e☆イヤホン創業者・大井裕信 代表取締役 「売れとは絶対に言わない」
今年9月で10周年を迎えた日本初のイヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」。ポータブルオーディオに特化した店舗ながら、2016年度に年商は62億円を突破した。e☆イヤホンといえば、すべての商品を試聴できる「体験型売り場の元祖」として有名だが、社員が自由に情報発信する質・量を兼ね備えたECサイトもユニークだ。色が濃すぎるオンとオフの売り場はどのように棲み分けがされているのか。「Webは店舗の延長線」――そう語るのは、アフロがトレードマークの名物創業者・大井裕信代表取締役。急成長するe☆イヤホンの秘密に迫った。
取材・文/ 大蔵 大輔、写真/ 大星 直輝
e☆イヤホンの創業者・大井裕信 代表取締役
販売員ではなくエージェント
「売れとは絶対にいわない」
大井 イヤホン以外にもいくつか候補はありました。パソコンの周辺機器やプロジェクターの専門店も考えていましたが、単価が高くて、品数を揃えるのが難しかった。イヤホンは高いものを売るといっても当時は1万円くらいのイメージだったので、これなら専門店として出発できるなと。
共通していたのは「ちょっとこだわると、こんな世界があるよ!」と伝えること。マニアではなく、普通の人に興味を持ってもらえるお店にしたかったんです。
―― e☆イヤホンといえば、安いものから数十万円の高級機まで、全品試聴できることが特徴です。これは創業当時からの取り組みですか。
大井 「全品をお客様のプレイヤーに接続して試聴できる」のは大前提でした。今でこそイヤホンの試聴はあたりまえですが、10年前は1万円以上の商品はショーケースに入れられていたし、試聴できたとしても自分が普段は聴かないジャンルの音源だと、購入後に「あれ?」と違和感を覚えることもありました。
だからe☆イヤホンでは最初から何万円の商品でも店頭に出してお客様に「どうぞご自由に聴いてください」というスタンスでした。聴いてもらえば「ほら、いいでしょ」とすぐに接客につなげられますから。
大井 最初はインターネットは無視するつもりでした(笑)。商品を聴き比べして納得していただいてから売ろう、というのが重要なコンセプトだったからです。
とはいえ、宣伝手段として口コミやチラシだけでは限界があります。そこで1号店をオープンしてすぐにブログだけは始めました。それでも、オープン当初は本当にお客様が来なくて、在庫を大量に抱えていた。なんとか売らなくてはと考えて、まずYahoo!ショッピングで、半年後に自社サイトで通販を開始しました。
―― 自社サイトやSNSで、日々スタッフの方が商品のレビューや選び方を発信していますね。専門用語はあまり使わず、自分の言葉で綴られているのが印象的です。
大井 もっと積極的に情報発信をしていこうとしたのは、それからさらに1年後です。体験を売りにしているというのもありましたし、お客様から「具体的にどんな音なのか知りたい」というリクエストもあって、そこから1人ではなく複数のスタッフでクロスレビューという形で情報を出すようになりました。
店頭の接客をWebにフィードバックするイメージでしたね。売り上げにも明確に効果が表れてきたので、どんどんコンテンツを充実させていきました。
―― 情報発信するスタッフは特定の方なんですか。
大井 店舗スタッフはほぼ全員、専用のTwitterアカウントをもっています。100名くらいは携わっていると思いますよ。通常の業務をしながらなので負担はありますが、接客も自分の意見をしっかりと持っていないとできませんし、やりとりの中でお客様とのコミュニケーション能力も磨かれます。Webは店舗の延長線上なんです。手書きPOPに近い感覚かもしれません。
オフラインとオンラインの売り方について語る大井氏
大井 e☆イヤホンには、三つの掟があります。まず、イヤホンを「拭け」。清潔じゃないと試聴する気が起きませんから。次にイヤホンを「聴け」。最後にお客様と「話せ」。これはイヤホンの話じゃなくてもいいんです。音楽の話をたくさんしてくれたらいいと思っています。
「売れ」とは絶対に言いません。お客様の中には「今日は聴きに来ただけ」という方も多い。だから営業時間中はいかに居心地のよい空間を提供できるかに神経を注いでいます。個人的な感覚ですが、滞在時間の長いお客様ほど、買い上げ率も単価も高いです。
僕たちは、小売りというよりお客様のエージェントというポジションを目指しています。お客様の一番の味方であることが専門店としての生命線なので、どこかのメーカーを贔屓にせず、徹底して中立の立場を貫きます。どんな店舗をつくっていくか、試行錯誤の10年でしたが、結局は答えを知っているのはお客様なんです。これからも一所懸命、お客様についていこうと思っています。
・<イヤホンが中古でも売れる理由とは>に続く
取材・文/ 大蔵 大輔、写真/ 大星 直輝
e☆イヤホンの創業者・大井裕信 代表取締役
販売員ではなくエージェント
「売れとは絶対にいわない」
今年で設立から10周年 目指したのは脱マニア
―― ソフマップで取締役を務めた後、2007年にe☆イヤホンを創業されました。今年9月で10周年を迎えましたが、そもそもなぜイヤホン・ヘッドホンの専門店だったのですか。大井 イヤホン以外にもいくつか候補はありました。パソコンの周辺機器やプロジェクターの専門店も考えていましたが、単価が高くて、品数を揃えるのが難しかった。イヤホンは高いものを売るといっても当時は1万円くらいのイメージだったので、これなら専門店として出発できるなと。
共通していたのは「ちょっとこだわると、こんな世界があるよ!」と伝えること。マニアではなく、普通の人に興味を持ってもらえるお店にしたかったんです。
―― e☆イヤホンといえば、安いものから数十万円の高級機まで、全品試聴できることが特徴です。これは創業当時からの取り組みですか。
大井 「全品をお客様のプレイヤーに接続して試聴できる」のは大前提でした。今でこそイヤホンの試聴はあたりまえですが、10年前は1万円以上の商品はショーケースに入れられていたし、試聴できたとしても自分が普段は聴かないジャンルの音源だと、購入後に「あれ?」と違和感を覚えることもありました。
だからe☆イヤホンでは最初から何万円の商品でも店頭に出してお客様に「どうぞご自由に聴いてください」というスタンスでした。聴いてもらえば「ほら、いいでしょ」とすぐに接客につなげられますから。
Webは店舗の延長線 スタッフ総出で情報発信
―― メディア顔負けの情報発信力をもつWebサイトもe☆イヤホンを象徴する存在です。オフラインとオンラインの両軸で勝負する、という戦略はいつ頃から頭にあったのですか。大井 最初はインターネットは無視するつもりでした(笑)。商品を聴き比べして納得していただいてから売ろう、というのが重要なコンセプトだったからです。
とはいえ、宣伝手段として口コミやチラシだけでは限界があります。そこで1号店をオープンしてすぐにブログだけは始めました。それでも、オープン当初は本当にお客様が来なくて、在庫を大量に抱えていた。なんとか売らなくてはと考えて、まずYahoo!ショッピングで、半年後に自社サイトで通販を開始しました。
―― 自社サイトやSNSで、日々スタッフの方が商品のレビューや選び方を発信していますね。専門用語はあまり使わず、自分の言葉で綴られているのが印象的です。
大井 もっと積極的に情報発信をしていこうとしたのは、それからさらに1年後です。体験を売りにしているというのもありましたし、お客様から「具体的にどんな音なのか知りたい」というリクエストもあって、そこから1人ではなく複数のスタッフでクロスレビューという形で情報を出すようになりました。
店頭の接客をWebにフィードバックするイメージでしたね。売り上げにも明確に効果が表れてきたので、どんどんコンテンツを充実させていきました。
―― 情報発信するスタッフは特定の方なんですか。
大井 店舗スタッフはほぼ全員、専用のTwitterアカウントをもっています。100名くらいは携わっていると思いますよ。通常の業務をしながらなので負担はありますが、接客も自分の意見をしっかりと持っていないとできませんし、やりとりの中でお客様とのコミュニケーション能力も磨かれます。Webは店舗の延長線上なんです。手書きPOPに近い感覚かもしれません。
オフラインとオンラインの売り方について語る大井氏
e☆イヤホン流の接客術 大井氏が定めた三つの掟
―― スタッフの方の接客はよい意味で力が抜けていますね。e☆イヤホン流の接客の秘訣はありますか。大井 e☆イヤホンには、三つの掟があります。まず、イヤホンを「拭け」。清潔じゃないと試聴する気が起きませんから。次にイヤホンを「聴け」。最後にお客様と「話せ」。これはイヤホンの話じゃなくてもいいんです。音楽の話をたくさんしてくれたらいいと思っています。
「売れ」とは絶対に言いません。お客様の中には「今日は聴きに来ただけ」という方も多い。だから営業時間中はいかに居心地のよい空間を提供できるかに神経を注いでいます。個人的な感覚ですが、滞在時間の長いお客様ほど、買い上げ率も単価も高いです。
僕たちは、小売りというよりお客様のエージェントというポジションを目指しています。お客様の一番の味方であることが専門店としての生命線なので、どこかのメーカーを贔屓にせず、徹底して中立の立場を貫きます。どんな店舗をつくっていくか、試行錯誤の10年でしたが、結局は答えを知っているのはお客様なんです。これからも一所懸命、お客様についていこうと思っています。
・<イヤホンが中古でも売れる理由とは>に続く
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年11月号から転載