3強が戦うクラウド会計ソフト市場(2) 「使いやすさ」が経営を変える
今、会計ソフト市場では「クラウド会計ソフトで企業経営が変わる」「業績アップのためにクラウド会計の導入を」といった宣伝文句を目にすることが多い。しかし、経理業務に用いるツールのひとつに過ぎない会計ソフトの切り替えが、企業経営自体に好影響を与えたり、業績の向上につながったりするものだろうか。
BCNでは、10月に発表した記事「3強が戦うクラウド会計ソフト市場(1) 導入ユーザーの動向を徹底調査」で実施した調査に引き続き、クラウド会計ソフトの事業貢献度をアンケート調査した。
対象は、クラウド会計ソフトを導入している300名未満の企業・団体に勤める従業員・職員および個人事業主。ウェブアンケート形式で調査を実施し、256名からの回答を得た。
実に約4割のユーザーが、クラウド会計ソフトの導入後に売上高が増加したと回答している。もちろん、業績はさまざまな要素に左右されるものなので、クラウド会計ソフトだけで売上アップを実現できると考えるのは早計だが、好業績の中小企業とクラウド会計のユーザー層に一定の重なりがあることは想像できる。
では、ユーザーはそもそも何を期待してクラウド会計ソフトを選んだのか。導入の動機について尋ねたところ、以下のような結果が得られた。
クラウド会計ソフト導入のきっかけとして多かった回答は、1位「誰でも簡単に利用できると思ったから」、2位「アップデートなどの対応がいらないから」、3位「業務時間の削減ができると思ったから」、4位「自動でデータのバックアップができるから」だった。
1位と3位の回答からは、既存の会計ソフトは取り扱いが難しく、それを使用する業務に余分な時間を取られていると感じるユーザーが多いことが伺える。また、2位と4位は、会計ソフトのシステム運用の課題に関した回答で、ここはまさに、従来のパッケージ販売型のソフトからクラウド会計ソフトに切り替えることで解決できる部分と言えるだろう。
また、前回の調査で、特に導入シェアが大きかった「freee」「弥生会計オンライン」「MFクラウド会計」のユーザーを抽出して集計してみると、前回調査でシェア1位、2位を獲得したfreeeと弥生会計オンラインのユーザーが、「簡単に利用できる」点を特に重視していることがわかった。従業員数別で集計すると、「簡単に利用できる」ことを求めるユーザーは、従業員5名未満で際立って多くなっている。
特に最大手のfreeeでは、収入・支出の科目や金額を入力すれば、あとは自動で借方・貸方に分けた複式簿記記帳を行える点を、同社サービス独自の特徴として強く打ち出している。会計の初学者にとって理解のハードルが高い複式簿記をマスターしなくても、決算書や青色申告書類に必要な複式簿記が可能という点が、特に創業間もない企業や個人事業主に支持されていると考えられる。
また、パッケージ型の会計ソフトに対し、クラウド会計ソフトの最大のメリットと言えるのが、銀行口座の入出金やクレジットカードの利用明細を取得し、入力作業を自動化できることだ。手動入力の作業を減らせるので、経理担当者の業務負荷だけでなく、ミスも削減することが可能だ。
先の質問への回答では、従業員数50名以上の事業所では「業務時間の削減ができると思ったから」という回答が、「簡単に利用できる」ことよりも大きくなっている。従業員や取引先が増えるに従って、経理担当者の生産性を高めたいという業務効率化のニーズが顕在化するのだと考えられる。またサービス別の集計で見ると、サンプル数が50以下であるため統計としてはあくまで参考値だが、MFクラウド会計のユーザーは業務効率化に関する期待がより強いことがわかった。
クラウド会計ソフト導入時の動機を尋ねた質問に対し、実際に利用している現在の評価を聞いた上の質問でも、やはり「誰でも使いやすい点」がトップの回答となっており、サービス別に見てもfreeeのユーザー、弥生会計オンラインのユーザーで、それぞれ「使いやすい」という回答が大きくなっている。クラウド会計ソフトを導入したユーザーは、おおむね期待通りの効果を得られたと感じているようだ。
また、主要3サービス以外のクラウド会計ソフトを導入したユーザーからは、回答のトップ3内に「誰でも使いやすい点」が入らなかった。このことからも、使いやすさとサービスシェアの間には強い相関があることがうかがえる。
今回の調査では、クラウド会計ソフトを導入した事業所で、経理担当者がより注力したい/してほしい業務についてもアンケートを行っており、得られた回答は以下のような結果だった。
より注力したい/してほしい業務として挙げられた中では、「売上等の数字をもとにした経営分析」「事業計画や経営計画の策定」の二つが同率トップだった。前者は現状の正確な把握による課題の発見と解決、後者は事業を継続的に発展させるための将来に向けた取り組みと言えるだろう。いずれも経営・管理層にとってはコア中のコア業務と言えるもので、それがここに挙がってくるということからは、従来は定型業務に必要以上の時間を取られていたと考えるユーザーがいかに多いかがわかる。また、それらに続いて「業務フロー・定型業務の見直しや効率化」という回答も多く、クラウド会計ソフトの導入が仕事のやり方を見直す契機になっている様子もうかがえる。
この設問においても、各サービスごとにユーザー特性の違いが出る結果となった。freeeの場合、「業務フロー・定型業務の見直しや効率化」が他社よりも多く、扱いやすい業務ツールを得たことで、仕事をもっと効率化したうえで、将来に向けた「事業計画や経営計画の策定」により力を入れたいというユーザーが多いことがわかる。一方、導入時に業務効率化への期待が強かったMFクラウド会計では、財務や統制に意識が向いている点が興味深い。
本記事冒頭の質問で、クラウド会計ソフト導入後に売上高がアップした、と答えたユーザーに、その増加率を聞いてみたところ、11%以上の大きな成長を遂げたという回答が3割を超えた。また、サンプル数が小さいので参考ではあるが、増加率11%以上のユーザー比率が最も大きいのはfreeeだった。
今回の調査からは、簡単で誰でも使いやすいツールであることがクラウド会計ソフト選定の決め手となることがわかった。ユーザビリティの高い製品の導入によって業務を効率化し、「事業計画や経営計画の策定」という成長のための取り組みにより注力できるようになることから、業績アップがもたらされるようだ。
クラウド会計ソフト市場を調査する本シリーズの次回では、クラウド会計ソフト導入企業へのインタビューも交えながら、導入ユーザーの満足度を探ってみたい。
BCNでは、10月に発表した記事「3強が戦うクラウド会計ソフト市場(1) 導入ユーザーの動向を徹底調査」で実施した調査に引き続き、クラウド会計ソフトの事業貢献度をアンケート調査した。
対象は、クラウド会計ソフトを導入している300名未満の企業・団体に勤める従業員・職員および個人事業主。ウェブアンケート形式で調査を実施し、256名からの回答を得た。
「クラウド会計ソフトは簡単」との見方が大
クラウド会計ソフトの導入が、本当にビジネスに良い影響を与えるのか。まず、この疑問を単刀直入に聞いたところ、次のような結果となった。実に約4割のユーザーが、クラウド会計ソフトの導入後に売上高が増加したと回答している。もちろん、業績はさまざまな要素に左右されるものなので、クラウド会計ソフトだけで売上アップを実現できると考えるのは早計だが、好業績の中小企業とクラウド会計のユーザー層に一定の重なりがあることは想像できる。
では、ユーザーはそもそも何を期待してクラウド会計ソフトを選んだのか。導入の動機について尋ねたところ、以下のような結果が得られた。
クラウド会計ソフト導入のきっかけとして多かった回答は、1位「誰でも簡単に利用できると思ったから」、2位「アップデートなどの対応がいらないから」、3位「業務時間の削減ができると思ったから」、4位「自動でデータのバックアップができるから」だった。
1位と3位の回答からは、既存の会計ソフトは取り扱いが難しく、それを使用する業務に余分な時間を取られていると感じるユーザーが多いことが伺える。また、2位と4位は、会計ソフトのシステム運用の課題に関した回答で、ここはまさに、従来のパッケージ販売型のソフトからクラウド会計ソフトに切り替えることで解決できる部分と言えるだろう。
また、前回の調査で、特に導入シェアが大きかった「freee」「弥生会計オンライン」「MFクラウド会計」のユーザーを抽出して集計してみると、前回調査でシェア1位、2位を獲得したfreeeと弥生会計オンラインのユーザーが、「簡単に利用できる」点を特に重視していることがわかった。従業員数別で集計すると、「簡単に利用できる」ことを求めるユーザーは、従業員5名未満で際立って多くなっている。
使いやすさは小規模事業所で特に切実なニーズ
小規模事業所では、経営者や管理部門の責任者が経理を兼務していることが多く、必ずしも専門的な会計知識を有するユーザーばかりではないほか、知識があっても人的余裕のなさから多く業務に忙殺されているケースが少なくない。「簡単に使いたい」というユーザーの期待に応えることができると見られるサービスが、結果として大きなシェアを獲得しているようだ。特に最大手のfreeeでは、収入・支出の科目や金額を入力すれば、あとは自動で借方・貸方に分けた複式簿記記帳を行える点を、同社サービス独自の特徴として強く打ち出している。会計の初学者にとって理解のハードルが高い複式簿記をマスターしなくても、決算書や青色申告書類に必要な複式簿記が可能という点が、特に創業間もない企業や個人事業主に支持されていると考えられる。
また、パッケージ型の会計ソフトに対し、クラウド会計ソフトの最大のメリットと言えるのが、銀行口座の入出金やクレジットカードの利用明細を取得し、入力作業を自動化できることだ。手動入力の作業を減らせるので、経理担当者の業務負荷だけでなく、ミスも削減することが可能だ。
先の質問への回答では、従業員数50名以上の事業所では「業務時間の削減ができると思ったから」という回答が、「簡単に利用できる」ことよりも大きくなっている。従業員や取引先が増えるに従って、経理担当者の生産性を高めたいという業務効率化のニーズが顕在化するのだと考えられる。またサービス別の集計で見ると、サンプル数が50以下であるため統計としてはあくまで参考値だが、MFクラウド会計のユーザーは業務効率化に関する期待がより強いことがわかった。
クラウド会計ソフト導入時の動機を尋ねた質問に対し、実際に利用している現在の評価を聞いた上の質問でも、やはり「誰でも使いやすい点」がトップの回答となっており、サービス別に見てもfreeeのユーザー、弥生会計オンラインのユーザーで、それぞれ「使いやすい」という回答が大きくなっている。クラウド会計ソフトを導入したユーザーは、おおむね期待通りの効果を得られたと感じているようだ。
また、主要3サービス以外のクラウド会計ソフトを導入したユーザーからは、回答のトップ3内に「誰でも使いやすい点」が入らなかった。このことからも、使いやすさとサービスシェアの間には強い相関があることがうかがえる。
なぜ、クラウド会計ソフトで業績がアップするのか
簡単に使えて経理作業が楽になるだけでも、クラウド会計ソフトの導入にはメリットがある。事務作業に割く時間を減らすことができれば、経営者や管理部門の担当者が、企業の価値を高めるための仕事にあてる時間を増やせるだろう。また、記帳の自動化が進めば、会社の財務状況をより正確かつリアルタイムに把握できるようになるので、課題の発見や、その解決に向けた意思決定がスピーディになる。企業経営という視点では、このような部分がクラウド会計ソフトを導入する本質的な意味と言える。今回の調査では、クラウド会計ソフトを導入した事業所で、経理担当者がより注力したい/してほしい業務についてもアンケートを行っており、得られた回答は以下のような結果だった。
より注力したい/してほしい業務として挙げられた中では、「売上等の数字をもとにした経営分析」「事業計画や経営計画の策定」の二つが同率トップだった。前者は現状の正確な把握による課題の発見と解決、後者は事業を継続的に発展させるための将来に向けた取り組みと言えるだろう。いずれも経営・管理層にとってはコア中のコア業務と言えるもので、それがここに挙がってくるということからは、従来は定型業務に必要以上の時間を取られていたと考えるユーザーがいかに多いかがわかる。また、それらに続いて「業務フロー・定型業務の見直しや効率化」という回答も多く、クラウド会計ソフトの導入が仕事のやり方を見直す契機になっている様子もうかがえる。
この設問においても、各サービスごとにユーザー特性の違いが出る結果となった。freeeの場合、「業務フロー・定型業務の見直しや効率化」が他社よりも多く、扱いやすい業務ツールを得たことで、仕事をもっと効率化したうえで、将来に向けた「事業計画や経営計画の策定」により力を入れたいというユーザーが多いことがわかる。一方、導入時に業務効率化への期待が強かったMFクラウド会計では、財務や統制に意識が向いている点が興味深い。
本記事冒頭の質問で、クラウド会計ソフト導入後に売上高がアップした、と答えたユーザーに、その増加率を聞いてみたところ、11%以上の大きな成長を遂げたという回答が3割を超えた。また、サンプル数が小さいので参考ではあるが、増加率11%以上のユーザー比率が最も大きいのはfreeeだった。
今回の調査からは、簡単で誰でも使いやすいツールであることがクラウド会計ソフト選定の決め手となることがわかった。ユーザビリティの高い製品の導入によって業務を効率化し、「事業計画や経営計画の策定」という成長のための取り組みにより注力できるようになることから、業績アップがもたらされるようだ。
クラウド会計ソフト市場を調査する本シリーズの次回では、クラウド会計ソフト導入企業へのインタビューも交えながら、導入ユーザーの満足度を探ってみたい。