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70時間の業務削減効果を実感、導入企業に聞くクラウド会計ソフトのメリット

特集

2017/12/26 19:30

 BCNでは10月から11月にかけて、クラウド会計ソフトのユーザー層や、導入企業への事業貢献度を調査してきた。調査結果からは、中小企業を中心に「freee」「弥生会計オンライン」「MFクラウド会計」の3大サービスが人気を集めており、特に「簡単で誰でも使いやすい」ことがサービス選定の決め手になっていることがわかった。

 今回は、クラウド会計ソフトを活用中の企業に導入の経緯と効果、利用した際の満足度を聞くため、クラウド会計ソフト最大手のfreeeを今年導入したGMOペパボを訪ねた。同社は創業14年で、従業員数は340名(2017年11月末時点)。2008年にジャスダック(現JASDAQスタンダード)に上場しており、上場企業がfreeeを導入する初の事例となった。経理部門を率いる経営戦略部の名和俊輔部長によると、クラウド会計ソフトの導入で経理業務が大幅に効率化され、より付加価値の高い仕事に取り組む余裕が生まれたという。
 

GMOペパボ 執行役員
経営戦略部 部長 公認会計士 名和俊輔氏

システムの分断が無駄とミスを生む

 GMOペパボは、レンタルサーバー「ロリポップ!」、ネットショップ運営サービス「カラーミーショップ」、ハンドメイドマーケット「minne(ミンネ)」など、個人やスモールビジネスをターゲットとした数々のネットサービスを提供している。2003年にpaperboy&co.として創業し、翌年にグローバルメディアオンライン(現GMOインターネット)の傘下に入り、2014年より現社名となっている。2016年12月期の売上高は68億9021万円だ。

 名和部長は監査法人出身で、その後事業会社に転じて新規上場などを経験。2015年にGMOペパボの幹部から誘われ、経理マネージャーとして同社に加わった。当時の経理部門は、正社員は名和氏を含め2人、派遣社員が2人の4人体制。しかしGMOペパボでは、レンタルサーバーや、ネットショップ運営支援、ハンドメイドマーケットなど、10以上のネットサービスを運営しており、それぞれで会計処理が異なる部分がある。毎月の決算日前後は夜遅くまでの残業が常態化していた。

 また、毎年成長を続けている同社では、事業規模の拡大にともなって会議や報告などの定型業務がふくれあがっており、現場が力を注ぎたい開発、企画やプロモーションといった業務に支障をきたすようになっていた。各部署からは「人が足りない」「仕事が回らない」という声が聞かれ、危機感を覚えた佐藤健太郎社長は、全社に向けて「スーパーリセット」という号令を出し、一度すべての定型業務をストップし、本当に必要な業務は何かを洗い出すよう指示した。

 スーパーリセットの対象は全部署におよび、経理部門も例外ではなかった。しかし、名和部長は当初若干の困惑があったという。事業部門であれば、新たに投入した機能やサービスにおける失敗よりも、事業全体における収益の成長性が重要視される。しかし経理部門ではミスを起こさないことが大前提にある。「今月は100件のうち1件しか記帳ミスはありませんでしたので、良かったです」というわけにはいかず、全件正しく処理することが必要だ。名和部長は「ミスを起こさないために二重三重のチェック体制を敷いているのだが、『不要な業務はないか見直して欲しい』と言われると、そんなことできるのかなと不安な気持ちにちょっとはなりましたね(笑)」と振り返る。

 しかし、経理部門で誰がどんな業務を行っているか、すべてフローチャート形式で書き出してみたところ、一連の流れの中で、ほとんど同じような作業が重複している部分があり、システム面での工夫で業務を削減できる余地があることがわかってきた。「例えば、稟議と会計で別のシステムを使っているために、1件の売上に関して同じ内容の入力とチェックが複数回発生していました」(名和部長)。
 

「『スーパーリセット』は当たり前になっていた経理の定型業務を見直す
よいきっかけになった」と話す名和部長

 せっかく個別の事務作業をデジタル化しているのに、システムが別に存在することが原因で、ほとんど同じデータを再度手作業で入力している。今まで当たり前のように行っていた業務だが、このような無駄を削減できるツールがないかを探したところ、クラウド会計ソフトに出会った。「経理部門の業務に必要なツールが統合されているクラウド会計ソフトを使えば、稟議が承認されたという情報が会計側に自動的に伝わるとともに、承認のタイミングと同時に仕訳が起票されることで、作業が減り、ミスが起こる可能性もありません」(同)。多額のIT投資を行わなくても業務を効率化できそうだとわかり、導入に向けた検討を開始した。

導入で月70時間の業務を削減、今後は価値を生む仕事にシフト

 同社では複数のクラウド会計ソフトを検討し、名和部長自ら各社のサポート窓口に電話をかけるなどして情報を収集したが、最も迅速かつ具体的な反応を得られたfreeeを導入することに決定した。「窓口に電話で問い合わせると、すぐに営業担当者につないでもらうことができました。後日担当者から対面で直接説明を受けると、稟議、請求、会計といった一連の業務フローや関連データをひとつのシステムに一元化し、思い描いていたような効率化を実現できることがわかりました」(名和部長)。

 厳密には、問い合わせの時点では、従来の会計システムで使用している一部機能のうち、freee側には実装されていないものもあった。「その点を尋ねたところ、普通の営業担当の方だと『将来的には対応予定です』というように、はっきりした回答を避けることが多いと思いますが、freeeでは『この機能をこう使えば代替できます』、『今はできませんが何月までに対応します』といったように具体的な回答を聞くことができ、ここなら信頼できると考えました」(名和部長)。詳細な説明を求めたところ、開発担当者から直接、機能追加のロードマップについて回答を得られたこともあったという。
 

クラウド会計ソフトのサポート体制に関しては総じてユーザーの不満は小さい。
インタビュー中ではfreeeのサポート体制が評価されていたが、アンケート調査でも
電話・チャットのサポートに関してfreeeは高い満足度を得ていることが分かった

 freeeの導入は2017年12月期の期中だったため、現在は従来の会計システムとfreeeを並行稼働の状態。しかし名和部長の試算によると、freeeへの完全切り替え後には、現在5名で構成する経理部門の業務を、月間70時間削減できる見込みだという。1名あたり月に約2日分の労働時間削減に相当するような、非常に大きな導入効果が期待されている。

 仕事が楽になるだけでも大きな変化だが、名和部長は次のフェーズとして、経理部門が新たな付加価値を生み出せるチームに変えていきたいと考えている。業務フローの見直しで空いた時間を、これまでできなかった非定型業務に充てていく方針だ。「経理は非常に大事な仕事ですが、いわゆる“作業”については将来的にITの進化ですべて自動化され、なくなると思っています。一方、経理は会社で発生したすべてのことを数値という形で定量的に把握している部門です。過去に何が起きたかを知ることで、会社が新たな付加価値を出すためにどの方向へ進めばいいかを示す、ピンを立てていくような仕事をしていきたいと考えています」(名和部長)

 例えば、今行っているのがサービスごとの生産性の分析だ。各サービスが1時間あたりいくらの収益を生み出しているかを数値化すると、会社としてそこに経営資源をどれだけ投入すべきかを明確化できる。投資フェーズのサービスであれば多くの人員を割り当て、逆に回収フェーズのサービスではできるだけコストを抑える。新たなサービスを立ち上げるときは、単に売上高やユーザー数を見るのではなく、何年後までにここまで生産性を高めるといった計画の立て方が可能になる。

一段階上の成長へと導くクラウド会計ソフト

 ウェブの世界で創業し、まだ14年と若いGMOペパボは、現場のアイデアや創造性を武器に成長してきた、ネットベンチャーらしい企業だ。名和部長も「この勢いが当社の強みであり、間接部門がそれをつぶしてはいけない」と強調する一方、「勢いだけで実績がついてくるフェーズはいいが、さらに一段階成長しようとしたときに、数字をベースとしたバランス感覚も必要になってくる」と指摘。現在同社は東証一部への市場変更を目指しているが、freeeのアカウントを事業部門にも発行し、メンバーが所属部署以外にも、部門単位での数字も見られるようにしている。会社がどれだけの価値を世の中に提供できるかという意識を、全社で高めていくためという。

 これまでのキャリアの中でさまざまな会社の経理部門を知る名和部長だが、経理業務に関して「スーパーリセット」のような抜本的な改革を実行できたケースは、あまりないのではないかという。経理の大幅効率化を実現したクラウド会計ソフトへの今後の期待を聞くと「こういう機能がほしい、という個別の要望はありますが、おそらく私がイメージできる範囲は今までの会計ソフトの延長線上です。それよりも、本当に価値のある仕事ができる、私たちでは想像もつかないような世界を作っていってほしいと思っています」とのコメント。業務ソフトの話題で「想像もつかない世界」といった言葉が聞かれることは珍しく、印象的だった。
 

インタビュー中では業務を抜本的に改善できる新たなサービス・機能が求められていたが、
この点でもfreeeの満足度は高く、市場での高評価につながっていることがうかがえる

 本シリーズ最終回となる次回は、アドバイザーとしてクラウド会計ソフトの導入を支援している会計事務所に、中小企業の経営にとってのクラウド会計の意義を聞く。