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一歩だけ先に行く――ファーウェイ・ジャパンの呉波氏が語るスマホの今後

 2016年、SIMフリースマートフォンの販売台数が大幅に伸びた最大の要因は、ファーウェイ・ジャパンが6月に発売した「HUAWEI P9 lite」のヒットだ。その後継機種「HUAWEI P10 lite」をはじめ、ファーウェイは、SIMフリースマートフォン3機種、タブレット端末2機種、新しいスポーツスマートウォッチを6月9日に一斉に発売。同時に「HUAWEI P9 lite」を2000円値下げし、さらなるシェア拡大に向け、攻勢をかけている。そこで、同社の販売戦略や今後の展望をファーウェイ・ジャパン コリア リージョン デバイス・プレジデントの呉波氏に聞いた。


ファーウェイ・ジャパン コリア リージョン デバイス・プレジデントの呉波氏

「HUAWEI P9 lite」が日本で売れたワケ

 家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」の月次集計によると、「HUAWEI P9 lite」は、16年7月以降、11か月連続で、SIMフリースマホのシリーズ別販売台数1位を獲得する大ヒット商品になった。16年は年間を通じて1位、今年も今のところ1位を維持している。スマホ全体のメーカー別順位をみても、iPhoneのApple、Xperiaのソニーモバイルコミュニケーションズに次いで、3位に食い込む月もあり、この1年、どんどん勢いづいている印象を受ける。
 

新製品発表会の戦略プレゼンのなかで、呉波氏が紹介した今年前半の販売実績。昨年からの好調が続いている

 呉波氏は、「HUAWEI P9 lite」が日本でこれほど売れた理由について、「日本の消費者が求める機能、価格帯をあらかじめ分析し、それにあわせて売り出したからだ」と話す。綿密なマーケットリサーチから生まれた、戦略的なヒットだったといえるだろう。

ミドルレンジとハイエンド、カメラを強化したPシリーズの2つのアプローチ

 同時に発売したSIMフリースマホ「HUAWEI P10 Plus/P10/P10 lite」はそれぞれ価格帯が異なり、新機能「ポートレードモード」を搭載したダブルレンズカメラ仕様の「HUAWEI P10 Plus/P10」は税込み7万円超、MVNOのSIMカードとの同時購入でも、それより数千円安くなる程度と、Android搭載SIMフリースマホとしては高額だ。ただ、キャリアが販売するハイエンドスマホや、デジタル一眼カメラの入門機の価格と比べると、そこまで高いわけではない。
 

今年は、初めて日本でもHUAWEI Pシリーズのすべてをラインアップする。
ダブルレンズカメラを搭載した大画面5.5インチの「HUAWEI P10 Plus」は日本初登場だ

 3機種のうち、どの機種が一番売れるかとたずねると、呉波氏は、「今の日本のSIMフリースマホの様子をうかがうと、やはりP10 liteになると思う」とコメント。一方で、年間通じた売上金額では、単価の高い「『P10 Plus』と『P10』が『P10 lite』を抜くのでは」との見方も示した。

 若者世代を中心に、SNS上で写真を使ったコミュニケーションや自己表現が広がっている。新機能「ポートレードモード」をはじめ、さまざまな撮影モード・機能を活用して「SNS映え」する写真を簡単に撮れる「HUAWEI P10 Plus/P10」は、たとえ価格が高くとも、一定の数が売れ、じわじわとその良さが広がると見込んでいるようだ。
 

「HUAWEI P9」と「HUAWEI P9 lite」がヒットしただけに、最新モデルにかかる期待は大きい

 一般的な家庭の場合、家計に占める通信料金の割合は、およそ4%程度といわれている。スマホ自体の通信料金に加え、万が一の故障に備えた端末補償サポートなどの有料オプションや、月額制の動画配信、ゲームなどの有料コンテンツの料金も支払わなければならないため、端末にはさほど機能を求めず、できるだけ安く抑えたいというニーズは高い。3機種のなかで最も安い「HUAWEI P10 lite」に人気が集中するのか、それとも分散するのか、SIMフリースマホのトレンドを占うという意味でも、新シリーズ3機種の売れ行きに注目が集まる。

「充電は朝の30分だけ」 地道なUI改善・強化で他社と差異化を図る

 今後の展望として、「次に発売する新製品に隠し玉的なものはあるか」とたずねると、呉波氏は、「ファーウェイは技術イノベーションを重要視し、売上の10%以上を研究開発に投資している。去年は90億ドル以上を投資した」と、まずはファーウェイの全世界での取り組みを説明。世界的にスマホの進化が一段落し、やや停滞感が出始めてきたなかで、「正直、いま、大きな差別化は難しい。ファーウェイならではの独自性は、使い勝手を高めるユーザーエクスペリエンス。まずはカメラ技術、次はバッテリ、そして充電技術」と話す。
 

ユーザーエクスペリエンスを高める細かな工夫の例。急速充電は、地味に便利なポイントだ

 「他社とは違い、ファーウェイのスマホは、毎日、寝る前に充電をセットする必要はない。急速充電に対応してるので、朝、でかける準備をしている間に30分充電すれば1日使えるからだ。独自のEMotion UI(最新版「EMUI 5.1」)は、使いたい機能の70%は2タップで済む。また、『P10 Plus/P10』は、これまで背面にあった指紋認証センサをフロントに変更した。Androidのデフォルトの3つのボタンは片手では操作はできないが、フロントの指紋認証ボタンを押すと一つ前の画面に、長押しするとメイン画面に戻る。こうした細かな工夫をたくさん盛り込んだ。ナックルジェスチャーも操作画面の動画キャプチャもそうした工夫の一つ」と、実際に端末を操作し、ジェスチャーを交えながら工夫したポイントを説明した。

 日本で「コストパフォーマンスがいい」と評されることは、デジタル製品に限らず、とても高く評価されていることを示す。今やSIMフリースマホは「格安スマホ」とも呼ばれ、安いスマホという認識が広がっている。実際、「BCNランキング」によると、最も販売台数の多い価格帯は2~3万円台だ(詳しくは<売れ筋は2~3万円台、ハイエンドでも6万円台、安さ際立つSIMフリースマホ>を参照)。しかしファーウェイのラインアップは、「HUAWEI P10 Plus/P10」や「HUAWEI Mate 9」などの6万円超のハイエンドモデルの充実ぶりに対し、2万円以下の低価格帯は「HUAWEI nova lite」のみ。徐々に高級路線に舵を切っているようにみえる。

 その理由をたずねると、「スマホは1日24時間身につける大切な消費財。見栄えのしない、高級感のまったくないスマホを持ち歩きたいとは思わないはず。ファーウェイはグローバルのトレンドを把握しているので、中間の価格帯のミドルレンジモデルでも高級感を持たせることができる」といい、だからこそ、世界で一番求める品質水準の高い日本のユーザーに受け入れられていると、自信を見せた。
 

気をてらわず、ユーザーニーズに見合った新機能でパイオニアを目指すと笑顔で話した

 インタビューを通じて、サムスンの「Galaxy S8/S8+」のようにデザイン面の大幅な変更で、奇をてらった進化をアピールすることは、グローバルでも日本でも想定していないようだった。「社内でよく言っていることだが、人より3歩進むと往々にして犠牲者となって消え去っていくが、1歩だけ進むとパイオニアとして成功者になる。今後に向けて、そうしたいい“隠し玉”なら用意している」とやや苦笑しながら話した。

 スマホの進化は、ユーザーニーズに沿ったものであるべきという呉波氏の指摘は、使っていない機能や使いこなせていない機能の多さを考えると、確かにうなづけるものだ。「ポストスマホ」以前に、まだスマホは成熟し切っていない。(BCN・嵯峨野 芙美)


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。