6年前の2011年7月24日、地上アナログ放送が終了し、地デジ時代が幕を開けた。同時に、大手携帯電話事業者(キャリア)の端末ラインアップが切り替わり、スマートフォンの普及が本格化。テレビやデジカメをはじめスマホでも、機能面で競合する製品を手がけるメーカーの凋落が始まった。
家電量販店・オンラインショップの実売データを集計した「BCNランキング」をもとに、安定成長の成熟期に入った端末と周辺アクセサリ市場の現状を俯瞰しつつ、総務省が目指す「通信料金の値下げ」「利用者の公平な負担」の先にある未来を考えたい。
スマホの購入検討者は、当初は、店員の知識が豊富で、ケースや保護フィルムなどのアクセサリも一緒に購入できる家電量販店に集まった。しかし、アーリーアダプタから一般層に広がるにつれ、開通手続きに要する時間が短いキャリアショップに流れていく。
毎年恒例のiPhone発売イベント。
すべての変化は2008年7月のiPhone上陸、その後のソフトバンクの強力なiPhoneプッシュから始まった
13年9月、AppleのiPhoneを主要3キャリアすべてが取り扱うようになると、MNPによる新規顧客獲得競争に拍車がかかった。MNPでキャリアを乗り換え、指定の条件を満たすと、端末が実質無料で手に入るうえ、追加で多額の現金や商品券がもらえる「キャッシュバック」は、14年3月をピークに、総務省が介入する16年1月末まで続いた。
家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」のデータで、年間で最も携帯電話が売れる3月の直近5年間の販売台数を比較すると、17年、15年、16年、14年、13年の順に多かった。「実質0円」販売終了のマイナスイメージが薄れた17年は前年比140.4%で、過去最高を更新。ただ、海外メーカーを中心としたSIMフリーモデルの比率はスマホ全体の4分の1程度まで高まっており、iPhoneを含む、従来のキャリアモデルはダウントレンドに入っている。
総務省は今年1月、SIMロック解除可能な期間の短縮など盛り込んだスマートフォン端末の販売に関する新たなガイドライン「モバイルサービスの提供条件・端末に関する指針」を策定。それを受けて、MVNOの料金設定を意識して価格を設定したと思われる、同じ端末を使い続けるほど割引額が増える新料金プラン「docomo with」、端末代に割引を適用しない分、通信料金が従来より大幅に安い「auフラットプラン」、5段階の従量課金制の「auピタットプラン」が登場した。
これら新料金プランは賛否両論あるが、消費者間の公平な負担、端末販売の適正化を訴え、「実質0円」廃止からガイドライン策定まで関わってきた野村総合研究所の北俊一コンサルタントは、「ピースがようやく出揃った」と語る。
野村総合研究所の北俊一コンサルタント
北氏は、多くの消費者が、回線、端末をそれぞれ自由に選び、端末に関しては、中古・新品を問わず、本来の価格に応じた妥当な金額を支払って購入するという、一般的な耐久消費財と同じ買い方を受け入れ、キャリアは、「価格」ではなく「価値」で競い合い、スマホで使うサービスをアピールすることこそ、キャッシュバックをはじめ、歪んだ商慣習が定着した業界の健全化に必要だと指摘する。
iPhoneやXperia、arrowsなど、メーカーブランドを前面に出した、同一の端末を複数のキャリアが同時に販売するケースが増えており、独自性を打ち出すため、端末ではなく、動画配信などのコンテンツサービスや、ショッピングと連動したポイントサービスに力を入れている。特にドコモとauは、IoTデバイスなどを活用した健康・ヘルスケア関連やスマートホーム、保険・金融など、“通信”以外のサービスの展開に積極的だ。
ドコモは、今年4月に発表した中期戦略2020「beyond宣言」で「スタイル革新」やパートナー向けの「産業創出」を目標に掲げており、方針転換は明らか。代理店向け施策をとりまとめるドコモの北村貞彦営業本部 販売部 代理店担当部長は、ケータイ時代からユーザーの生活を支援するサービスに注力していたが、1台で何でもできるスマホが出て、より提供しやすくなったと振り返る。さらに、キャリアショップを接点に、一人ひとりのニーズに沿ったサービスを提案していきたいと“理想”を語る。
ドコモの旗艦店「ドコモショップ丸の内店」では、Wi-FiやBluetoothを利用したウェアラブル端末や
IoT機器を数多く展示。サービスの紹介にも力を入れる
「単純な安売り」は量販店の得意とするところ。また、大画面テレビやIoT家電と組み合わせるといった、キャリアショップではできない「スマートホーム」のトータル提案を行えば、引き続き、キャリアモデルを買い求める層にもアプローチできる。いずれにしても、キャリアショップに流れた顧客を再び取り戻す、新たなチャンスの到来だ。この機会を逃すと、「売るだけ」のビジネスモデルは厳しくなるかもしれない。(BCN・嵯峨野 芙美)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年11月号から転載
家電量販店・オンラインショップの実売データを集計した「BCNランキング」をもとに、安定成長の成熟期に入った端末と周辺アクセサリ市場の現状を俯瞰しつつ、総務省が目指す「通信料金の値下げ」「利用者の公平な負担」の先にある未来を考えたい。
春商戦3月のスマホ実売数 2017年は最多を更新
BCNのBCN総研が今年6月に「大胆予測! 2020年のデジタル家電市場」としてまとめた2010年~16年の実績(BCNの数値をもとにした拡大推計)と17年~20年の予測によると、16年から伸びがさらに鈍化したスマートフォンの年間販売台数は19年にピークを迎え、翌20年には微減に転じる見通しだ。スマホの購入検討者は、当初は、店員の知識が豊富で、ケースや保護フィルムなどのアクセサリも一緒に購入できる家電量販店に集まった。しかし、アーリーアダプタから一般層に広がるにつれ、開通手続きに要する時間が短いキャリアショップに流れていく。
毎年恒例のiPhone発売イベント。
すべての変化は2008年7月のiPhone上陸、その後のソフトバンクの強力なiPhoneプッシュから始まった
13年9月、AppleのiPhoneを主要3キャリアすべてが取り扱うようになると、MNPによる新規顧客獲得競争に拍車がかかった。MNPでキャリアを乗り換え、指定の条件を満たすと、端末が実質無料で手に入るうえ、追加で多額の現金や商品券がもらえる「キャッシュバック」は、14年3月をピークに、総務省が介入する16年1月末まで続いた。
家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」のデータで、年間で最も携帯電話が売れる3月の直近5年間の販売台数を比較すると、17年、15年、16年、14年、13年の順に多かった。「実質0円」販売終了のマイナスイメージが薄れた17年は前年比140.4%で、過去最高を更新。ただ、海外メーカーを中心としたSIMフリーモデルの比率はスマホ全体の4分の1程度まで高まっており、iPhoneを含む、従来のキャリアモデルはダウントレンドに入っている。
収益はサービスを軸に 価格競争をやめたい大手キャリア
かつてケータイからスマホに切り替わったように、今後、SIMフリースマホが半数以上を占め、主流になる可能性はあるだろうか?総務省は今年1月、SIMロック解除可能な期間の短縮など盛り込んだスマートフォン端末の販売に関する新たなガイドライン「モバイルサービスの提供条件・端末に関する指針」を策定。それを受けて、MVNOの料金設定を意識して価格を設定したと思われる、同じ端末を使い続けるほど割引額が増える新料金プラン「docomo with」、端末代に割引を適用しない分、通信料金が従来より大幅に安い「auフラットプラン」、5段階の従量課金制の「auピタットプラン」が登場した。
これら新料金プランは賛否両論あるが、消費者間の公平な負担、端末販売の適正化を訴え、「実質0円」廃止からガイドライン策定まで関わってきた野村総合研究所の北俊一コンサルタントは、「ピースがようやく出揃った」と語る。
野村総合研究所の北俊一コンサルタント
北氏は、多くの消費者が、回線、端末をそれぞれ自由に選び、端末に関しては、中古・新品を問わず、本来の価格に応じた妥当な金額を支払って購入するという、一般的な耐久消費財と同じ買い方を受け入れ、キャリアは、「価格」ではなく「価値」で競い合い、スマホで使うサービスをアピールすることこそ、キャッシュバックをはじめ、歪んだ商慣習が定着した業界の健全化に必要だと指摘する。
iPhoneやXperia、arrowsなど、メーカーブランドを前面に出した、同一の端末を複数のキャリアが同時に販売するケースが増えており、独自性を打ち出すため、端末ではなく、動画配信などのコンテンツサービスや、ショッピングと連動したポイントサービスに力を入れている。特にドコモとauは、IoTデバイスなどを活用した健康・ヘルスケア関連やスマートホーム、保険・金融など、“通信”以外のサービスの展開に積極的だ。
ドコモは、今年4月に発表した中期戦略2020「beyond宣言」で「スタイル革新」やパートナー向けの「産業創出」を目標に掲げており、方針転換は明らか。代理店向け施策をとりまとめるドコモの北村貞彦営業本部 販売部 代理店担当部長は、ケータイ時代からユーザーの生活を支援するサービスに注力していたが、1台で何でもできるスマホが出て、より提供しやすくなったと振り返る。さらに、キャリアショップを接点に、一人ひとりのニーズに沿ったサービスを提案していきたいと“理想”を語る。
ドコモの旗艦店「ドコモショップ丸の内店」では、Wi-FiやBluetoothを利用したウェアラブル端末や
IoT機器を数多く展示。サービスの紹介にも力を入れる
ポストスマホはもう始まっている 価格競争の主戦場は「格安スマホ」に
大手キャリアの「脱スマホ」の動きは、端末本体・アクセサリを含めた「製品」と「アプリ」「サポート」が中心だった従来のスマホビジネスを、スマホとつながる機器・サービスすべてを巻き込んだ「スマートライフビジネス」に拡張する。しかし、その一方で、最低限のアプリが動作すれば十分と、スマホ自体にはそれほど高い性能を求めない層が増えてきた。そうなると、グレードやブランド、機能の違いによる価格帯の差が広がり、大手キャリアの回線・端末は、従来以上の手厚いサポートや、キャリアショップでのおもてなしを求める層に向けたものになる。そして、価格競争の主戦場は、「格安スマホ」と呼ばれる、MVNOと中古を含めたSIMフリースマホの組み合わせに移る。「単純な安売り」は量販店の得意とするところ。また、大画面テレビやIoT家電と組み合わせるといった、キャリアショップではできない「スマートホーム」のトータル提案を行えば、引き続き、キャリアモデルを買い求める層にもアプローチできる。いずれにしても、キャリアショップに流れた顧客を再び取り戻す、新たなチャンスの到来だ。この機会を逃すと、「売るだけ」のビジネスモデルは厳しくなるかもしれない。(BCN・嵯峨野 芙美)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年11月号から転載