バッファローの井上武彦社長が語る、外付けHDDの差異化戦略(前編)
バッファローは「データ復旧サービス」に続き、7月から「みまもり合図」をスタート。「みまもり合図」は、故障する前に通知してくれるビフォアサービス。外付けHDDのゆりかごから墓場までのトータルソリューションを提案することで他社との差異化を図る。
取材/道越一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト
文/細田 立圭志、写真/瀬之口 寿一
モノからコトで「質」を変える
サポートで外付けHDDの差異化戦略
バッファローの井上武彦社長
井上 どちらかというとPC周辺機器市場は厳しい局面にあって大変だと思う反面、ファイトもわいてきます。やるべきことははっきりしています。バッファローは国内の外付けHDDや無線LANなどで強いポジションを築いており、このポジションを堅持、維持すること。もうひとつは、会社の質を変えていくことです。
道越 どのように質を変えていくのですか。
井上 「モノ売りからコト売り」とよくいわれますが、単に製品を売るだけではなく、ソリューションを提案するのです。日本市場は人口が減り縮んでいます。周
辺機器という言葉通り、われわれの製品は、中心にある製品(の売れ行き)に影
響を受けます。東京五輪(に向けた需要喚起)はありますが、テレビも以前のア
ナログ停波やエコポイントの頃の規模にはならないとみています。
道越 国内のコンシューマ事業での「コト売り」はどのように取り組みますか。
井上 バッファローでいえば6月に発表した「データ復旧サービス」と、7月に発表した「みまもり合図」などのソリューションです。外付けHDDは、6年後に半分が壊れるというデータもあるほどです。お客様は、データが消えてしまったら悲しみます。
「お金には代えられないプライスレスで大切なもの」を守りたいと語る井上武彦社長
お孫さんの写真は、まさにお金には代えられないプライスレスで大切なものです。これまでのバッファローのビジネスはHDDを売って終わりでしたが、リカバリという切り口でお客様の困りごとに対応することで、安価なHDDでデータも復旧する。これが「データ復旧サービス」です。
道越 安価という点では、サポート料金を明瞭にしたことも画期的でしたね。
井上 結構、データリカバリの業界は節操がないようです(笑)。われわれが事前調査をしたところ、100万円を提示されたケースもあり、その価格は相対で下がっていくのです。最初の100万円はなんだったのかとなります。また、HDDの物理的な状況というよりは、どんな情報が入っていたのかを聞き出して、値付けするようです。これではお客様からの信頼は得られませんよね。
HDDが壊れるということから、われわれ自身が目を背けていた反省もあり、料金はシンプルで明確にしました。家電量販店へのあいさつ回りでも「、セールストークに使える」とおっしゃっていただいけるなど評価されています。
井上 こちらはさらに踏み込んだサービスで、HDDの健康状態を通知するアプリをバッファロー製HDDに対して無償で提供するものです。使った時間や状態を総合的に診断しながら、バックアップを促したりするなど、信号機のように「青」「黄」「赤」で分かりやすくお知らせするサービスです。
最近のHDDは2TBや3TBの大容量になっているので、普通の用途では使い切れないケースが多くあります。つまり、買い替える前に壊れてしまうケースも出てくるので、故障する前に通知する必要があるだろうと考えて「みまもり合図」をリリースしました。
道越 無線LANも外付けHDDと同じビジネスが可能でしょうか。
井上 無線LANはまだ技術面で改善の余地があるので、付加価値をつけていけます。こちらは、製品力を磨いていかなければなりません。例えば、スマートフォンなどの機器を狙って電波の束を形成するビームフォーミングや通信の混線を解消するバンドステアリングなどの技術力で、販売シェアNo.1を堅持していきたいです。より安定して高速で、遠くまで飛ばすという点で、無線LANの技術はまだまだ進化します。
道越 IoTでいろいろな製品がネットワークにつながると、無線LANの技術を使
ったビジネス領域は拡大しますね。
井上 モノにセンサを搭載して、データを吸い上げて制御するのがIoTの考え方とすれば、有線ではなく無線が基本になります。バッファローにはしっかりとした無線の技術力があるので、この分野にも注力していきたいですね。「バッファロー製品を買っておけば間違いない。安心だね」と言っていただけるような会社にしたいです。品質はもちろん、お客様や販売店様、法人様からの信頼や安心を追い求めていきたいですね。
■プロフィール
井上武彦
1954年2月7日生まれ、神奈川県出身。東京大学経済学部卒業。2012年9月、メルコホールディングス入社、13年1月に同経営管理部長、4月にバッファロー経営企画部長、5月に同取締役、6月にメルコホールディングス管理部長、15年8月にバッファロー常務取締役、12月にBUFFALO AMERICAS,INC.CEO兼COO(現職)。17年5月9日、バッファロー 代表取締役社長に就任(現職)。趣味はゴルフ、ジョギング、読書
・後編に続く
・<動画インタビュー>トップに聞く『会社の夢』―バッファロー 井上武彦社長
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年8月号から転載
取材/道越一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト
文/細田 立圭志、写真/瀬之口 寿一
モノからコトで「質」を変える
サポートで外付けHDDの差異化戦略
バッファローの井上武彦社長
外付けHDDのリカバリ料金を明瞭化
道越 5月に社長に就任されました。あらためて意気込みをお聞かせください。井上 どちらかというとPC周辺機器市場は厳しい局面にあって大変だと思う反面、ファイトもわいてきます。やるべきことははっきりしています。バッファローは国内の外付けHDDや無線LANなどで強いポジションを築いており、このポジションを堅持、維持すること。もうひとつは、会社の質を変えていくことです。
道越 どのように質を変えていくのですか。
井上 「モノ売りからコト売り」とよくいわれますが、単に製品を売るだけではなく、ソリューションを提案するのです。日本市場は人口が減り縮んでいます。周
辺機器という言葉通り、われわれの製品は、中心にある製品(の売れ行き)に影
響を受けます。東京五輪(に向けた需要喚起)はありますが、テレビも以前のア
ナログ停波やエコポイントの頃の規模にはならないとみています。
道越 国内のコンシューマ事業での「コト売り」はどのように取り組みますか。
井上 バッファローでいえば6月に発表した「データ復旧サービス」と、7月に発表した「みまもり合図」などのソリューションです。外付けHDDは、6年後に半分が壊れるというデータもあるほどです。お客様は、データが消えてしまったら悲しみます。
「お金には代えられないプライスレスで大切なもの」を守りたいと語る井上武彦社長
お孫さんの写真は、まさにお金には代えられないプライスレスで大切なものです。これまでのバッファローのビジネスはHDDを売って終わりでしたが、リカバリという切り口でお客様の困りごとに対応することで、安価なHDDでデータも復旧する。これが「データ復旧サービス」です。
道越 安価という点では、サポート料金を明瞭にしたことも画期的でしたね。
井上 結構、データリカバリの業界は節操がないようです(笑)。われわれが事前調査をしたところ、100万円を提示されたケースもあり、その価格は相対で下がっていくのです。最初の100万円はなんだったのかとなります。また、HDDの物理的な状況というよりは、どんな情報が入っていたのかを聞き出して、値付けするようです。これではお客様からの信頼は得られませんよね。
HDDが壊れるということから、われわれ自身が目を背けていた反省もあり、料金はシンプルで明確にしました。家電量販店へのあいさつ回りでも「、セールストークに使える」とおっしゃっていただいけるなど評価されています。
HDDの診断サポートも展開 無線LANは改善余地あり
道越 もう一方の「みまもり合図」は。井上 こちらはさらに踏み込んだサービスで、HDDの健康状態を通知するアプリをバッファロー製HDDに対して無償で提供するものです。使った時間や状態を総合的に診断しながら、バックアップを促したりするなど、信号機のように「青」「黄」「赤」で分かりやすくお知らせするサービスです。
最近のHDDは2TBや3TBの大容量になっているので、普通の用途では使い切れないケースが多くあります。つまり、買い替える前に壊れてしまうケースも出てくるので、故障する前に通知する必要があるだろうと考えて「みまもり合図」をリリースしました。
道越 無線LANも外付けHDDと同じビジネスが可能でしょうか。
井上 無線LANはまだ技術面で改善の余地があるので、付加価値をつけていけます。こちらは、製品力を磨いていかなければなりません。例えば、スマートフォンなどの機器を狙って電波の束を形成するビームフォーミングや通信の混線を解消するバンドステアリングなどの技術力で、販売シェアNo.1を堅持していきたいです。より安定して高速で、遠くまで飛ばすという点で、無線LANの技術はまだまだ進化します。
道越 IoTでいろいろな製品がネットワークにつながると、無線LANの技術を使
ったビジネス領域は拡大しますね。
井上 モノにセンサを搭載して、データを吸い上げて制御するのがIoTの考え方とすれば、有線ではなく無線が基本になります。バッファローにはしっかりとした無線の技術力があるので、この分野にも注力していきたいですね。「バッファロー製品を買っておけば間違いない。安心だね」と言っていただけるような会社にしたいです。品質はもちろん、お客様や販売店様、法人様からの信頼や安心を追い求めていきたいですね。
■プロフィール
井上武彦
1954年2月7日生まれ、神奈川県出身。東京大学経済学部卒業。2012年9月、メルコホールディングス入社、13年1月に同経営管理部長、4月にバッファロー経営企画部長、5月に同取締役、6月にメルコホールディングス管理部長、15年8月にバッファロー常務取締役、12月にBUFFALO AMERICAS,INC.CEO兼COO(現職)。17年5月9日、バッファロー 代表取締役社長に就任(現職)。趣味はゴルフ、ジョギング、読書
・後編に続く
・<動画インタビュー>トップに聞く『会社の夢』―バッファロー 井上武彦社長
◇取材を終えて
米国で14年間、パナソニックの自動車事業に携わった井上新社長。長い海外経験で培われた国際感覚を生かして、米州、欧州市場をテコ入れし、現在一旦引いている中国市場への再チャレンジを目論む。やるべき事を着実に実行しながら足場を固め、次のチャレンジに進む構えだ。コト売りで売上拡大を狙うBtoC領域に加え、BtoB分野も大きく育てるのが当面のゴール。減収増益のジレンマに陥っている現状を変える新しい波を起こせるかが課題だ。(柳)
米国で14年間、パナソニックの自動車事業に携わった井上新社長。長い海外経験で培われた国際感覚を生かして、米州、欧州市場をテコ入れし、現在一旦引いている中国市場への再チャレンジを目論む。やるべき事を着実に実行しながら足場を固め、次のチャレンジに進む構えだ。コト売りで売上拡大を狙うBtoC領域に加え、BtoB分野も大きく育てるのが当面のゴール。減収増益のジレンマに陥っている現状を変える新しい波を起こせるかが課題だ。(柳)
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年8月号から転載