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<Special Interview>富士通コネクテッドテクノロジーズの髙田克美社長に聞く、携帯端末事業の成長戦略

インタビュー

2017/02/28 12:53

 富士通の携帯端末事業を分社化する形で、2016年2月1日に富士通コネクテッドテクノロジーズが発足した。髙田克美代表取締役社長に成長戦略を聞いた。

写真/瀬之口 寿一

新しいサービスの創出で
携帯端末事業は今後も成長できる

 

富士通コネクテッドテクノロジーズ
代表取締役社長
髙田克美

他社と一線を画す富士通ならではの地位を築く

―― 富士通から分社化し、この2月で1年を迎えました。新体制になってどのような変化がありましたか。

髙田 当社は富士通のモバイルフォン事業本部を母体として設立した会社です。当社の携帯端末事業は、企画・開発から製造、アフターサポートに至るまで一事業本部の中で担ってきたという点で、もともと富士通の中でも独立色の強い事業でしたが、昨年2月以降、より一層我々だからこそ実現できる製品やサービスの提供に、注力できる体制になったと感じています。

―― 携帯端末はいまや非常に厳しい市場となっていますが、数少ない国産メーカーとしてどのような戦略を描いていますか。

髙田 ご存じの通り、日本の携帯端末市場でもグローバルで事業を展開するメーカーが大きなシェアを獲得しています。我々としてはその市場で規模の競争を繰り広げるのではなく、独自のポジションを築くことで勝ち残る考えです。

 最もわかりやすい例が、NTTドコモ様向けにご提供している「らくらくホン」「らくらくスマートフォン」です。シニア層が使いやすいデザイン・ユーザーインターフェースや、歩数計などのセンシング技術では他社の追随を許さないものをもっていると自負しています。「らくらくホン」シリーズは現在およそ1000万人の方にご利用いただいており、ユーザーの方々に次も選んでいただける端末をご提供し続けることは、我々の重大な責務だと考えています。また、技術を継続して磨いていくためにも、「arrowsNX」シリーズのようなハイエンド機種の提供も手をゆるめることなく取り組んでまいります。

MVNO市場でも国産品質が高評価

髙田 一方で、キャリア(携帯電話事業者)ブランドの携帯端末市場はすでに成熟したマーケットであり、今後大きな成長が見込めないことも事実です。そこで、2年ほど前から取り組んでいるのが、MVNOおよび全国の家電量販店の各社様を通じてご提供している、富士通ブランドのSIMフリースマートフォンです。おかげさまで当初想定した以上に多くのお客様、MVNO各社様から支持いただき、SIMフリー端末事業は順調な成長をみせています。

―― SIMフリー端末も海外メーカーが勢いを増している市場ですが、その中で富士通ブランドの端末が選ばれている理由はどのように分析されていますか。

髙田 我々はいたずらに“量”を追うのではなく、富士通端末ならではの“質”を訴求する戦略をとっています。「格安スマホ」と呼ばれることが多いSIMフリー端末ですが、「arrowsM03」は必ずしも格安という価格帯ではなく、お値段だけをみれば当社製品より安いものはたくさん出てきています。当社の端末でご評価いただいているのは、価格とスペックのバランスの良さ、そしてアフターサービスを含む信頼性や安心感といった部分だとみています。
 

「SIMフリースマートフォンは想定以上の順調な成長」と話す髙田社長

髙田 ワンセグ、おサイフケータイへの対応、防水・防塵といった日本のユーザーが求める仕様を満たし、修理のご依頼や技術的なお問い合わせにもメーカーとして窓口を設け、高いレベルの対応ができる体制が整っている。このような条件を備え、なおかつリーズナブルな価格を実現したSIMフリー端末は多くはありません。MVNO各社様による採用も広がっていますが、最近では当社から売り込むというよりも、先方からお声がけをいただくケースも増えてきており、国内で開発から製造、サポートまで手がける当社だから実現できる、トータルでの品質の高さが市場に認められつつあると考えています。

携帯で培ったコア技術を新たなビジネスに発展させる

―― カラオケ店の楽曲検索端末に法人向けタブレット「ARROWS Tab」のカスタマイズ版が採用されるなど、特定の企業や業種に向けた端末の提案にも力を入れていますね。

髙田 法人向け端末事業は、SIMフリー端末事業と並ぶ今後の成長の柱に位置付けています。従来、法人向けの携帯端末は従業員が特定の業務を行うための道具という範囲にとどまっていましたが、いまやタブレット端末のようなスマートデバイスが、企業にとってお客様とのビジネスの接点になる時代です。お客様が毎日使っているスマートフォンと同じような使いやすいユーザーインターフェースはもちろん、厳しい環境で扱われても壊れない堅牢性や防水性能などが求められます。

 近年は、コンテンツ配信サービスの事業者が、閲覧用の端末として会員に当社のタブレット端末をレンタル提供するといった新たなビジネスモデルも生まれています。顧客に対してデジタル技術を駆使した新サービスを提供しようという取り組みは多くの企業で始まっており、当社の製品や技術がお役に立てる場面はますます増えると考えています。

―― 旧事業本部名の「モバイルフォン」ではなく、あえて「コネクテッドテクノロジーズ」という社名にされたことからは、携帯端末に限らない広い領域が想像されますが、今後の事業の発展性についてはどのようにお考えですか。

髙田 センサー、生体認証、画像認識など、当社には長年の携帯端末事業で培ってきた多くのコア技術があり、これらの技術を携帯端末だけに搭載するのではなく、さまざまなICTソリューションにも応用していきたいと考えています。例えば昨年、鳥獣被害の削減を目的に九州で実施された「広域鳥獣クラウド・プロジェクト推進事業」で、カメラ画像から害獣を検知するエンジンに当社の技術が採用されました。

 また、私どもでは以前から「ものとコトの融合」による新たな価値提供を掲げており、「もの」だけを売るビジネスでの成長は難しいと考えています。例えば、らくらくスマートフォンユーザー向けのSNS「らくらくコミュニティ」は、すでに90万人以上の方にご利用いただいています。端末のみならず生活全体をサポートするサービスを提供することで、お客様への価値と、事業の価値を高めていきたい。MVNOや販売店の各社様とも、単に端末をご提供するだけの関係ではなく、新しいビジネスモデルを共につくるパートナーになっていければ嬉しいですね。

 
■プロフィール
髙田克美
1984年、慶應義塾大学工学部卒業後、富士通入社。2007年11月よりモバイルフォン事業本部モバイルフォン事業部長、11年6月よりモバイルフォン事業本部長として、同社の携帯端末事業を統括。12年4月、執行役員に就任。16年2月1日の富士通コネクテッドテクノロジーズ設立にあわせ同社代表取締役社長に就任(現任)。


<Pickup>

ワンセグ・おサイフ対応の国産スマホ「arrows M03」

 国内メーカーのキャリア向け端末ではあたりまえの「ワンセグ」「おサイフケータイ」「防水・防塵」といった要素だが、SIMフリー市場でこれらをサポートする端末は少ない。実売3万円前後というリーズナブルな価格とあいまって、MVNO各社の格安SIMとのセット販売も広がっている。
 

昨年発売したSIMフリー端末の「arrows M03」
 

15年以上のロングセラー

 2001年よりNTTドコモと共同開発しているユニバーサルデザイン端末「らくらくホン」シリーズは、累計2500万台以上を販売し、現在も約1000万人が使用するロングセラー製品。2012年からは「らくらくスマートフォン」も提供している。
 

最新モデルの「らくらくホン F-02J」(左)と「らくらくスマートフォン4」