ナニワ商会の塩山社長に聞く、データと野武士の力

インタビュー

2017/08/25 18:00

 塩山知之社長が、ナニワ商会で入社当時に担当していた部署が、情報システム開発室だった。同社は業界に先駆けて、ERP(統合基幹業務システム)の「SAP R/3」を導入するという大規模なIT投資を行っていた。残念ながら、当時の導入効果は限定的なものにとどまったということだが、ITとデータを武器として競争に勝ち抜くという考え方は、今に生きている。

取材・文/日高 彰、写真/松嶋 優子

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ERP導入当時を振り返るナニワ商会の塩山知之社長

―― 塩山社長が入社された2004年は、まだ「経営の可視化」といった言葉があちこちで聞かれる時代ではなかったと思います。ERP導入の成果はいかがでしたか。

塩山 予算や利益の管理・分析など、ある程度の可視化はできましたが、本当にリアルタイムでお金や在庫の流れを把握し、経営や業務に反映するというところまではいけませんでした。当時、ナニワ商会の人間はみんな、個々人のガッツと義理人情で売っている“野武士集団”みたいなものでしたから、システム化によって経営の効率化やチェーンオペレーションを実現するといっても、限界がありました。

―― システムと現場との間に隔たりがあった。

塩山 導入にあたって、ITコンサルタントが業務フローのヒアリングに来て、それに現場の人間が対応していましたが、日本人同士なのに英語と日本語で会話しているくらい、話が通じていなかったかもしれません(笑)。

―― 今、店舗での主力事業となっている中古カメラ販売はどのように推移していますか。

塩山 中古販売は今のところ、現場の努力でなんとか伸ばしてくれていますが、新品のカメラ市場自体が縮小している影響で、中古も徐々に厳しくなってきています。中古の商売は買い取りがうまくいくことがまず大事ですから、新品が落ち込むと、その影響をもろには受けないものの、次第に買い取りが難しくなっていきます。また、市場が縮小する中でも業績を伸ばしている競合他社さんもあるので、環境としてはしんどくなってきています。
 

「カメラのナニワ」心斎橋本店と心斎橋プリント工房

―― 厳しい環境下でありながら、なんとか伸ばせている理由を、どのように分析されていますか。

塩山 従業員の商品知識に加えて、ネットも含め集客に力を入れていることですね。ウェブサイトのSEO(検索エンジンへの最適化)には力を入れていますし、SNSやブログを通じて撮影の楽しさや商品を知っていただくためのコンテンツマーケティングにも積極的に取り組んでいます。また、今後はデータを活用した提案・集客を行っていこうと考えており、DMP(データ管理プラットフォーム)をいま構築しているところです。

―― DMPとはどのようなものでしょうか。

塩山 購買履歴などのすべての顧客情報を、一か所のデータベースにまとめたものとお考えください。店頭、自社のネットショップ、Amazonや楽天の店舗など、さまざまなチャネルでの販売の実績、そして買い取りの実績を集約すると、例えば、このお客様はどのくらいの周期で買い替えているから、このタイミングでこんな商品をおすすめするのが最適といったことがわかります。お客様一人ひとりのニーズに応じたご提案をすることで、カメラの買い替えサイクルを継続的にサポートしていくのが狙いです。ただ、データが見えるようになっても、実際にお客様へどのようにアプローチをするかはよく考えなければいけませんので、そこの企画も練っているところです。

―― データの力と、先ほど言われていた野武士の力、これらが合わさることで、市場環境が厳しい中でも顧客をつかむことができると。

塩山 もちろん、データマーケティング自体がまだ実験的な時期なので、成功するかはわかりませんよ。ただ、今“イケてる”企業は例外なく、何らかの形でITを活用されていますよね。やらなきゃいけないのは間違いないです。

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