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<KeyPerson>ヤマダ電機 桑野光正社長、創業者・山田昇氏から大抜擢の1年

インタビュー

2017/01/27 16:30

 1973年に群馬県前橋市で産声を上げた「第一の創業期」、全国に店舗を拡大して業界最大手の地位に登り詰めた「第二の創業期」を経て、現在を「第三の創業期」に位置づけるヤマダ電機。店舗戦略の見直しや新規事業の開拓など、収益構造の転換の真っ只中にあるが、主軸である家電販売事業に活路はあるのか。2016年4月に代表取締役社長 兼 代表執行役員COOに就任したキーパーソン、桑野光正氏は「既存ビジネスは前年比100%確保が大命題」と厳しさを認めつつも、さらなる成長に向けて、人材の効率的運用と労働環境の改善という課題に果敢に挑む覚悟だ。

取材/細田 立圭志、文/大蔵 大輔、写真/大星 直輝


4月で就任から1年になるヤマダ電機の桑野光正代表取締役社長 兼 代表執行役員COO

売上高を伸ばすために、「買上げ客数」を重視

―― 桑野社長の担当領域は家電販売を中心とする既存ビジネスですが、成長のためにどのようなプランをお持ちですか。

桑野 小売業の指標はとてもシンプルで「客数×客単価」です。両方を上げるか、どちらか一方を上げるかしかありません。しかし、ご承知のように少子高齢化・人口減・ネット社会ですから、来店するお客様の数をキープするのが厳しくなってきている。

 そこで私がとても重視しているのが、来店してお買い物をしていただいたお客様の数、いわゆる「買上げ客数」です。「入店客数」とPOSデータから分かる「買上げ客数」から算出する「買上げ率」を、昨年より1%上げることを、目標として社員に提示しています。買上げ率は店舗ごとに異なりますが、まずは昨年より1%上げることに取り組んでいます。

―― 買上げ率を上げるために必要なことは何ですか。

桑野 人をいかに動かすかです。ヤマダ電機は2001年に売上高3000億円を突破して業界No.1になり、その5年後に1兆円を超えました。この間の成長率は330%以上です。しかし、昨年発表した中期経営計画では15年から20年の売上高の伸び率は111.4%。私が担当する既存ビジネスは現在が「前年比100%」で、伸びしろは少ないと覚悟しています。

 それなら、すべきことはコストをかけて来店客数を増やすのではなく、土台となる人材マネジメントを徹底して、買上げ客数を増やすことです。

―― 具体的に現場にどのような指示を出しているのですか。

桑野 例えば、私が社長に着任してすぐのタイミングで各店舗の店長に指示したのは、とにかく1階のエスカレーターから昇った2階の店舗の入口に立ってお客様を出迎えなさい、ということです。年配のお客様は、若い社員に目当ての商品がどこにあるのかを聞きづらいのではないかと思うからです。

 大型家電ならともかく、電池のような消耗品だと「店員に聞くのが恥ずかしい」という心理が働くのではないかと。そのようなお客様が売り場が分からずに、帰ってしまうケースが10人中2人いるとすれば、その機会損失を防ぐことが、買上げ率の向上につながるのです。
 

既存ビジネスである家電販売の取り組みについて語る桑野社長 兼 代表執行役員COO

船井電機とテレビで提携、「独占販売」の狙いは?

―― 国内メーカーを中心にプレミアム化が顕著で、ボトムからミドルのアイテムが不足しているという声があります。先日、発表された船井電機との液晶テレビの独占販売は、この価格帯をカバーしたいという狙いがあるのでしょうか。

桑野 たしかに家電商品は高単価化が進んでいます。特にテレビはプレイヤー数の減少もあり、お客様の選択肢が限られてきている。船井電機との提携は、お客様の選択肢を増やす目的がもちろんあります。しかし、品揃えの展開は4Kまでのフルラインアップを予定しています。

 今回の提携の肝は「独占販売」という点です。これによってヤマダ電機は「FUNAI」という製品ブランド力を高めながら、SPA(製造小売り)のような位置づけで販売できます。今後、家電量販店というフィールドで他社と同じ商品を販売する売買差益だけで利益を確保することは難しくなるでしょう。ナショナルブランドの商品はもちろん重要ですが、独自の商品を開発したり展開することで、売買差益を少しでも広げていかなければなりません。

―― 新規事業の拡大も顕著です。既存ビジネスへの波及効果は期待できそうですか。

桑野 新規事業は山田昇会長 兼 取締役会議長の担当領域ですが、私の担当である家電販売にとっても、これまで来店機会のなかった新規のお客様の獲得につながるのでメリットは大きいです。
 

 さらに、既存のお客様ともデジタルサポートやリフォームという新しい切り口での接点が生まれますから、来店頻度は増加します。結局、すべての事業は最終的に「既存ビジネス=店舗」に返ってくると考えています。

・<「エリア社員制度」の導入を検討>に続く
 
■プロフィール

桑野光正(くわの・みつまさ)

1954年生まれ。専修大学経済学部卒業後、イトーヨーカ堂に入社。子会社であるダイクマを経て、2004年9月にヤマダ電機に入社。礎生塾塾長、取締役常務執行役員 総務本部副本部長、取締役 兼 執行役員常務 総務本部長 兼 人事構成改革室長を歴任し、2016年4月に代表取締役社長 兼 代表執行役員COOに就任(現任)

・【動画】トップに聞く『会社の夢』― ヤマダ電機 桑野光正社長
 
◇取材を終えて

「山田昇会長のアイデアを形にしているだけ」と謙遜する桑野社長だが、人材・組織マネジメントの実態を誰よりも広く深く把握しているという印象を受けた。どのトピックに対しても、現場を見ていないと語れないような具体例が伴っている。既存ビジネスの改革は各店舗で事情が異なり、達成は容易ではない。しかし、頻繁に現場に赴く足を使った地道なアプローチは1年弱で「やってやれないことはない」という手応えを感じるまでに実りつつある。取材後も間髪いれず本社を後にし、現場視察に足を向けた。 (雀)

※『BCN RETAIL REVIEW』2017年2月号から転載