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“市場の番人”公正取引委員会にスマホ販売をめぐる報告書の狙いを聞く

インタビュー

2016/08/26 18:00

 公正取引委員会が今回の報告書をまとめたのは、ここ数年のMVNO(仮想移動体通信事業者)の動向を勘案したためだ。公取委は、大手キャリアとの競争が実際に生じつつあることを踏まえ、MVNOが大手キャリアと対等に競争できる環境の構築を通じて、価格が安くて多様なサービスが供給されることが、消費者にとっても、IoTなどを支える産業基盤としても重要とみている。公取委経済取引局経済調査室の木尾修文室長に、報告書の詳しい狙いなどを聞いた。

・前半<公取委が独禁法違反行為の具体例を公表>から読む
 

取材に応える公正取引委員会経済取引局経済調査室の木尾修文室長
 

「MVNOの新規参入を促し、競争を促進」

―このタイミングで、今回の報告書を示したのはなぜでしょうか。

木尾 MVNOが、ここ数年で増えてきたことが背景にあります。MVNOと大手キャリアの競争が成立し始めているので、競争の促進を目的とする独占禁止法で、きちんとした環境整備を進める必要があると判断しました。通信、端末、アプリの各市場で、もっと競争できる余地はあると思っています。このためには、MVNOの参入によって競争を活性化させ、その結果として、安くて多様な商品が供給され、消費者や利用者たる産業の選択肢が増えることが大切です。
 

公取委がまとめた報告書の概要(公取委ウェブサイトより)

―報告書で分類した「独禁法上問題となり得る行為」と「競争政策上望ましい行為」は、どういった違いがありますか。

木尾 おおむね、独禁法の問題となる可能性が高いものを「独禁法上問題となり得る行為」とし、独禁法上の問題となる可能性は相対的には低いが、今後の市場の状況などによってはその可能性がある行為を「競争政策上望ましい行為」として位置づけています。一般論として、どちらの行為も、独禁法上の問題として、法執行の対象になる可能性は否定できませんが、現段階でただちに個別の企業の個別の行為を違反として認定をするものではなく、まずは注意喚起をさせていただくことに主眼を置いています。

―現在の大手キャリアの通信契約と端末販売の方法についてはどのようにお考えですか。

木尾 国民のほとんどが大手キャリアで端末を購入するという状況の下で、タダに近いような値段で端末を販売する代わりに、長期間の通信契約もしてもらうという一体的な行為に問題意識を持っております。その背景には、大手キャリアが電波の割り当てを受けてきたことで現在の端末の流通構造が実現できたことや、契約形態が極めて複雑で消費者にとって理解が容易ではないことがあります。このような状況でこの販売手法が継続されると、将来、MVNOの事業活動を困難にし、法的な問題が発生する可能性があると懸念していますので、改善をお願いしたいと考えています。

―端末購入の分割払い総額を大手キャリアが固定していることについてはいかがでしょうか。

木尾 ほとんどの消費者が、大手キャリアが提供する割賦契約で端末を買っています。携帯端末を含め、資本主義経済の下では、価格は本来、市場競争のなかで妥当な金額が決まることが原則です。しかしながら、現時点では、全く関係ないところで大手キャリアが決めた金額でしか、割賦販売契約が結ばれていないため、この金額以外で端末を販売することは難しいとの声を聞いています。割賦契約自体は、合理的であると思いますが、総額を固定することが問題であると考えています。

―中古の流通状況はいかがですか。

木尾 中古端末の流通台数は、新品の出荷台数のわずか8%にとどまっています。中古端末の流通が阻害される場合には、中古品でも良いという消費者の選択肢が犠牲になるだけなく、中古品と新品の間の競争が働かず、新品の価格が高止まりすることになる可能性があると考えています。以上のようなさまざまな慣行の結果、全体としてみると、あくまで可能性の問題ではありますが、新品端末の価格を高止まりさせた上で、大幅な割引をして通信契約を誘引し、その後は解約解除料やSIMロックで他社に流出させることを困難にするという効果が生じる可能性があり、結果として、MVNOとの公正な競争環境が構築されないのではないかという懸念を持っています。競争を活発にするための大きな課題です。