• ホーム
  • トレンド
  • ユニットコムの端田社長、アキバのPCパーツ街から「反転攻勢」

ユニットコムの端田社長、アキバのPCパーツ街から「反転攻勢」

インタビュー

2017/07/28 18:00

 ようやく底打ち感が出てきたコンシューマ向けPC市場のなかで、嗜好性が高く最先端な商品に敏感なユーザーが多いゲーミングやVRなどを利用目的とする高性能自作PCが、市場をけん引する形で好調だ。73店舗の「パソコン工房」を展開するユニットコムは、2月から売り上げベースで前年比2ケタ増の高い伸びを示し、出雲工場もフル稼働の状況が続いている。仮想通貨ビットコインによる「バブル」も相まって、アキバのPCパーツ街が熱い。

取材・文/細田 立圭志、写真/大星 直輝


端田泰三社長

■アキバのPCパーツ街から「反転攻勢」
「スタートアップ」とリアル店舗をクロス

19店の閉店後に期待の新店
ベンチャー製品の体験が軸

―― 7月28日に東京・秋葉原で新店「パソコン工房 AKIBA STARTUP」がオープンしますね。

端田 ユニットコムにとっては反転攻勢を象徴する店舗になります。5年ほど前から名古屋などの中部エリアで強いグッドウィルや、とがったブランドのTWOTOPなどのストアブランドを「パソコン工房」に統一しました。「パソコン工房 グッドウィル四日市店」というように、冠に「パソコン工房」を入れるようにしたのです。

 また、92あった店舗を、2016年3月期に19店を閉鎖して73店舗体制にしました。商圏が重複していた店や不採算店を整理した結果、17年3月期は売上高は減りましたが、営業利益と経常利益は前年を上回り、筋肉質な経営体質になりました。前期の第3四半期からは、経営の舵を大きく切り、ITの情報発信スポットである秋葉原に新しい企画の「パソコン工房 AKIBA STARTUP」をオープンするために、約半年かけて準備してきました。今期は大幅な増収を目標にしており、利益だけでなく売上高も増やしていくつもりです。
 

―― 秋葉原の目抜き通りの中央通りから一本入った場所にできる新店舗の特徴を教えてください。

端田 もともと「パソコン工房 秋葉原イイヤマストア」と「パソコン工房 秋葉原 BUY MORE店」の間にある店舗で、秋葉原でもっとも賑やかなパーツ通りにあります。ドミナント戦略の一環です。2階はすでにサポートセンターと回線事業を展開していましたが、1階をどうしようかとなり、新入社員から執行役員まで含めた社員480人の全社コンペを実施して企画を募りました。

―― 新店は社員のアイデアから生まれたのですか。

端田 提出された約20件の企画のなかから、ある課長代理が出した「スタートアップの製品を扱いたい」という提案が決まりました。売場面積は46㎡と狭いですが、1階を18のブースに区切って、スタートアップなどのベンチャーの製品を展示して、お客様に実際に見て、触って、体験してもらうのです。

 さまざまなベンチャーに話をしたところ、ブースを3つや4つ借りる企業もあったりして好評でした。平均して1か月ごとにブースの内容は変わりますが、すでに今年12月まで出店するベンチャー企業が決まっています。ベンダーにとってはお客様からアンケートを取るなどして、テストマーケティングに使えます。

 われわれにとっては、PCパーツ市場の活性化やIoT、AIなどに必要なCPUなどの販売、VR、180度モニタなど、PCを含めた新しい製品の事業の立ち上げ時からかかわれるメリットがあります。

―― スタートアップが事業化する際に使うスキームに、クラウドファンディングなどウェブを活用するケースが多いようですが、あえてリアル店舗で実施する狙いは。

端田 秋葉原という最先端スポットであることが大きいですね。お客様自身がPCにとても詳しく、スタートアップの製品に対するニーズも強いんですよ。また資金面では、ファンディングを手掛けてモノづくりを支援するMCJのスキームが活用できます。もちろん、73達力や商社機能などをあらゆる形で活用できる強みがあります。

BTOの出雲工場はフル稼働
40代後半に売れる「高性能PC」

―― VRやゲーミングPC、自作PC市場が盛り上がっていますね。

端田 今年2月から売り上げベースで毎月、前年同月比110%で推移しています。個人向け商品ではVRやゲーミングPCなどの非常にハイスペックなPCがよく売れていますし、法人向け商品では映像や画像編集用PC、医療関係向けの高性能PCが売れています。BTO(Build To Order)やCTO(Confi gure To Order)のPCを製造している出雲工場は、従前は繁忙期の3月が過ぎると閑散期に突入しますが、今年は本部から応援を出さなければならないほど、ずっとフル稼働の状況です。VRを楽しむPCも30万円はするので、購入者は40代後半以上の方々が多いですね。

―― 今年1月に社長に就任されてから、随分と会社の雰囲気が変わったのではないですか。

端田 タウンミーティングと呼ぶ会議で、社員とはよくコミュニケーションをとっています。働きたい店舗を自分から立候補できるようにしたり、店舗と本部の部署異動を活発化させています。社長に就任してから3つのことを大切にしています。従業員の皆さんが安心して将来を語れること、給与を上げていきながら生活面の安
心を与えること、そして皆さんが事業に参画して働きがいを持って仕事してもらうことです。

 目標を達成したら、焼肉大会などを開いたりして、どんちゃん騒ぎをしちゃいますが、会議では社員からよく意見が出るようになりましたし、社員の表情も明るくなりました。中期経営計画でも、2020年のWindows 7のサポート終了で売り上げは増えるでしょうが、需要の先食いなので、その分はあえて計画値に入れていません。それでも売上高はV字で成長する姿を描いています。

<沸き変えるアキバのパーツ街>に続く

 
■プロフィール

端田泰三
 1959年3月生まれ。兵庫県神戸市出身。81年協和銀行(現りそな銀行)に入行し、支店統括部業推担当主任調査役、堺支店長、心斎橋支店長を歴任。2003年8月アロシステム(現ユニットコム)に出向し、04年6月に転籍。取締役管理本部長兼総務人事部長を務める傍ら経営企画室長に就任。17年1月より現職。

【動画】トップが語る『会社の夢』
 
◇取材を終えて

 「次回はタコパにしましょうか」。取材後に、大阪・日本橋にあるパソコン工房の店舗前での端田社長の撮影の合間に、法人統括部の福留部長が笑顔で声をかける。目標を達成したら実施している焼肉大会を、次回はたこ焼きパーティにしたらどうかというアイデアが社員から上がっているようだ。店舗を出入りする社員の表情はみな笑顔で明るい。「もちろん、焼肉もたこ焼きも安い店ですがね」と、はにかむ端田社長との会話からも社員の距離の近さが伝わった。東京・秋葉原の新店オープンが楽しみだ。
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年8月号から転載