1999年にオープンしたケーズデンキ水戸本店は、それまでケーズデンキの平均だった売場面積2300m2の店舗を、3倍以上の約7200m2に拡大させた1号店で、郊外の大型化を象徴する店舗だ。
1999年にオープンしたケーズデンキ水戸本店
90年代から2000年前後にかけて、北関東を本拠地とするヤマダ電機とコジマ、ケーズデンキ(97年までカトーデンキ)は、互いの地元に出店して激しく競い合い、「YKK戦争」と称してメディアを賑わせた。コジマが水戸に出店して最初に仕掛けたのは86年のことだが、今ではその店舗は撤退している。
ヤマダ電機も、テックランド水戸本店は現在でも残るが、08年にケーズHD本社前の水戸駅南口に売場面積約8300m2の旗艦店「LABI水戸」を出店したが、15年5月末に閉店して撤退した。水戸駅南口には、コジマを吸収したビックカメラの「水戸駅店」が残るだけ。「競合店があったほうが、お客様が価格を比較しながら商品を選べるのでいい」と、加藤修一相談役は余裕の構えをみせる。
上席執行役員の清水潔水戸本店店長
現在の水戸本店店長は、14年11月に就任した上席執行役員の清水潔氏だ。それ以前は10店舗の店長などを歴任した後、本部の営業推進部に所属していた。ケーズでは店長と本部の人事異動はよくあることで、珍しくない。両方の視点を持つことで、全社的な立場から見る目が養われる。「店舗ではあたりまえのこととして埋もれてしまいがちな工夫や改善要望を、遠慮することなく本部に伝達してほしいと、社員には伝えている。小さな成功でも、全店に広まれば大きな成功につながる」と、清水店長は語る。
大幹トレーニングを意識した「トランポリン」(左)と「3Dスーパーブレード」
一方で、待ち時間のイライラを解消させるために、注文・配達受付カウンターの後ろにドクターエアの「3Dマッサージシート」が並べてある。通常、マッサージチェアは理美容コーナーの近くか、スペースをとるために店舗奥で展開するケーズが多いが、簡易型のマッサージシートならそれほどスペースをとらず、カウンターの後ろに体験ゾーンを設けることができる。夫婦や家族で来店した顧客が、事務手続きをしている間に、ほかの人が試せる。スペースと時間、体験という一石三鳥にもなる取り組みとして注目だろう。
配達受付カウンターの後ろに設置した簡易型のマッサージシート
入口の体感コーナーを抜けてすぐに目に入ってきたのは、黄色で染まった高圧洗浄機メーカー・ケルヒャーの売り場だ。ロードサイドの郊外型店舗では、文字通り顧客は車で来店することが多いため、車の洗浄グッズは生活に身近な存在となる。顧客が親しみを覚える商品を大きく展示することで、さらに店内の奥へと誘導する仕掛けにもなっている。
郊外型店舗と親和性の高いケルヒャーのコーナー
ケーズデンキは今年、創業70周年を迎えており、店頭でも70周年記念モデルをプッシュしている。「いい商品を市場想定よりも安い価格で提供する」(遠藤会長兼CEO)というように、基本性能はそのままに「12mの高圧ホース」をつけるなどの特典を打ち出している。農機具を洗浄している様子が分かるPOPも、地域ならではのアイデアを反映していて目を引く。
農機具の洗浄をアピールするPOP
「寒くなると終了しますが、夏はお客様がサンダルを履いて来店されるので、そのまま体組成計にのっていただきやすい」と話す清水店長。取材した日も、その前の土、日が久しぶりの天気で気温も高かったので、現場判断で試せるコーナーを臨機応変に再開したという。
電源タップで試せるドライヤー(左)と暑い日に試せる「体組成計」
大型の白物商品である冷蔵庫売り場でも、同じ様子が確認できる。例えば、日立の冷蔵庫「真空チルド」では、「新鮮スリープ野菜室」として野菜の鮮度が長持ちする機能を搭載するが、野菜庫には日にちが経過してもみずみずしい葉野菜が確認できる。「真空チルド室」にも、普通の庫内保存時と比較したチーズとハムの鮮度の違いが認識できるようになっている。
野菜室や真空チルドの鮮度の違いがわかる日立の冷蔵庫
「最近の冷蔵庫は大型化して高さもあるので、ヒールを履いた女性のお客様にはスリッパを用意して、最上段の奥まで手が届くかチェックできるようにしています。店頭では大丈夫だったのに、家で使ったときに届かなかったということがないように注意を払っています」と、清水店長は顧客の視点に立った接客に努める。
デジタルAV機器でも同じだ。年配客にはまだ根強い人気があるラジオ売り場では、実際に聞くことができるのはもちろん、広くて大きな店内では電波の状況が不安定になるため、増幅するアンテナを設置していることをアピールしている。さりげない訴求だが、家電専門店としてテレビなどのアンテナ工事を安心して任せられることが伝わる。
ラジオ売り場では音がクリアに聞こえるように増幅するアンテナを設置
「年配のお客様がカセットテープからICレコーダーに移行している」(清水店長)として賑わっているICレコーダーの売り場でも、モックを展示するだけではなく、手を抜かずに実機もしっかりと展示している。
モックと一緒に実機も展示するオリンパスのICレコーダー
ケーズHDでは「あんしんパスポート」を約3400万枚発行しており、単純に485店舗(17年3月末)で割ると1店あたり7万枚となる。ケーズデンキ水戸本店は18万9000枚を発行し、平均の2.5倍という圧倒的な会員数を誇る。創業の地のフラグシップ店という地位に甘んじることなく、今後もコツコツと「ケーズファン」を増やしていきそうだ。(BCN・細田 立圭志)
1999年にオープンしたケーズデンキ水戸本店
ヤマダ電機、コジマは撤退
初代店長に就いたのは、現在のケーズホールディングスの遠藤裕之会長兼CEO。ケーズ創業の地にある店舗だけあって業界のだれもが注目するなか、常にグループで3位以内の売上高を誇るのはもちろん、18年がたった今でも、現金値引や長期無料保証などの会員サービスが受けられる「あんしんパスポート」を、毎月約1200枚、新規に発行するほど、地域客に根差した運営を行っている。90年代から2000年前後にかけて、北関東を本拠地とするヤマダ電機とコジマ、ケーズデンキ(97年までカトーデンキ)は、互いの地元に出店して激しく競い合い、「YKK戦争」と称してメディアを賑わせた。コジマが水戸に出店して最初に仕掛けたのは86年のことだが、今ではその店舗は撤退している。
ヤマダ電機も、テックランド水戸本店は現在でも残るが、08年にケーズHD本社前の水戸駅南口に売場面積約8300m2の旗艦店「LABI水戸」を出店したが、15年5月末に閉店して撤退した。水戸駅南口には、コジマを吸収したビックカメラの「水戸駅店」が残るだけ。「競合店があったほうが、お客様が価格を比較しながら商品を選べるのでいい」と、加藤修一相談役は余裕の構えをみせる。
上席執行役員の清水潔水戸本店店長
現在の水戸本店店長は、14年11月に就任した上席執行役員の清水潔氏だ。それ以前は10店舗の店長などを歴任した後、本部の営業推進部に所属していた。ケーズでは店長と本部の人事異動はよくあることで、珍しくない。両方の視点を持つことで、全社的な立場から見る目が養われる。「店舗ではあたりまえのこととして埋もれてしまいがちな工夫や改善要望を、遠慮することなく本部に伝達してほしいと、社員には伝えている。小さな成功でも、全店に広まれば大きな成功につながる」と、清水店長は語る。
入口から店内にスムーズに誘導
ケーズデンキ水戸本店の最新の取り組み状況を見ていこう。同店は1階が白物、2階がデジタルAVというフロア構成で、入口には体幹を鍛えるアルインコの「トランポリン717」やドクターエアの「3Dスーパーブレード」が、実際に試せるように展示している。ほかにも、アイリスオーヤマの「エアベッド」を防災や災害グッズとしても紹介。ファーストアプローチで、顧客を店内に引き込むための工夫だ。大幹トレーニングを意識した「トランポリン」(左)と「3Dスーパーブレード」
一方で、待ち時間のイライラを解消させるために、注文・配達受付カウンターの後ろにドクターエアの「3Dマッサージシート」が並べてある。通常、マッサージチェアは理美容コーナーの近くか、スペースをとるために店舗奥で展開するケーズが多いが、簡易型のマッサージシートならそれほどスペースをとらず、カウンターの後ろに体験ゾーンを設けることができる。夫婦や家族で来店した顧客が、事務手続きをしている間に、ほかの人が試せる。スペースと時間、体験という一石三鳥にもなる取り組みとして注目だろう。
配達受付カウンターの後ろに設置した簡易型のマッサージシート
入口の体感コーナーを抜けてすぐに目に入ってきたのは、黄色で染まった高圧洗浄機メーカー・ケルヒャーの売り場だ。ロードサイドの郊外型店舗では、文字通り顧客は車で来店することが多いため、車の洗浄グッズは生活に身近な存在となる。顧客が親しみを覚える商品を大きく展示することで、さらに店内の奥へと誘導する仕掛けにもなっている。
郊外型店舗と親和性の高いケルヒャーのコーナー
ケーズデンキは今年、創業70周年を迎えており、店頭でも70周年記念モデルをプッシュしている。「いい商品を市場想定よりも安い価格で提供する」(遠藤会長兼CEO)というように、基本性能はそのままに「12mの高圧ホース」をつけるなどの特典を打ち出している。農機具を洗浄している様子が分かるPOPも、地域ならではのアイデアを反映していて目を引く。
農機具の洗浄をアピールするPOP
リアル店舗の魅力を引き出す顧客視点の売り場
このように、商品を実際に手で触れたり、試せたり、サイズを実感できたりするリアル店舗の良さを、最大限に引き出す取り組みが目立つ。例えば、理美容家電コーナーでは、商品展示の横や手前に電源タップを設置して、パナソニックのドライヤーなどが試せたり、オムロンやタニタの体組成計が試せたりする。「寒くなると終了しますが、夏はお客様がサンダルを履いて来店されるので、そのまま体組成計にのっていただきやすい」と話す清水店長。取材した日も、その前の土、日が久しぶりの天気で気温も高かったので、現場判断で試せるコーナーを臨機応変に再開したという。
電源タップで試せるドライヤー(左)と暑い日に試せる「体組成計」
大型の白物商品である冷蔵庫売り場でも、同じ様子が確認できる。例えば、日立の冷蔵庫「真空チルド」では、「新鮮スリープ野菜室」として野菜の鮮度が長持ちする機能を搭載するが、野菜庫には日にちが経過してもみずみずしい葉野菜が確認できる。「真空チルド室」にも、普通の庫内保存時と比較したチーズとハムの鮮度の違いが認識できるようになっている。
野菜室や真空チルドの鮮度の違いがわかる日立の冷蔵庫
「最近の冷蔵庫は大型化して高さもあるので、ヒールを履いた女性のお客様にはスリッパを用意して、最上段の奥まで手が届くかチェックできるようにしています。店頭では大丈夫だったのに、家で使ったときに届かなかったということがないように注意を払っています」と、清水店長は顧客の視点に立った接客に努める。
デジタルAV機器でも同じだ。年配客にはまだ根強い人気があるラジオ売り場では、実際に聞くことができるのはもちろん、広くて大きな店内では電波の状況が不安定になるため、増幅するアンテナを設置していることをアピールしている。さりげない訴求だが、家電専門店としてテレビなどのアンテナ工事を安心して任せられることが伝わる。
ラジオ売り場では音がクリアに聞こえるように増幅するアンテナを設置
「年配のお客様がカセットテープからICレコーダーに移行している」(清水店長)として賑わっているICレコーダーの売り場でも、モックを展示するだけではなく、手を抜かずに実機もしっかりと展示している。
モックと一緒に実機も展示するオリンパスのICレコーダー
「ケーズファン」を家族から個人へ
冒頭で会員サービスの「あんしんパスポート」に毎月1200枚の新規受付がある点に触れたが、清水店長によると「家族で1枚と誤った認識をしているお客様に、あらためて1人1枚を発行できることをお勧めしているのが要因のひとつ」と語る。「ケーズファン」を家族から個人に広める取り組みだ。ケーズHDでは「あんしんパスポート」を約3400万枚発行しており、単純に485店舗(17年3月末)で割ると1店あたり7万枚となる。ケーズデンキ水戸本店は18万9000枚を発行し、平均の2.5倍という圧倒的な会員数を誇る。創業の地のフラグシップ店という地位に甘んじることなく、今後もコツコツと「ケーズファン」を増やしていきそうだ。(BCN・細田 立圭志)