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ケーズHD・加藤修一相談役 「人件費を削ってはいけない」

インタビュー

2017/11/24 18:01

 創業70周年を迎えたケーズホールディングスの加藤修一相談役に歴史を振り返ってもらった。一流の大手企業を問わず従業者に過酷な残業を強いる「ブラック企業」が社会問題化しているのとは対照的に、ケーズデンキは「離職率の低い、従業員を大切にする会社」として評価されている。原点は、1980年に創業者・加藤馨名誉会長が当時の従業員と折半出資してカトーデンキ販売を設立したときの施策にある。

取材・文/ 細田 立圭志、写真/ 大星直輝

前半<「老害が会社経営をおかしくする」>から読む
 

ケーズホールディングスの加藤修一相談役

100万円が37年で14億円に

―― 創業から70年を振り返って、経営で最も大きなポイントになった出来事はなんですか。

加藤 あんまり過去のことを振り返らずに来ましたが、今のように会社がうまくいったポイントは、80年にカトーデンキ販売を設立したときに、従業員に会社の株の半分を持ってもらったことです。毎年配当して、それを増資に回しながら資本金を増やすようにしたのです。「会社が儲かった利益の半分は皆さんが儲かったことと同じですよ」ということでスタートしました。

 37年前なので、そのころの従業員は数十人。2250万円でつくった会社の初年度の経常利益は6500万円、翌年は1億2000万円、さらに翌年は2億4000万円、そのあとは3億5000万円と利益は倍増していきました。世の中でいう「全員経営」とか「全員が社長」と同じ考え方で、従業員が勝手に仕事する仕組みができあがったのです。

―― なぜ従業員に株を持たせる発想に至ったのですか。

加藤 東日電という家電量販店の経営に関する勉強会の活動をしていたなかで、父親は社員の将来の退職金について考えていました。社員数が毎年増えていくなか、会社が退職金を支払うための蓄積ができるのかどうかと。

 結構難しいことがわかったので、カトーデンキ販売を設立するにあたり、これまでの従業員にいったん退職金を支払って、その退職金を元手に会社に出資を募ったのです。そして従業員が受け取った配当を積み立てて増資に回してもらい、将来、その出資したお金が5000万円ぐらいの退職金になるような会社にしようとしたのが始まりです。

 利益の3割を配当に回していたので、増資に充てれば、相当に資本は増えていきますよね。その様に、従業員にこの会社に勤めていて良かったと思ってもらえるように考えました。

 当時、株式の上場は視野に入っていませんでしたが、ベンチャーキャピタルから上場の提案があり、3年間の準備を経て88年に店頭公開しました。その後、東証二部や一部に昇格した結果、会社設立時に100万円を出資した社員の株の価値は、現在、14億円になっています。会社がここまで成長した原点だろうと考えています。

―― 80年代の数十人規模の会社だったころから、従業員が退職した後のことまで考えていたのですね。

加藤 私には、(多くの会社が)どうやって儲けて、どうやって社員を安く働かせようかと考えては、変なところにばかり工夫しているようにみえます。
 

ケーズデンキの経営の原点について語る加藤相談役

チェーンオペレーションとの矛盾はないのか

―― ローコスト経営でチェーン展開となると人件費のウェートが大きくなるので、なんとか抑えたいと考えるのではないでしょうか。

加藤 人件費は一番削ってはいけない費用です。なんのためにケーズデンキがあるのかといえば、従業員のためにあると私は思っていますから。そもそも会社というものは働く人のために存在すべき。そうでなければ無くても構わないと思っています。

 新入社員の初日の勉強会で1時間ほど話をします。人は生まれてから学校を卒業して働いて死ぬまでの一生のなかで、働いている時間が一番長いわけだから、そこが楽しくなければ人生はつまらないでしょうと。

 「給料をもらうために仕方なく会社に行っている」ということでいいのでしょうかと。楽しければ、仕事に関心を持ちます。好奇心を持つと仕事が楽しくなります。「給料をもらうため」では、つまらないでしょう。楽しく仕事をするには、人から強制されないことが大切です。上司は命令せずに、従業員に任せるのです。

―― チェーンオペレーションの基本は、権限を集中した本部で決まったことを、全国の店舗に伝達することではないですか。

加藤 チェーンオペレーションというのは、コンピューティングの技術で自動に運営する仕組みのことです。多くのことは決まっているのです。ただ、現場でお客様と接する部分は従業員にお任せするしかありません。

 本部からお客様の対応を指示するのではなく、お客様は千差万別だから店の人が自分で考えて対応しなければなりません。「頼む」としか言いようがないのです。私の経営は徹底した「手抜き経営」ですから、どこまで手が抜けるかとやってきたら、今では何もやることがなくなっちゃったんです。

<「会社は単純なほど大きくなれる>に続く