ドン・キホーテがリテールテックに参入する―― 衝撃の発表があったのは、8月16日に開催された2017年6月期の決算説明会だった。宣言したのは、ドンキホーテホールディングス(ドンキホーテHD)の大原孝治 社長兼CEOだ。
創業から28期連続で増収増益を達成し、国内の小売業売上高ランキングではついにベスト10入り。ユニー・ファミリーマートホールディングスと業務・資本提携し、流通企業の大同連合構想を掲げる。業界のキーパーソンになりつつある大原社長は次世代の店舗、そして将来の流通業界をどう捉えているのか。
取材・文/大蔵 大輔、写真/長谷川 博一
8月にリテールテック事業に参入すると電撃発表したドンキホーテHDの大原孝治 社長兼CEO
大原 自社でやるか、他社と組むかはプロセスなので重要ではありません。要は理想とする店舗がつくれるかどうかです。その理想というのが、僕の言葉で言うと「DoT」。「IoT(モノのインターネット化)」ではなく「DoT(モノのデジタル化)」です。
――「IoT」と「DoT」の違いとは。
大原 インターネットとリアルには、もはや境界はありません。スマホを見ている人はインターネットにアクセスしているわけですが、誰も「インターネットを見ているんだ」とは意識しませんよね。「自分はスマホをいじっている」と思っている。
起床してスマホを開いて、電車に乗ってまたスマホを開く。現実→スマホ→現実→スマホという世界ですが、その間を仕切る線はなくなりつつあります。そのシームレス化するライフスタイルを表現するために「DoT」という言葉を使っています。
―― 大原社長が思い描く次世代店舗のイメージ映像を拝見しました。顧客は来店時にスマホで店舗の情報を受け取り、店内でもスマホを片手に売り場を回遊していましたが、それが「DoT」を具現化した姿になるのでしょうか。
大原 その通りです。入店=ログイン、退店=ログアウトという考え方で、スマホを所有していることを前提にした店舗づくりをします。しかし、残念ながら現時点ではそういったソリューションはありません。ドン・キホーテがリテールテックに参入するのは、誰もやっていないから自分たちでやるしかないということなんです。
ドンキの次世代店舗の根幹にあるのは「IoT」ではなく「DoT」
―― リテールテクノロジーの開発はユニー・ファミマと構想している大同連合とも関連してくるのですか。
大原 表裏一体といえます。先方と会うと、いつもそういう話ばかりしていますね。
―― 大原社長は社内でもデジタル化を推進していますね。会議にはチャットを採用しているとか。
大原 会議だけではありません。今は商談もチャットです。最終的な原価を決める重要な場面だけ対面するようにしています。人が空間移動するのを減らすためというのもありますが、デジタルを利用することで全部がデータベース(DB)に集約されるメリットがあるからです。
インプットを強化すれば、アウトプットの精度を高めることができます。もちろん情報にはムダなものと有益なものがありますが、今後はそれをAIで分別していけるようになると考えています。
大原 ICタグによる管理は考えていません。なぜなら、ICタグは現在の商品DBが正確であることが前提になるからです。現在の商品DBは情報量が不足しているというのが、僕の持論です。商品DBが使えないのならICタグを使う必要はありません。
ドン・キホーテで考えているのは画像認識です。商品DBに画像を取り込み、JANコードと紐づけて商品を読み取っていく手段をとります。ICタグはすぐに導入できるというメリットはありますが、それでは商品DBの投資が遅れてしまいます。目先のことに捉われた発想では足元をすくわれかねません。
それに、デジタルの時代において商品の画像データを持っていることのメリットは大きいのです。ECで展開するときや、デジタルチラシを作成するときにも応用できます。構想している流通企業の大同連合でも情報のネットワークを構築して、メーカーの商品を仕入れれば、合わせて画像が支給される仕組みを相互活用できるように整えていくつもりです。
―― 新しいテクノロジーやソリューションの開発には時間がかかると思いますが、どれくらいの期間で実現していくのですか。ロードマップを教えてください。
大原 まず、2018年を目処に店舗のITソリューションと消費者のデジタルマインドを統合していくためのデジタルラボの設立を計画中です。ここで考えていくのは、お客さまと直接の接点となるサービスのデジタル化です。オペレーションの基幹システムは社内のシステム部で考えます。
もちろん双方は不可分で「こういうサービスがほしいね」となったときには必ず「それなら、こういうシステムが必要だよ」となる。両者を有機的に結合させていくのが、プロジェクトマネージャーである僕の仕事になります。
2018年を目処にデジタルラボの設立を計画しているという
―― ここまで変化に貪欲なのはなぜですか。
大原 危機感があります。5年後には、シリコンバレーのIT企業が乗り込んできて日本の流通企業の大株主になっているかもしれない。それに脅威を感じて、変わる側にいる以上はチャンスです。
現場は毎日変わり続ける、経営陣は3年後、5年後を見据えて変わっていく。重要なのは、このコンビネーションだと思います。数十年先の展望までは見通せませんが、中期的にはリアルとデジタルの融合は避けられない。そろそろ流通企業もその流れを受け入れてもよい時期ではないですか。
創業から28期連続で増収増益を達成し、国内の小売業売上高ランキングではついにベスト10入り。ユニー・ファミリーマートホールディングスと業務・資本提携し、流通企業の大同連合構想を掲げる。業界のキーパーソンになりつつある大原社長は次世代の店舗、そして将来の流通業界をどう捉えているのか。
取材・文/大蔵 大輔、写真/長谷川 博一
8月にリテールテック事業に参入すると電撃発表したドンキホーテHDの大原孝治 社長兼CEO
ドンキ・ファミマ連合とも表裏一体 大原社長が思い描く次世代店舗
―― 8月16日の決算説明会でリテールテックへの参入を発表しました。これは自社単独で一から開発していくのですか。それとも、ノウハウをもつ他社と協業するのでしょうか。大原 自社でやるか、他社と組むかはプロセスなので重要ではありません。要は理想とする店舗がつくれるかどうかです。その理想というのが、僕の言葉で言うと「DoT」。「IoT(モノのインターネット化)」ではなく「DoT(モノのデジタル化)」です。
――「IoT」と「DoT」の違いとは。
大原 インターネットとリアルには、もはや境界はありません。スマホを見ている人はインターネットにアクセスしているわけですが、誰も「インターネットを見ているんだ」とは意識しませんよね。「自分はスマホをいじっている」と思っている。
起床してスマホを開いて、電車に乗ってまたスマホを開く。現実→スマホ→現実→スマホという世界ですが、その間を仕切る線はなくなりつつあります。そのシームレス化するライフスタイルを表現するために「DoT」という言葉を使っています。
―― 大原社長が思い描く次世代店舗のイメージ映像を拝見しました。顧客は来店時にスマホで店舗の情報を受け取り、店内でもスマホを片手に売り場を回遊していましたが、それが「DoT」を具現化した姿になるのでしょうか。
大原 その通りです。入店=ログイン、退店=ログアウトという考え方で、スマホを所有していることを前提にした店舗づくりをします。しかし、残念ながら現時点ではそういったソリューションはありません。ドン・キホーテがリテールテックに参入するのは、誰もやっていないから自分たちでやるしかないということなんです。
ドンキの次世代店舗の根幹にあるのは「IoT」ではなく「DoT」
―― リテールテクノロジーの開発はユニー・ファミマと構想している大同連合とも関連してくるのですか。
大原 表裏一体といえます。先方と会うと、いつもそういう話ばかりしていますね。
―― 大原社長は社内でもデジタル化を推進していますね。会議にはチャットを採用しているとか。
大原 会議だけではありません。今は商談もチャットです。最終的な原価を決める重要な場面だけ対面するようにしています。人が空間移動するのを減らすためというのもありますが、デジタルを利用することで全部がデータベース(DB)に集約されるメリットがあるからです。
インプットを強化すれば、アウトプットの精度を高めることができます。もちろん情報にはムダなものと有益なものがありますが、今後はそれをAIで分別していけるようになると考えています。
社長肝入りのデジタルラボ構想 次世代店舗開発の拠点に
―― 商品を個別に識別するRFIDがコンビニを中心に検討されています。ドン・キホーテでも導入の可能性はありますか。大原 ICタグによる管理は考えていません。なぜなら、ICタグは現在の商品DBが正確であることが前提になるからです。現在の商品DBは情報量が不足しているというのが、僕の持論です。商品DBが使えないのならICタグを使う必要はありません。
ドン・キホーテで考えているのは画像認識です。商品DBに画像を取り込み、JANコードと紐づけて商品を読み取っていく手段をとります。ICタグはすぐに導入できるというメリットはありますが、それでは商品DBの投資が遅れてしまいます。目先のことに捉われた発想では足元をすくわれかねません。
それに、デジタルの時代において商品の画像データを持っていることのメリットは大きいのです。ECで展開するときや、デジタルチラシを作成するときにも応用できます。構想している流通企業の大同連合でも情報のネットワークを構築して、メーカーの商品を仕入れれば、合わせて画像が支給される仕組みを相互活用できるように整えていくつもりです。
―― 新しいテクノロジーやソリューションの開発には時間がかかると思いますが、どれくらいの期間で実現していくのですか。ロードマップを教えてください。
大原 まず、2018年を目処に店舗のITソリューションと消費者のデジタルマインドを統合していくためのデジタルラボの設立を計画中です。ここで考えていくのは、お客さまと直接の接点となるサービスのデジタル化です。オペレーションの基幹システムは社内のシステム部で考えます。
もちろん双方は不可分で「こういうサービスがほしいね」となったときには必ず「それなら、こういうシステムが必要だよ」となる。両者を有機的に結合させていくのが、プロジェクトマネージャーである僕の仕事になります。
2018年を目処にデジタルラボの設立を計画しているという
―― ここまで変化に貪欲なのはなぜですか。
大原 危機感があります。5年後には、シリコンバレーのIT企業が乗り込んできて日本の流通企業の大株主になっているかもしれない。それに脅威を感じて、変わる側にいる以上はチャンスです。
現場は毎日変わり続ける、経営陣は3年後、5年後を見据えて変わっていく。重要なのは、このコンビネーションだと思います。数十年先の展望までは見通せませんが、中期的にはリアルとデジタルの融合は避けられない。そろそろ流通企業もその流れを受け入れてもよい時期ではないですか。