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<TopVision>ドウシシャ野村正幸社長が語る、価格戦略転換の本質(前編)

インタビュー

2016/12/22 18:00

 「良いものを安く」というイメージで幅広い製品群を展開してきたドウシシャだが、デザインや付加機能を切り口に従来の路線から方向転換を図っている。「現場起点」を提唱し、自ら現場で陣頭指揮をとる野村正幸社長に、新戦略の狙いを聞いた。

取材/道越一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト
文/大蔵 大輔、写真/川嶋久人

「良いものを安く」だけではダメ、「価格+品質+α」の時代へ
 

野村正幸代表取締役社長 兼 最高執行責任者
 

ボトムプライス勝負から転換、デザイン力で販路開拓に成功

道越 近年、ストーリーやデザインを重視したプロダクトが目立ちます。方針転換のきっかけは何ですか。

野村 もともと当社はボトムプライスで勝負していた会社です。しかし、最近ではお客様の購入志向が変わりました。価格だけで売れていた製品が売れなくなったのです。ライフスタイルや価値観でモノを選択するお客様が非常に増え、「安い」だけではダメだということが明確になりました。
 

「良いものを安く」だけではダメと語る野村社長

道越 ドウシシャといえば、リーズナブルながら品質を確保している「良いものを安く」のイメージがあります。それだけでは足りないということですか。

野村 その通りです。「価格+品質」という軸でしたが、これに+αが必要な時代になりました。この+αの要素として、はじめに取り組んだのがデザインです。ある著名なデザイナーと調理家電のブランドを一から立ち上げました。7 ~ 8年前の話です。結論からいうと、マーケティングがうまくいかず失敗しました(笑)

 しかし、得るものも多かった。デザイナーとの付き合い方やマーケットにいかにコンセプトを伝えるかという売り方のノウハウ、そして製品を取り扱っていただくリテールのお客様です。「そんな面白いことをやっているなら」と、これまでお取引の薄かった雑貨店や家電量販店から、お声をかけていただけるようになりました。そこから、失敗を糧に生まれたのが、デザイン加湿器「middle」です。デザインの力はこれほど強いのか、というくらいに売れました。
 

協業で新しい価値を創出、一石二鳥のマーケティング戦略

道越 ブランディングにも力を入れていますね。

野村 直近3年で販促にかなり資金を投入しています。認知拡大のためのブランディングももちろんですが、特に重視しているのが協業です。昨年、大幸薬品のクレベリン発生機能を搭載した加湿器を開発・販売しました。これまで世の中になかった新しい価値を持った製品です。この発生機能を一から開発するとなると、相当な時間と費用がかかります。しかし、コラボレーションすることで、時間とコストの削減だけでなく、“大幸薬品”というブランドパワーの恩恵を受けることもできました。

道越 家電事業でファブレス(自社で工場を持たない体制)を採用しているのも、コストコントロールが理由ですか。

野村 ファブレスにしているのは、当社のモノづくりの根幹である「現場起点」の考えからです。ユーザーの要望をスピード重視で製品に反映するには、自社工場だと遅すぎる。ファブレスなら、条件を満たす工場が見つかれば、すぐに生産を開始することができます。とはいえ、設計や品質管理は当社が主導で行っています。だから、ファブレスでも品質を担保した製品を生産できるのです。
 

船舶プロペラをヒントに開発、「kamomefan」(カモメファン)

ブランディングと協業が成功した好例が、扇風機「kamomefan」だ。世界シェアNo.1の船舶プロペラメーカーであるナカシマプロペラと組んで、自然に近い柔らかい風を実現した。「素人だからこそ、発想に縛りがない」と野村社長が語るように、ファブレスで企画ありきの開発体制だからこそ誕生した製品だ。
 
■プロフィール

1972年、大阪府生まれ。関西大学を卒業し、1998年1月にドウシシャ入社。営業企画部ダイレクターを経て、2004年に取締役、06年に常務取締役 第2事業本部長として、開発部隊を統括。10年に代表取締役専務IR広報担当を経て、14年4月に代表取締役社長 兼 最高執行責任者に就任(現任)

・<動画インタビュー>トップに聞く『会社の夢』―ドウシシャ 野村正幸社長
 
(右寄せ) ※『BCN RETAIL REVIEW』2017年1月号から転載