<Key Person>ケーズHD遠藤社長 「ネットの『転売』減って競争環境が変わった」
2016年3月期の家電量販店各社の決算では、売上高総利益率(粗利益率)が大幅に改善した。ケーズホールディングス(ケーズHD)も26.3%と前年度より1ポイントアップ。遠藤裕之社長兼CEO兼COOは「競争環境が変わった」と指摘する。粗利益率を追求する家電量販店は安売りをしなくなったのか。経営戦略や出店計画、今年3月19日に逝去した創業者・加藤馨名誉会長の教えなどを聞いた。
取材・文/細田 立圭志
写真/大星 直樹
遠藤 家電量販店の競争環境が変化したからです。大量仕入れで安売りをして戦ってきたけれど収益が悪くなり、このまま続けると会社経営が成り立たなくなる可能性すらある状況になり、家電量販店自らが利益を意識するようになったのです。
もう一つはメーカーの変化です。今まではシェアをもとに生産計画を立てていました。笑い話ですが、各社が総需要は100万台といっているのに、それぞれの計画値を合計したら300万台になってしまった。総需要の30%のトップシェアを狙って生産したけど売れない。残った製品がネット通販企業に流れて価格が乱れた。メーカーは家電量販店や町のパパママショップ(系列店)などに補てんしなければならない。『それっておかしいよね』ということを、ずっと続けてきたわけです。
――2014年6月に23年ぶりに改正した公正取引委員会の「流通・取引慣行のガイドライン」が実効力を持ってきたという見方もあります。「転売の禁止」も記されていますね。
――消費者から見たら家電量販店が安売りをしなくなったと思われないでしょうか。
遠藤 安い商品はあるんです。うちのチラシを見てもらえばわかりますが、とんでもなく安い商品は台数限定でありますよ。ラインアップは減っていません。ただ、お客様はすぐに壊れてもいい安い炊飯器より、ちょっと高くてもおいしいご飯が食べられる炊飯器を買いたいと思うのです。粗利益率が高いから消費者にとってマイナスと言いますが、ラインアップは安い商品から高付加価値の商品まで幅広く揃えています。選ぶのはお客様ですから。
――とはいえ御社も07年3月期当時は粗利益率16.2%でした。価格競争をしていたのではないですか。
遠藤 FCが多かったからです。FCには原価の数%のロイヤルティーを乗せた商品を卸すので粗利益率はストンと落ちます。FCが減ると逆に上がります。また、売上高販管費比率が(他社よりも)低いのは本社コストが低いからです。売上高が1000億円のときの本社の社員は100人で、現在の6441億円でも約200人です。1兆円でも約200人という数字は変わらないでしょう。
・後半<市場に応じた店舗を出店><故・加藤馨名誉会長の教え>に続く
◇取材を終えて
2016年3月19日に創業者の加藤馨名誉会長が逝去し、6月に加藤修一会長兼CEOが相談役に退き、取締役会から創業家がいなくなったケーズホールディングスは大きな転換点を迎えた。役職からもわかるように遠藤社長兼CEO兼COOがすべてを引き継ぐことになったが、気負いはない。「閉店時刻になると店の電気を消して歩いた」という創業者のエピソードはそのまま遠藤社長にも引き継がれている。「社員が働きやすい環境をつくる」というケーズ流の経営哲学は、創業者、相談役を経て、新しい経営陣、現場まで引き継がれていくのだろう。(至)
「家電量販店の競争環境が変わった」と語るケーズホールディングスの遠藤裕之社長兼CEO兼COO
取材・文/細田 立圭志
写真/大星 直樹
公取委「転売禁止」も利益に影響 「なぜ規制ができたのか」が重要
――家電量販店各社の決算は粗利益率が大幅に伸びました。遠藤 家電量販店の競争環境が変化したからです。大量仕入れで安売りをして戦ってきたけれど収益が悪くなり、このまま続けると会社経営が成り立たなくなる可能性すらある状況になり、家電量販店自らが利益を意識するようになったのです。
もう一つはメーカーの変化です。今まではシェアをもとに生産計画を立てていました。笑い話ですが、各社が総需要は100万台といっているのに、それぞれの計画値を合計したら300万台になってしまった。総需要の30%のトップシェアを狙って生産したけど売れない。残った製品がネット通販企業に流れて価格が乱れた。メーカーは家電量販店や町のパパママショップ(系列店)などに補てんしなければならない。『それっておかしいよね』ということを、ずっと続けてきたわけです。
――2014年6月に23年ぶりに改正した公正取引委員会の「流通・取引慣行のガイドライン」が実効力を持ってきたという見方もあります。「転売の禁止」も記されていますね。
遠藤 なぜ(メーカーが流通企業を選択できる)「選択的流通」が生まれたかといえば、よろしくないことをする流通企業があったからでしょう。われわれは取引先と良好な関係を築いているので何も問題はありませんが、なぜ、この規制ができたのかを考える必要があります。悪いことする人がいなければ、そもそも規制や法律ができる必要はないのですから。
では、なぜ「横流し」が復活したのでしょう。昔はメーカーとパパママショップの間に大阪や秋葉原の卸問屋が介在していました。卸問屋のなかには、メーカーの売れ残った製品を大量に仕入れて横流しをしていた会社もありました。しかし、メーカーと家電量販店の直接取引が増えていくと卸問屋は減り、横流しはなくなり、消費者は問屋マージンのない安い価格で商品が買えるようになった。それなのにまた横流しが復活してきたのは、ネット通販企業や海外企業への転売などがあったからではないでしょうか。
では、なぜ「横流し」が復活したのでしょう。昔はメーカーとパパママショップの間に大阪や秋葉原の卸問屋が介在していました。卸問屋のなかには、メーカーの売れ残った製品を大量に仕入れて横流しをしていた会社もありました。しかし、メーカーと家電量販店の直接取引が増えていくと卸問屋は減り、横流しはなくなり、消費者は問屋マージンのない安い価格で商品が買えるようになった。それなのにまた横流しが復活してきたのは、ネット通販企業や海外企業への転売などがあったからではないでしょうか。
――消費者から見たら家電量販店が安売りをしなくなったと思われないでしょうか。
遠藤 安い商品はあるんです。うちのチラシを見てもらえばわかりますが、とんでもなく安い商品は台数限定でありますよ。ラインアップは減っていません。ただ、お客様はすぐに壊れてもいい安い炊飯器より、ちょっと高くてもおいしいご飯が食べられる炊飯器を買いたいと思うのです。粗利益率が高いから消費者にとってマイナスと言いますが、ラインアップは安い商品から高付加価値の商品まで幅広く揃えています。選ぶのはお客様ですから。
――とはいえ御社も07年3月期当時は粗利益率16.2%でした。価格競争をしていたのではないですか。
遠藤 FCが多かったからです。FCには原価の数%のロイヤルティーを乗せた商品を卸すので粗利益率はストンと落ちます。FCが減ると逆に上がります。また、売上高販管費比率が(他社よりも)低いのは本社コストが低いからです。売上高が1000億円のときの本社の社員は100人で、現在の6441億円でも約200人です。1兆円でも約200人という数字は変わらないでしょう。
・後半<市場に応じた店舗を出店><故・加藤馨名誉会長の教え>に続く
■プロフィール
遠藤裕之(えんどう ひろゆき)
1951年6月26日生まれ、茨城県出身。85年10月ケーズホールディングス入社。商品部長、マルチメディア部長、営業統括部長などを歴任後、98年3月ひたちなか本店(茨城県)、99年10月水戸本店(茨城県)、03年4月東京ベイサイド新浦安(千葉県)と次々に大型店を店長として立ち上げ、大型店の店舗運営の基礎を構築する。06年より本社業務へ就き、専務取締役営業本部長を経て、11年6月に代表取締役社長に就任。16年6月より代表取締役社長兼CEO兼COO。現在でも店舗での経験をもとに経営の指揮を執る。
遠藤裕之(えんどう ひろゆき)
1951年6月26日生まれ、茨城県出身。85年10月ケーズホールディングス入社。商品部長、マルチメディア部長、営業統括部長などを歴任後、98年3月ひたちなか本店(茨城県)、99年10月水戸本店(茨城県)、03年4月東京ベイサイド新浦安(千葉県)と次々に大型店を店長として立ち上げ、大型店の店舗運営の基礎を構築する。06年より本社業務へ就き、専務取締役営業本部長を経て、11年6月に代表取締役社長に就任。16年6月より代表取締役社長兼CEO兼COO。現在でも店舗での経験をもとに経営の指揮を執る。
◇取材を終えて
2016年3月19日に創業者の加藤馨名誉会長が逝去し、6月に加藤修一会長兼CEOが相談役に退き、取締役会から創業家がいなくなったケーズホールディングスは大きな転換点を迎えた。役職からもわかるように遠藤社長兼CEO兼COOがすべてを引き継ぐことになったが、気負いはない。「閉店時刻になると店の電気を消して歩いた」という創業者のエピソードはそのまま遠藤社長にも引き継がれている。「社員が働きやすい環境をつくる」というケーズ流の経営哲学は、創業者、相談役を経て、新しい経営陣、現場まで引き継がれていくのだろう。(至)
※『BCN RETAIL REVIEW』2016年8月号から転載