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アイロボットジャパンの挽野元社長が語る、次なる市場開拓のアプローチ

インタビュー

2017/06/23 18:00

 ロボット掃除機で最大シェアを誇る米アイロボット社のルンバ。2017年4月に日本法人アイロボットジャパンを設立。直販体制に切り替え、さらなるシェア拡大を狙う。

取材/道越一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト
文/大蔵 大輔、写真/瀬之口 寿一

日本市場開拓を次のステージへ
新社長が担う役割とは

 

挽野元 代表執行役員社長

ボーズとアイロボット 共通する進化のベクトル

道越 4月3日に日本法人が設立し、社長に就任されました。挽野さんは前職でボーズ日本法人の社長を務めておられましたが、どういった経緯で今回の就任に至ったのですか。

挽野 実はボーズとアイロボットにはある共通点があります。それは両社とも創業者がボストンのマサチューセッツ工科大学(MIT)出身ということです。本国では両社で活発に人材交流が行われており、そのなかできっかけをいただきました。

道越 ボーズは音響機器専業のデジタル家電メーカー、アイロボットは、カメラやセンサなど最先端のテクノロジーを扱ってるとはいえ、製品の括りでは生活家電メーカーです。黒から白に転向することで気持ちの変化はありましたか。

挽野 いろいろな人に言われます(笑)。しかし、両社の製品が異なる領域だとは考えていません。ボーズの社長時代、音楽のストリーミングサービスや、ワイヤレスで音楽を聴くスタイルが盛り上がり、スピーカーは単に音楽を流す機能だけでなく、インターネットやデバイスと連携する機能を獲得しました。現在、アイロボットの主力商材はルンバやブラーバなどのお掃除ロボットですが、今後スピーカー同様に“つながる”家電として進化していくはずです。

道越 ルンバがIoT化すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

挽野 現在のルンバでもスマホのアプリと連携してスケジュールを組んだり、部屋のマッピングをしたりできますが、搭載しているセンサやカメラでできることはもっとたくさんあると考えています。
 

ロボット掃除機の次の可能性を語る挽野社長

 Wi-Fiって家の中でもつながりやすい場所とつながりにくい場所がありますよね。もしルンバが家中を動き回りながらWi-Fiシグナルの強さを測定してマップ化すれば、どこでネットワークに接続するのが最善なのか分かって便利だと思いませんか。今は「お掃除ロボット」という位置づけですが「家の中を動くデバイス」として発展する可能性は大いにあります。

ロボティクスの会社として 変わるブランディング戦略

道越 国内のロボット掃除機市場では競合が多いです。ルンバの他社と差異化できる強みを教えてください。

挽野 アイロボットはロボティクスに特化した会社です。軍事に始まり、現在では民生に至るまで25年以上の技術の蓄積があります。掃除能力をもたせることは他社でも可能ですが、位置把握や空間認識の精度を高めるのは容易ではありません。かつてはロボット掃除機のランダムウォークは無駄が多いといわれることもありましたが、ここ5年で飛躍的な進化を遂げました。

道越 「ルンバ」は非常に知名度がありますが、アイロボットの知名度はいまひとつという部分があったかと思います。子会社化でブランディングをしやすくなりそうですね。

挽野 ご指摘の通り「ルンバ」の知名度はだいぶ高まってきましたが、これからは「アイロボットのルンバ」だと認識していただく必要があります。アイロボット社のコーポレートロゴの「i」と「R」は、人間とロボティクスを指しています。以前はそれぞれの文字が独立していたのですが、現在は「i」と「R」がくっつき、人間とロボティクスの融合という理念を体現しています。ルンバに限らず、ロボティクスの会社としてアイロボットを定着させたいですね。
 

ブラーバ ジェット240

 2014年にアジア市場を意識して開発された水拭きと乾拭きができる床拭きロボット「ブラーバ」。16年発売の「ブラーバ ジェット240」は、従来モデルより小型・軽量化、清掃能力も向上した。ルンバと並ぶアイロボットのお掃除ロボットの看板として存在感が増しており、日本市場でも高い人気を誇る。
 
■プロフィール
挽野元(ひきの・はじめ)

1967年神奈川県生まれ。92年に横河ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)に入社。96年にヒューレット・パッカード・フランスに出向し、99年に帰国。2006年に執行役員、米国Hewlett-Packard Vice President、11年に取締役を歴任。13年にボーズ日本法人の代表取締役社長、16年に代表取締役アジア中近東地域営業開発管掌に就任。17年4月にアイロボットジャパンの代表執行役員社長に着任する。

<動画インタビュー>トップに聞く『会社の夢』―アイロボットジャパン 挽野元 代表執行役員社長
 
◇取材を終えて

 HP、ボーズで活躍した挽野さんがアイロボットジャパンの初代社長に就任した、ということは、同社の今後の方向性を明確に示している。ロボット掃除機は身近な家電製品中で、最も「ロボットらしい」製品。家庭の中を縦横無尽に動き回る機能を活かし、掃除以外の役割を与えることもできる。最先端のIoT端末になり得るわけだ。そこにITに強いトップが来れば鬼に金棒。掃除の枠から飛び出したルンバやブラーバの進化形を早く見てみたい。(柳)
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年7月号から転載