WDHの新CEOが来日、聴覚ケアと補聴器の将来を語る

インタビュー

2018/01/10 18:00

 補聴器のリーディングカンパニーであるオーティコン補聴器を傘下に置くウィリアム・デマント・ホールディングス(WDH)のソーレン・ニールセン プレジデント兼CEOが1月9日に来日。メディアを招き、聴覚ケアの将来やオーティコンの今後の展望を説明した。


左からウィリアム・デマント・ホールディングス(WDH)のソーレン・ニールセン プレジデント兼CEO、
オーティコン日本法人の木下聡プレジデント

 デンマークに本社を構えるオーティコン補聴器は1904年創業の100年以上の歴史をもつ企業で、日本でも73年から40年以上にわたり、事業を展開している。ワールドワイドでトップクラスの補聴器の販売シェアを誇るだけでなく、業界唯一の聴覚基礎研究所を所有し、聴覚分野の発展をリードする存在だ。

 ニールセンCEOは95年にWDHに入社。2008年にオーティコンのプレジデント、15年にWHDのCOO兼CEO代理を歴任し、17年4月に同社のプレジデント兼CEOに就任した。

難聴は個人ではなく社会の問題

 内閣府が発表している平成29年版高齢社会白書によると、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は27.3%。先進国を中心に高齢化は共通の社会問題となっているものの、日本の数字はその中でも抜き出ている。しかし、こうした状況があるにも関わらず、日本の補聴器普及率は極めて低い。高齢者大国ではあるが、補聴器大国ではないのだ。

 ニールセンCEOは「難聴は個人の問題ではなく社会の問題」と警鐘を鳴らす。難聴はうつ病や認知症へとつながる要因であることはすでに科学的に証明されつつあり、難聴を放置することで引き起こされる医療コストの増加や孤立は、社会全体の損失につながっていくことになるからだ。
 

難聴がもたらす社会全体の損失に言及するソーレン・ニールセン プレジデント兼CEO

 日本でも15年に厚生労働省が発表した認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)に認知症の危険因子として「難聴」が盛り込まれたが、それでも、難聴リスクの啓発はまだまだ不十分だという。

 「補聴器を取り巻く環境は交通機関のインフラに似ている。個人だけではどうしようもない。社会の受け皿や仕組みが整ってこそ、ようやく享受できる」。ニールセンCEOは「5年~10年という期間が必要」と長期的な取り組みになることを前置きし、政府や行政と直接討議していく必要性を訴えた。

先進技術と長年の研究成果が補聴器を革新

 今、補聴器はテクノロジーの進化と長年の研究成果の蓄積によって革新の時期を迎えている。その象徴といえるのが、オーティコンが16年夏に発売した「Oticon Opn(オーティコン オープン)」だ。
 

ブレインヒアリングにもとづいて開発されたオーティコンの次世代補聴器「Oticon Opn」

 一般的な補聴器は、聞き取りが難しいとされる騒がしい場所では、一方向の音に絞って集音するが、「Opn」は周囲360度のそれぞれの音の特徴を捉えて最適化、正確に音の「方向」と「距離」を特定し、自然な聴こえ方を実現する。

 その根幹にあるのは、脳に負担をかけずに音を認識できるようにする「ブレインヒアリング」という考え方だ。ニールセンCEOは「難聴は“音が聴こえないこと”ではなく、“脳で理解できなくなること”が問題」と指摘する。

 「Opn」は単に音が聞き取りやすくなるだけでなく、インターネットに常時接続することで日常生活をより便利にするという特徴もある。さまざまなWebサービスを相互連携するクラウドサービス「IFTTT(イフト)」に対応し、「Opn」の動作に合わせて家電製品を操作したり、デジタルデバイスと連携して情報を受信したりすることができる。

 現在は、聴覚専門家との関係性を強化することで、手軽にフィッティングや相談ができるeヘルスのような仕組みの開発にも取り組んでいるという。
 

「Oticon Opn」が実現する補聴器の革新

 ここ数年、「ヒアラブルデバイス」という言葉を耳にする機会が増えたが、耳を起点とした先端技術は将来のライフスタイルを左右するキーテクノロジーだ。その先端を行く補聴器の進化は、日本における難聴リスクと補聴器の啓発に追い風となるかもしれない。(BCN・大蔵 大輔)