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湾岸スタイルの共稼ぎを狙え! 時間を惜しむ家族こそ家電販売のターゲット

オピニオン

2016/09/13 14:01

 夫婦が共に働きながら子どもを育てる共稼ぎ世帯が増えている。今年6月に発表された「平成27年(2015年)国勢調査(速報)」をもとに集計したところ、18歳未満の子どものいる世帯の共稼ぎ率は58.7%だった。

 リタイアした高齢者が増えているため、一般世帯の総数に占める割合は2割弱と、前回2010年の調査から微増にとどまっているが、共稼ぎ世帯は可処分所得が多く、最新家電の購入意欲が高い有力なターゲット層だ。
 

今や子どものいる世帯の半数以上が共稼ぎだ

職住近接、家事の外注化――「効率」重視の共稼ぎ夫婦

 不動産研究所によると、首都圏に建つ新築マンションの2015年の1戸当たりの平均価格は5518万円。住宅ローンの低金利や建築費の高騰などが影響し、3年連続で上昇した。東京都区部に限ると、1戸当たりの平均価格は6732万円。東京都下や神奈川県、埼玉県でも4000万円台だ。

 親からの贈与額によっても変わるが、4000~6000万円台の新築マンションを購入するには、世帯年収800~1200万円程度は必要。夫または妻一人の収入では足りないため、夫婦は子どもを育てながら働き続ける。もともと子どもを産んでも働き続ける意志が強いため、住宅ローンを借りて高額な物件を購入する層も少なくない。

 少子化といわれつつも、大規模マンションや人気の住宅街には子どもがあふれている。代表例は、東京の湾岸エリアや臨海部、工場跡地の再開発エリアだろう。湾岸エリアは、通勤に便利な「職住近接」のファミリー向けニュータウンとして、超高層のタワーマンションが林立する。

 地方や首都圏の郊外でも再開発の象徴として、高層タワーマンションが増えている。その流れに、一部の家電量販店も乗じている。ビックカメラは、8年ぶりとなる広島への出店にあたり、再開発プロジェクトに参画し、広島駅南口地下広場に直結する「BIG FRONTひろしま」という商業施設・公益施設などと分譲住宅が一体化した高層タワーの地下2階~地上3階に、9月14日に「ビックカメラ広島駅前店」をオープンした。また、ヤマダ電機は、今秋、立川駅直結の再開発ビル「立川タクロス」の3~7階に新店舗オープンする予定。
 

上層階が住宅となっている「BIG FRONTひろしま」

3種の神器はロボット掃除機、食洗機、洗濯乾燥機

 子育て世代の共稼ぎの増加については、データの裏付けもある。平成27年国勢調査をもとに、夫婦ともに就業している組み合わせを「共稼ぎ」と定義すると、18歳未満の子どものいる世帯の共稼ぎ率は58.7%。末子の年齢が6歳以上~18歳未満だと67.9%、6歳未満でも47.4%に達している。一方が就業せず、家事・育児に従事する専業主婦(主夫)家庭は今や少数派だ。
 

 タワーマンションに住み、日々、効率を追求する高収入の共稼ぎパワーカップル。共通する特徴は、周辺環境より通勤の便利さを重視する住まいを選び、遠方に住む親には頼らず、外部サービスを活用する子育て、そして積極的な時短家電の利用だ。

 ロボット掃除機の便利さは、ネット上の口コミから広がった。食洗機、洗濯乾燥機、ロボット掃除機は、共稼ぎ継続のための3種の神器といわれる。

 情報発信に熱心な一部のワーキングマザー/ファザーは、SNSを活用しており、ネットでもリアルでも影響力をもつ。SNSやブログの更新に熱心な彼らに便利だと認められれば、同様に普及する可能性は高い。
 

スティック型などのコードレスクリーナー、ハンガーにかけたまま衣類のシワを伸ばせる衣類スチーマー、
電気無水鍋、スロージューサーなど、「時短」や「健康」をキーワードとして新カテゴリの製品が続々と登場している

女性はリビング・生活家電に強い関心 所有より「体験」を重視

 2015年12月にBCNが実施した、家電量販店に1か月に1回以上訪れる1000人を対象にしたインターネットでのアンケート調査によると、「家電量販店でよく訪れる売り場」には男女差があり、男性はPC本体・PC周辺機器、女性は、リビング・生活家電、キッチン家電の比率が突出して高い。女性は男性に比べ、理美容家電・化粧品の比率が高めだ。女性は、自分へのご褒美として「食」や「美容」に関心をもつ傾向が強いことがうかがえる。
 

 共稼ぎは、収入面のリスクを分散する生活防衛の一種でもある。労働力不足を危惧した政府が「一億総活躍社会」を掲げ、高齢者や女性の労働を後押ししている以上、今後、さらに共稼ぎ率は高まり、日々の家事の負担を減らす家電に対するニーズは強まるはずだ。

 捻出された自由時間によって、より有意義に活用できるウェアラブル端末やカメラなどのモバイル機器への関心も高まるだろう。

 既報の「シニア市場を狙い撃ち 年配客の心理を読む」でも紹介した通り、65歳以上の高齢者をターゲットとしたシニアマーケットは有望視されている。

 一方、子どもの数は減り、ファミリー向けマーケットの先細りは否めない。しかも、買わずにレンタルしたり、仲間内でシェアしたりする「シェアリング・エコノミー(共有型経済)」の動きもある。この新しい層をつかむ製品をどのように生み出すかも課題として浮上する。いま、日本人の暮らしや働き方は大きく変わろうとしている。小売企業もメーカーも、この変化をチャンスと捉えるべきだ。(BCN・嵯峨野 芙美)