従業員への教育は「押し付け」になるからしないと語るケーズホールディングスの加藤修一相談役。自ら「手抜き経営」というだけあって、手を抜くほど会社が大きくなるケーズデンキの「がんばらない経営」は、現場の販売員にまで浸透している。経営の第一線から退いた今、全国の小さな店舗への訪問活動をしているというが、そこでも「押し付け」をしない姿勢は徹底している。
取材・文/ 細田 立圭志、写真/ 大星直輝
・前半<「老害が会社経営をおかしくする」>から読む
ケーズホールディングスの加藤修一相談役
加藤 2011年に放送が変わるという理由で、テレビが売れすぎました。その後、しばらくテレビの売り上げは悪かったのですが、これからの買い替えよりは盛り上がると期待しています。家電量販店の売り場は1割くらい稼働率が下がっていると思いますが、将来、元に戻る状況を期待して、今の状況に甘んじながらコツコツと仕事をしているのがケーズデンキのスタンスです。
しかし、業界を見渡すと売れない分をほかの商品でカバーしようとしているようにみえますが、当社はそういうものに手を出さないようにしています。お客様からみたら(カテゴリで)一番強い店でないと魅力がありません。
当社は家電以外で一番強くなれるはずがないのでやりません。ただ、家電に関してはお客様からみて「あそこはいいね」と言ってもらえる店になりましょう、ということです。
―― 社員をどのように教育しているのでしょうか。
加藤 よく聞かれる質問ですが、教育していないですね。基本的な挨拶などの研修はしますが、あとはOJTです。先輩の姿を見ながら後輩が自主的に動いて先輩並みになる。そこに新しい後輩が入ってくるという循環です。
人はほかの人から強制されたり言われてやると、楽しみながら働く価値が減っちゃうんですよ。「しなさい」とか、教えたりする「押し付け」は、楽しさの価値を減らします。自主的に仕事をするから楽しいのです。ほっとくだけでうまくいく組織を、ケーズデンキは会社が小さいうちにつくったのです。
「強制や押し付けは、楽しみながら働く価値を減らす」
従業員はお客様の要望を聞きますが、無理に売ろうとはしません。売り上げから仕事に入るのではなく、お客様の望む声を聞いて、それに応えることをしているからです。
―― 小さい会社ならそれもできるかもしれませんが、従業員数が約1万4000人の大企業で、そうした文化や環境をつくっているのが不思議です。
加藤 逆です。小さな会社はリーダーシップによる率先垂範で組織をひっぱっていきます。会社が大きくなるのは、従業員に任せられるからです。リーダーがひっぱったまま大きくなると、あちこちをフォローしなければならず大変です。
私は、会社は単純になればなるほど、大きくなれると考えています。複雑で大きくなったら、仕組みが大変になってもちません。私からみると、世の中は反対に動いていることが多いんですよね。自分が間違っているのかなと、たまに不安になるときもありますが、わりとうまくやってきたので、これでいいのではないかと思っています。
郊外の大型化を象徴する店舗・ケーズデンキ水戸本店
加藤 することもないし、会議に一回も呼ばれないんですよ。役員じゃないからしょうがないけど。みんなにお世話になったので、恩返しをするために規模の小さな店で、手を挙げてくれた店に訪問して店のメンバーと懇親会をしています。
ケーズデンキは店の売上規模に応じてランク分けしています。ランクが低いからダメというのではありません。商圏が小さければ自然と規模は小さくなりますから。
―― 訪問先はなぜ、小さな店なのですか。
加藤 小規模の店は少ない人員で切り盛りしていますしね。懇親会代は私が出すので、来てほしいと手を挙げた店に行きます。手を挙げていないところに私が行って、飲み代も払ったら「押し付け」になるので、それはしません。ちょうど、明日も鴨川の店に行くんですがね。
宴会の従業員の出席率はいいですよ。社員だけでなくパートさんも参加します。あまり仕事の話はしませんが、皆さん、ちゃんと自分の意見を持っていて、しっかりしているので安心します。月に2店舗ぐらいですかね、お店を訪問するのは楽しいです。
取材・文/ 細田 立圭志、写真/ 大星直輝
・前半<「老害が会社経営をおかしくする」>から読む
ケーズホールディングスの加藤修一相談役
「非家電」は扱わない
―― 経営の最前線から一歩引いた立場から家電業界をどのようにみていますか。加藤 2011年に放送が変わるという理由で、テレビが売れすぎました。その後、しばらくテレビの売り上げは悪かったのですが、これからの買い替えよりは盛り上がると期待しています。家電量販店の売り場は1割くらい稼働率が下がっていると思いますが、将来、元に戻る状況を期待して、今の状況に甘んじながらコツコツと仕事をしているのがケーズデンキのスタンスです。
しかし、業界を見渡すと売れない分をほかの商品でカバーしようとしているようにみえますが、当社はそういうものに手を出さないようにしています。お客様からみたら(カテゴリで)一番強い店でないと魅力がありません。
当社は家電以外で一番強くなれるはずがないのでやりません。ただ、家電に関してはお客様からみて「あそこはいいね」と言ってもらえる店になりましょう、ということです。
―― 社員をどのように教育しているのでしょうか。
加藤 よく聞かれる質問ですが、教育していないですね。基本的な挨拶などの研修はしますが、あとはOJTです。先輩の姿を見ながら後輩が自主的に動いて先輩並みになる。そこに新しい後輩が入ってくるという循環です。
人はほかの人から強制されたり言われてやると、楽しみながら働く価値が減っちゃうんですよ。「しなさい」とか、教えたりする「押し付け」は、楽しさの価値を減らします。自主的に仕事をするから楽しいのです。ほっとくだけでうまくいく組織を、ケーズデンキは会社が小さいうちにつくったのです。
「強制や押し付けは、楽しみながら働く価値を減らす」
従業員はお客様の要望を聞きますが、無理に売ろうとはしません。売り上げから仕事に入るのではなく、お客様の望む声を聞いて、それに応えることをしているからです。
―― 小さい会社ならそれもできるかもしれませんが、従業員数が約1万4000人の大企業で、そうした文化や環境をつくっているのが不思議です。
加藤 逆です。小さな会社はリーダーシップによる率先垂範で組織をひっぱっていきます。会社が大きくなるのは、従業員に任せられるからです。リーダーがひっぱったまま大きくなると、あちこちをフォローしなければならず大変です。
私は、会社は単純になればなるほど、大きくなれると考えています。複雑で大きくなったら、仕組みが大変になってもちません。私からみると、世の中は反対に動いていることが多いんですよね。自分が間違っているのかなと、たまに不安になるときもありますが、わりとうまくやってきたので、これでいいのではないかと思っています。
郊外の大型化を象徴する店舗・ケーズデンキ水戸本店
手が挙がった小さな店を訪問中
―― 今は全国の店を訪問しているそうですね。加藤 することもないし、会議に一回も呼ばれないんですよ。役員じゃないからしょうがないけど。みんなにお世話になったので、恩返しをするために規模の小さな店で、手を挙げてくれた店に訪問して店のメンバーと懇親会をしています。
ケーズデンキは店の売上規模に応じてランク分けしています。ランクが低いからダメというのではありません。商圏が小さければ自然と規模は小さくなりますから。
―― 訪問先はなぜ、小さな店なのですか。
加藤 小規模の店は少ない人員で切り盛りしていますしね。懇親会代は私が出すので、来てほしいと手を挙げた店に行きます。手を挙げていないところに私が行って、飲み代も払ったら「押し付け」になるので、それはしません。ちょうど、明日も鴨川の店に行くんですがね。
宴会の従業員の出席率はいいですよ。社員だけでなくパートさんも参加します。あまり仕事の話はしませんが、皆さん、ちゃんと自分の意見を持っていて、しっかりしているので安心します。月に2店舗ぐらいですかね、お店を訪問するのは楽しいです。
■プロフィール
加藤修一(かとう・しゅういち)
1946年生まれ、茨城県出身。東京電機大学工学部卒業後、加藤電機商会に入社。73年カトーデンキ代表取締役専務、82年カトーデンキ販売代表取締役社長(97年ケーズデンキに商号変更)、2011年6月ケーズホールディングス代表取締役会長兼CEO、16年6月相談役に就任。01年4月からは日本電気大型店協会(NEBA)の副会長を4年間務めた。
加藤修一(かとう・しゅういち)
1946年生まれ、茨城県出身。東京電機大学工学部卒業後、加藤電機商会に入社。73年カトーデンキ代表取締役専務、82年カトーデンキ販売代表取締役社長(97年ケーズデンキに商号変更)、2011年6月ケーズホールディングス代表取締役会長兼CEO、16年6月相談役に就任。01年4月からは日本電気大型店協会(NEBA)の副会長を4年間務めた。
◇取材を終えて
「働き方改革っておかしな言葉だよね」。加藤修一相談役が指摘したことが、的を射ていた。「あたりまえの自然な姿で働きましょうというだけなのに、改革という言葉を使うのが気持ち悪い」。創業者で父親の馨氏が、従業員の退職後のことまで考えて設立した会社だけあって、「がんばらない経営」で無理をせずに働いてきたケーズデンキの従業員にとって、不思議な言葉に聞こえるのだろう。物事の本質を鋭く突く記者泣かせの質問の返しも健在で脱帽だった。(至)
「働き方改革っておかしな言葉だよね」。加藤修一相談役が指摘したことが、的を射ていた。「あたりまえの自然な姿で働きましょうというだけなのに、改革という言葉を使うのが気持ち悪い」。創業者で父親の馨氏が、従業員の退職後のことまで考えて設立した会社だけあって、「がんばらない経営」で無理をせずに働いてきたケーズデンキの従業員にとって、不思議な言葉に聞こえるのだろう。物事の本質を鋭く突く記者泣かせの質問の返しも健在で脱帽だった。(至)
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年12月号から転載