ワイヤレスと女性が成長のカギ? e☆イヤホン創業者・大井裕信氏が市場の今後を予測
テクノロジーの進歩や周辺環境の変化は、ポータブルオーディオの世界にも大きな影響を及ぼしている。ヘッドホン・イヤホン専門店「e☆イヤホン」創業者の大井裕信 代表取締役はどのように考えているのか。今後のトレンドや市場拡大の方策を聞いた。
取材・文/ 大蔵大輔、写真/ 大星直輝
e☆イヤホンの創業者・大井裕信 代表取締役
大井 10年の間の変化はたくさんありましたが、直近1年でがらりと変わりました。ワイヤレスタイプのヘッドホン・イヤホンが急増したからです。特に一番のトレンドである左右独立型のトゥルーワイヤレスイヤホンは、試聴機の置き方や展示が非常に難しい。防犯面を考えると、数万円する高級機を簡単にポンとは置けないですから。
―― トゥルーワイヤレスイヤホンはどれくらい普及すると思いますか。
大井 一気に切り替えが進んでいくと思いますよ。iPhoneがイヤホンジャックを廃止したことも要因ですが、スマートスピーカーの登場も大きいです。
家の中でも、外でも口命令になってくると、マイクが搭載されていたり、周囲の音のオン・オフができたりという機能が不可欠になってきます。常時身につけていることを考えると、当然ケーブルがないほうがよいという選択になるでしょう。今は指向性の音の進化が目覚ましいので、ひょっとするとピアスのような形状のものも登場するかもしれないですね。
―― まだ市場が黎明期のトゥルーワイヤレスイヤホンですが、音の質に対する顧客の反応はいかがですか。
大井 お客様からは「予想以上によい」といっていただいています。コアなオーディオファンであっても、普段使いしている方もいますよ。イヤホン・ヘッドホンでできることが増えていくことで、これからもっともっとすごいことになっていくと思います。e☆イヤホンとしても、まだ知らない方に実際に音を聴いてもらうことで、その凄さを伝えていきたいですね。
トゥルーワイヤレスイヤホンがもたらす今後の可能性を語る大井氏
大井 e☆イヤホンは脱マニアを目指していますから、もっといろいろな人によい音を聴いてもらいたいと思っています。そんななかで、まだ掘り起こせていないのが女性のお客様です。うちで働いているアルバイトの女性もあえて「音楽は好きだけど、イヤホンのことは分からない」という子を入れているのですが、ステップアップのスピードが凄い。社販などはやっていないのですが、半年したらもの凄く高いイヤホンで聴いている。(笑)
秋葉原にある「e☆イヤホン カスタムIEM専門店」の外観
―― 女性のほうが思い切りがいいのかもしれないですね。これまではなぜ訴求しきれていなかったのでしょうか。
大井 聴く機会がなかったというのと、動機がなかったからだと思います。e☆イヤホンの初期からのコアなお客様は、日本橋と秋葉原に店舗があったこともあり、アニメソングや声優が好きな男性が多かったのですが、今は女性のファンも増えている。これは、明確な動機になります。
正直、ヘッドホン・イヤホン市場は、とっくにレッドオーシャンなんです。その下に埋まっている潜在顧客の女性がブルーオーシャンとして残っている。さまざまな動機を掘り起こして、すでに持っているイヤホンではなく、「これだ!」というものを見つけてもらう。一度聴いて感動してもらえば、必ず興味をもってもらえると思っています。
取材・文/ 大蔵大輔、写真/ 大星直輝
e☆イヤホンの創業者・大井裕信 代表取締役
完全ワイヤレスは一気に普及 イヤホンの新しい可能性にも着目
―― 試聴機の大量展開は創業からの不変のコンセプトだと思いますが、この10年間で売り場はどのように変化しましたか。大井 10年の間の変化はたくさんありましたが、直近1年でがらりと変わりました。ワイヤレスタイプのヘッドホン・イヤホンが急増したからです。特に一番のトレンドである左右独立型のトゥルーワイヤレスイヤホンは、試聴機の置き方や展示が非常に難しい。防犯面を考えると、数万円する高級機を簡単にポンとは置けないですから。
―― トゥルーワイヤレスイヤホンはどれくらい普及すると思いますか。
大井 一気に切り替えが進んでいくと思いますよ。iPhoneがイヤホンジャックを廃止したことも要因ですが、スマートスピーカーの登場も大きいです。
家の中でも、外でも口命令になってくると、マイクが搭載されていたり、周囲の音のオン・オフができたりという機能が不可欠になってきます。常時身につけていることを考えると、当然ケーブルがないほうがよいという選択になるでしょう。今は指向性の音の進化が目覚ましいので、ひょっとするとピアスのような形状のものも登場するかもしれないですね。
―― まだ市場が黎明期のトゥルーワイヤレスイヤホンですが、音の質に対する顧客の反応はいかがですか。
大井 お客様からは「予想以上によい」といっていただいています。コアなオーディオファンであっても、普段使いしている方もいますよ。イヤホン・ヘッドホンでできることが増えていくことで、これからもっともっとすごいことになっていくと思います。e☆イヤホンとしても、まだ知らない方に実際に音を聴いてもらうことで、その凄さを伝えていきたいですね。
トゥルーワイヤレスイヤホンがもたらす今後の可能性を語る大井氏
ステップアップの速度は男性以上 女性の潜在需要を掘り起こす
―― 今後の有望なターゲット像を教えてください。大井 e☆イヤホンは脱マニアを目指していますから、もっといろいろな人によい音を聴いてもらいたいと思っています。そんななかで、まだ掘り起こせていないのが女性のお客様です。うちで働いているアルバイトの女性もあえて「音楽は好きだけど、イヤホンのことは分からない」という子を入れているのですが、ステップアップのスピードが凄い。社販などはやっていないのですが、半年したらもの凄く高いイヤホンで聴いている。(笑)
秋葉原にある「e☆イヤホン カスタムIEM専門店」の外観
―― 女性のほうが思い切りがいいのかもしれないですね。これまではなぜ訴求しきれていなかったのでしょうか。
大井 聴く機会がなかったというのと、動機がなかったからだと思います。e☆イヤホンの初期からのコアなお客様は、日本橋と秋葉原に店舗があったこともあり、アニメソングや声優が好きな男性が多かったのですが、今は女性のファンも増えている。これは、明確な動機になります。
正直、ヘッドホン・イヤホン市場は、とっくにレッドオーシャンなんです。その下に埋まっている潜在顧客の女性がブルーオーシャンとして残っている。さまざまな動機を掘り起こして、すでに持っているイヤホンではなく、「これだ!」というものを見つけてもらう。一度聴いて感動してもらえば、必ず興味をもってもらえると思っています。
■プロフィール
大井裕信(おおい・ひろのぶ)
1972年生まれ。和歌山県伊都郡出身。91年にソフマップに入社。98年に同社を退職し、長野県で起業するも失敗。99年にソフマップに再入社し、執行役員を2年務める。07年に独立し、タイムマシンを設立。同年に日本初のイヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」を大阪・心斎橋アメリカ村に開店。「e☆イヤホン」は17年9月で10周年を迎えた。
大井裕信(おおい・ひろのぶ)
1972年生まれ。和歌山県伊都郡出身。91年にソフマップに入社。98年に同社を退職し、長野県で起業するも失敗。99年にソフマップに再入社し、執行役員を2年務める。07年に独立し、タイムマシンを設立。同年に日本初のイヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」を大阪・心斎橋アメリカ村に開店。「e☆イヤホン」は17年9月で10周年を迎えた。
◇取材を終えて
多くの企業は社員がSNSで情報発信することを嫌がる。炎上の危険があるからだ。e☆イヤホンはどうなのか。大井氏は「幾度となく炎上しています」と苦笑する。最初は「澪(みお)ホン」。AKGの最上位ヘッドホンをアニメキャラクターが装着していたことから、そう命名したところ、コアなオーディオファンからクレームが殺到した。大慌てするスタッフを余所に火消しをしたのは、同じオーディオファン。「あそこはAKGの補修パーツを全部持っているから潰さないでくれ」。積み重ねた信頼に思わぬところで助けられた。(雀)
多くの企業は社員がSNSで情報発信することを嫌がる。炎上の危険があるからだ。e☆イヤホンはどうなのか。大井氏は「幾度となく炎上しています」と苦笑する。最初は「澪(みお)ホン」。AKGの最上位ヘッドホンをアニメキャラクターが装着していたことから、そう命名したところ、コアなオーディオファンからクレームが殺到した。大慌てするスタッフを余所に火消しをしたのは、同じオーディオファン。「あそこはAKGの補修パーツを全部持っているから潰さないでくれ」。積み重ねた信頼に思わぬところで助けられた。(雀)
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年11月号から転載