新規参入でますます活性化 配送サービス最前線

オピニオン

2017/02/27 10:00

 家電量販店やECサイトを中心にデッドヒートが繰り広げられている配送サービス。配達スピードだけでなく、顧客の満足度にいかに貢献するかという「サービスの質」を重視する動きもあり、競争は次なる段階に移行しつつある。今年に入り、新たに名乗りを上げる小売企業も登場し、自社の強みを生かした差異化が進む。各社の最新動向から、配送サービスの現状と将来の可能性を紐解く。

■ドンキホーテホールディングス
 価格差と拠点数で差異化 Amazonへの対抗意識鮮

 最短58分以内の配達サービス「majica Premium Now」を、2月6日に発表したのは、ディスカウントストア最大手のドンキホーテホールディングスだ。2014年3月に開始したオリジナル電子マネー「majica」会員に向けた付加価値として、有料の「58分配達」と無料の「2時間毎配達」の2プランを展開する。

 「58分」という数字の意図は、スピード配送のトップランナーであるAmazon.co.jpの「Amazon Prime Now」を意識してのこと。同社の「1時間配送」に正面から対抗する。また、最低購入額も「Amazon Prime Now」が2500円以上のところ、「majica Premium Now」は2000円以上だ。

 サービスを統括する営業支援室の荒井辰也ゼネラルマネージャーは「店舗価格よりはやや上回るものもあるが、対EC比では安い」と強調する。ディスカウントストアの特性を生かした戦略で、顧客獲得を狙う。
 

営業支援室の荒井辰也ゼネラルマネージャー

 また、全国に数多くの拠点を構える点も優位に働く。17年2月6日時点で、すべての業態を含めた店舗数は354店。専用の倉庫は用意せず、既存の店舗を有効活用し、サービスの拡大を目指す。

 圧縮陳列の店舗から指定の商品をピックアップする作業は、専用倉庫をもつ競合と比較して時間がかかる。したがって、対応エリアはやや狭く設定しているが、サービス実施店舗が増えれば、1店舗では届かないエリアもカバーすることができるという考えだ。

■Yahoo! ショッピング
 「1個350円」の格安・エコを訴求

 ヤフーが「Yahoo!ショッピング」で2月20日から開始した「エコプラスEC」は、出店事業者の「プロフェッショナル出店」向けに、梱包資材込みの1個350円から利用できる格安の集荷・宅配サービスだ。

 EC市場が拡大するにつれて、荷物の個数も増え続ける。一方で、宅配便最大手のヤマトホールディングスにみられるように、取扱量が過去最高の18億4221万個だったにもかかわらず、営業利益は前年同期比93.7%の減益という異常事態に陥った。人件費やガソリン代が利益を圧迫し、物流費を上げざるを得ない状況にある。

 ヤフーは、集荷エリアは東名阪に限られるが自転車で集荷する物流ベンチャー・エコ配と組むことで、格安の全国宅配を実現。自転車で集荷するので、トラックへの投資やガソリン代がかからない分、送料を安くできる。ただし、最短で翌日配達というリードタイムだ。

 競合他社が進める時間競争とは一線を画し、格安料金とエコの両面で差異化する。ヤフーのショッピングカンパニー営業本部の畑中基本部長が「今回は出店者から要望の高かった送料の課題解決に取り組んだ」と語るように、出店者にとって値上がりする物流費の負担は長年の課題だった。ヤフーは「自転車」に軸足をずらして格安を打ち出す戦略に出た。
 

ヤフーは自転車を使う「エコ配」と組む

■Amazon.co.jp
 アイテム数は最大6万5000点以上、顧客ニーズに基づき拡充

 2015年11月に東京都世田谷区でスタートした「Amazon Prime Now」。1年強が経過し、「Prime Now専用倉庫」は5か所に、配送エリアは23区全区を含む東京都・神奈川県・千葉県・大阪府・兵庫県に拡大。利用顧客数も順調に推移している。

 対応エリアだけでなく、アイテム数の拡充にも目を見張るものがある。配送対象エリアによって異なるが、最大で6万5000点以上の商品を揃える。

 Prime Now事業部の永妻玲子事業部長は「他国での展開例と日本のお客様のニーズをもとに品揃えの強化を図っています。例えば、モバイル・PC周辺機器や家電などでは、Amazon.co.jpの売れ筋商品を大幅に拡充しています。『こだわり食品ストア』として、酒類やハム、チーズなど、高品質の食材も取り扱うようになっています」と説明する。

 2月24日に開始した官民で推進する「プレミアムフライデー」も商機として捉える。15日からヘア&ボディケア、スキンケアを中心に10以上の人気ブランドの商品が揃う「ナチュラル・オーガニック ビューティーストア」をスタート。スピード配送の先駆者として、継続的にサービスを強化している。
 

Prime Now専用倉庫

■コジマ
 配送をアウトバウンドセールスの足がかりに

 外部業者ではなく、店舗の販売員が商品の配送・設置を行うサービス「くらし応援便」を昨年10月に開始。現在は東京都板橋区、西東京市、広島県広島市/府中町の3エリアで展開し、最短30分の配送が可能としているが、木村一義会長兼社長は「配送スピードそのものではなく、ご家庭での電気に関するお困りごとを解決するのが目的」と強調する。

 くらし応援便では、店頭購入商品や電話注文商品の配送以外に、使用方法の説明や梱包段ボール箱の回収、手の届きにくい場所の電球交換など細かなサービスを提供し、「街の電器屋さん」の役割を担うことを目指している。将来的には、訪問時にカタログ営業なども行い、サポートサービスの場をセールスの機会としても活用していく考えだ。

 今後高齢化がさらに進むと、店舗に足を運び、広い店内を歩き回って商品を決めるという購買行動を好む消費者の比率は低下することが予想される。くらし応援便は大きな人的コストを要し、サービス内容や料金の設定もまだ手探りの段階とのことだが、コジマでは消費トレンドの変化に先手を打つ形で、地域密着型サービスの充実に力を入れる。
 

社員自ら顧客宅を訪問し、配送+きめ細かなサービスを提供

■ヤマダ電機
 コンシェルジュ・サービスで顧客満足度向上を狙う

 ヤマダ電機は、社員が顧客宅を訪問するコンシェルジュ・サービスを行っている。桑野光正社長 兼 代表執行役員COOは「家電量販店で取り扱う商品は、今すぐに欲しいというものばかりではない。社員が訪問してお客様のご用聞きをし、さまざまな困りごとを解決することが重要だ」と語る。サポート事業など、家電販売以外の事業にも積極的なヤマダらしい考え方だ。

■ヨドバシカメラ
 自前主義にこだわり ノウハウを迅速に反映

 ほぼ100%自社の社員が配送する「ヨドバシエクストリーム」。2015年2月から都内一部で試験的に行われた「送料無料の当日お届け」は、16年9月、東京都23区全域の「最短2時間30分以内お届け」に発展し、エリアを拡大中だ。再配達のコールセンターも自前主義にこだわる。ノウハウを吸収しながら独自サービスに展開するスピードの速さは、EC専業にも脅威と映る。
 

街中を走り回る「ヨドバシエクストリーム(Yodobashi Xtreme)」

■ビックカメラ
 ECの当日配送に追随 当面23区内で対応

 昨年12月からECサイトの「ビックカメラ.com」で、東京23区内を対象として15時までに注文した商品の即日配送サービスを開始した。ただし、配達時間帯として指定可能なのは当日の18時以降。
 

従来サービスを拡充する形で、23区内は当日配達指定が可能に

 大々的にサービスを垂直立ち上げした「ヨドバシエクストリーム」に対し、ビックカメラは消費者の反応を見ながら、段階的にサービス充実を図る戦略をとっている。
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年3月号から転載