<Special Interview>試験放送の直前対策! NHK「4K・8K」試験放送の疑問をキーマンに聞く(後編)
間近に迫った4K・8Kの試験放送。本格的な高精細放送時代の幕開けだ。実際に試験放送はどのように行われるのか、4Kテレビの販売に影響はあるのか、東京オリンピックの後の4K・8K環境はどうなっていくのか。日本の8K・スーパーハイビジョンをけん引する日本放送協会(NHK)のキーパーソン、技術局スーパーハイビジョン開発部の増原一衛部長に話を聞いた。
取材・文/道越 一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト
・<前編>から読む
増原 多く人が大画面で見ることを想定すると、85インチくらいの大きさが考えられますが、家庭に置くとなると大きすぎる面もあります。現在はもっと小さい55、30、17インチといったサイズの開発も進んでいます。その過程でわかってきたことは、小さくなっても元のデータが高精細であれば、立体感があり質感も高いということです。目の前に印刷した写真集が映し出されるようなイメージの表現力です。小さいサイズでの高精細映像は、新しい研究テーマとして進めています。
また、高精細映像は、拡大しても高い品質を維持できるので、映像に新たな発見もありおもしろいですね。テスト用に撮った都会のビルの映像を後から確認すると、画面の端に映ったビルの屋上で踊っている人が確認できたこともあります。8Kという品質が、新しいメディアフォーマットとしての可能性も生み出すのではないかと期待しています。
「小さい画面サイズの8Kの可能性も見えてきた」と語るNHKの技術局スーパーハイビジョン開発部の増原一衛部長
──このところにわかに注目を集めているHDR(High Dynamic Range)ですが、試験放送では対応するのでしょうか。
増原 はい。今回の試験放送では、HLG(Hybrid Log Gamma)という方式を使ってHDRの放送ができるように準備しています。HDRの方式には現在、ドルビーが提唱して4Kブルーレイに採用されているPQ(Perceptual Quantizer)と、NHKと英国のBBCが共同で推進しているHLGの2つの方式があります。HLGは、非対応のテレビにHLGの信号を映してもあまり違和感がないという利点があります。放送業界としては、非対応の機器を流用することも可能で、HDRに対応する過渡期には便利なため、HLGを採用することにしました。世界的にはPQのほうが認知度は高く、NetflixやHuluのようなネット配信でもPQが主流です。しかし、この7月、ITU-R(International Telecommunication Union Radiocommunication Sector=国際電気通信連合無線通信部門)で国際規格として承認されましたので、これから世界的に展開していくことになります。
──ところで、制作現場では4K・8Kをどう使い分けているのですか。また、音はどうなるのでしょうか。
増原 制作現場ではあまり4K・8Kの区別はつけていません。いずれも高精細フォーマットという位置づけで、高精細を求める場合には8K、機動性が必要な場合には4Kといった形で使い分けるイメージです。一つの番組で4Kと8Kのカメラを混在して使うこともあります。例えば、アップの映像なら4Kカメラで撮影した映像を8Kにアップコンバートできます。8Kカメラとほとんど違いが分からないほどのクオリティーになります。
ただし、広い範囲を映すような場面では、高精細な8Kカメラが求められます。また、8Kから4Kへのダウンコンバートは簡単にできるので、8Kコンテンツを4Kとして流通させることも容易です。もちろん音響も優れています。22.2チャンネルのスピーカーで実現する環境はとても臨場感にあふれていて、「映像だけでなく音もいいね」とよく言われます。また、画面のまわりにスピーカーを配置して、擬似的に22.2チャンネルを実現するトランスオーラル方式を開発し、一般の家庭でもよい音が楽しめるような研究も進めています。
枠型スピーカーを配置して家庭内での疑似的な22.2chサラウンドの研究開発も進む
──2020年の東京オリンピックでは、4K・8Kがあたりまえの姿となりそうですが、その後はどうなるのでしょうか。
増原 衛星放送の環境が整った後は、やはり地上波での4K・8Kをどうするか、となってくると思います。地上波は帯域が限られているので、まだまだ技術的なハードルが多くあります。新たな圧縮方式や伝送方式の開発も必要ですし、衛星でいう右旋・左旋に相当する垂直水平を使った電波の効率的な活用なども必要です。地デジ化の時に行ったチャンネルの再編(リパック)も必要でしょう。
今回の4K・8Kの試験放送は、当初の計画から4年ほど前倒しになっています。大変でしたが、業界全体で走りながら考えることで実現にこぎ着けました。地上波の4K・8Kも意外に早く実現することになるかもしれません。いずれにせよ、まずは2020年の東京オリンピックに向けての8K環境の整備が先決です。放送側では着々と準備を進めています。NHKとしても、良質なコンテンツを提供するなどして、メーカーさんと協力して盛り上げていきたいと思います。
取材・文/道越 一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト
・<前編>から読む
試験放送はHDRにも対応 7月認定の新方式HLGも
──8Kを楽しむのに適した画面サイズはあるのでしょうか。増原 多く人が大画面で見ることを想定すると、85インチくらいの大きさが考えられますが、家庭に置くとなると大きすぎる面もあります。現在はもっと小さい55、30、17インチといったサイズの開発も進んでいます。その過程でわかってきたことは、小さくなっても元のデータが高精細であれば、立体感があり質感も高いということです。目の前に印刷した写真集が映し出されるようなイメージの表現力です。小さいサイズでの高精細映像は、新しい研究テーマとして進めています。
また、高精細映像は、拡大しても高い品質を維持できるので、映像に新たな発見もありおもしろいですね。テスト用に撮った都会のビルの映像を後から確認すると、画面の端に映ったビルの屋上で踊っている人が確認できたこともあります。8Kという品質が、新しいメディアフォーマットとしての可能性も生み出すのではないかと期待しています。
「小さい画面サイズの8Kの可能性も見えてきた」と語るNHKの技術局スーパーハイビジョン開発部の増原一衛部長
──このところにわかに注目を集めているHDR(High Dynamic Range)ですが、試験放送では対応するのでしょうか。
増原 はい。今回の試験放送では、HLG(Hybrid Log Gamma)という方式を使ってHDRの放送ができるように準備しています。HDRの方式には現在、ドルビーが提唱して4Kブルーレイに採用されているPQ(Perceptual Quantizer)と、NHKと英国のBBCが共同で推進しているHLGの2つの方式があります。HLGは、非対応のテレビにHLGの信号を映してもあまり違和感がないという利点があります。放送業界としては、非対応の機器を流用することも可能で、HDRに対応する過渡期には便利なため、HLGを採用することにしました。世界的にはPQのほうが認知度は高く、NetflixやHuluのようなネット配信でもPQが主流です。しかし、この7月、ITU-R(International Telecommunication Union Radiocommunication Sector=国際電気通信連合無線通信部門)で国際規格として承認されましたので、これから世界的に展開していくことになります。
──ところで、制作現場では4K・8Kをどう使い分けているのですか。また、音はどうなるのでしょうか。
増原 制作現場ではあまり4K・8Kの区別はつけていません。いずれも高精細フォーマットという位置づけで、高精細を求める場合には8K、機動性が必要な場合には4Kといった形で使い分けるイメージです。一つの番組で4Kと8Kのカメラを混在して使うこともあります。例えば、アップの映像なら4Kカメラで撮影した映像を8Kにアップコンバートできます。8Kカメラとほとんど違いが分からないほどのクオリティーになります。
ただし、広い範囲を映すような場面では、高精細な8Kカメラが求められます。また、8Kから4Kへのダウンコンバートは簡単にできるので、8Kコンテンツを4Kとして流通させることも容易です。もちろん音響も優れています。22.2チャンネルのスピーカーで実現する環境はとても臨場感にあふれていて、「映像だけでなく音もいいね」とよく言われます。また、画面のまわりにスピーカーを配置して、擬似的に22.2チャンネルを実現するトランスオーラル方式を開発し、一般の家庭でもよい音が楽しめるような研究も進めています。
枠型スピーカーを配置して家庭内での疑似的な22.2chサラウンドの研究開発も進む
──2020年の東京オリンピックでは、4K・8Kがあたりまえの姿となりそうですが、その後はどうなるのでしょうか。
増原 衛星放送の環境が整った後は、やはり地上波での4K・8Kをどうするか、となってくると思います。地上波は帯域が限られているので、まだまだ技術的なハードルが多くあります。新たな圧縮方式や伝送方式の開発も必要ですし、衛星でいう右旋・左旋に相当する垂直水平を使った電波の効率的な活用なども必要です。地デジ化の時に行ったチャンネルの再編(リパック)も必要でしょう。
今回の4K・8Kの試験放送は、当初の計画から4年ほど前倒しになっています。大変でしたが、業界全体で走りながら考えることで実現にこぎ着けました。地上波の4K・8Kも意外に早く実現することになるかもしれません。いずれにせよ、まずは2020年の東京オリンピックに向けての8K環境の整備が先決です。放送側では着々と準備を進めています。NHKとしても、良質なコンテンツを提供するなどして、メーカーさんと協力して盛り上げていきたいと思います。