ポイントカードではわからない、売り場の「真の姿」を見るIoT(後編)
小売店の店頭では、接客や商品陳列のヒントとなる出来事が日々多数発生している。モノのインターネットともいわれる「IoT(Internet of Things)」は、人に依存せずに、そうした「今売り場で何が起きているのか」を把握するためにも活用されている。
▼前編から読む
https://www.bcnretail.com/market/detail/20171222_45674.html
綿密な計画を立てるよりも
まずは小さく始めること
新しい情報システムの導入にはコストがつきものだ。店内にセンサを張り巡らせて本格的にデータを収集するには、センサ機器の購入・取り付けに費用だけでなく時間や手間もかかる。IoTで売り場を分析するというコンセプトは理解できても、自社の店舗ですぐに導入するのは難しいと感じるユーザーは少なくないだろう。
活用方法としては、前出のように顧客属性の集計やマーケティング施策の効果測定など、販売員の感覚に頼っていた客層把握の定量化が中心だが、喜びや怒りなど顧客の感情を数値化できるため、接客の質を測るバロメーターとしての活用も提案されている。例えば、ある店員と接触した後の顧客は喜びの度合いが上がる傾向にある、特定の店舗にはネガティブな表情の顧客が多いといった傾向がわかれば、接客ノウハウの共有や売り場の改善に役立てることができる。
カメラ画像から顧客の属性と感情(喜び・悲しみ・怒り)を認識する「アロバビューコーロ」
顧客属性はリアルタイムに集計され、外部データとの連携も可能
提供元のアロバは、防犯カメラの録画システムを主力としており、ネットワークカメラを遠隔で管理・運用する技術に長けていたが、アロバビューコーロは同社の技術とマイクロソフトのクラウド「Azure」(アジュール)を組み合わせることで実現したシステムなのだという。Azure上には画像に含まれる人の顔や感情を認識するAI技術が用意されており、この技術を利用することで、低価格かつ簡単に使える分析システムを商品化できた。
また、技術的な理由に加えて、コストやスピードの面でもクラウドの活用にはメリットがある。システムの導入企業がサーバーやソフトウェアなどの資産を所有する場合、それらを数年にわたって使い続けることが前提となるので、導入時には投資対効果や運用方法に関してどうしても時間をかけて検討せざるを得ない。しかし、数あるIoT応用製品が自社の店舗運営に本当に役立つかは、実際に使ってみるまでわからない部分も多い。
クラウドサービスとして提供されている技術を使えば、まずは1店舗や特定の売り場だけといった限定的な範囲で効果を検証し、メリットがあると判断してから本格的な投資計画を策定すればいい。逆に効果がないとわかれば、その時点でサービスを解約するだけだ。小売店で利用されている販売管理システムや顧客管理システムは、設計から開発、運用開始までが年単位のプロジェクトになるが、IoTは対照的に、初めは小さく、しかしスピード感をもって取り組むことが重要だ。
一個一個の商品を識別する技術としては、無線ICタグ(RFID)が挙げられる。画像認識技術の発達により、カメラ画像だけでも商品の識別はある程度可能になりつつあるが、カゴに詰められたたくさんの商品を、カゴに入れたまま種類・個数とも正確に認識するには、すべての商品に固有のIDをもつタグを貼り付けておく必要がある。
インテルと協業するSMARTRACは、壁や天井に設置したリーダー(左)でタグを読み取り、
クラウドで集計するシステムを提供
RFIDの価格は、種類にもよるが1個10円前後。一昔前に比べ安くはなったが、すべての商品に貼り付けるにはまだ難しい価格帯だ。しかし、大日本印刷は2017年、2020年までに単価5円以下、2025年には単価1円の低価格タグを実現すると発表。経済産業省も、小売業従業員の負荷を軽減する切り札として「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定し、2025年までに大手コンビニエンスストアが扱う全商品にRFIDを付ける方針を掲げた。
過去に取り上げた通り、コンビニでのRFID対応は他の業態の小売店にも確実に波及効果をもたらすと考えられる。商品の動きが正確に追跡できるようになれば、会計の高速化や棚卸しの省力化だけでなく、欠品や過剰在庫といった問題のさらなる抑制も期待できる。
ジーユー(GU)は2017年、約半数の店舗にRFID対応のセルフレジ(東芝テック製)を導入し話題となった
また、顧客が店内でどのような商品を手に取り、最終的にそれが売れたかどうかも把握できるようになるだろう。そのとき、既に顧客の行動分析でノウハウを積み重ねている企業であれば、商品の動きを示すデータを元に、すぐに次の戦略づくりに動くこともできる。
顧客と商品の動きが完全に可視化される時代に備えて、自社の売り場にどこまでIoTを導入できるか。取り組みを始めるのに早すぎるということはない。
※『BCN RETAIL REVIEW』2018年1月号から転載
▼前編から読む
https://www.bcnretail.com/market/detail/20171222_45674.html
綿密な計画を立てるよりも
まずは小さく始めること
新しい情報システムの導入にはコストがつきものだ。店内にセンサを張り巡らせて本格的にデータを収集するには、センサ機器の購入・取り付けに費用だけでなく時間や手間もかかる。IoTで売り場を分析するというコンセプトは理解できても、自社の店舗ですぐに導入するのは難しいと感じるユーザーは少なくないだろう。
既設防犯カメラでも店舗分析が可能
カメラ画像から来店客を分析できるシステムのひとつ「アロバビューコーロ」は、カメラ1台あたりの月額費用を最小で1万円に抑えているのが特長。しかも、主要メーカー製ネットワークカメラの多くに対応しているため、既設の防犯カメラを流用して店内の分析を始めることもできる。活用方法としては、前出のように顧客属性の集計やマーケティング施策の効果測定など、販売員の感覚に頼っていた客層把握の定量化が中心だが、喜びや怒りなど顧客の感情を数値化できるため、接客の質を測るバロメーターとしての活用も提案されている。例えば、ある店員と接触した後の顧客は喜びの度合いが上がる傾向にある、特定の店舗にはネガティブな表情の顧客が多いといった傾向がわかれば、接客ノウハウの共有や売り場の改善に役立てることができる。
カメラ画像から顧客の属性と感情(喜び・悲しみ・怒り)を認識する「アロバビューコーロ」
顧客属性はリアルタイムに集計され、外部データとの連携も可能
提供元のアロバは、防犯カメラの録画システムを主力としており、ネットワークカメラを遠隔で管理・運用する技術に長けていたが、アロバビューコーロは同社の技術とマイクロソフトのクラウド「Azure」(アジュール)を組み合わせることで実現したシステムなのだという。Azure上には画像に含まれる人の顔や感情を認識するAI技術が用意されており、この技術を利用することで、低価格かつ簡単に使える分析システムを商品化できた。
IoTではクラウドの活用が前提
IoTの導入にあたっては、クラウドサービスを積極的に使用するケースが多い。数多くのカメラやセンサからデータを集約し、画像認識などさまざまな技術を用いて分析するには、各店舗やチェーン本部にサーバーやストレージを設置するよりも、クラウド側へデータをアップロードして処理するほうが都合が良い。また、技術的な理由に加えて、コストやスピードの面でもクラウドの活用にはメリットがある。システムの導入企業がサーバーやソフトウェアなどの資産を所有する場合、それらを数年にわたって使い続けることが前提となるので、導入時には投資対効果や運用方法に関してどうしても時間をかけて検討せざるを得ない。しかし、数あるIoT応用製品が自社の店舗運営に本当に役立つかは、実際に使ってみるまでわからない部分も多い。
クラウドサービスとして提供されている技術を使えば、まずは1店舗や特定の売り場だけといった限定的な範囲で効果を検証し、メリットがあると判断してから本格的な投資計画を策定すればいい。逆に効果がないとわかれば、その時点でサービスを解約するだけだ。小売店で利用されている販売管理システムや顧客管理システムは、設計から開発、運用開始までが年単位のプロジェクトになるが、IoTは対照的に、初めは小さく、しかしスピード感をもって取り組むことが重要だ。
国策としても進む無線ICタグに期待
IoT技術を生かした店舗向けのシステムでは、「顧客」の行動分析にフォーカスしたものが多いが、次の段階として期待されているのが、「商品」の動きを補足・分析するためシステムだ。一個一個の商品を識別する技術としては、無線ICタグ(RFID)が挙げられる。画像認識技術の発達により、カメラ画像だけでも商品の識別はある程度可能になりつつあるが、カゴに詰められたたくさんの商品を、カゴに入れたまま種類・個数とも正確に認識するには、すべての商品に固有のIDをもつタグを貼り付けておく必要がある。
インテルと協業するSMARTRACは、壁や天井に設置したリーダー(左)でタグを読み取り、
クラウドで集計するシステムを提供
RFIDの価格は、種類にもよるが1個10円前後。一昔前に比べ安くはなったが、すべての商品に貼り付けるにはまだ難しい価格帯だ。しかし、大日本印刷は2017年、2020年までに単価5円以下、2025年には単価1円の低価格タグを実現すると発表。経済産業省も、小売業従業員の負荷を軽減する切り札として「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定し、2025年までに大手コンビニエンスストアが扱う全商品にRFIDを付ける方針を掲げた。
過去に取り上げた通り、コンビニでのRFID対応は他の業態の小売店にも確実に波及効果をもたらすと考えられる。商品の動きが正確に追跡できるようになれば、会計の高速化や棚卸しの省力化だけでなく、欠品や過剰在庫といった問題のさらなる抑制も期待できる。
ジーユー(GU)は2017年、約半数の店舗にRFID対応のセルフレジ(東芝テック製)を導入し話題となった
また、顧客が店内でどのような商品を手に取り、最終的にそれが売れたかどうかも把握できるようになるだろう。そのとき、既に顧客の行動分析でノウハウを積み重ねている企業であれば、商品の動きを示すデータを元に、すぐに次の戦略づくりに動くこともできる。
顧客と商品の動きが完全に可視化される時代に備えて、自社の売り場にどこまでIoTを導入できるか。取り組みを始めるのに早すぎるということはない。
※『BCN RETAIL REVIEW』2018年1月号から転載