消費者と企業の適切な距離とは?

オピニオン

2017/07/16 12:00

 新聞や雑誌などに掲載された有識者のコラムや読者投稿欄のコメント、企業のTVCMなどは、しばしば批判の対象となり、議論の発端となったブログやSNSの投稿は、猛烈なスピードで拡散されていく。こうした「炎上事件」や「騒動」は、消費者と、既存のメディアを含む企業の価値観のズレを示唆する。

伸びるインターネット広告 プロモーションの中核に

 電通の調査によると、日本の広告費はここ2~3年で、微増傾向にある。2016年の総広告費は、前年比101.9%の6兆2880億円。このうち、媒体費と広告制作費を合わせたインターネット広告費は、前年比113.0%の1兆3100億円で、総広告費に占める割合は20.8%に達した。新聞やテレビなどのマスコミ4媒体に比べ、他の分野より伸び率は高く、16年は、媒体費単独で初めて1兆円の大台を超えた。数年前から、従来の紙媒体への広告出稿を取りやめ、オンライン広告中心に切り替えるメーカーも増えている。
 

 電通は、最近の傾向として、企業のオウンドメディア(企業サイトなど、自社で所有し、自社の情報を発信するメディア)単体で完結するのではなく、インターネット以外の施策と連動するサイトやコンテンツの制作、データ分析にもとづくサイト運用にまつわる制作など、企業のマーケティングやプロモーション活動に紐づく制作が増加していると指摘する。

ネットの基本は双方向 一方的に発信した情報は届かない

 従来のBtoC企業の公式サイトは、コンシューマ向けに新製品の発売情報、販売中の製品のサポート情報を載せ、取引企業や投資家向けに企業理念などの「会社紹介」やIR情報を一方的に発信するだけというパターンが多く、いわば「紙のカタログ」のオンライン版だった。

 しかし、情報収集の手段としてインターネット検索が定着し、オンラインショップのユーザーレビュー欄や口コミサイトに投稿された「口コミ」や、「YouTuber」に代表される人気のSNS・動画投稿サイトで活躍する著名人の「感想」を参考にする人が増え、海外のメーカーを中心に、製品活用のヒントや読み物コンテンツを充実させるなど、企業サイトそのものを「メディア化」する動きもみられる。こうした動きも、インターネット広告費の伸びを支えている。
 

一部の企業は、企業サイトに読み物コンテンツを組み込んでいる

 海外のメーカーの場合、基本的に全世界共通で展開しており、Webサイトは世界的なブランド戦略の一つに組み込まれている。「炎上」のリスクや、運用コストの増大、コンテンツ不足など、懸念点はあるものの、おそらく、この方向性は続くだろう。

 インターネットは、確実に「企業」と「消費者」の距離を近づけた。同時に、新聞や雑誌など、旧来のマスメディアと、その分野が好きなだけのアマチュアや匿名の個人が自発的に発信する口コミの境目がなくなり、情報源として後者に重きをおく消費者も増えている。デジタル家電・白物家電も例外ではない。
 

アンバサダー制度を展開し、ファンミーティングを開催する企業も増えている。
扱いは時に既存のマスメディア以上だ

 一方で課題も多い。ある日本の総合家電メーカーは、自社サイト内のすべての更新状況を把握している人がいないという。縦割りの企業組織そのままに、従来の部署やプロジェクト任せの散発的なプロモーション展開では、統一的なブランドイメージの醸成は難しいだろう。

 企業からの一方的な情報発信やキャンペーンだけでなく、双方向オンラインのやり取りやリアルイベントなどを活用して、消費者を自然なかたちで囲い込み、自社の熱心なファンになってもらうこと。少なくとも、SNSやブログで影響力をもつ「有名なアカウント」を味方にすることは、勝ち残りのための最低条件だ。(BCN・嵯峨野 芙美)

※『BCN RETAIL REVIEW』2017年8月号から転載