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ポイントカードではわからない、売り場の「真の姿」を見るIoT(前編)

売るヒント

2017/12/22 18:00

 「あのお客さんは先週も来たな。購入を検討しているに違いない」「この棚のまわりに突然女性客が増えた。商品がSNSで話題にでもなったのか」――小売店の店頭では、接客や商品陳列のヒントとなる出来事が日々多数発生している。常に高い意識をもって売り場に目を光らせている販売員なら、このような売り上げアップのチャンスを見逃すことはないかもしれない。

 しかし、働き手の不足でノウハウ継承が難しい現代においては、特定の優秀な人材に頼らなくても、「今売り場で何が起きているのか」を知ることができる仕組みが求められている。小売店が抱えるこのような課題の特効薬となる可能性を秘めているのが、昨今よく耳にするテクノロジーの「IoT(Internet of Things)」だ。
 

「AI店員」は人減らしではない

 書店に置かれたディスプレイに、店員を模したキャラクターが表示されている。来店客が画面を見ると、キャラクターは「今のあなたはワクワクした気分ですね。あなたに最適な1冊はこれです」と話し、アガサ・クリスティ作、エルキュール・ポアロシリーズの『スタイルズ荘の怪事件』を薦めてきた――。

 これは、出版流通大手のトーハンが、2017年に都内の書店に導入した「AI書店員」の実証実験。AI書店員が登場するディスプレイにはカメラが取り付けられており、撮影した画像から顧客の年代・性別・表情を読み取り、そのときの顧客の気分にぴったりの「おすすめの1冊」を紹介してくれるというものだ。
 

顧客の属性や表情に応じて書籍をおすすめする「AI書店員」システム(ブックファースト新宿店)

 AI書店員という名称からは、書店員を人工知能で置き換えるもののような印象を受けるかもしれない。しかし、このシステムでは事前に人がおすすめするルールを決定しており、ごく限られた作品の中から選書しているので、本物の書店員の働きにはほど遠い。

 システムを開発したsMedioによると、AI書店員で核となっているのは、人の顔を認識し、年齢・性別や感情を識別する技術。顔認識技術は防犯や入退管理などのセキュリティ用途で導入が広がっているが、同社はこの技術の開発目的として、セキュリティだけでなく小売店の業績向上につながるシステムの実現を挙げている。顧客の属性や動きのデータを収集することで、売り場や品揃えの改善に役立てようというものだ。

ポイントカードでは売り場の状況は見えない

 このように、データを分析して顧客や店舗の動向を正しく把握しようというマーケティングツールが、近年、数多く提案されている。カギになっているのは、カメラやセンサをネットワークで結び、データをクラウド上に吸い上げて分析するシステム。PCなどの情報機器に加え、センサなどの“もの”をインターネットにつなげる「IoT」技術を活用すれば、店舗の収益や顧客満足度を改善できるという触れ込みだ。

 大手小売業者からは、「当社ではPOSやポイントプログラムなど、昔から数々の施策を通じてデータの収集・分析に取り組んでいる。ITベンダーは、IoTという流行のキーワードを掲げて、余計なシステムを売り込もうとしているだけではないか」という声があがるかもしれない。

 とりわけ、家電量販業界ではポイント還元制度が顧客に深く浸透しており、他の商品を扱う小売業に比べてポイントカードの所有・利用率は高い。顧客がいつ、どこで、どんな買い物をしてきたかは、長年にわたり膨大なデータが蓄積されており、本部のマーケティング担当者は顧客の志向や購買サイクルを正確に分析できているに違いない。

 しかし、POSやポイントカードから得られるデータには限界がある。当然といえば当然のことだが、この仕組みで収集できるのは、買い物をした顧客の行動だけだ。来店して売り場を見てまわり、何も買わずに店を出て行った顧客の情報は含まれていない。コンビニエンスストアや食品スーパーに比べ、買わずに帰る顧客の比率が高い家電量販業では、顧客が「なぜ買わなかったのか」を分析することも重要と考えられるが、分析の材料となる顧客の行動は、ほとんどの店では現場の販売員による“肌感覚”でしかつかめていない。

 IoTのメリットはまさに、このポイントカードだけではわからない顧客の行動を、人の手に頼ることなく定量的に把握することができるという点にある。

IoTの導入で、買い物をしなかった顧客を含めより多くの行動データを収集できる

キャンペーンの効果もすぐに一目瞭然

 2007年に米国で創業したリテールネクストは、センサのデータから顧客の行動を集計する、店舗内分析ツールの専業ベンダーだ。同社が提供している「RetailNext」では、カメラの映像や、Wi-FiやBluetoothの電波、赤外線センサ、POSレジなどさまざまな経路から得られるデータを集約・分析し、店内で顧客がどのような行動を取った結果、購買につながったのか、あるいはつながらなかったのかを明らかにする。

 RetailNextの分析結果として得られるのは、来店客の年代や性別、新規/リピーターの比率、店舗前の通行量に対する入店率、店舗内での動線や売り場ごとの滞在時間、レジ待ち時間、最終的な購買内容など多岐にわたる。これによって、店内で実施した施策に対する顧客の関心や売り上げ・利益への貢献度を、顧客属性ごとにチェックするといったことも可能になる。
 

店舗のパフォーマンスを示すさまざまな指標をリアルタイムで得られる「RetailNext」
 

顧客が集中するエリアを可視化できる「キネティックマップ」

 例えば、シニア層向けにキャンペーンを実施したが、想定する年齢層からの売り上げが思うように伸びない場合、そもそもシニア層が来店していないのか、来店したがシニア向けの商品や施策に気付いていないのか、商品を熱心に見ているが購買につながっていないのかで、実施すべき改善策がまったく異なるのは明らかだ。次の戦略を立てるための正確な情報を集められることが、店舗におけるIoT導入の一番の意義といえるだろう。

*後編は2018年1月4日(木)に掲載予定です

※『BCN RETAIL REVIEW』2018年1月号から転載