2016年の国内EC年間流通総額が3兆円を突破した楽天。屋台骨であるインターネット・ショッピングモール「楽天市場」は、16年1月に開始した「スーパーポイントアッププログラム(SPU)」をテコに、成長を再加速させている。入社以来、楽天市場一筋の矢澤俊介執行役員は「ユーザーがオンラインとオフラインを区別しなくなってきた」と、最新の顧客動向を分析する。
取材・文/大蔵 大輔、写真/大星 直輝
矢澤俊介 執行役員 兼 ECカンパニーチーフレベニューオフィサー&ディレクター
■リアル・ネットの境界なし
「楽天経済圏」の新戦略
矢澤 今までは「必要に応じて来店し、目的の商品を購入する」のがECの基本的な消費姿勢でしたが、近頃は「なんとなく楽しむために来店して、商品を物色している」というお客様が増えましたね。自分の生活をもっと豊かにしてくれる商品がECにある、ということに多くの方が気づき始めているのだと思います。
―― 実店舗と同じようにウィンドウショッピングをするユーザーが増えているということでしょうか。
矢澤 そうですね。モバイルシフトの影響もあると思います。これまでは他のEC事業者や実店舗がライバルでしたが、現在は「いかにスマートフォンの占有率を取れるか」が新たな競争軸です。SNSや動画配信サイトなど、スマホをインターフェースとするあらゆるサービスもライバルといえます。
―― 楽天は全国の拠点にECコンサルタントを配置し、出店店舗をサポートしています。顧客動向の変化に合わせて、出店店舗の戦略も変化しているのでしょうか。
矢澤 一例ですが、梱包するパッケージや段ボールの形状に工夫を凝らしています。実店舗だと棚に置くことを前提にデザインしますが、棚から商品を選ぶわけではないECで重要なのは、自宅に届いた後で手に取っていかに満足してもらえるかです。
全国に拠点を展開し、楽天市場への出店をサポートしている
消費姿勢の変化にも関連しますが、購入して収納するのではなく外に出してデザインを楽しめる、という商材がメインストリームになりつつあります。これはまさにオンラインならではのムーブメントです。
―― ユーザーはオンライン・オフラインを区別しなくなった一方で、出店店舗は戦略を差別化する必要がでてきたと。5月11日の決算発表会では、直販の割合が増えているという話もありました。
矢澤 楽天の基本はモールです。出店店舗の皆様と協力してEコマースを盛り上げていくという姿勢は変わりません。ただ日用品や消耗品など一部のカテゴリーは、配送スピードやマーケティングの観点から、楽天が直接取り扱った方がよいと判断しています。
「楽天経済圏」の新しい動きを説明する矢澤執行役員
配送スピードはユーザーが求めますし、マーケティングの最適化はメーカーに求められます。直販の割合を意図的に増やしているのではなくて、あくまで市場のニーズに則した対応ということです。
矢澤 これまでの「楽天経済圏」は、オンラインを意識した“楽天”という境界線で囲まれたサークルでした。しかし、現在のお客様はオンライン・オフラインを区別せず、シームレスに行動するようになってきている。境界線の色を薄め、さまざまなパートナーと新しい楽天経済圏を構築していく必要があります。楽天内で完結するパターンと外のパートナーと協力するパターンで、経済圏はさらに広がっていくと思いますよ。
―― 海外ではテクノロジーの力で生活圏を囲い込もうとする動きがあります。
矢澤 もちろんAIや音声認識など、あらゆる選択肢を検討しています。ドローンはすでにゴルフ場で商業化しており、他の実用化の可能性を探っています。
現在、シリコンバレーに米国本社を構えているので、テクノロジーに関する最新情報は常に耳に入ってきます。楽天は電子マネー「Edy」をはじめ、自社でポイント制度やクレジットカードを保有しているので、来たるべき潮流を捉えるチャンスは十分にあると考えています。
・<「モール離れ」の真相>に続く
取材・文/大蔵 大輔、写真/大星 直輝
矢澤俊介 執行役員 兼 ECカンパニーチーフレベニューオフィサー&ディレクター
■リアル・ネットの境界なし
「楽天経済圏」の新戦略
新たなECの潮流を読む 「指名買い」から「物色」に変化
―― 今年で「楽天市場」は20周年を迎えました。ECを取り巻く環境はサービス開始から現在に至るまで変化の連続ですが、直近ではどのようなトレンドがありますか。矢澤 今までは「必要に応じて来店し、目的の商品を購入する」のがECの基本的な消費姿勢でしたが、近頃は「なんとなく楽しむために来店して、商品を物色している」というお客様が増えましたね。自分の生活をもっと豊かにしてくれる商品がECにある、ということに多くの方が気づき始めているのだと思います。
―― 実店舗と同じようにウィンドウショッピングをするユーザーが増えているということでしょうか。
矢澤 そうですね。モバイルシフトの影響もあると思います。これまでは他のEC事業者や実店舗がライバルでしたが、現在は「いかにスマートフォンの占有率を取れるか」が新たな競争軸です。SNSや動画配信サイトなど、スマホをインターフェースとするあらゆるサービスもライバルといえます。
―― 楽天は全国の拠点にECコンサルタントを配置し、出店店舗をサポートしています。顧客動向の変化に合わせて、出店店舗の戦略も変化しているのでしょうか。
矢澤 一例ですが、梱包するパッケージや段ボールの形状に工夫を凝らしています。実店舗だと棚に置くことを前提にデザインしますが、棚から商品を選ぶわけではないECで重要なのは、自宅に届いた後で手に取っていかに満足してもらえるかです。
全国に拠点を展開し、楽天市場への出店をサポートしている
消費姿勢の変化にも関連しますが、購入して収納するのではなく外に出してデザインを楽しめる、という商材がメインストリームになりつつあります。これはまさにオンラインならではのムーブメントです。
―― ユーザーはオンライン・オフラインを区別しなくなった一方で、出店店舗は戦略を差別化する必要がでてきたと。5月11日の決算発表会では、直販の割合が増えているという話もありました。
矢澤 楽天の基本はモールです。出店店舗の皆様と協力してEコマースを盛り上げていくという姿勢は変わりません。ただ日用品や消耗品など一部のカテゴリーは、配送スピードやマーケティングの観点から、楽天が直接取り扱った方がよいと判断しています。
「楽天経済圏」の新しい動きを説明する矢澤執行役員
配送スピードはユーザーが求めますし、マーケティングの最適化はメーカーに求められます。直販の割合を意図的に増やしているのではなくて、あくまで市場のニーズに則した対応ということです。
Jリーグ?マック? パートナー連携を強化
―― 今年4月にJリーグ、5月にはマクドナルドと提携を発表しました。これは楽天経済圏の新たな戦略の一環だと捉えてよいのでしょうか。矢澤 これまでの「楽天経済圏」は、オンラインを意識した“楽天”という境界線で囲まれたサークルでした。しかし、現在のお客様はオンライン・オフラインを区別せず、シームレスに行動するようになってきている。境界線の色を薄め、さまざまなパートナーと新しい楽天経済圏を構築していく必要があります。楽天内で完結するパターンと外のパートナーと協力するパターンで、経済圏はさらに広がっていくと思いますよ。
―― 海外ではテクノロジーの力で生活圏を囲い込もうとする動きがあります。
矢澤 もちろんAIや音声認識など、あらゆる選択肢を検討しています。ドローンはすでにゴルフ場で商業化しており、他の実用化の可能性を探っています。
現在、シリコンバレーに米国本社を構えているので、テクノロジーに関する最新情報は常に耳に入ってきます。楽天は電子マネー「Edy」をはじめ、自社でポイント制度やクレジットカードを保有しているので、来たるべき潮流を捉えるチャンスは十分にあると考えています。
・<「モール離れ」の真相>に続く
■プロフィール
矢澤俊介(やざわ しゅんすけ)
1980年生まれ。2005年楽天に入社、楽天市場事業(現在のECカンパニー)でECコンサルタントとして出店店舗の売上向上を図るコンサルティング業務に従事。12年にECコンサルタントを束ねる営業統括に着任、同年11月には執行役員に就任。16年7月の社内カンパニー制導入と同時に「楽天市場」などの業務執行を担うECカンパニーのCRO(ChiefRevenue Offi cer)&ディレクターに就任。ECカンパニーの営業統括責任者を務める傍ら、同カンパニーのリテール事業部をはじめとする主要事業の責任者を兼任。アドソリューションズ事業のヴァイスプレジデントなども務めている。
・【動画】トップに聞く『事業の夢』― 楽天 矢澤俊介執行役員
矢澤俊介(やざわ しゅんすけ)
1980年生まれ。2005年楽天に入社、楽天市場事業(現在のECカンパニー)でECコンサルタントとして出店店舗の売上向上を図るコンサルティング業務に従事。12年にECコンサルタントを束ねる営業統括に着任、同年11月には執行役員に就任。16年7月の社内カンパニー制導入と同時に「楽天市場」などの業務執行を担うECカンパニーのCRO(ChiefRevenue Offi cer)&ディレクターに就任。ECカンパニーの営業統括責任者を務める傍ら、同カンパニーのリテール事業部をはじめとする主要事業の責任者を兼任。アドソリューションズ事業のヴァイスプレジデントなども務めている。
・【動画】トップに聞く『事業の夢』― 楽天 矢澤俊介執行役員
◇取材を終えて
矢澤氏が楽天に入社した2005年は、東北楽天ゴールデンイーグルスがプロ野球に初参戦した年でもある。新球団の常として最初の数年は辛酸をなめ続けたが、13年に初の日本一に輝いた。さて、その間に楽天で起こった変化は、とても一言では語りつくせない。展開するサービスの数はいまや70以上。変化が日常茶飯事の企業で、叩き上げでCROにまで上り詰めた矢澤氏はさぞやパワフルな人物だろうと予想していたが、印象は意外にも“剛”ではなく“柔”。顧客動向を細やかに読み取り、丁寧に次の一手を模索していた。(雀)
矢澤氏が楽天に入社した2005年は、東北楽天ゴールデンイーグルスがプロ野球に初参戦した年でもある。新球団の常として最初の数年は辛酸をなめ続けたが、13年に初の日本一に輝いた。さて、その間に楽天で起こった変化は、とても一言では語りつくせない。展開するサービスの数はいまや70以上。変化が日常茶飯事の企業で、叩き上げでCROにまで上り詰めた矢澤氏はさぞやパワフルな人物だろうと予想していたが、印象は意外にも“剛”ではなく“柔”。顧客動向を細やかに読み取り、丁寧に次の一手を模索していた。(雀)
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年7月号から転載