2010年をピークに縮小続く携帯オーディオ 生き残りの道はハイレゾか、それとも?
CDからデータへ、音楽のカタチを大きく変えたiPod。その誕生から15年が過ぎ、アップルの主力製品はiPhoneに移った。家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、iPodをはじめとする、音楽再生に特化した携帯オーディオプレーヤーの販売台数は、2010年をピークに縮小の一途をたどっている。メーカーの力関係も様変わりした。日本に限ると、ここ5年ほどは、iPodに代わり、ソニーの「ウォークマン」が5割以上のシェアを占めている。
ソニーは、2011年から5年連続で、携帯オーディオの年間販売台数シェアで1位を獲得。2015年は、前年より2.1ポイント増の53.0%。2012年、2014年、2015年は、販売金額でもアップルを抑えて1位だった。とはいえ、2015年の販売台数は、最も多かった2010年のおよそ3分の1。2011年から本格化したスマートフォンの普及と反比例するように、2012年から2014年にかけて大きく落ち込み、2015年も前年に比べ、約2割減った。買い替え・新規購入のニーズがスマートフォンに流れたからだろう。音楽・動画の再生という機能面の重複に加え、オシャレな「流行りのデジタルアイテム」というポジションを奪われた影響は大きかった。
しかし、平均単価2万円以上と高額なハイレゾリューション・オーディオ(ハイレゾ)対応モデルに限ると、2013年以降大きく伸びている。2015年の販売台数は、2014年の1.3倍に増加。携帯オーディオ全体に占めるハイレゾ対応モデルの割合は、8.8%から14.2%に上昇した。メーカー別では、ソニーが9割以上を占め、ほぼ独占状態だ。伸びているとはいえ、複数のメーカーが競い合う状況にならなければ、さらなる拡大は難しく、すぐに頭打ちになるのではないかとの懸念もある。
ソニーは、2013年秋に、ハイレゾ対応オーディオ機器を本格展開する方針を打ち出し、ラインアップの強化を始めた。2015年には、ハイレゾに対応するウォークマン「Aシリーズ/ZXシリーズ」の新製品とともに、ハイレゾに対応するヘッドホン「h.ear」シリーズを投入。ウォークマンの売れ筋は、以前と変わらず、スタンダードなSシリーズだが、ハイレゾ対応モデルの割合は3割弱に達し、2015年の携帯オーディオの年間ランキングでは、3位に、Aシリーズの「NW-A16」、21位に「NW-A25HN」が入った。今後、主力は、SシリーズからAシリーズへ切り替わるかもしれない。
iPodは、iOSを搭載し、スマートフォンとほぼ同じように使えるiPod touch、コンパクトなiPod nano/iPod shuffleの3シリーズを展開。一番人気は、最も価格の高いiPod touchで、おおむね4~5割、2015年7月に3年ぶりにモデルチェンジした以降は53.0~59.0%と、6割弱を占めている。
クリックホイールを備えたiPod classicは、2014年に販売を終了。アップルのトップ独走は、携帯オーディオ市場が上り調子だった2002年から2010年までの8年間で終わった。当時、iPod対抗を打ち出し、参入した多くのメーカーは撤退し、残ったのはほぼソニーだけ。やがて、方向性の違いから、双方のファンから意見が激しく交わされた、iPod対ウォークマンという対立軸すら成り立たなくなってしまった。
では、携帯オーディオは役割を終えたか? というと、そうではない。何らかの理由でスマートフォンを持ちたくない人・持てない人、音質にこだわりたい人、音楽に特化したシンプルさ・安さを求める人などからの需要はなくならないだろう。かつて愛用していた身としては、そうあって欲しいと願いたい。以前から音質にこだわってきたソニーは、新たなコンセプトとして「ハイレゾ」を前面に打ち出した。ハイレゾの普及には、楽曲を配信する音楽配信サービスや、ヘッドホン・スピーカーなど他の製品との連携が不可欠であり、成否は、ソニー1社にとどまらないムーブメントを巻き起こせるかどうかにかかっている。
ここ数年間、スマートフォンなど、モバイル端末の通信速度は大幅に向上した。アップルが定額制の音楽配信サービス「Apple Music」を開始した理由は、今後は、都度ダウンロードする方式ではなく、ストリーミングが主流になると見込んだからだろう。ここ数年、アップルはiPodを見放したようにみえるが、薄く、軽く、コンパクトな携帯オーディオは、インターネットにつながる最も安価なウェアラブルデバイスとして進化する可能性を秘めているように思える。(BCN・嵯峨野 芙美)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベース(パソコンの場合)で、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。
販売台数は6年間で3分の1に ハイレゾ対応モデルは伸びているが……
ソニーは、2011年から5年連続で、携帯オーディオの年間販売台数シェアで1位を獲得。2015年は、前年より2.1ポイント増の53.0%。2012年、2014年、2015年は、販売金額でもアップルを抑えて1位だった。とはいえ、2015年の販売台数は、最も多かった2010年のおよそ3分の1。2011年から本格化したスマートフォンの普及と反比例するように、2012年から2014年にかけて大きく落ち込み、2015年も前年に比べ、約2割減った。買い替え・新規購入のニーズがスマートフォンに流れたからだろう。音楽・動画の再生という機能面の重複に加え、オシャレな「流行りのデジタルアイテム」というポジションを奪われた影響は大きかった。
しかし、平均単価2万円以上と高額なハイレゾリューション・オーディオ(ハイレゾ)対応モデルに限ると、2013年以降大きく伸びている。2015年の販売台数は、2014年の1.3倍に増加。携帯オーディオ全体に占めるハイレゾ対応モデルの割合は、8.8%から14.2%に上昇した。メーカー別では、ソニーが9割以上を占め、ほぼ独占状態だ。伸びているとはいえ、複数のメーカーが競い合う状況にならなければ、さらなる拡大は難しく、すぐに頭打ちになるのではないかとの懸念もある。
ソニーは、2013年秋に、ハイレゾ対応オーディオ機器を本格展開する方針を打ち出し、ラインアップの強化を始めた。2015年には、ハイレゾに対応するウォークマン「Aシリーズ/ZXシリーズ」の新製品とともに、ハイレゾに対応するヘッドホン「h.ear」シリーズを投入。ウォークマンの売れ筋は、以前と変わらず、スタンダードなSシリーズだが、ハイレゾ対応モデルの割合は3割弱に達し、2015年の携帯オーディオの年間ランキングでは、3位に、Aシリーズの「NW-A16」、21位に「NW-A25HN」が入った。今後、主力は、SシリーズからAシリーズへ切り替わるかもしれない。
順位 | メーカー | シリーズ | 品名 | 容量 | 販売台数シェア(%) |
1 | アップル | iPod nano 16GB(7th) | - | 16GB | 9.3 |
2 | ソニー | NW-S14 | ウォークマン Sシリーズ | 8GB | 8.4 |
3 | ソニー | NW-A16 | ウォークマン Aシリーズ | 32GB | 7.8 |
4 | ソニー | NW-E083 | ウォークマン Eシリーズ | 4GB | 6.1 |
5 | ソニー | NW-S14K | ウォークマン Sシリーズ (スピーカー付属) |
8GB | 5.8 |
6 | アップル | iPod touch 16GB(5th) | - | 16GB | 5.6 |
7 | アップル | iPod touch 32GB(5th) | - | 32GB | 5.2 |
8 | アップル | iPod touch 32GB(6th) | - | 32GB | 3.5 |
9 | アップル | iPod nano 16GB(8th) | - | 16GB | 3.5 |
10 | ソニー | NW-S15 | ウォークマン Sシリーズ | 16GB | 3.4 |
11 | アップル | iPod shuffle 2GB(8th) | - | 2GB | 3.3 |
12 | アップル | iPod touch 16GB(6th) | - | 16GB | 3.0 |
13 | ソニー | NW-S15K | ウォークマン Sシリーズ (スピーカー付属) |
16GB | 2.6 |
14 | ソニー | NW-E083K | ウォークマン Eシリーズ (スピーカー付属) |
4GB | 2.5 |
15 | グリーンハウス | GH-KANARS | kana RS | 8GB | 2.2 |
16 | ソニー | NW-S13 | ウォークマン Sシリーズ | 4GB | 2.1 |
17 | トランセンドジャパン | TS8GMP350 | T.sonic 350 8GB | 8GB | 2.0 |
18 | アップル | iPod touch 64GB(5th) | - | 64GB | 2.0 |
19 | トランセンドジャパン | TS8GMP330 | T.sonic 330 8GB | 8GB | 1.8 |
20 | ソニー | NW-W274S | ウォークマン Wシリーズ | 8GB | 1.6 |
※カラーバリ エーションは合算、容量違いは別機種として集計
太字はハイレゾ対応
太字はハイレゾ対応
「BCNランキング」2015年 年次<最大パネル>
カラフルで手頃な価格のウォークマン Sシリーズ「NW-S14」(上)、
ハイレゾに対応するウォークマン Aシリーズ「NW-A25HN」(下)
異なる方向に進化するiPodとウォークマン 新たな競争は勃発するか
iPodは、iOSを搭載し、スマートフォンとほぼ同じように使えるiPod touch、コンパクトなiPod nano/iPod shuffleの3シリーズを展開。一番人気は、最も価格の高いiPod touchで、おおむね4~5割、2015年7月に3年ぶりにモデルチェンジした以降は53.0~59.0%と、6割弱を占めている。
2015年7月に3年ぶりにモデルチェンジしたiPod touch(上)とiPod nano(下)。
iPod touchは、薄さはそのままに、スペックはiPhone 6相当に進化。
iPod nanoは仕様は変わらず、カラーバリエーションが刷新された。
クリックホイールを備えたiPod classicは、2014年に販売を終了。アップルのトップ独走は、携帯オーディオ市場が上り調子だった2002年から2010年までの8年間で終わった。当時、iPod対抗を打ち出し、参入した多くのメーカーは撤退し、残ったのはほぼソニーだけ。やがて、方向性の違いから、双方のファンから意見が激しく交わされた、iPod対ウォークマンという対立軸すら成り立たなくなってしまった。
では、携帯オーディオは役割を終えたか? というと、そうではない。何らかの理由でスマートフォンを持ちたくない人・持てない人、音質にこだわりたい人、音楽に特化したシンプルさ・安さを求める人などからの需要はなくならないだろう。かつて愛用していた身としては、そうあって欲しいと願いたい。以前から音質にこだわってきたソニーは、新たなコンセプトとして「ハイレゾ」を前面に打ち出した。ハイレゾの普及には、楽曲を配信する音楽配信サービスや、ヘッドホン・スピーカーなど他の製品との連携が不可欠であり、成否は、ソニー1社にとどまらないムーブメントを巻き起こせるかどうかにかかっている。
ここ数年間、スマートフォンなど、モバイル端末の通信速度は大幅に向上した。アップルが定額制の音楽配信サービス「Apple Music」を開始した理由は、今後は、都度ダウンロードする方式ではなく、ストリーミングが主流になると見込んだからだろう。ここ数年、アップルはiPodを見放したようにみえるが、薄く、軽く、コンパクトな携帯オーディオは、インターネットにつながる最も安価なウェアラブルデバイスとして進化する可能性を秘めているように思える。(BCN・嵯峨野 芙美)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベース(パソコンの場合)で、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。