はありますか。
粟津 古くなった端末の売却を考えている消費者に対して、事業者が買い取る際の注意事項が役立ちます。各種ロックの有無や、端末代金の支払い状況といった確認すべき内容が記載してあり、不適切な製品の流通防止にもつながります。また、個人情報の流出防止を目的としたデータ消去方法や推奨するソフトウェアの紹介といった、リファビッシュに関する解説も、安心につながるでしょう。
また、事業者が消費者に中古携帯端末を販売する際の必須事項です。端末の状態を記載する方法や、実店舗・インターネットでの販売方法をまとめています。事業者が行うサポート内容や期間も定めました。浸透すれば、市場の健全化はさらに進むはずです。
最大のライバルはMNO、「消費者の選択肢を増やす」
―― MM総研の調査では、16年度の中古携帯端末の販売台数は前年比98.8%と推計されています。伸び悩んでいるようにも見受けられますがいかがですか。粟津 最も取引が多く、成長の要ともいえるスマホを例にしましょう。伸び悩みの要因のひとつはMNO(移動体通信事業者)による下取り施策です。スマホの下取り・売却経験者は10人に1人の割合と見積もっていますが、そのうち売却はほとんどないことが中古品の品揃えの少なさに直結しています。
―― キャリアによって下取りされたスマホは、中古市場には出回らないのでしょうか。
粟津 そのような様子は見受けられないので、海外に転売しているのではないかという疑惑がつきまといます。総務省のガイドラインで、端末購入時の実質負担金が下取り金額を下回らなくなった影響で、一時は下取り額より中古の売却額が高くなりました。ところがキャリアは代替策として、2年で端末を返却すれば代金が半分になるという抱え込み戦略を展開し始めました。非常に悩ましい問題です。
―― 行政に働きかけながら、中立的な落としどころを探す必要がありそうですね。
粟津 総務省とのやり取りでは「MVNO市場を伸ばすためには、中古端末市場を伸ばさなければならない」といった話が出ています。行政との連携はもちろんですが、独自調査も必要になるかもしれません。
―― そもそも、MVNO市場が拡大するうえで、なぜ中古携帯端末市場が注目されるのでしょうか。
粟津 一般的には、SIMカードと通信端末をセットで販売しているイメージが強いかもしれません。でも、MVNOによってはSIMカードのみを販売しているケースや、端末台数よりも多くの枚数を販売している場合があります。SIMカードを単体で購入した消費者は、以前使っていた端末をそのまま使うか、SIMフリー端末をメーカーから購入するか、中古品を購入するか、いずれかの方法を選択しなければなりません。MVNOの利用者は、より低コストで通信サービスを利用したいと考え、端末の買い替えコストを抑える目的で中古携帯端末に注目するのです。
だからこそ、中古携帯端末市場の認知を広げて、信頼・安心される品質を確保できるようにすれば、コストパフォーマンスを重視するユーザーが中古端末とMVNOのSIMカードを組み合わせて使う機会が増えて、相乗効果で市場は拡大するでしょう。将来的には消費者が携帯通信端末を購入する際、キャリア、メーカーに続く第3の選択肢に中古端末が挙がる環境にしたいですね。
―― 活動を続けてきて、市場が変わってきた実感はありますか。
粟津 市場の健全化は確実に進んでいます。これからも団体の会員を増やし、日々の活動を通して、多様で低廉な通信サービスが安心・安全に消費者に提供できる社会の形成を目指していきます。
※『BCN RETAIL REVIEW』2018年2月号から先行掲載
※1月25日掲載・インタビュー第2弾に続く